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■--強さと弱さ(シンフォニー編)
++ クォーツ (オリカ王)…152回          

さぁ、遂にシンフォニー編突入です。
今回の投稿で早くも新キャラ登場、イラストや解説は今日のブログに掲載しておきます。
シンフォニーとその敵対者・シェードの関わりについては、今後をお楽しみに。では、どうぞ。

所変わって、こちらは音程族の統治領域。その中心部、王の宮殿で、シンフォニーはある考え事をしていた。
それは、辺境世界での激闘からずっと、何とも言えない違和感が拭い去れないことであった。
違和感の正体も分からず、拭い去る方法など分かる筈もなかった。
「いったい…この違和感は何…?」
考えても考えても、答えは出なかった。気晴らしの為、少し外を歩いていくことにした。

知らせは受けていたが、暗黒雲の活性化が予想以上に酷い。いつ闇月族の手の者がやってくるか分からない。いや、もしかしたら既に、闇月族からの刺客が送り込まれているかもしれない。
そう考え、隠れやすい森の中を歩くことにした。ところが、これが思わぬ出会いのきっかけとなった。

森の中を歩くこと数分。次第にブツブツと考え事が漏れてしまっていた。
「強くなることで、民を守れる…。でも、強くなったと思ってもそれより強い者が出てくる…。結局、それの繰り返しで…イタチごっこで…」
小声ではあるが、それでも聞こえる人には聞こえてしまいそうな感じである。まるで念仏のような状態になってしまっていた彼女の小声を、何者かが聞き取った。
「あ〜ら、何かお悩みかしら?」
「…え?ど、どこ?」
突如聞こえてきた声。森の中ということで、声が反響してしまって位置を特定しづらい。どこから聞こえてきたのか?見渡しても分からない。
「アナタ、悩み事が念仏みたいにブツブツと出てきてたわよ。私にはよ〜く聞こえたわ」
そう言うやいなや、声の主はシンフォニーの目の前にいきなり飛び降りてきた。どうやら、近くの木に登っていたようである。水色に近い色の髪を、特徴的な結び方で結ってある。あとはYシャツにスパッツ、といった簡素な服装。人間のようにも見えるが、雰囲気はどことなく人間とは別な生物であるように思えた。
(122.30.10.204).. 2008年10月25日 05:45   No.214001

++ クォーツ (オリカ王)…153回       
本日は2本。次回からは1本ずつ…かな?
続きどうぞ。

「…見慣れない顔だけど、あなたは一体?」
「私はミズーリ。まぁ、この世界の人からすれば見慣れない存在ではあるわね」
ミズーリと名乗った声の主、やや軽めの声だ。初対面であるシンフォニーに対して、彼女が音程族の王と知ってか知らずか、改まった様子はない。
「アナタ、この音程族の領域の王でしょ?何をブツブツと悩んでたの?」
ミズーリ、見た目こそ少女だが、精神面では大人顔負けといった風貌のようなものを持つ女性である。そして、物怖じというものを知らない。
初対面であり、しかも相手が王だというのに、敬語を使うこともなければ改まることもない。本来なら無礼な行いであり、咎められる行為なのだが、今のシンフォニーからすればどうでもよかった。

というより、彼女こそ知らないものの、時空族にも王に対して敬語を使わない「外の住人」がいるのだが。ここでは割愛しよう。

それはさておき、なんとなく違和感の謎を解く手掛かりが得られるかもしれない、そう思ってシンフォニーはミズーリに悩みを打ち明けてみた。
「…あなたには分かる?強くなったと思っても、更に強い者が出てきて、それのイタチごっこになってることのもどかしさ」
それに対し、ミズーリは平然としていた。先程と変わらない調子で、答えを返す。
「強さのイタチごっこ…。なるほど、確かにこれはもどかしいわね。私もこのもどかしさは昔経験したことがあるの。だから少しは分かるわ」
彼女の過去についてはまた後ほど聞くとして、今は話の続きを聞いた。
「強さのイタチごっこってね、結局戦う人なら誰でもしてしまうことなの。抗えない運命みたいなもの。だけど、強くなること自体はいいことよ。だから、ここでちょっと視線を反らしてみるの」
「視線を…反らす?」
思わぬ答えが返ってきた。「視線を反らす」とはまたどういうことか。シンフォニーは思わず呟いてしまった。構わず、ミズーリは続ける。
「そう、"強くなる"こと一辺倒じゃらちが明かないの。だから、強くなるからこそ考えてみるのよ。"弱さ"ってどういうことなんだろうって。
私はね、強さも弱さも、同じコインの表と裏のような関係だと思うわ。表裏一体ってヤツね。いくら強くなったって、結局残る弱さだってあるし、何より"強くなったことによる傲慢"が敗北に繋がることも珍しい例じゃないわ。
それを昔の私はたくさん見てきたんだけど、そこからある結論を導き出したの。そうしたら、私のイタチごっこのもどかしさは消えたわ」
「…どういう、結論なの?」
導き出された「結論」とは?シンフォニーの悩みは、早くも解決の兆しを見せていた。
「導き出した結論、それはね、
『強さは弱さを生む』
ってこと。さっきも言ったみたいに、強くなったからといってそれが必ずしも"強さ"となるわけじゃない。時には"弱さ"にもなる。
強大な力を得たからって、それを使いこなせなければ意味無いでしょ?それと同じことよ」
「…"強さ"が、"弱さ"に?本当にそうなの?」
「どうやらアナタは"力が力に負ける"光景しか見てなかったみたいだけど、現実はそれだけじゃないのよ。決して、力だけが"強さ"の基準じゃないわ。"力"とは別なものにも"強さ"はあるの」
「力とは別なもの…」
"強さは弱さを生む"、これがミズーリから出された答えだった。"強さ"とは?"弱さ"とは?セイガら他の部族王にはない観点が、シンフォニーの心に生まれつつあった。

(122.30.10.204).. 2008年10月25日 06:47   No.214002
++ クォーツ (オリカ王)…154回       
昨日言い忘れてたんですが、ウェリスさん。
レオン編のオマケ(?)ストーリー投下ありがとうございます。
中身が分からんものですから、すっかり忘れてました。あの部分。
というわけで、本日は1本投下。

「"強さ"は"弱さ"を生む…"力とは別なもの"…力だけが"強さ"ではなく…強くなったことが傲慢に繋がることもある…」
シンフォニーは、宮殿の自室に戻っていた。ミズーリから教えられた、イタチごっこのもどかしさを解消する答え。これをより確かなものにする為、自室で思考を広げてみることにしたのだ。
ミズーリとは、あの後別れている。だが、『また悩んだら相談に乗ってあげる』と彼女は言い残している。どうやら力になってくれるようだ。

自然だけでなく、戦う者同士の関係も弱肉強食。強き者が弱き者を制するのは当然のことだ。しかし、"強き者"になる基準のようなものは存在しない。一般的には強大な魔力やエネルギーを持っていたり、身体能力が高レベルであることが多い。だが、それらは所詮"力"という1つの概念でしかない。では、本当に大事なのは何か?
と、ここまで考えて、シンフォニーはあることを唐突に思い出した。辺境世界でのコンクル・シオンとの戦いで、スーパーダイボウケンがコンクルを打ち倒した時のことだ。
彼、正確には5人で合体しているので彼らか、彼らは確かに"力"もあった。だが、その"力"ではまだ上回っていた筈のコンクルを圧倒したのは、彼らの1つになった心だった。

彼らは冒険者であることに誇りを持っており、もはや魂の一部。心に燃えたぎる冒険者魂が、冷徹なコンクルには眩しすぎた。そして、熱すぎた。
そこからも学べる筈だ。"力"="強さ"ではなく、"心"或いは"魂"+"力"="強さ"だと。

そしてもう1つ、シンフォニーは思い至った。何故コンクルが、スーパーダイボウケンには敗れ去ったのか。実は、シンフォニーがミズーリから教えられたことはもう1つある。
『この世には、"勝利の方程式"がある』と。そしてそれは、宇宙に共通する真理だと。

"心"("魂")+"力"="強さ"

古今東西、宇宙共通、"心"や"魂"なくして強くなれることはない、そう教えられた。
シンフォニーは、共感していた。何故、辺境世界での戦いの間に気づけなかったのだろう。解き方さえ分かれば簡単に解けるような問題に延々と苦悩し続けているみたいで自分が情けなかった。
だが、彼女が出したかった"答え"に、少しずつではあるものの近づきつつあった。

一方その頃、上空を覆い尽くす暗黒雲から、蝙蝠の翼を持った影と無数の鬼の影が、地上に降り立とうとしていた。

(122.30.10.204).. 2008年10月26日 05:04   No.214003
++ クォーツ (オリカ王)…155回       
今日から3連休、更新も3連続。
1本ずつでも最低3本は更新できるわけです。
で、今日も1本。

シンフォニーがミズーリと出会い、イタチごっこの"答え"に近づき始めた日の翌日。
結局、まだ完全に固まったわけではないが、確かに"答え"に近づいている。シンフォニーはそう感じていた。実際、今の彼女の考えをミズーリが聞いたなら、ミズーリもそう思うだろう。

