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■--ご機嫌NOVEL祭 ☆編集長は私なんだからねっ!☆36
++ もりぞー (長門有希)…230回          

リレー参加作品『破~イツワリノピーチヒメ~』作者Θもりぞ

 新川さんまで古泉の赤玉部隊に召集されるとは……『機関』とやらも相当な人手不足におちいったようだな。それにしてもあのいやしい赤玉になれるのは古泉率いる少年部隊だけだと思ったが、どうやら新川さんにもその力があったらしい。もしかしたらこの事態を止めてほしいと願うハルヒの『良心』とやら、の現れなのかもしれない。
 窓の向こう側では赤い玉と巨人との戦いが続いている。前にここに紛れ込んだときは灰色の世界だったと思うが、目の前に広がる光景には色が付いていて、青空の中を赤玉が乱舞している。
 しかし、改めて思うが、どれが古泉でどれが新川さんなのかさぱーり解らん。が、とりあえず応援しておこう。いや応援するべきだ。ファイト~。
 俺はまず文芸部、いやSOS団部室のある旧館部室棟まで全速力……とまではいかないが、フォレストガンプ並に駆け抜けた。
 ひと気のない校舎に俺の靴音だけがこだまする。長門、頼むからいてくれよ!
 階段を一段飛ばしで駈け上がり、部室の前に着くと、俺はいつものハルヒを見習って勢いよく扉をはね飛ばした。
 狭い部室内が一望のもとにある。しかしそこに長門の姿はなかった。いつもの窓際の席は空席だ。眼鏡をかけたハニカミがちな文芸部員も当然だがいない。
 壁に跳ね返った扉の間の抜けた音だけが空しく反響していた。
 長門がいないとなると……次は朝比奈さんだ!
 いないとは思いつつも一縷(いちる)の望みを持って二年の教室に向かう。しかし朝比奈さんの組以外の教室も覗いて回ったが、人っ子一人いなかった。ここは閉鎖空間だから当然といえば当然だが、やっぱり気落ちする。あのすばらしい笑顔をもう一度見られるのなら、日暮れまでに死刑台めざして駈け続けてみせようじゃないか。
 長門も朝比奈さんもいないのなら、俺はいったいどうすればいいんだ。本当にバットでも持って敵地へおもむくか? しかし出陣するとしても敵本陣がない。まさかあの巨人にバット一本で向かっていけるほど俺の偏差値は低くないつもりだ。じゃあどうする? どうすればいい?
 そのとき俺に天恵とも言える考えが飛来した。そうか……七夕の日、中学生のハルヒと夜の校庭に忍び込んで宇宙人にメッセージを送った……。石灰(せっかい)でおかしな文字を描かされたじゃないか。あの方法で情報統合思念ryを呼び寄せることはできないか?
 昇降口から外に出ると、目の前に巨人の足が見えた。見上げると赤い玉と格闘中だ。悪いとは思うが今は巻き込まれるわけにはいかない。俺には重要な使命があるんだ。
 クレーターを避けながらグラウンドを横切って、石灰などの道具がある倉庫に向かった。巨人(神人とかいったか?)はグラウンドの縦横にいて、それぞれが赤い玉と戦っている。こいつらを見てると物の大きさの基準が狂いそうだ。自分がノミか何かに思えてくる。
「急がば回れ」と最初に使いだした偉人は一体誰だろう? 俺の目の前に大股を広げた巨人が立ちふさがった。言葉通り迂回するべきなのだろうが、なんせスケールが違うもので、安全を確保するためには大幅なロスタイムを覚悟しなければならない。
 股の下をくぐっていけば、倉庫まで直線距離で百メートルもないだろう。
 俺はまだ死にたくない。ここは偉大なる先人の言うとおり迂回していくべきだ。しかし、古泉だって危険を冒して巨人と戦っている。それを思うと自分可愛さで妥協ばかりしていられない。よし、男の見せ所だ。
.. 2010年03月28日 01:42   No.678001

