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「リレー小説参加作品『修正予備』」作者∴千歳
朝比奈さん(大)のウィンクに虚を突かれ立ちつくすこと三秒。慌てて朝比奈さん(大)の後を追うべく玄関のドアを開け放つ。が、すでに朝比奈さん(大)は居なかった。代わりにあるのは朝比奈さん(大)という大輪が去り、一気に寂しくなった空間だけだ。 虚しい。この上なく虚しくて帰りたくなる。けれど俺には他にやる事がある。その用事をこなさなければ、家にも帰れなくなってしまう。 「ふわぁ」 この寝起きミルキーボイスの主、自称:時をかける少女に今も現在進行形で続く一連の事件の発端――つまり俺とハルヒがあの忌々しい幽霊もどきに捕えられてしまう前まで時間遡行…、いや戻るわけじゃないからなんだ…まあどうでも良い。要は朝比奈さんのPTなんとかを使って、俺を未来へ送ってほしいのだ。 その肝心要の朝比奈さんはというと、美少女に似つかわしい寝起きの体をさらしている。その傍らには古泉の影。どうやら朝比奈さん(小)は記憶が混乱しているらしい。俺のことや知らなくても良い古泉のことは分るのだが、一連の事件の概要が掴めていないらしい。故に古泉が説明しているが、やはり古泉の説明ほど分かりにくいモノは無いらしく、朝比奈さん(小)は首を傾げている。加えて寝起きだ。理解出来るわけがない。 しかし、寝起きの朝比奈さんも絶品だが、いつも見ているはずの困り顔の朝比奈さんも今までの殺伐としていた心に潤いを与えてくれて最高だ。 そんな朝比奈さん(小)を見ながら、先ほど颯爽と降板した朝比奈さん(大)の発言について考える。 大まかに要約すると、ハルヒが幽霊を撮るなど素っ頓狂な話をする前の日に戻り、そもそもの原因を取り除け。あとはその子――朝比奈さん(小)がなんとか未来へ送ってくれるから、との事だ。 改めて考えると朝比奈さん(大)は他人任せだと思う。まあ俺にしかやれん役割なのだから俺に頼んでいるのだろうが。 まあ、やるべき事は明白だ。だからまずは朝比奈さんにあの事件の前日まで送ってもらう。そこからどう動けば良いのかは、その時考えるとしよう。今考えてもどうせ原因が思い出せないのが関の山だ。 俺は準備万端だ。そして朝比奈さんはというと、やっと古泉の説明を理解できたらしく顔がぱあっと明るくなった。やはり、朝比奈さんも、そしてハルヒも笑っているのが一番である。それにしても古泉の説明を理解したとはさすが上級生である。
万全を期して未来への時間旅行は行われた。長門と古泉が見守り、そして朝比奈さんが俺の肩に手を置き目をつぶるよう指示する。 ちなみに、今回の時間旅行は朝比奈さん(小)の同伴はない。長門の進言でそう決まった。曰く、俺以外はここの時間平面上の正規の存在であるので、あまり別の時間平面に行くのは良くないようだ。 「では少し我慢してくださいね?」 朝比奈さんのハニーボイスとは裏腹に、気味の悪い浮遊感と地面の感覚が消えた喪失感を覚える。何度やってもなれないと思う。
.. 2009年12月17日 06:05 No.583001
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