"強さ"とは?"弱さ"とは?その真の意味に気づくのは、難しいようで簡単だ。言葉で述べるより、心で感じた方がよっぽど早く理解できるだろう。
何故なら、真の"強さ"の大前提は「心」だから。能力などによる「力」ではなく、その人が持ちうる「心」こそが強くなる鍵である。
何かに支配されていない、真に自分に素直な心。それが"強さ"と"弱さ"の分岐点。
「…最も大切なのは心…。『真(まこと)の強さは真(まこと)の心に宿る』…!」
シンフォニーは呟いた。自分が少し前から求め続けていた"答え"を。そう、見出したのである。自分なりの「"強さ"の観点」を。

『強さは弱さを生む』
『真の強さは真の心に宿る』

真の"強さ"と偽りの"強さ"、今のシンフォニーにならその区別もつくであろう。"強さ"に対する確固たる観点を見出したのだから。
セイガら他の3人にはない、"強さ"に対して疑問を投げかける彼女だけの観点。
この世の真理の一部を、シンフォニーは知らぬ内にその手に掴んでいた。

その日の夜、暗黒雲が蠢いた。そして、無数の鬼が音程族領域の南域の森に降下していく。ここで一旦体制を整えるつもりなのだろう。
その光景を、ミズーリは密かに目撃していた。そして駆けだした。このことを、音程族の王であるシンフォニーに知らせる為に。

(122.30.10.204).. 2008年11月01日 04:46   No.214004
++ クォーツ (オリカ王)…156回       
小休止的な意味が強くなってる気がする辺境世界編。ひとまずシンフォニー編でも開始。
今回は、ある格闘家がメイン。あと、実況さんのセリフだけは《》とさせていただきますね。

西区域でミステリアスな出来事が起こっていた一方で、嵐の夜となっていた中央区域では熱狂的な声が響いていた。
その原因は、現在中央区域で行われている、総合格闘技トーナメント。プロレスやボクシングといったジャンルにはこだわらず、格闘家達がしのぎを削り合うメジャーイベントだ。
毎年秋から年末にかけて、大規模なトーナメントバトルが繰り広げられている。いわば、辺境世界での"お祭り"の1つなのである。

そんなトーナメントバトルの1試合が、まさに今行われようとしていた。どうやらこの日の初試合らしく、実況と解説がそれぞれ自己紹介する。
《さて、今夜もやって参りました、辺境世界恒例行事、総合格闘技トーナメント!司会及び実況は、オイラ、テュールが務めるぜ。解説は、なんと政治3幹部の1人レジストさんが来ているぜ!レジストさん、よろしくお願いします》
「よろしくお願いします。3幹部代表で来ちゃいました、皆さんもよろしく」
実況ことテュールは、どうやら毎年実況を務めているらしい。今年で10年目という噂だ。
解説ことレジストは、さっぱりした感じの服装をしている人型精霊。政治3幹部の1人で、その名の通り辺境世界の政治運営を支える存在だ。

客席はヒートアップ。何があったかといえば、なんと言っても選手の入場であろう。赤と青、2つの出入り口から1人ずつ選手が入ってくる。そして熱い戦いを繰り広げるのだ。
全身ムキムキマッチョな巨漢や、パワーよりもスピードを武器に戦う小柄な少年、はたまた人間世界でいうカポエラで戦うファンタスティックな女性、挙げ句の果てには人間世界でいう少林寺拳法で相手を圧倒する坊主男まで、多種多様な選手がしのぎを削り合う。

ハードかつ情熱的な試合がいくつも繰り広げられながら、やがて実況・テュールのテンションが爆発した。どうやらこの日の大勝負のようだ。
《さぁ、いよいよきたぜ!!本日の大勝負、最大の目玉、"真っ赤な闘魂"の入場だ!!!》
その言葉と同時、客席は更にヒートアップ。そして"真っ赤な闘魂"と呼ばれて飛び出してきた、文字通り真っ赤な男の姿に、客席のボルテージは限界突破といった感じである。異常なまでの人気者らしい。男が高らかに名乗りを上げた。
「よう!待たせたなお前ら!"真っ赤な闘魂"こと、ティスターとはぁ、俺のことよ!!」
会場のいたるところから声援が飛ぶ。多くの者が彼・ティスターを心から応援しているようだ。会場の声量に負けじとテュールが司会を続ける。
《いつでも恐ろしい人気を誇る"真っ赤な闘魂"に挑む青コーナーは、期待の新人にして脅威の二刀流槍使い、ルドゥクだー!》
「応援、よろしく!」
既にリングに上がっているルドゥク、テュールの紹介通り両手に槍を持っている。しかも、それぞれが結構重そうだ。握力は相当なものだろう。
そんな彼にも、ティスターへのものに負けず劣らずの大きな声援が飛ぶ。実力派新人らしく、ファンも多そうだ。ティスターもルドゥクも、ファンからの熱すぎるくらいの声援に元気に答える。
実は、彼らのタイトルマッチは辺境世界では割と注目度が高いらしく、"真っ赤な闘魂"と期待の新人のどちらが勝利するのか、それだけは絶対見届けたいという格闘技ファンも多いのだという。

そんなこんなで、会場を埋め尽くす観客からの熱すぎる声援が響く中、勝負のゴングが鳴った。

(122.30.10.204).. 2008年11月02日 07:12   No.214005
++ クォーツ (オリカ王)…157回       
本日はメイン側。1本。
シンフォニー編は、他の3編よりも短くなるかもです。何しろ、辺境世界パートが短いんで。
では、どうぞ。

暗黒雲から、無数の鬼と蝙蝠の翼を持った男が舞い降りる。近場の森林を根城とし、進撃体制を整える。整えるには、半日ほど費やした。

その間に、ミズーリ、ならびに巡回していたショベラーとミキラーから闇月族襲来の緊急連絡が出された。音程族の間に、戦慄が走る。
戦うことを嫌うシンフォニーが王であったからこそ、音程族の領域は他よりも平和だった。だが、その平和の地が、侵略者によって汚される。
誰だって、こんなことを喜ぶ筈はなかった。力ある者達は、こぞって戦闘参加を志願する。だがそれでも、報告にあった鬼の大群に太刀打ちできそうな数には思えなかった。
「…行きましょう、私達の住む場所を守る為に」
だが、シンフォニーの決意のこもった一言が、音程族の民を突き動かした。
「みんな、急いで戦いの準備を!」
この一言を合図に、音程族の戦士達は各方面へ散った。そして、シンフォニー自身も、戦場へ飛び出す準備にかかった。

一方、部隊の合流が落ち着くまではあまり動けない闇月族部隊。その筆頭に立つ、蝙蝠の翼を持つ男。彼は空を見上げていた。降り立った当初は夜だったが、徐々に日が昇り始めている。眩しく輝く朝日を眺め、今度は率いる鬼達を見る。
鬼達は皆、今にも突っ走っていきそうな状態だ。戦いたくて仕方ないのだろう。そんな彼らを黙らせると、男は北側を向き、呟いた。
「この美しい朝焼けが、これから死に逝く貴方への手向け(たむけ)ですよ。音程王…」
そう言うと、「フフフフフ」と不気味に笑った。男の狙いは、シンフォニーであった。

(122.30.10.204).. 2008年11月03日 05:53   No.214006
++ クォーツ (オリカ王)…158回       
本日は辺境世界パートその2。1本。
ブログにてルドゥクの紹介予定であります。

「先手必勝!」
ゴングが鳴るやいなや飛び出したのは、2本の槍を携えるルドゥクだ。青と水色、それぞれティアマトとアプスと呼ばれる2本の槍が、うっすらと輝き始める。
「かわしきれるかな?この連撃を!」
ティアマトとアプスを交互に、素早く突き出し、ティスターに迫る。だが、ティスターはルドゥクの雨あられの連続攻撃をひょいひょいとかわしている。しかも余裕の表情だ。

《おーっと、ルドゥク得意の通称"無双連撃"がかすりもしない!もはや"真っ赤な闘魂"にとっては余裕に回避できてしまうのかー!?》
メインの対決だけあってか、テュールの実況にも熱が入る。一方で、解説のレジストは冷静を保っているようだ。
「正直なところ、多分ボクシングとかでの回避練習に似てるんじゃないかしらねー」
《つまり、日頃の練習と同じような状態と?》
「ま、そんなところね。まぁ何にせよ、ルドゥクは攻め方を変えるべきね」

「んじゃ、そろそろこっちもいくぜ…!」
そう言うやいなや、なんと両手でティアマトとアプスを掴み、ルドゥクの動きを止めてしまう。更にそのまま右側のロープに投げ飛ばす。当然、反動で跳ね返ってくるルドゥクに対し――
「くらいな、この俺の炎のパンチを!」
拳に魔力の炎を纏わせ、強烈な右ストレートをルドゥクに見舞う。腹に直撃し、思いっきり飛ばされまた跳ね返り、今度は左ストレートが腹にめり込む。そしてまた吹っ飛び、跳ね返り――
「なんの…これしき!」
次の右ストレートには対応が間に合った。ルドゥクは2本の槍で右ストレートを受け止め、やっとリングに着地した。くらったのはたった2発、だがその2発がかなり痛い。勿論、このままで終わるつもりは一切ないわけだが。