++ もりぞー (長門有希)…224回       
 巨人は赤玉の攻撃を受けてわずかに後ずさっている。もしかしたら古泉かもしれない。
 古泉、がんばれ!
 そう言うと、一瞬だが、赤玉が人型になった。やはり古泉だった。そして何を思ったか、猛烈なスピードでこっちに向かってきた。
 バカ、何してんだ。声援に応える余裕があっていいのはスター選手だけだぞ!
「何してるんです! 早く避けてください!」
 赤玉のまま古泉が叫んだ。その物体に気がついたときにはもう手遅れだった。大雨の直前みたいに俺の周りが暗くなった。見上げると巨大な黒い壁があった。巨人の足の裏だ!
 衝撃を感じた。ブラックアウトした視界の中で、天地が何度も入れ替わる不快な感覚を味わった。
 静止した闇の中で、俺は入学式のハルヒの仰天自己紹介や、初めて朝比奈さんと歩いたあの河原を思い出していた。「禁則事項ですv」と言う朝比奈さんは記憶の中にあっても完璧すぐるくらいの笑顔で俺を迎えてくれた。
 次に現れたのは古泉の……って、走馬燈か! 古泉はいい! はい終了っ。
 目を開けると青空が見えた。視界の端に何かが動いている。首を動かすと例の巨人が見えた。
 どうやら俺は生きているらしい。さらに首を巡らすと、俺の他にも誰かが倒れているのが見えた。視界がかすむ。肘をついて身体を起こし、頭を振った。もう一度倒れている人物を見る。
 古泉だ……。なぜだ??
「おい、古泉!」
 叫びながら駆け寄ると、俺は古泉を抱き起こした。
「何やってる! 寝てる場合じゃないぞ……」
 古泉はケガをしていた。額の一部が真っ赤に染まっている。一体何が起こったというんだ?
「ご無事でしたか……」
 薄く目を開くと、開口一番古泉は言った。
「よそ見は禁物ですよ……」
 もしかして、助けてくれたのか……。
「こんな場所でうろうろされては困ります。もしあなたがケガでもされたら、涼宮さんに合わす顔がありません。それに、僕は副団長の座を辞さなければならなくなるかもしれません。実を言うと、僕はわりと今の肩書きを気に入っているんです。まだまだ手放したくありませんので……」
 ケガをしているというのによく喋るやつだ。それだけ喋れれば死ぬことはないだろう。
「もしかして、心配してくれてます? カラオケ大会で十八番を一晩中披露して、次の日家族が目覚めてみると亡くなっていたという老人の例もあります。もちろん、僕はまだまだこの世に未練がありますので往生するようなことはありませんが、死ぬ直前のコンディションなんて医者でもない限り、解らないものです」
 それだけ屁理屈が言えれば十分だ。とっとと起きろ。
「人使いが荒いのは涼……」
 古泉は俺の後ろを見上げると、険しい顔つきになった。
「……そうですね、三文芝居はここまでです。あなたは安全な場所に避難していてください」
 古泉は起きあがると、赤い玉になって飛び上がった。振り返ると、俺の後ろには巨人が迫っていた。
「早く行ってください。正直に言うと、邪魔なんです」
 言うようになったなあ。しかし俺はこの先の倉庫に用があるんだよ。
「……一体何をする気…………くっ! さっきより早くなってる……! 井戸端会議はおしまいです。そろそろ本気を出さないといけないようです!」
 古泉は巨人の顔めがけて飛んでいった。気のせいか、速度が遅くなってるような気がする。ケガのせいなのか。しかし、俺にはどうすることもできない。赤玉になることができれば神風でも何でもなってやるんだが。
 古泉は巨人の平手打ちを避けて、その小指を切断した。
 今がチャンスだ。

