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「リレー参加作品『長門有希の修復』」
考えていても仕方がない。 俺は勇気を振り絞り、聞いてみることにした。 ただの気まぐれだといいのだが……。 「長門」 「……なに?」 前を歩く、ルーズソックスを穿いた宇宙人に俺は問う。 その宇宙人は踵(きびす)を返して振り返り、俺と目をあわせる。 長門の目はまっすぐで、本物の長門にしか思えなかった。 「……お前は、偽物なのか? ここは裏世界のままなのか?」 俺のその質問を聞いても、ピクリともしない。 隠し事をしているようではないようだ。 ……いや、長門ならたとえ隠し事をしていても、何を言われてもピクリはしないだろうな。 「……違う。貴方の言う、日常の世界。ただ、私は長門有希であり、長門有希ではない」 悪い。意味不明だ。長門が長門ではない? 凡人には理解できんセリフだ。……多分、未来人でも超能力者でも分からんだろう。 そう思っていると、長門は俺の心の中を読み取ったかのように説明してくれた。 「私は、ここの人間で言う<裏世界>の長門有希。ここの世界にいた長門有希は、今は裏世界にいる。理由は、裏世界の修復。裏にいた私、長門有希と、この世界にいた表の長門有希は和解し、表の長門有希にしかできない修復を私は頼んだ。その間、私、裏の長門有希がここの世界にいる」 久々に聞いた、長門の長いセリフ。分かったような分からんような……。 俺はそのセリフの意味を考えながら窓の外を見た。 そこにはさっきまでとは違う、いつも俺が見ている校舎の中庭が見える。 生徒だってちらほら見える。あれは谷口か。 「……とにかくもうここは、いつもの世界でいいんだな?」 一応確認をとると、自称裏の長門は、 「そう。貴方がこの校舎に入った瞬間から、表の世界に来られた。ここはもう、貴方達にとってはいつもの世界」 と言って、頷いた。 その頷きは俺にしか分からない角度で、足以外はどう見ても俺の知ってる表の長門だった。 似ているな、とだけ思った。 「……もう、説明はいい?」 しばしの沈黙を、裏長門は疑問系のセリフでやぶった。 俺は「あ、ああ」とだけ言うと、長門は再び文芸部室へ向かった。 俺もそのあとを慌ただしく追った。
(ユリアに続く)
.. 2010年01月20日 19:33 No.610001
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