《ルドゥク、これは痛すぎる先制ダメージ!一方で、ティスターは肩慣らしでも終えたかのように臨戦態勢に入っているぞ!》
「あの吹っ飛びようはプロボクサー顔負けね」
《レジストさん、この状況からの逆転はありうるんでしょうか?》
「当然、ありうるわね。何しろ、まだ始まったばかり。ルドゥクの反撃が気になるところよ」

「さ、さすがは"真っ赤な闘魂"…やってくれるじゃないか…!ゲホゲホ」
「おいおい、初っぱなからむせてるぞ?俺を満足させてくれるんだろーな?正々堂々と」
「…当、然!」
そう言った直後、ティスターすらも驚く程の瞬発力でルドゥクは彼に急接近。更に2本の槍の内、ティアマトの先端部が2つに分かれ、その間にアプスの柄の一部が差し込まれた。
「さっきのお返し、ツインズドゥーク!!」
連結した槍は大剣となり、ルドゥクは大剣をティスターめがけて振り下ろす!
《出たー!ルドゥクの必殺技、ツインズドゥークだ!!やっぱ今回も大剣か!》
「大剣の方がパワーがあるから、真っ向勝負ならこの形態ね。でも、この大会でまだ一度もツインランサー形態を使ってないのよね…」
そう、ツインズドゥークは大剣の他、2本の槍の柄同士を連結してのツインランサー形態も持っている、2パターンの技なのだ。しかしルドゥクは好んで大剣形態を使う為、ツインランサー形態はいまいち出番がないのである。

(122.30.10.204).. 2008年11月11日 06:17   No.214007
++ クォーツ (オリカ王)…159回       
今日も1本、辺境世界パート。
ブログではレジストの紹介を予定。
足の痛みと戦いながら執筆…orz

《大剣形態でのツインズドゥークがティスターを襲う!さぁどうする?真っ赤な闘魂!!》
「もう何回もその技を見てきたんだ、いい加減"アレ"のタイミングも掴めるんだよ!」
そう言い、ティスターが起こした行動とは――
「真剣白刃取り!?」
ルドゥクが驚くのも無理はない。大剣が簡単に、見事に白刃取りされたのだから。ただ、通常の真剣白刃取りと違うのは、ここでテュールがツッコむこの点であろうか。
《なんと、まさかの真剣白刃取り!でも、止めているのは手じゃなくてグローブのリングだ!勢い余って言っちまったけど、コレを真剣白刃取りと呼んでいいのか、かなり疑問だぁ!》
「呼ぶか呼ばないかは、あなた次第。ね」
《それ、どこで知ったネタですか…》
「さてと、大剣での攻撃はもう通じないぞ。ルドゥク!今回は俺の勝ちだ!」
その言葉と同時、ティスターは大剣を放り出し、バランスを崩したルドゥクの脇腹に強烈なアッパーを叩き込む。これがクリーンヒットし、ルドゥクは宙を舞った。その後、狭い放物線を描きながらリングのど真ん中に落下したのである。

《ツインズドゥーク、遂に破られるー!まさに企み砕くアッパーカット!だぜ!》
「元ネタの歌からね」
《元ネタとか言わないでくださいよ…》
「それはさておき、ルドゥクにとってはかなり苦しいわね。もう大剣形態でのツインズドゥークは通じないし、今のアッパーによるダメージも心配なのよ。逆転できるとしたら、その為の手段は安易に想像できてしまうから、ティスターに読まれやすい。正念場ってところね…」
ルドゥクにとってのチャンスは、そう多くは残されていなかった。ティスターと渡り合えるとすれば、普段使っていない技を使うしかないのだが、ルドゥクの場合はその技が何なのか簡単に想定できてしまうのである。
レジストの言った通り、ルドゥクにとってはここが正念場なのであった。

(122.30.10.204).. 2008年11月12日 05:26   No.214008
++ クォーツ (オリカ王)…160回       
辺境世界パート。1本にしようと思ったけど、文字数制限に引っかかっちゃったので2分割でお送り致しますです。
ティスターVSルドゥク、遂に決着。

「(いつもは使わないけど、パワーで勝てないならやり方を変えなきゃね…)」
必殺技であるツインズドゥークの内、好んで使う大剣形態が破られたルドゥク。逆転するならもう一方を使うしかないのだが、読まれやすいのはいかんともしがたい。
「(だけど…迷ってる暇は、ない!)」
ティスターから受け続けたダメージも大きい。あまり余裕というものはなかったのである。そして決断し…駆けた。

《おぉーっと!ルドゥクが駆けだした!どうする気なのかー!?》
「いくぞ、ティスター…ツインズドゥーク!!」
《出たー!柄同士を連結させた、ツインランサー形態のツインズドゥーク!逆転なるか!?》
「くると思ってたぜ、そのある意味での隠し球がよ!だがな、それでも俺は勝つぜ!!」
《ティスターも駆けだした!真っ向から迎え撃つつもりだー!グローブには炎が揺れる!レジストさん、これをどう見ますか?》
「ツインランサー形態なら、パワーではなくテクニックでの勝負を挑む筈。それに対し、ティスターがどこまでルドゥクのテクニックについていけるか。ここが勝負の分かれ目だと思うわ」
基本的にパワーはテクニックに振り回されやすい傾向にある。レジストの言うとおり、それにティスターがどこまで対処できるのかが、勝負の明暗を分けるのである。

「そろそろフィニッシュといくぜ!くらえ!マグナムパンチャー!!」
《出たー!ティスターの必殺技、マグナムパンチャー!!無数の素早い火炎パンチが、ルドゥクに襲いかかるー!》
マグナムパンチャー、それは、両腕をまるで注射器などのピストンを高速運動させるかの如く前後させ、それにより無数の火炎パンチを繰り出す、ティスターの必殺技である。
《…ちょっと待ってください、なんと、ルドゥクは火炎パンチの全てをツインランサーで裁いている!これは凄い!ティスターも思わず唖然!》
「隙あり!」
連打の最後の1発を打ち終え、構え直すほんの一瞬。それこそが、マグナムパンチャーの最大の欠点、唯一つけ込める隙であった。ルドゥクは、見事にその隙をつくことに成功したのだ。
お返しと言わんばかりにティスターの左の脇腹に与えられた強烈な一撃。これにはティスターも顔をしかめる――が、それだけだった。

(122.30.10.204).. 2008年11月15日 06:20   No.214009
++ クォーツ (オリカ王)…161回       
ちょいと短めだけど、分割パート2。
決着と共に大会は終わるのですが…辺境世界のモンスター達に異変が起こり始めたようです。

《なんと!ティスター、直撃を受けたものの吹っ飛ばない!これはどうしたことかー!?》
「ツインランサー形態の場合、大剣形態と違ってパワーがないから、直撃したとしても、相手によっては決定打にならないようね」
《しかも、よく見れば左腕でツインランサーを抱き抱えているぞ!ヤツは無敵か!?そして、この状況からどうする気だ!?》
そう、一撃が加えられた直後、ティスターは左腕でガッチリとツインランサーを抱き抱えたのだ。その後の、シメのカウンターを決める為に。
「言ったろ?俺の勝ちだってな」
「…!!」
そして叩き込まれたカウンターの一撃は…見事にルドゥクの腹のど真ん中にめり込んでいた。魔力の炎で燃えたぎりながら。
この一撃が決定打になったのだろう、ルドゥクは意識を失い、その場に崩れ落ちた。そして、試合終了を告げるゴングが鳴り響いた。
《試合終了ー!今回の目玉ライバル対決は、"真っ赤な闘魂"の勝利に終わったぁー!!》
「あ、"真っ赤な闘魂"たぁ、俺のことよ!!」
《最後に決め台詞まで決まったー!!今回の総合格闘技大会はこれにて終了!実況はこのテュール、解説はレジストさんでお送り致しました!》

かくして、ティスターの勝利という形で、辺境世界の総合格闘技大会は幕を閉じたのであった。

一方で、静けさ漂う西区域の夜の砂漠地帯。本来なら、夜は殆どのモンスターは眠りに就いていて、正規ルートでなくとも安全なエリアは広い筈なのだが、今は何かが違っていた。
砂漠の至る所で、砂が爆発するかのように荒れ狂っていた。その近くには、モンスターらしき影が無数に存在していた。
時々、目と思われる部分が怪しく発光し、荒れ狂っていた。見境なしに暴れていた。

この異変は、後日、西区域だけでなく、辺境世界の全域で起きることとなる…。

(122.30.10.204).. 2008年11月15日 06:39   No.214010
++ クォーツ (オリカ王)…168回       
久々に月光世界パート。久々にっていっても、所詮3回ぐらいしか空いてないわけですが。
本日は1本。