.. 2010年03月28日 01:00   No.678002
++ もりぞー (長門有希)…225回       
 待ってろ。ハルヒをどうにかすればおまえも助かるんだろ? それまで耐えてくれ。
 牛追い祭りの牛に追われてもここまで必死にならないんじゃないかと思うくらい懸命に俺は走った。長門と朝比奈さんはきっとどこかにいる。しかし今は俺が何とかする番だ。見てろハルヒ。雑用係の底力というものをみせてやる!
 巨人の股の下を前回り受け身約四回分でくぐり、俺は倉庫の扉に取り付いた。立て付けが悪いのか、引き戸がなかなかスライドしない。ちくしょう! なんでKURE5-56差しとかないんだ!
 間抜けなポーズでガチャガチャやってると、どこからか聞いたことのない妙な音楽が聞こえてきた。

 いかしーたーあの娘はエイリアンっ(エイリアンっ)♪

 なんだこの趣味の悪い曲は……。音のする方を見た。昔父親にEJ……いやEKだったかな……それともTKか? いやそれはテツヤコムロだ。ああ思い出した、ETだ。ETという古い洋画を見せられたんだが、作品の中に宇宙人に遭遇した少年が持っていたピッツァを落とすシーンがあった。俺が今届けられたばかりのアオキ○ズピザを持ってたら、間違いなく同じリアクションをとるね。
 視線の先に、ベタベタな円盤形の宇宙船が浮かんでいた。ゆっくりと地上に向けて降下している。やたらめったらでかい。右翼みたいに変な音楽を流しながらわずかに回転しているようだ。
 そして唖然としている俺の目の前で不思議な光景が繰り広げられた。UFO――つまり未確認飛行物体を迎えるように地上の巨人たちが輪を作り出した。
 サードインパクトでも起こすのか? ここで起こす気かっ? 逃げちゃだめだ!
 赤玉軍団も空中に浮かんだ状態で停止している。いったい何が起こるんだ。しかし、マジでUFOが出てくるとは思わなかった。情報統合思念ryはつぼを心得ているらしい。
 円盤はグラウンド中央のクレーター部分にぴったり収まる感じで着陸した。巨人たちは手をつないで宇宙船を囲んでいる。
 陽光に輝くシルバーボディの一部に丸い空洞ができた。その中に見覚えのあるシルエットが浮かぶ。まさか……。
 空洞の前に前時代的なタラップが降りて、シルエットの人物が姿を現した。
 ハルヒ…………
 信じられないことに、それは涼宮ハルヒだった。見まごうことない、本物だ。
「今からみなさんに……ちょっと……」
 グレイタイプの宇宙人みたく全身銀色のスーツを着たハルヒは登場するなりそう宣言した。
「……戦いをしてもらいまあす!」
 何言ってんのかさっぱりわかんねぇ~。矢追純一氏もビックリだ!
「あたしはこの中の最上階に捕らえられてるの。だから、一生懸命助け出してちょうだい! 何から助けだすのかって? それは……」
 ハルヒが右手をかざすと、空中にホログラムが浮かび上がった。
「この二人よ!」
 それは朝比奈さんと長門だった……。
「あたしはこの二人の宇宙人に捕らえられてるの。とぉ~ても悪いやつらなのよ。あんたたちが助けてくれなきゃあたしはこの二人にいいように陵辱(りょうじょく)されることが決定されてるわっ」
 自分で言うなよ。

