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リレー参加作品『破~イツワリノピーチヒメ~』作者Θもりぞ
新川さんまで古泉の赤玉部隊に召集されるとは……『機関』とやらも相当な人手不足におちいったようだな。それにしてもあのいやしい赤玉になれるのは古泉率いる少年部隊だけだと思ったが、どうやら新川さんにもその力があったらしい。もしかしたらこの事態を止めてほしいと願うハルヒの『良心』とやら、の現れなのかもしれない。 窓の向こう側では赤い玉と巨人との戦いが続いている。前にここに紛れ込んだときは灰色の世界だったと思うが、目の前に広がる光景には色が付いていて、青空の中を赤玉が乱舞している。 しかし、改めて思うが、どれが古泉でどれが新川さんなのかさぱーり解らん。が、とりあえず応援しておこう。いや応援するべきだ。ファイト~。 俺はまず文芸部、いやSOS団部室のある旧館部室棟まで全速力……とまではいかないが、フォレストガンプ並に駆け抜けた。 ひと気のない校舎に俺の靴音だけがこだまする。長門、頼むからいてくれよ! 階段を一段飛ばしで駈け上がり、部室の前に着くと、俺はいつものハルヒを見習って勢いよく扉をはね飛ばした。 狭い部室内が一望のもとにある。しかしそこに長門の姿はなかった。いつもの窓際の席は空席だ。眼鏡をかけたハニカミがちな文芸部員も当然だがいない。 壁に跳ね返った扉の間の抜けた音だけが空しく反響していた。 長門がいないとなると……次は朝比奈さんだ! いないとは思いつつも一縷(いちる)の望みを持って二年の教室に向かう。しかし朝比奈さんの組以外の教室も覗いて回ったが、人っ子一人いなかった。ここは閉鎖空間だから当然といえば当然だが、やっぱり気落ちする。あのすばらしい笑顔をもう一度見られるのなら、日暮れまでに死刑台めざして駈け続けてみせようじゃないか。 長門も朝比奈さんもいないのなら、俺はいったいどうすればいいんだ。本当にバットでも持って敵地へおもむくか? しかし出陣するとしても敵本陣がない。まさかあの巨人にバット一本で向かっていけるほど俺の偏差値は低くないつもりだ。じゃあどうする? どうすればいい? そのとき俺に天恵とも言える考えが飛来した。そうか……七夕の日、中学生のハルヒと夜の校庭に忍び込んで宇宙人にメッセージを送った……。石灰(せっかい)でおかしな文字を描かされたじゃないか。あの方法で情報統合思念ryを呼び寄せることはできないか? 昇降口から外に出ると、目の前に巨人の足が見えた。見上げると赤い玉と格闘中だ。悪いとは思うが今は巻き込まれるわけにはいかない。俺には重要な使命があるんだ。 クレーターを避けながらグラウンドを横切って、石灰などの道具がある倉庫に向かった。巨人(神人とかいったか?)はグラウンドの縦横にいて、それぞれが赤い玉と戦っている。こいつらを見てると物の大きさの基準が狂いそうだ。自分がノミか何かに思えてくる。 「急がば回れ」と最初に使いだした偉人は一体誰だろう? 俺の目の前に大股を広げた巨人が立ちふさがった。言葉通り迂回するべきなのだろうが、なんせスケールが違うもので、安全を確保するためには大幅なロスタイムを覚悟しなければならない。 股の下をくぐっていけば、倉庫まで直線距離で百メートルもないだろう。 俺はまだ死にたくない。ここは偉大なる先人の言うとおり迂回していくべきだ。しかし、古泉だって危険を冒して巨人と戦っている。それを思うと自分可愛さで妥協ばかりしていられない。よし、男の見せ所だ。
.. 2010年03月28日 01:42 No.678001
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