眩しい朝日が昇り、それはまるでこれから起こる出来事の一部始終を監視するかのようだ。
そして、一瞬だけ、闇月族部隊の根城となっている森林地帯を強い風が吹き抜けた。
それが、戦いの合図となった。
南の森林から、闇月族部隊が一斉に宮殿へ向け進撃を開始したのである。
それと同様に、宮殿から音程族部隊が飛び出し、防衛ラインを形成した。とはいえ、数という面では闇月族部隊の方に分があったのだが。

これには音程族領域にいるモンスター達もざわめきだした。何事かと思っているのだろう。
モンスター達のざわめきの音色がそのまま戦いを告げるオーボエ代わりとなった。
その音色は、人間時代でいう戦国時代の大きなホラ貝から放たれる音と似ていた。

他の部族と違い、鬼達の武器が誰かの武器とぶつかる、即ち物理的な戦いは少ない。
何故なら、音程族の民の殆どが『音』を武器として扱っている為、物理的な武器を必要としない空間攻撃を可能としているからである。
しかしながら、加勢しているミズーリ、ショベラー、ミキラーの3名だけは物理的な武器で戦う戦士である為、仲間はずれの感は強いか。
そんな彼らは、後方で呪文の詠唱を続けるシンフォニーのガードに徹することになっている。シンフォニーの詠唱は時間がかかるものが多い為、集団戦では詠唱中の護衛が必要となるのだ。
一応護身用のナイフもあるにはあるが、相手の数が多すぎる為役に立たず、護衛を付ける他なかったのである。彼女自身は不満だったようだが。
迫る鬼達の行く末は、張り倒されるか、殴り倒されるか、石化させられるか、この3つしかなかった。ことごとく玉砕していったのである。

そんな光景を上空から見やる、蝙蝠の翼が生えた男。彼は闇月族の音程族派遣部隊の総合指揮を任されている。つまり、幹部のような存在である。
密かに舌なめずりをする男の視線の先には、シンフォニーがいた。音程王であるシンフォニーは、彼の最重要ターゲットであった。
「フフフ…音程王シンフォニー。この私、吸血鬼シェードが直々に消して差し上げましょう…!」
その顔は、まるでこれから大きないたずらをしようとする子供の如き笑い顔だった。

(122.30.10.204).. 2008年12月06日 05:05   No.214011
++ クォーツ (オリカ王)…163回       
辺境世界パート。1本。
モンスターの変調が、月光世界だけでなく辺境世界にまで現れて…。

「最近…妙だなぁ」
倒したモンスターの死骸を回収しつつ、フィンはそう呟いていた。
辺境世界を巡り続けているモンスターハンターである彼は、いち早く察知していた。
最近、モンスター達が凶暴化しているように思えるのだ。特に、元々好戦的なモンスターの凶暴化は酷い。周辺の村などが被害を受けている。
おまけに、この現象は辺境世界の全域で起きていた。例外など何もなく。

数日後、同じようにモンスターの凶暴化を知った人々から報告を受けた中央区では、緊急で対策会議を開いていた。
だが、会議のテーブルについているのは3人。1人は、総合格闘技大会で解説役として出ていたレジスト。残る2人は、彼女の同僚である。
片方は、赤い髪に赤い目、オレンジと水色の帽子を被っている。もう片方は、金髪に黄緑の目、頭には緑のバンダナ帽を被っている。

「早速だが、知っての通りモンスターの凶暴化は深刻な問題。なんとかしないと」
赤い髪の男が切り出す。彼は、3人の中でリーダー格らしい。
「報告を称号すると、陸海空、どの地域でも、例外なく凶暴化しているみたいだし…ね」
レジストが現状を話す。そう、もはや辺境世界の中で凶暴化していないモンスターなどいなかった。フィンが最初に凶暴化したものをみつけてから、僅か数日で急速に広まっていったのである。
「凶暴化の原因は不明…ってか。多分、どいつもこいつも機嫌悪いんじゃねーの?」
「んなわけないだろ、少しは真面目に考えろ」
金髪の男が、場違いなボケをかます。するとすかさず、赤い髪の男にツッコまれる。
「そうそう、事態は深刻なのよ。でも、もしかしたらお祭り状態なのかも」
「お前もかよ」
レジストはというと、金髪の男を非難すると同時に自分もボケていた。当然、ツッコまれる。
「お前らなぁ、モンスターの凶暴化だぞ?考えてもみろ、ヘタすると辺境世界最大の危機だぞ。特にクラスタ、お前は少し緊張感を持てよ」
「へーへー、相変わらずシュルツは真面目なこったい。優等生でも気取ってるんかねー?」
「はいはい、シュルツもクラスタもそれくらいにして。話が進んでないじゃない」
「お前もその原因の一端だぞ、レジスト…」
赤い髪の男はシュルツ、金髪の男はクラスタという。レジストも含め、シュルツ以外はどうもボケ混じりらしい。特にクラスタは重傷なようだ。
「とにかく、だ。俺達『政治三幹部』が本格的に動かないといけないらしい」
「そうね、空の幹部である私、海の幹部のクラスタ、そして陸の幹部のシュルツ」
「この全員が動かねぇと事態は収められそうにないみてぇだな」

(122.30.10.204).. 2008年11月22日 05:11   No.214012
++ クォーツ (オリカ王)…164回       
新たに判明した、陸の幹部と海の幹部。
この2名もブログで紹介予定。
辺境世界パート続き、1本。

政治三幹部、それは東西南北の4区域の代表達だけでは扱いきれないような事業や事件を処理する為に選ばれた、文字通りの幹部達である。
陸海空の三すくみで成り立っており、それぞれに1人ずつ、計3人の幹部がいる。
キャリアよりも行動力を求められた結果、3人とも若者が選ばれた。あくまで三幹部に求められるのは、最低限の生活常識と、様々な出来事に積極的に関わろうとする行動力なのである。
陸の幹部シュルツ、空の幹部レジスト、海の幹部クラスタ。この3名には、それがあった。
彼らの生活拠点は、中央区域のセントラルタワーだ。ここで自分達が出向くべき時を待ちつつ、3人で分担して内政も行っている。
そして、彼らが出向くべき時とは、今回のモンスター凶暴化などのように世界規模で被害が生じるような事件が発生した時であった。

一方で、西区域のオアシスでも、モンスターの凶暴化に悩まされていた。
何故なら、凶暴化したモンスターの一部が、正規ルートにも侵入してくるようになったからだ。本来、正規ルートにはモンスターは侵入してこない筈なのだが、その理屈は通用しなくなっていた。
オアシスにまでは被害は及んでいないが、このままでは迂闊に外に出歩けない。実質上、オアシスに住まう者達は孤立してしまったのである。
「うーむ、これはどうしたものか…」
オアシスの長、ローレルも頭を悩ませる事態だ。このような現象は初めてなのだから。
「大丈夫、万が一ここに攻め込まれたって、クレセンで片っ端から薙ぎ倒すからさ」
「はは、頼もしいお嬢さんだなぁ」
ローレルの心配をよそに、レミアはいつも通りの調子でオアシスの防衛を宣言する。いくら時代を越えているとはいえ、経験自体はまだ浅い筈。
そんな乙女が力強い宣言をしてくれるのだから、頼もしいとしかいえないローレルだった。

モンスターの凶暴化が原因なのか、いつでも波の高い辺境世界の海が、今は激しく荒れていた。
更には、何か不吉なことが起こる前兆かのように分厚い灰色の雲が空を覆いつつあった。

「…あり得ない…そんなことって…」
地下世界、万物の泉の中で、ユニバースは何か異変を感じ取った。
漏れた言葉から察するに、辺境世界では起こりえなかったことであることは間違いないだろう。

(122.30.10.204).. 2008年11月23日 05:57   No.214013
++ クォーツ (オリカ王)…165回       
辺境世界パート。1本。
最近、就職戦線に異常アリとはよくいったものでして。酷いですよね、今。
受かっても落とされる―そんな恐怖の時代が幕を開けてしまっているのです。
そんなご時世で就職なんぞできるかバカヤローなどと思いつつ、今日も書くのです。

辺境世界の空を覆い始めた分厚い灰色の雲。それは次第に渦を巻き、突然中心から半径5キロほどの穴が空いた。そして、動きを止めた。

「間違いないな」
「間違いないわね」
「間違いねぇ」
シュルツ、レジスト、クラスタは、その異変に対して何かを確信した。その何かとは―

『巨大な、次元ゲート』

そう、雲に空いた穴は、ただの穴ではなく、世界と世界を繋ぐ次元ゲートだったのである。しかもかなり巨大で、ここまで大きなものは辺境世界でもかなり珍しいものだ。
それが何故、モンスター凶暴化の真っ只中で開いたのか。寧ろ、他の世界への安全を考慮すれば、閉じられるべきシロモノであるというのに。