.. 2010年03月28日 01:06   No.678003
++ もりぞー (長門有希)…226回       
「制限時間は……そうね、午前零時までとしましょう。シンデレラみたいでしょ? 二人の宇宙人の配下には四天王がいて、彼らが各階を守っているわ。次の階に上るには四天王が持ってるカギを手に入れて、階段に続く扉を開けないといけないの。四天王たちはそれぞれ特殊な能力を持っていて、各階にはその力が反映された空間が展開されているわ。能力もみんな違うから、きっと倒すのは大変だと思う。あたしもホントはあんたより古泉くんに助けてもらいたいけど、古泉くんはおっきな宇宙人の相手をしてもらわないといけないから無理なの。あんたの初期装備は野球大会の時に使った金属バットよ。その倉庫の中に入ってるから忘れずに持ってくるのよ!」
 無茶ぶりもいいところだ。それよりハルヒ、おまえの立ち位置はいったいどこだ?
「さあ、あたしは今から閉じこめられることになるから、ちゃんと助け出してよね。まあ~あんたの力じゃあ無理だと思うから、最終的には古泉くんが来ることになると思うけど……」
 ハルヒがUFOの中に消えると、それを合図に巨人たちが動き出した。もたもたしている時間はないな。
 俺は倉庫の扉を渾身の力を込めて開け、金属バットを探した。確か野球の試合の後に上ヶ原パイレーツの一人に譲ったはずだが、ボコボコに凹んだバットはなぜか石灰の横にあった。まあここはハルヒが創造した世界なわけだし、何でもありっつうことだ。
 金属バットをE――装備すると、俺は倉庫を飛び出した。グラウンド中央のUFOに向かって走る。
 目の前に巨人が立ちはだかった。右手を大きく振り上げる。やばい!
 そのとき、すべての赤玉たちがこちらに向かって飛んできた。そして巨人の右手を一瞬にして八つ裂きにすると、俺を守るように円陣を組んだ。赤玉の一つが俺と並走するように顔の横に迫ってきた。
「ここは僕たちが引き受けました。なんとしても涼宮さんを止めてください。それがあの人の……涼宮さんの願いのはずです」
 古泉……。
「あの人と、この世界を救えるのはあなただけです。あの円盤状の物体までは僕たちが命がけでサポートします。あのタラップから中へ入ってください!」
 言われなくたってやってやらぁ。やってやるぜ!
 猛然とダッシュする。こんなことなら運動部にでも入っとけばよかった。脇腹が痛いぜ。
 右腕を落とされた巨人は、踏みつぶそうと今度は足を持ち上げた。赤玉部隊が突撃する。しかし右手から巨人がもう一体現れたので、赤玉は二手に分かれた。一体あたりの数が少なくなった分、単純に攻撃力が半減している。
 立ち止まっていたら後ろからもやってきた。巨人は続々と俺たちの方に集結している。なんだかまずいフンイキだ。アンブレラ社製の妙なウィルスが蔓延した町みたいな状態になってきたぞ。このままだと俺のバットの出番が回ってきそうだ。
 古泉、俺は行くぞ!
「待ってください! 危険です」
 このままここにいてもじり貧だろうが。俺は行くからな。
 巨人は古泉たちに任せて俺は走り出した。今更だがバットを持ってきたことを後悔した。重い……。ほっぽり投げたくなる。
 しかし中へ入ったら火星人みたいなのがウジャウジャいるかもしれないし、ハルヒがわざわざもってこいって言ってんだからたぶん必要なんだろう。肉弾戦は好んでしたいとは思わないが、世界の命運がかかってるんだからしょうがない。何が出てこようが全盛期のゴジラ松井のように場外まで飛ばしまくってやる。
 タラップを二段飛ばしで上ろうと思ったが無理だったので、やむなく一段飛ばしで駆け上がった。

