「リレー参加作品『死ニ至ル病、ソシテ…』」作者*もりぞー 「あら、どちらがお届け物ですか?」 朝倉は満面の笑みで、拍子抜けする言葉を発した。間髪を入れず古泉が応じる。 「その前にまず本人確認をしたいんですが、身分証明書をお持ちですか?」 「学生証でいいかしら?」 「結構ですよ。あと印かんをお願いします」 「解ったわ。……学生みたいだけど、アルバイトかしら」 朝倉は不審そうに古泉を見た。 「それには少々込み入った事情がありまして……」 古泉は眉毛をハの字にして同情を誘うまなざしで朝倉を見つめた。 「……まあいいわ。ちょっと待っててちょうだい」 そう言うと朝倉は扉の向こうに消えた。 「さあ、僕らも入りますよ」 イ・ビョンホンみたいな微笑みで古泉は言った。 「入るって……おまえ」 「もちろん、中へ入るという意味です」 「そんなことしたらおまえ、殺されかねんぞ。朝倉が化けモンだって事はおまえも知ってるだろ」 「大丈夫です。僕に秘策があります。ついてきてください」 古泉は音もさせずに扉を開けると、中に体を滑り込ませた。将来職にあぶれても、こいつならドロボーとしてやっていけるに違いない。 扉を支えながら振り返り、古泉は俺に入れと手招きする。緊張してこけないように気をつけながら、俺は扉の内側に体を入れた。 中は薄暗かった。玄関に灯りがともっていないせいだ。目の前には短い廊下があって、その先の扉からの光でかろうじて足元が確認できる。玄関には学校の外履きと外出用の靴が一足ずつあるだけで、調度品が何もない。長門の部屋もそうだったが、借りたままの殺風景な状態だ。そのへんは同じ情報統合なんとか同士、共通してるな。 廊下の先の扉は半開きになっている。きっとそこに朝倉がいるんだろう。長門の部屋と同じ造りだから、そこがリビングだと俺は知っている。 先を行く古泉が振り返った。ニヤつきながら右手を上に向ける。先に行けってことか? 肝心なところで臆病な奴だな。 古泉をやり過ごし、扉の隙間から中を覗く。しかしそこに朝倉の姿は見えない。そのかわりにとんでもないものを俺は目撃した。 そこには……俺がいた。いや、正確に言うと、俺と同じ顔の肉の塊が立っていた。それだけじゃない。俺を取り囲むように、見慣れたメンツがマネキンみたいに立っていた。 「なんだこれは……」 「あら、初めましてじゃないはずよ。よ~く知ってるでしょう?」 声に驚いて後ろを振り返ると、笑みを浮かべる朝倉涼子が立っていた。どこかに隠れて俺達をやり過ごしたのか? ……よく見ると古泉の姿がない。 「これはどういうことだっ。古泉をどこへやった?」 朝倉は含み笑いを続けている。そして部屋の中の、一番手前に立っている華奢な眼鏡の人物に向かってこう言った。 「さあ、あいさつするのよ」 朝倉にうながされ、眼鏡の長門は俺が今まで見たことのない表情ではにかみながら、驚くべきセリフを口にした。 「大好き……」 確かにそう聞こえた。もしかして、俺に言ったのか……? 「キョンくん、好きです」 恍惚(こうこつ)な表情を浮かべ、朝比奈さんまでもがそんなことを言う。いったいどんな茶番だ。これから天変地異でも起こるんじゃないだろうな。 ハルヒだけがうつろな表情を浮かべ、無言で立っている。 「よくできてるでしょう? でも、涼宮さんだけうまく魂が定着しないの」 朝倉はうつむき加減で頬に手を当てて、困った顔をした。
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.. 2009年11月15日 00:01 No.556001