巨大次元ゲートの真意にまず気づいたのは、万物の泉にて異変を感じ取ったユニバースだった。
「…泉に引きこもってる場合じゃないわね…」
そう言うと、一瞬で姿を消した。テレポートにより、セントラルタワーまで瞬間移動したのだ。
目的は三幹部。自分が感じ取ったことを、彼らに知らせなければならないと思ったからだ。

「…ということは、あの次元ゲートはこの世界に干渉する為の中継システムだと?」
「そう。誰が開いたのかまでは分かりませんが、あのゲートからはモンスターを凶暴化させる力が放出されています。そして…」
「凶暴化したモンスター達を、犯人がまとめて自分の世界に連れ込む為のものってか…」
「となると、犯人は兵を欲していることになる…でも、どうやってあんな巨大なゲートを…?」
話を聞き、ユニバースに確認するシュルツ。彼に答えるユニバースの話から、ゲートのもう1つの目的を推理するクラスタ。そして、レジストは犯人の心境を推理する。やがて、結論が導き出された。このゲートを開くような存在といえば―
『ネヴィア!』
ネヴィアの情報なら、かつてセイガ達が辺境世界に迷い込んだ際、ダイボウケンが彼らから得たものを知らされている。月光世界を侵略すべく、突如現れた存在だと。その侵略の矛先が、辺境世界にも向けられようとしていたのである。

(122.30.10.204).. 2008年11月29日 05:59   No.214014
++ クォーツ (オリカ王)…166回       
本日はメインサイド。長くなったので2本。
ネヴィアの侵略の矛先は、月光世界だけでなく辺境世界にまで及ぶ…。
今回はネヴィアオンリーっぽい話。ちょっと状況整理の意味もあります。
そして今回、次元ゲートが開かれた真の目的が白日の下に晒されます。

「次元の壁の融解率、40%を突破しました」
「うむ」
ここは、ネヴィアが常駐している闇月族司令室。ネヴィアは、部下からの報告を聞いていた。
「融解率が100%になるまで、あとどのくらいはかかるのだ?」
「はっ、このペースでいきますと、早くて2週間ほどかと思われます」
「そうか…。よろしい、下がれ」
知りたいことは知った――部下を退室させると、メモリーチップをデスクの端末に差し込み、ウィンドウを展開した。その画面には―

『闇月族、月光との戦闘記録』

とあった。

『戦闘1、可変三銃士が4部族王と交戦。一時はこれを苦戦させるが、反撃に転じられ敗北』

『戦闘2、ネヴィアが4部族王の進撃に対して応戦。圧倒的な実力差で、これを撃破。以後、部族王らは辺境世界へ飛ばされたと断定』

『戦闘3、辺境世界にて、セントラルタワーの四天王と4部族王が交戦。最終的にセイガに重傷を負わせることに成功するが、アドベンチャーチームの援護により敗北』

『戦闘4、同じく可変三銃士及びコンクル・シオンと4部族王が交戦。可変三銃士はアドベンチャーチームによって撃破されるが、コンクル・シオンは圧倒的な力で4部族王のほぼ全員を戦闘不能に陥れた。だが、彼もまたスーパーダイボウケンによって、敗北を喫する』

「ふむ、ここまでが派遣前までの戦闘か」
ネヴィアが月光世界の各方面に部隊を派遣する前までの戦闘記録である。

(122.30.10.204).. 2008年11月30日 05:50   No.214015
++ クォーツ (オリカ王)…167回       
続き。
あ、昨日シュルツの紹介を投下しておいたので、宜しければドウゾ。

終わった戦闘に関しては、随時記録が残されていくのだ。そして今も、新たにいくつかの記録が届けられていたところだった。
そう、派遣後の戦闘記録である。

『戦闘5、月光世界にて、ソウル率いる派遣部隊が流星族と交戦。ソウルはセイガと互角の勝負をしたが、最終的に撃破される』

『戦闘6、同じくアマノジャク率いる部隊と気功族が交戦。途中、スパイとして先行派遣した筈のヴォルクからの裏切りが発覚、アマノジャク自らが処刑。この行為がグレンドルの怒りを買い、壮絶な戦いの末、これに敗れる』

『戦闘7、同じくサイエンス率いる部隊が時空族と交戦。他と違い、サイエンスとレオンは独立行動中に戦闘を開始した模様。途中でムーンライトの介入を受けるが、特に攻撃行為は確認できず。最後、サイエンスはレオンに撃破される』

『戦闘8、同じくシェード率いる部隊が音程族領域に降下、体制を整えた上で音程族と戦闘開始。現在、戦闘継続中』

以上が、これまでに起こった、もしくは起こっている、闇月族と月光世界の者との戦闘記録の全てである。記録にもある通り、現在シェードの部隊と音程族は戦闘継続中だ。
「これだけ投入してもまだ粘り強く抵抗されるとはな…。やはり、辺境世界からの流れ者達が抵抗に関与しているとしか思えん」
そう呟き、一瞬微笑してから更に呟いた。
「だが、かけておいた"保険"が、遂に始動した。これで、一気に殲滅させることも容易くなる筈なのだ。そう、月光世界も辺境世界も1つになってしまえば、凶暴化した無数のモンスターを配下に加えるだけで、世界の征服は一気に進むことだろう…。フフフ…フハハハハハハハハ!」

なんということであろうか。先程の"次元の壁の融解率"の話は、ネヴィアの目論む"月光世界と辺境世界の融合"までの進行状況だったのだ。
辺境世界には、月光世界以上にモンスターの多い世界だ。それ故、モンスター達が凶暴化すれば、確実に大パニックとなる。その状況を月光世界にも伝染させることで、4部族の弱体化と同時に兵力増強を謀り、一気に世界を征服してしまおうという、暴挙というべき大作戦であった…。

(122.30.10.204).. 2008年11月30日 06:14   No.214016
++ クォーツ (オリカ王)…168回       
本日は音程族VS闇月族で。1本。
あと2週間ほどで冬休みが訪れる学校も多いでしょう…時が経つのは早いもんです。

ネヴィアが恐るべき計画を進めている一方で、音程族は闇月族部隊と激しく交戦していた。
空間攻撃という、効果範囲に優れた攻撃手段を多く持つことが幸いしたか、数の不利というものはあまり感じさせない。互角の勝負だ。
だが、倒しても倒しても現れる鬼達に苦戦を強いられているのは事実。次第に夜が更け、やがては真っ暗になってしまった。
だが、それこそがシェードの待っていた瞬間だった。彼の最も得意とする戦闘状況、即ち深い夜になるまでじっと待っていたのである。
またもや舌なめずりをし、シンフォニーめがけて急降下した。任務遂行の為に。

それをいち早く察知できたのは、ミズーリだった。魔力を用いた突風をあらぬ方向に飛ばす―と思いきや、その突風を何かが避けるのをシンフォニーも確認できた。耳を澄ませば、僅かながら羽音が聞こえる。だが、それは注意して聞かないと分からない程小さい。それをミズーリは瞬時に聞き取り、羽音のする方向を突き止めた。

ミズーリは、感覚が優れている精霊だ。特に第六感に優れている。以前、森の中でシンフォニーの微かな呟きを聞き取ったのもそのおかげである。後から聞いた話では、生まれつきらしい。
そして彼女は、月光世界の住人ではない。ではどこの住人なのかというと、唐突に語られた。

「フフフ、よくぞ私の接近を察知しましたね、辺境世界からの流れ者よ!」
「(辺境世界?まさか、あそこから月光世界に来たっていうの?あのゲートを使って?)」
そう、ミズーリもまた辺境世界の住人である。彼女と初対面した時、シンフォニーが彼女のことを別の世界の住人であるように思えたのも無理のない話であった。実際、別世界の者だったから。
「それがどうかしたの?あんたの突撃コースなんて、単調ですぐ分かったわよ!」
またも突風を起こす。今度は当たった。これによりバランスを崩し、シェードは地面に落ちた。だが、さすがに闇月族の幹部。すぐさま体制を立て直し、攻撃態勢に移る。
ショベラーとミキラーがそれぞれの技で迎撃に当たるが、相手はかなり素早いようで、ことごとくかわされる。何度も何度もかわしつつ、シェードは突然大の字になった。
そして彼から放たれたのは――敵も味方も無差別の、悪夢を告げる"音"だった。

(122.30.10.204).. 2008年12月06日 04:54   No.214017
++ クォーツ (オリカ王)…169回       
音程王VS吸血鬼の続き。1本。
ホントに冬休み前に終わっちゃうような…。

シェードから放たれた"音"、それは超音波。その超音波が、ミズーリやショベラー、ミキラーを苦しめることになった。
「…っ!?な、何、これ…!?」
「体が、しびれて…」
「こ、この超音波に、身体機能を麻痺させる効果があると、分析結果に…」
そう、ショベラーの分析通り、今シェードが放っている超音波には、相手の身体機能を麻痺させる効果があるのだ。勿論、普通の超音波ではそういうことは起こらないのだが、そこら辺の考えは捨ててしまった方がいいだろう。何せ、相手は未知の存在・闇月族なのだから。
「フフフ…。あなた達に抵抗されると非常に面倒なのでね…。先に始末させてもらいますよ!」
不気味に笑いながら、シェードが爪を光らせて突撃してきた。特殊超音波のせいでまともに動けないミズーリ達は、いい的だ。