.. 2010年03月28日 01:11   No.678004
++ もりぞー (長門有希)…227回       
 入口で立ち止まり、振り返ると、巨人と赤玉の壮絶なバトルが繰り広げられていた。
 スマン、古泉。新川さんも、もう少し堪えてください。
 UFOの中は真っ暗だった。外からの光でかろうじて周囲の状態が判別できる。壁や床は近未来チックな鉄製(宇宙人の船だから、鉄じゃないかもしれないが)だった。テレビでよく見る宇宙船の内部そのものだ。一歩足を踏み出すと、後ろで扉が閉まる音がした。周囲が闇に包まれる。閉じこめられたのか?
 次の瞬間、目がくらむほどに明るくなった。目の前に木製の廊下が真っ直ぐに続いている。どこだここは!? さっきと風景が違うぞ。
 廊下の右側には庭園が広がり、荒削りの岩で造られた池にはコイが泳いでいるのが見える。左側はフスマと柱の連続だ。俺は宇宙船の中に入ったはずだが……。
 まてよ? 確かハルヒがさっき言ってたな。各階が何とかって。そうだ、思い出したぞ。
『各階には四天王がいて、階ごとにその力が反映された空間が展開されているわ』
 つまり、その四天王の影響で宇宙船内部の構造が変化してるってことか。しかし宇宙人のくせに純日本家屋と庭園を構成するとは、なかなか粋なやつだな。一応、靴は脱いでおこう。
 とりあえず手近なフスマを開けてみるが、中は殺風景な畳の部屋で、二十畳はありそうな空間に家具が一切なかった。俺は律儀にフスマを閉め、次の部屋の中も覗いた。ここも同じ造りで、グレイ型宇宙人一体すらいなかった。
 一つ一つの部屋を覗いて回っていたら面倒なので、俺は廊下のどん詰まりまで行ってみようと思った。足元でギッギッと床板が鳴る音を聞きながら中程まで進むと、後ろでフスマが開く音がした。振り返ると、信じられないことに、さっき誰もいなかったはずの部屋から黒ずくめの男が現れた。真っ黒いスーツを着ていて、ネクタイまで黒だ。葬式にでも行くのか? 黒いレイバンのサングラスをかけていて、どこを見ているのか解らない。
 男は緩慢な動きで俺の方に歩いてくる。驚いたことに、男の後ろからはさらに違う黒ずくめが現れた。黒ずくめの男が二人。するとその後ろからもまた一人……。三人とも同じ顔で同じ格好だ。クローンか? クローン戦争なのか? とか言ってる間に黒ずくめが五人になっていた。いやまてよ、まだまだ増殖中だ。六人、七人、八人…………終わりが見えない……。運動会の行進みたいにゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
 どう見ても味方には見えないが、もしかしたら『機関』のエージェントかもしれないので、俺はできるだけフレンドリーに話しかけてみることにした。
 もしかして新川さんの部下だったりします? まかり間違ってエージェント・スミスじゃあないですおね?
 黒ずくめの男の行進は止まらない。サイボーグみたいに近づいてくる。懐に手を入れた。なんかやばいぞ!
 俺は何事もなかったかのように回れ右をして、そそくさと廊下を歩いた。ちらりと後ろを伺うと、黒ずくめの男が走り出すところだった。マジでやばいぞ!
 なんか今日は走ってばっかだな。早いとこ四天王とやらを見つけないと。先で廊下が左に折れている。このまま行くと庭に落ちちまう。
 俺は群馬の豆腐屋さんのごとく滑りながら直角カーブをクリアした。このスピードならレッドサンズもついてこれまい。しかし曲がったはいいが、左側のフスマが次々と開き、エージェント・スミッス(勝手にそう呼ばせてもらうぜ)がところてんのように排出されていた。馬耳東風いや違う万事休す!
 ここは救世主NEOにならってルールを無視させてもらう。これを見ている良い子は真似しちゃダメだぜ。

