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長門がこっちを見て数秒。長門はまた手元の本に視線を戻し、文芸部室に、いやSOS団室に沈黙が生じる。この静寂な空気。俺は嫌いじゃない。いいや、逆に心地よくさえある。が、しかし、そうも言ってられない。 「なあ、お前は表の世界の長門有希なんだな」 「そう」 「じゃあ、世界の修復は終わったわけだ」 「終わった」 長門は相変わらずのそっけない返事で、一連の事件の終結を教えてくれた。 「お前にはいつもすまないな」 「そうでもない。今の安寧が続けば、私はそれで良い」 長門が珍しく、いわゆる無駄と言われる言葉を紡いだ。こいつ自身にも色々あったんだろうか。だが、これ以上聞く必要はない。そう、これ以上聞くのならばそれは、俺の事件に対する好奇心とやらだ。 「なあ、結局この一連の事件は何だったんだ?」 「知りたい?」 長門が珍しく俺の質問に素直に答えなかった。けれど、もう俺の意志は固まっている。 「そもそもの原因は涼宮ハルヒ」 そんなこと分かっていた。それに長門よ。お前までハルヒをそんな風に言わないでくれ。 「まず、この事件の発端である『白い影』。あれは誰でもない。あれはただあなたを裏の世界へ連行するためのガイドのようなもの」 どうやら長門は、俺に分かりやすいよう順序だてて説明してくれているようだ。と言うか、そもそも裏の世界って何だ。 「上手く言語化できない。けれど敢えて言語化するならば、表の世界の精神のそぎ落としが作った世界」
裏世界とは、いわば『精神世界』。そこには人格のみが存在し、その人格は表の世界と連動しあらゆる挙措を制約させられている。そう、あくまで規則を守らされているだけで、自ら進んで守っているわけではない。願望に貴賎貧富の差はない。あらゆる人があらゆる願望を持ち、その願望が成就されない時だって多々ある。と言うか、願望なんて叶わない方が多い。裏の世界ではもちろん、表の世界でも自由にやれないことの方が圧倒的に多い。表の世界の人間はまだしも、裏の世界の人格は耐えられたもんじゃ、ない。
「けれど所詮は裏の『世界』。表の『世界』とは異世界関係にあるはずの世界が繋がることが、あるはずが無かった。しかし」 「そこでハルヒの力なんだな」 憶測に同意を求める。 「そう。今回の件では涼宮ハルヒの世界改変の力が暴走したものだと、思われる」 そして、と長門は付け足す。 「幾たびに亘る世界改変がこの世界に負担をかけていたのだと推測できる。今回の事件はちょうど世界の負担が許容量を超え、突発的なバグが発生したと思われる」 なんとも今日は長門の長セリフをよく聞く日だ。ともあれ、俺は今度こそ聞くべき事が無くなって…………、いなかった。思えば、裏の世界へ行ったときも表の世界でも、俺なんかは見なかったし、長門にいたっても暴走しているようには見えなかった。 「私やあなたは例外。あなたや私は何も望んでいないから、その願望が暴走しなかっただけ」
.. 2010年01月31日 07:35 No.616001
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