シェードの発言からすると、闇月族でも辺境族についてはある程度マークしているようだ。邪魔になるなら始末するように、ネヴィアから命令されたのだろう。

「さぁ…安らかに眠…!?」
「楽章名・奏!!」
ミズーリに一撃を加えようとしたその時、突如強力な魔法攻撃がシェードを襲った。一連のやりとりの間に、ひっそりと詠唱していたシンフォニーによるものだった。
「む…っ、ぬおっ!?」
とっさに回避するが、広範囲かつ攻撃密度の高いシンフォニーの『楽章名・奏』による魔力攻撃には対処しきれない。何発か被弾し、自慢の翼も片方おしゃかにされたようだ。
いきなりの奇襲。それに対し怒りもあらわにシェードは攻撃の主=シンフォニーを睨む。対するシンフォニーも、シェードを睨んでいる。よく見ると、声こそ聞こえづらいが口は動いている。
何か詠唱をしているのだろう。もしまた先程のような攻撃がこようものなら、おそらく対処できない。翼を片方やられたことで、バランスが崩れて本来の機動性を発揮できないのだ。
ふと、シンフォニーの口の動きが止まった。次の瞬間、状況は動いた。

「楽章名・奏!!」
再び、広範囲かつ攻撃密度の高い攻撃。いくら先程パターンを見ているとはいえ、密度の高さと機動性のハンデのせいで1回目の時よりも被弾していく。この一撃で、左腕ともう片方の翼もやられた。シェードにとって、大ダメージであった。
「く…っ。やりますね、音程王。この吸血鬼シェードをここまで追いつめるとは…」
素早く投擲用ナイフを取り出しながら、シンフォニーはどこか冷めた感じで言った。
「悪いけど、私、戦いは嫌いなの。だから、あなたには早く去ってもらいたいの」
「ほう、何を言い出すかと思えば…」
シンフォニーからの最終通告的な発言に対し、シェードは一旦間をおいてから、こう言った。
「私はね、この世界から弱き者を消す為に生きているんです。そして真の強さを手に入れ、最強の座につき、いずれは世界の王として君臨するのが我が夢。今、ライバルこそいるものの、夢の実現に近づいてきたんですよ。所詮、あなた如きが止められるような、ヤワなシェード様じゃないこと、今から教えて差し上げます」
そう言うと、シェードの体に異変が起きた。

(122.30.10.204).. 2008年12月07日 07:01   No.214018
++ クォーツ (オリカ王)…170回       
シェードとの決着近し。1本。
あと1週間ほどで冬休みに突入する私。
シェードに設定追加しちゃいました、すいませんウェリスさん。

「……うおぉぉぉおおおおおお!!」
「っ!?」
雄叫びを上げ、シェードの体が変貌した。体は異常活性化した筋肉で肥大化し、爪は禍々しく伸び、背中からは新たに2枚の、巨大な翼が生えた。

その姿は、後ほど「魔王」と称された。

「ぅううああああああああああ…!!」
「なっ…何だ、コイツ…!?」
「シェードが…」
「変身した…!?」
一方で、超音波による麻痺が解けたミキラー、ショベラー、ミズーリもまた驚いていた。
敵にさえ敬語を使うような、紳士のような出で立ちだったあのシェードがモンスターと化したのだ。無理のない話である。
シンフォニーも、静かに投擲用ナイフを構えて臨戦態勢を継続している。
「…音程王…貴様には止められまい!世界の王という座を掴む為、使えるものは何でも使った!その結果がこの真の体!!圧倒的な力で敵をズタズタに引き裂く、禍々しき体ぁ!!!」

どうやらモンスター化すると意識が狂うらしい。彼らしくない、気の狂ったような大声を出しながら、両腕を振り上げた。そして、振り下ろした。
長い爪がシンフォニーに襲いかかる。とっさに跳躍してかわすが、その直後に彼らしからぬものが襲いかかってきた。
風圧による衝撃波だ。直接狙われたシンフォニーだけでなく、シェードの半径2メートル以内にいた者全てが吹き飛ばされた。
「……哀れな話ね…」
「何っ!?」
衝撃波で吹き飛ばされ、近くにあった大木に叩きつけられながらも、シンフォニーはシェードに鋭い視線を送り続けていた。
そして、猛威を振るい続けるかと思われたシェードの体に、またもや異変が起きた。

(122.30.10.204).. 2008年12月13日 05:06   No.214019
++ クォーツ (オリカ王)…171回       
シンフォニーVSシェード、決着。
でも、まだ少し続きます。ネヴィアの動き、辺境世界の動き、など。
では、決着編をどうぞ。

「な、なんだこれは…体が、体がぁぁっ!!」
左腕と背中から、シェードの体は砂のように次々と崩れてゆく。崩壊の起点となったのは、変身前にダメージを受けた場所だった。
「こ、この…小娘がああぁぁぁっ!!」
残っている右腕の爪を伸ばし、切り掛かる…が、これまた崩れてしまった。振り下ろす時の風圧に耐えられなかったようだ。
「確かにその姿の力は凄まじい…王にだってなれるかもしれない。でも…変身前に大きなダメージを受けていると、その部分を起点として体を維持できなくなるみたいね…!」
「ぐぅっ!?」

シンフォニーの言うとおり、シェードの変身した姿は非常に不安定であった。
力を徹底的に求めた結果、身体機能のバランスにズレが生じ、それ故に肉体へのダメージが悪影響を及ぼし、自己崩壊に繋がってしまうのだ。
シェード自身も把握していなかったこの致命的な欠点は、シンフォニーの勝利の鍵として露呈してしまったのだった。

"強さ"を求めすぎたが故に道を誤り、己自身が滅びることになる。つまり"弱さ"である。

「"強さ"は"弱さ"を生む…地獄で反すうしながら後悔するといいわ…。トドメ刺すから…」
シンフォニーが、今までとは違う詠唱を始めた。新しい技か。それはシェードも分かった。
だが、今のシェードには何も出来ない。動くだけで体の崩壊が進んでしまうのだから。
そして、トドメの一撃は放たれた。
「裁きの譜歌(ジャッジメント・ソング)!!」
詠唱完了と共に、シェードの周りを取り囲むように無数の光の剣が現れた。光の剣によって描かれたサークルは、シェードの動きを封じるフィールドとなっていた。
続いて、今にも裁きを下そうとしているかのように、巨大な光の剣がぬうっ姿を現した。
「さぁ…せいぜい最後の懺悔でもしなさい…」
巨大な光の剣の切っ先がシェードの頭に突きつけられ、シンフォニーは冷たく言い放った。
「懺悔など…することなし!」
「そう…じゃあ、消えなさい」
あくまでも意地を張るシェードに対し、シンフォニーはもはや冷徹とも呼べる声でそう告げた。
そして、巨大な光の剣がシェードを真っ二つに叩き切り、サークル内で爆発が起きた。

爆発による煙が晴れた時、サークル内にあったのはシェードの翼1枚だけだった。

(122.30.10.204).. 2008年12月14日 06:25   No.214020
++ ウェリス (オリカ王子)…115回       
お久しぶりです。・・・って範囲じゃないですよね^^;
冬休みにもうすぐ入りますが、出来るだけ書きに来れるよう頑張ります!
―って言ってサボらないようにしないと。。。(ぇ


一方ギルドたちは鬼達と対峙している。
どうやら、此方が優勢になってきたようだ。
「皆頑張れー!パワーマーチング!」
ヴァーチェが術を放つと雪のように空から光が舞い降りた。
その光が仲間の体に当たり、輝く!
「ヴァーチェ、助かる!―剛断旋(ゴウダンセン)!!」
スフォルツが身体ごと旋回、迫り来るゴルドの腕を切り落とした。
「何っ!?こうなったら・・・聖落連牙衝(セイラクレンガショウ)!」
「無駄な足掻きを・・・唸れ、大いなる刃!ツァンドファング!!」
剣が2本砕け散った。
―それはどちらの剣もゴルドの物だった。
そして彼自身もキズを負い、倒れた。
長とも言えるゴルドが倒れた為か、鬼達はたじろいだ。
「隙ありッ!爆烈焦(バクレツショウ)!」
フォーコが本から炎を呼び出し、鬼達を焼き尽くす!
その時、シンフォニーがいる場所から闇を引き裂くような光が放たれていた!
「うおっ!?まぶしっ!!」
アパショナーが顔を覆いながら言った。
鬼達は光が苦手なのか、その光で倒れていった。
「あれは・・・裁きの譜歌(ジャッジメント・ソング)か!?」
ギルトは知っていた。
シンフォニーが新たな技を習得した事。
それは音程族の技の中でも強力で、使えるものはそうそういない・・・と。