.. 2010年03月28日 01:18   No.678005
++ もりぞー (長門有希)…228回       
 俺は靴下のまま庭に降り立った。靴をはきたいが時間がない。右手に金属バット、左手には靴。完全に不審者だ。正常な思考の持ち主がこの光景を見たら、暴漢がセキュリティーに追われている、の図だな。
 とりあえず靴はうっちゃって、俺は両手でバットのグリップを握りしめた。さあ、どっからでもかかってきなさ~い。
 黒ずくめの男――エージェント・スミッスは百八十度の視界から襲いかかってきた。いくら百戦錬磨(谷口にたいしては、だが)の俺でも、この人数は相手できない。いったい何人いるんだ! さっきのセリフ、取り消し。一人ずつでお願いしま~す。
 あっという間にバットを取り上げられた。長門がかけてくれたホーミング機能はキャンセルされているらしい。それとも全くの別物なのかもしれない。
 取り押さえられ、頭を地面に押さえつけられている俺は、まったくの容疑者の様相を呈していた。情けないがこれが俺の実力だ。生まれてスミマセン。
 振りほどこうとするが、すごい力で押さえつけてくる。しかも三人がかりで。MK5! まぢでくたばる五秒前っ! 考えろ、俺。どうする。何か打開策があるはずだ。
「観念するんだな、古泉一樹」
 エージェント・スミッスが初めて言葉を口にした。それとも俺からは見えないところに別のやつがいるのか? しかし俺は古泉じゃない。
「古泉一樹の画像データは入手している。貴様に間違いない」
 何言ってんだ、こいつ。……まてよ。これは喜んでいいことなのか? 俺も少しはイケメソになったってことなのか?
「立て、古泉一樹。貴様を連行する」
 だから古泉じゃあないって言ってるだろう。
「黙っていろ、古泉一樹。口をふさがれたいか」
 なんだかムカムカしてきた。俺はおとなしく立ち上がるふりをして、隙をうかがった。このまま連れて行かれるわけにはいかない。俺をここまで送ってくれた新川さんや、古泉のためにも。
 そうだ。名案を思いついたぞ。こいつらは情報統合何とかの操り人形だよな。だとしたら、きっと地球のろくでもない(しかも相当古い)テレビ番組はそれほど詳しくないはずだ。デカルチャーな驚きを提供できるに違いない。よし、いっちょうやってみるか!
 俺は振り返ると、やつらの後ろを凝視しながら言ってやった。
「シムラ後ろ! シムラ後ろ!」
 迫真の演技だったと思う! エージェント・スミッスとその仲間たちは俺の視線の先に釘宮いや釘付けになった。チヤ~ンスぅ。
 渾身の力を込め、やつらの腕を振りほどくと……、
「俺の名前は……」
 通信教育で習得したテツザンコーをお見舞いしてやった。
「キョンだ!!」
 エージェント・スミッスはコイの泳いでいる池に落ちた。他のやつらはそれを見守っている。よし、今だ!
 かたわらに落ちていたバットを拾うと、俺は猛然とダッシュした。靴はこの際だからあきらめるしかない。身体に力がみなぎっていた。このとき採尿されたら薬物反応が出たかもしれない。オリンピックだったらドーピングで失格だ。
 廊下の角を曲がると、やつらに見えないように手近なフスマを開けて中に入った。音がしないようにそっと、しかし手早く閉める。この部屋にも家具はない。だが奥の壁に収納ダンスがあった。ちょうどいいので中に隠れてやつらをやり過ごすとしよう。
 エージェントたちが廊下を慌ただしく移動していく音が聞こえる。バカめ。クリ○ン以外の地球人だって、ザコばかりじゃないのさ。
 音がしなくなった。もういいだろう。しかし……