しかし、ギルトが感じたのはそれでは無い。
「・・・シンフォニーの身に、何かを感じる・・・!」
物心付いた時には、ギルトは走り出していた。

(220.213.104.15).. 2008年12月19日 21:25   No.214021
++ ウェリス (オリカ王子)…116回       

「シンフォニー!」
「ギ、ギルト!?そっちの方は大丈夫なの!?」
少し焦り、シンフォニーはギルトを見る。
走ってきた為か、呼吸が乱れている。
ギルトは頷き、焼け焦げた大地を見た。
裁きの譜歌(ジャッジメント・ソング)によって焦がされた大地だった。
そのミステリーサークルのような地に羽が一枚。
―おそらく敵の物だろうと思った。
その時、背後で気配が蠢いた。
「!?」
2人は振り向くと、そこには先程倒した筈のシェードがいた。
全身焼き焦げ、片翼が千切れ飛んでいる。
それでも魔物と化した身体は動き続ける。
1激でも攻撃を打ったら、それで最後だろう。
「私は・・・まだ死ぬわけにはいかん・・・音程王・・・貴様を・・・殺す!!」
片翼を広げ、超音波を放つ構えをする。
心臓辺りで巨大な気が渦を巻く。
それは・・・巨大な闇の気だった。
「死んでしまえぇぇぇぇっっっ!!!」
身体が崩壊する・・・。
ぶちり、ぶちりと身体が悲鳴を上げているのも聞こえていた。
―だが、今はそれどころではない。
どす黒い超音波が此方に来る!!!
『これじゃあ・・・避けられない!!』
シンフォニーは初めて死を覚悟した。
死ねないと分かっている。でも・・・
シンフォニーは自分の身体を守った。
 
不思議だ。
超音波の音も、当たった感覚も、何も無い。
死ぬと聴覚は勿論、感覚が無くなると聞いたことがある。
―じゃあ、死んでしまったの・・・?
 
恐る恐る、その目を開けた。
身体は無傷だった。
理由は目の前にあった。
「ギルド・・・!」
ギルドが倒れていた。

(220.213.107.193).. 2008年12月19日 22:01   No.214022
++ ウェリス (オリカ王子)…117回       
「ギルド!ねぇ、しっかりしてよ!」
ギルドがゆっくり目を開けた。
が、いくら治癒術を使ったとしても間に合わない事は明らかだった。
「ゴメンな・・・シンフォニー・・・。また1人にしちまって・・・。」
シンフォニーはただ涙を流し、彼を抱きしめる事しか出来なかった。
「でも・・・分かってるだろ・・・。お前は音程族の・・・王だ・・・。だから・・・何があっても生き延びろ・・・!」
「ギルト・・・御免なさい。私のせいで・・・、私のせいで・・・!!」
涙を拭う事も出来ない。
ただ、彼を―失ってしまいそうな彼を見つめ、抱く事だけが全て。
ただ、それだけだった。
ギルトはゆっくり手を伸ばし、シンフォニーの涙を拭った。
そして、首に手をかけ、ネックレスをシンフォニーの手に置いた。
「これは・・・」
それはギターの形をして、真ん中に音程族にしかない宝石、音力石が埋まっていた。
「俺の・・・母さんからの・・・形見。・・・そして、俺からの・・・形見さ・・・。」
そう言って、シンフォニーの首にかけた。
「俺は・・・後悔なんてしていない・・・。シンフォニーを・・・大事な人を・・・守ったからな・・・。」
零れ落ちた涙がぽたりぽたり、とギルトの頬に落ちる。
その1粒の涙でもしも彼の怪我が治るなら・・・と願ってしまう自分がいる。
「シンフォニー・・・この・・・歪みきった世界を・・・皆と救い出してくれ。・・・それが・・・俺の願いだ・・・!」
「うん・・・。うん・・・!」
シンフォニーは強く頷き、ギルトを抱いた。
その腕に抱かれ、ギルトはゆっくり息を引き取った。

―世界の救済をただ、祈って―

「はは、くはははは・・・!」
崩壊した体がまだ生きていたか、シェードは笑った。
「残念だったな・・・!音程王よ!!」
シンフォニーは立ち上がり、シェードを睨んだ。
その目には悲しみと怒りが篭っていた。
「貴方を・・・許すわけにはいかない!!この死に底無いッッ!!!」
シンフォニーの足元に魔方陣が広がる。
が、詠唱は一瞬にして終わった。
「これが貴方に送る裁き!受けなさい!!―裁きの譜歌!!」
あの上級術を、一瞬にして放つ。
もう、迷いなど無い。
そう言うように、巨大な剣はシェードの身体を今度こそ貫いた。

(220.213.107.193).. 2008年12月19日 22:26   No.214023
++ クォーツ (オリカ王)…172回       
確かに、お久しぶりというにも間が空きすぎてますけどね…。取り敢えずお久しぶりです。
ストーリー投下ありがとうございます。シンフォニー編はもうちょいで完結です。
では、続きどうぞ。2本にします。

今度こそ、シェードは倒れた。そこで、ショベラーとミキラーが急いでギルドを医療施設に運んでいく。だが、疑問の声が出た。
「既に彼は死んだと分かっている筈なのに、何故手を施そうとするの?」
声の主は、ある意味で意外なものだった。シェードに対する怒りと悲しみでいっぱいいっぱいのシンフォニーだったのである。
彼女に答えるは、未だに彼女の足元に広がっている魔法陣を見つめるミズーリだ。
「あなただって、本当は認めたくないんでしょ?彼の死を…」
「そ、それは…」
確かにそうだった。シンフォニーはギルドの死を心の奥では認めきれていない。だがそれも、分かる人にはあっさりと分かってしまうことだ。
「それはね、生きとし生ける者として、正しいことなの。『"もがきあがくこと"こそ生命の本質』って教えがあるわ。己の死というものに対して、決してそれを認めず、あがき続けること。要するに、覆しようのない事実になるまでは、絶対に諦めてはいけないってことよ」

ミズーリがシンフォニーに教えた、『"もがきあがくこと"こそ生命の本質』という教え。これは、辺境世界では義務教育で教えられることなのである。つまり、民の大半は知っていることになる。
辺境世界は、かつての分断災害から逃げ延びた者達によって新たに住居世界として発展させた、まさに辺境の世界だ。その発展は常に"もがきあがくこと"によって成り立ってきたのである。
生命というものは、己に降りかかる困難に対して何らかの形であがきを見せるものだ。時にはもがき苦しむことだってある。だが、それこそが生命の本質であり、生きている証なのだ。
特にフィンやテュールといった古参メンバーには深く心に刻まれている掟のようなものらしく、彼らの倫理観に大きく影響していたりする。
ミズーリが古参メンバーであるかは仲間内ですら定かではないが、それでもこの教えが彼女の心にも深く刻まれていることだけは確かである。

医療班によって賢明の処置が施されたが、結局ギルドは死亡と断定された。だが、できることはやったのが現状だ。誰も否定することはない。

(122.30.10.204).. 2008年12月20日 05:27   No.214024
++ クォーツ (オリカ王)…173回       
それと同時進行で、ショベラーとミキラーはギルドがシンフォニーに渡したネックレスの解析を行っていた。このネックレスから、プレシャス特有の特殊反応が感知された為である。
「…やはり、これはプレシャスと見て間違いありません。チーフに報告を」
ネックレスをケースにしまい、通信端末を起動させるよう促すショベラー。
「OK。でも、だからといって僕達が管理していい筈がないよ、そのネックレス」
端末を起動させつつ、改めてネックレスの持ち主を定めるミキラー。彼は、いくらプレシャスだからといって自分達がネックレスを管理することに否定の意を唱えた。
「では、一体誰が?」
「愚問だね。シンフォニーに決まってるじゃないか。これは、彼女の友達と、その母親の形見なんだからさ」
ショベラーからケースを受け取り、端末へと視線を戻す。やがてその画面には、ダイボウケンの姿が映った。健在であるのは明らかだ。

「そうか…やはりこの世界にもプレシャスが…」
ショベラーとミキラーによって、月光世界にもプレシャスがいくつもあることは完全に理解できた。そして、シンフォニーが図らずもその一部の所有者になったということも。
「だが、そのネックレスが友の形見であるというならば、俺達が管理する理由はない。シンフォニーに返してやってくれ」
ミキラーと同様、ダイボウケンもまたネックレスの所有権はシンフォニーにあると定めた。何が起ころうとも、少なくとも月光世界にとってマイナスにはならないだろうという判断からだった。
本来なら、プレシャスと断定した時点で専用ケースに保管し、辺境世界にある本部へと送られることになるのだが。ここはチーフとしての特例処置を施すことでそれを免除した。

「いいのですか?これはさすがに"ミスター"に怒られる可能性が…」
「問題ない。"ミスター"も納得した上での特例処置だからな、おとがめはナシだ」
"ミスター"とは、アドベンチャーチームを統括するボスのような存在である。チーフであるダイボウケンに指令を打診し、プレシャスを回収させる司令塔だ。正式名称は「ミスター・ボイス」。だが、それ以外のことは謎に包まれている。
そんな存在に咎められるのではないか、そんなショベラーの危惧は取り越し苦労だったようだ。理由は、ダイボウケンが述べた通り。"ミスター"も納得しての特例処置だったのだから。