.. 2010年03月28日 01:25   No.678006
++ もりぞー (長門有希)…229回       
 収納ダンスの扉を内側から開けようとしたその時だ。扉の合わせ目の隙間に影がおりた。そして俺は見てはならない物を見てしまった。合わせ目の隙間からこちらを覗き込む目があった。
「ここかな、かな?」
 ちくしょう……見つかったか。俺は勢いよく扉を蹴飛ばした。扉はすんなりと開き、俺は外に飛び出した。そこには誰もいなかった。気のせいか? いや、そんなはずはない。確かに聞こえた。
「このオハギ、古泉一樹くんのために一生懸命つくったんだぁ。この中に一つだけ当たりがあるんだけど、解ったらあとで教えてほしいんだぁ」
 ぎょっとして声のした方を見ると、エージェントの一人が皿にオハギを載せて立っていた。サングラスをしていない。
 なんだこいつ! きしょいっ。宇宙人にもカマがいるのか。ヤックデカルチャーてなもんだ~。
 外に出ようとしたら、俺が開けるより早くフスマが開いた。黒ずくめの男たちそろい踏み。冗談なしに絶・体・絶・命! だ。
 まてよ、オハギのオカマなら勝てるかもしれない。こいつを人質にとって……。俺はオカマエージェント略してカマントを羽交い締めに…………しようと思ったがあっさり手首をひねりあげられた。
 強いっ! マジ、完敗。戦士として、そして男としての自信を失いかけていた俺に、その時天使の福音が聞こえた。
「そこまでよ!」
 廊下に立っているエージェントの一人が左側に吹っ飛んでいった。そしてフスマがこちら側に倒れ、何者かが転がり込んできた。ぴょこぴょこと動きそうなツインテールをなびかせ、風のように移動すると、カマントの手を振り払い、俺を助けてくれた。オハギが床に落ちる。
 まさか……あなたは……。
「時間がないので手短に話します。あなたを四天王のいるところまで護衛するのが私の任務です。各階に四天王がいるのはもうご存じですよね? われわれが入手した情報によると、四天王とは言っても、実は五人いるようです」
 ハルヒのやつが間違えたのか。あいつは頭がいいが抜けたところもあるからなあ。オールドメイドファッションのそのお方は俺の手を引いて廊下の方へ歩き出した。しかしカマントを含むエージェントがそれを許すはずはない。やつらも手加減なしといった感じで今までに見たことないキモい動きで襲いかかってきた。
「少々手荒なまねをします。危険なので少し後ろに下がっていてください」
 朝比奈さんにも負けない年齢不詳のロリフェイスのこの方は、そう言うとエプロンのポケットからフルコンタクトの空手家がつけてるようなグローブを取り出して拳に装着した。
「作法からは外れますが、これも任務なので」
 次の瞬間、信じられないことが起こった。顔からは想像できない鋭い動きでカマントを正拳突きで吹っ飛ばすと、軽やかなステップで敵の中心に躍り込んだ。カマントは仲間のエージェント何人かを巻き込み畳の上に撃沈した。一瞬の沈黙。そして色めき立つエージェント。エージェントはわれらがメイドさんのぐるりを取り囲むと、一斉に襲いかかった。その方は鳥のように跳躍すると、地味な色をしたヒールで相手を蹴り上げた。くるぶしまであろうかというロングスカートが舞い上がる。着地するまでに五体のエージェントが畳に沈んだ。
「紅茶が飲み頃になる頃合いまで、どうぞご鑑賞くださいませ」

.. 2010年03月28日 01:30   No.678007
++ もりぞー (長門有希)…230回       


 俺は屋敷の廊下を走っていた。となりには極上のメイド空間を提供する『機関』のおっとり系、森園生さんその人がいる。
「われわれの潜入部隊が入手した情報によると、各階の四天王の能力は次のようになっています。まず、いま私たちがいる一階――ここでは界層(かいそう)と呼ばれているようですが――、つまり第一界層は格闘界と呼ばれ、自らの髪の毛を使った武術を特殊能力とする四天王がいます。その四天王は足首まである緑色の髪を自在に操り、攻撃してくるそうです。戻ってきたわれわれのエージェントは全治一ヶ月のケガを負いました。広いおでこで頭突きもしてくるそうです。注意してください」
 鬼太郎の世界だな……。そんなやつは宇宙人以外の何者でもない。
「第二界層は電子界。われわれのエージェントは第一界層以上には潜入できませんでしたので、ここからはスパイ衛生でスキャンした情報を、ペンタゴンのスーパーコンピューターで解析したものに『機関』の情報部が推測を織り交ぜた情報となっています。そのため、実際の情報と若干の食い違いがあるものと予想されます。どうかご理解ください。この界層にはプログラムを司る四天王がいて、コンピューターによる仮想世界での戦闘が予想されます。ここでは肉体的な能力よりも、情報戦を制することに重きが置かれるようです」
 うーん。なんだかオタクが出てきそうだな。
「第三界層はミステリ界。名探偵を司る四天王との推理合戦になりそうです。ワトスン役となる助手が勝利へのカギを握りそうですね。ここの四天王の能力は未知数です」
 じっちゃんもびっくりな事が起こりそうだぜ。
「第四界層は疑似恋愛界。ナンパをすることが三度の飯の次に好きな四天王がいるようです。補足として、髪型のセットに一時間かかるようですね。これは全くの推測ですが、彼よりも早く意中の相手を落とすことがネックとなりそうです。手強そうです」
 ここだけでいい、谷口と代わらせてくれ。
「そして問題の第五界層です。本来、四天王は文字通り四人のはずですが、先ほどもお伝えしたとおり、涼宮さんの気まぐれによって一人増えています。しかしこの界層にどのような能力を持った四天王がいるのか、今のところ不明です。現在、われわれの情報部が全力を挙げて解析していますが、未だ持って不明なのです。これは私個人の推測ですが、朝比奈様か、長門様が関係しているのではと考えております……」
 森さんはそこまで喋ると足を停め、憂鬱そうに下を向いた。

キラッw(^_-)-☆ 霊夢につづく w(^_-)-☆キラッ

蛇足(二つ謝ることがあります。一つ目はUPが遅れてしまったこと。そしてもう一つはバカみたいに長くなってしまったことです。掲示板的にまずい場合は編集するので、気軽に言ってくださいませ☆コメントは自重しておきます)

.. 2010年03月28日 02:17   No.678008
++ ゴエモン&スネーク (朝倉 涼子)…88回       
長文お疲れ様です!モリゾー氏

なぜここまで長くしたかはあえて聞きませんw

森さん強いw鶴屋さんとなら最高のコンビですねw

では、霊無さんもガンバってください!

.. 2010年03月28日 04:45   No.678009
++ ゆうき (キョンの妹)…46回       

もりぞー氏ッ!!
タイトルがスレスレだぞっ(>_<)//
一瞬目が\になっちゃったじゃないかw

ある意味内容より
パロが気になりました☆

やっぱりもりぞー氏は
デカルチャーですヽ(^o^)丿

.. 2010年03月28日 09:40   No.678010
++ ユリア (朝倉 涼子)…77回       
おおおお疲れ様です!!!
すごいです!天才もりぞー氏!!
なんか超長いですね!!!
アタシだったらこんなに書けませんよ~www
やっぱスゴイ!www

結構パロつかってておもしろかったです^^
もうすぐアタシの番ですしもっと
読み込んでおかなければ!!
アタシバカなんで一回読んだぐらいじゃ
半分ぐらいしか理解できてないのでwww

では、次の霊夢も頑張ってください!!

.. 2010年03月28日 12:29   No.678011
++ ムーラ (古泉 一樹)…114回       
とりあえず、一言。
『すごすぐる!!』色んな意味でですww

まず、この長さ!歴代最高の長編ですね♪
びっくりですよ~本当に。
それでも、飽きずにパソコンに釘付けになって読んでしまいました。
やはり、もりぞー編集長様はすごいです!!

そして、パロディの多さも、緊迫した雰囲気を時々ププッと笑わせてくれる良い調味料(?)となっていますね~タイトルなんか、次のタイトルをもう指示している様な…ww

しかも、RPGの様な展開と、四天王の印象(ってか、人物像??)なんかも、上手く出来ていると思います!!キョンくんの心理描写も神級ですよ!

もう、語りつくせないほどパねぇクオリティの高さに驚愕しました!!もはや、尊敬です!!

では、お次の霊夢さんも頑張ってくださいね♪

.. 2010年03月28日 12:43   No.678012
++ 静真 (キョン)…136回       
もりぞーさん、お疲れ様でした!

これまでにないくらいの長文ですね
重ねて本当にお疲れですw

4回くらい読み直してようやく話の流れが理解できるところまできましたw
四天王が5人…最後の界層も気になるところですが、個人的に第四界層が一番気になりますww
待ちわびていた森さんも出していただいて、とてもありがたいです

では次の霊夢さんも頑張ってくださいねw

.. 2010年03月28日 14:32   No.678013


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