だが、彼らは知らなかった。今現在、自分達の故郷である辺境世界で、世界の存在自体が揺るぎかねない大異変が起こっていることを…。

(122.30.10.204).. 2008年12月20日 05:50   No.214025
++ クォーツ (オリカ王)…174回       
明後日から冬休み突入であります、私。
ずっと前に話した、冬休み中の超連続更新企画。実行に移せそうです。
っと、シンフォニー編も残すはネヴィアら闇月族の動きと、辺境世界の異変への対処ぐらい。
では、まずは辺境世界編で。2本でどうぞ。

「…ダメね、各区域の通信、途絶」
レジストが全ての通信端末を調べるが、どの端末からも応答は全くない。砂嵐のようなノイズがただただ続くだけである。
「ターミナル同士のリンクも切れちまってる」
クラスタからの報告も芳しくない。辺境世界では唯一ともいえる、大陸を越える術。そのターミナル同士のリンクが使えないとなれば、民達はそれぞれの大陸に閉じこめられることになる。

各区域共に、ほぼ全てのシステムが機能停止、もしくはそうなる寸前に陥っていた。今頃民達は、大混乱に陥っている筈である。

「まさか、月光と辺境、2つの世界の境目をなくしてしまおうだなんてな…」
シュルツは、ただただ空を覆い尽くさんとする巨大ゲートを睨みつけながら呟いた。
各区域で凶暴化したモンスター達が、相次いでターミナル近辺に集中的に出没。ターミナルは甚大な被害を受けてしまっている。各区域の中心部も、かなりの被害が出ている筈である。
そしてその元凶であるゲートは、未だに拡大を続けていた。ユニバースいわく、水平線まで達したら前人未踏の悪夢が始まるという。
その悪夢は即ち、月光世界と辺境世界の融合ということであるのは間違いなかった。

月光世界と辺境世界は、その祖を同じとしながらも、それぞれで独自の文化と生活形態を構成して今日まで生きている。
いくら他者による意図的なものであるにせよ、この2つが融合した際、それぞれの民同士の間で紛争などが起こる可能性は否定できない。
それ故、外交問題を任されている身としては、2つの世界の融合だけは避けたかった。だが、その原因となるゲートへの対処法が何一つなかった。それが、シュルツにとってもどかしかった。

ゲートの周辺には、放電と思われる光がほとばしり始めている。ゲートを維持するエネルギーが活性化している証拠である。
凶暴化したモンスターが暴れ回り、主要都市やターミナルはもはや機能を維持できない。特にターミナルは致命的で、たとえ事態が収まったとしても、復旧で何日費やすハメになるか分かったものではない。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。それ以前の問題なのである。

万が一月光世界と辺境世界が融合してしまえば、もはや何が起きるか分からなかった。

(122.30.10.204).. 2008年12月21日 05:52   No.214026
++ クォーツ (オリカ王)…175回       
ふいに、1つのコンピューターの画面が真っ黒になった。それに気づいたのはクラスタだった。
それと同時、セントラルタワー全体が不気味な音を立てて沈黙した。
「やべっ、全体動力システム停止!!」
クラスタが告げた、全体動力システムの停止。それは、セントラルタワーにとっての完全機能停止を意味している。全体動力システムによって、セントラルタワーの全ての機能が働くのだから。

「ここがオシャカになったってことは、きっと他の区域も、もう…」
辺境世界において、セントラルタワーほど頑強なシステムはない。つまり、ここが機能停止に陥ったということは、既に他の区域の主要システムも完全に停止しているということになる。
ゲートへの対処もできず、為す術もなく機能を停止していく辺境世界。レジストの脳裏には、言葉にできない不安がよぎった。

だが、意外な言葉が辛うじて残っていた広域放送用のスピーカーから飛んだ。全区域に向けて。

「諸君!政治三幹部が1人、シュルツである!間に合わせではあるが、議長承認を得た上で発令する!戦える者は、ただちに戦う準備をせよ!この異常事態は、全て異世界からの侵略者、闇月族の長、ネヴィアによるものである!
ヤツは、この辺境世界と上にある月光世界を融合させ、一気に侵略するつもりである!2つの世界が融合してしまえば、辺境世界とて無事では済まない!それよか、我らの全てが、土足で踏み込んできた侵略者によって踏みにじられる!
もがきあがくことこそ、生命の本質!今、その教えに従い、もがきあがく時が来た!ネヴィアと、闇月族と戦うのだ!月光世界の者にとっても、我らにとっても、闇月族は共通の敵!だから戦うのだ!本来祖を同じくする我らと月光の民、たとえどこかでいざこざが生まれようとも、必ずや解決できる筈なのだから!
戦うのだ!あがくのだ!命ある限り!!」
一応、通信システムが生きている間に、ゲートと凶暴化についての説明は終えている。そして、シュルツはいつの間にか議長ことフィリーから承認を得て、広域放送用のスピーカーへと駆け込んだ。そして告げた。戦闘態勢への移行を。
シュルツはいわば代理、この言葉は殆どフィリーによるものである。だが、フィリーは普段東区域にいる存在。それ故、この状況下で彼の意志を伝えるには代理が必要となっていたのだった。

では、何故このような発令に至ったのか?答えは簡単だ。ゲートへの対処法がない以上、もはや世界の融合という事態は避けられない。
ならばいっそ、可能な限り体勢を整え、世界の融合によって現れるであろう闇月族の軍を速攻で一網打尽にしてしまおうというのである。
当然、モンスターからの妨害は入るだろうが、元々もがきあがくことで生きてきた集団である。逆に迎撃できるだけの技量を皆持ち合わせているという。発展の中で、何度となくモンスター達と戦ってきたのだから。

ゲートの端が水平線に達するまでにそう時間はない。だがその頃には、各区域共に戦闘態勢を整えていた。こんな事態を引き起こしてくれたネヴィアを倒したくて仕方ないのである。

そして、辺境世界最後になるやもしれぬ日の出が始まった。戦いの合図の如く。

(122.30.10.204).. 2008年12月21日 06:24   No.214027
++ クォーツ (オリカ王)…176回       
ネヴィア側の動き。1本で。
今回でシンフォニー編はファイナル。後は最終章こと第4章にて描かれます。
キャラ投下スレも用意しておきます。

「…そうか、シェードも敗れたか」
「ハッ、既に部隊は撤退を始めております」
「ふむ、よろしい。下がれ」
遂にシェードも敗れた―部下から報告を受けたネヴィアは、若干ではあるが焦っていた。ここまでに幹部級を多く派兵してきたが、それはことごとく敗れ去っていった。
おまけにコンクル・シオンとの連携もとれなくなり、まさに孤立無援の状態となったのである。
いくら最終計画(月光世界と辺境世界の融合)が完遂されると分かったとはいえ、さすがにマズイ。幹部が少なくなったことによる指揮能力の低下が懸念材料だった。

「今度ばかりは、私も出なければならぬか…」
幹部級が少ない為、最終計画完遂後の指揮系統の混乱は免れない。
できるだけ多くの指令端末を用意し、万全の状態でモンスター達を配下にしなければならないのだが、現状の戦力では難しかった。
「次元の融解率はもうすぐ100%となる…。新たに幹部を生み出す暇もないか」
幹部ということは、それなりの能力と技量を同時に保有している必要がある。特に指揮能力は必須条件で、これが最も教育に時間がかかるポイントだった。新たな幹部を生み出す余裕はなかった。
他にも、来るべき決戦の勝敗を左右する留意点はいくつかあった。その1つは―
「4部族が同盟を組むのは既に分かっているが、世界の融和によってこちらに出現する辺境族がどう出るか、だな…」

2つの世界の融和により、月光世界と辺境世界という境目はなくなる。モンスターだけでなく、そこに住まう民までもこちら側に強制転移させられることになる。
もしその民達が、武器を手に取り戦闘態勢を整えていたとしたら?その矛先は、ほぼ間違いなく闇月族に、ネヴィアに向けられる筈だ。
共通の敵を前にして、月光世界の民と辺境世界の民が手を取り合い、世界を越えた同盟を結ぶことも簡単に想定できるのである。
だが、これは最終計画を発動させた後しばらくしてから判明した、いわば計算ミスである。最終計画で招き入れるのは、あくまで凶暴化したモンスターだけ。民まで招き入れるつもりは全くなかったのだ。次元の壁がなくなることの意味を、ネヴィアは計算に入れていなかったのだった。

「かくなる上は…私自ら戦場に赴き、私に仇なす者全てを消し去るしかないか…」
いつになく強大なエネルギーを駆け巡らせ、ネヴィアは静かに拳を握りしめていた。

決戦の時は、近い。

―シンフォニー編・完―

(122.30.10.204).. 2008年12月23日 06:07   No.214028


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