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「リレー小説参加作品『They have gone』」作者★千歳
「なっ!?」 それはどういう事だ? 反射的に聞いていた。声のボリュームに古泉はいちゃもんをつけるが、ハルヒは朝比奈さんのセッティングに夢中で気づいていない。 「言葉通りの意味ですよ。涼宮さんに涼宮さん自身の力を目覚めさせようとする輩(やから)がいるという、僕の憶測(おくそく)です」 普段ならばそんな三分で考えたような憶測は笑い飛ばせるのだが、今はそうも言ってられない。げんに本物の幽霊が出てしまったのだ、ハルヒは望んでないっていうのに。けれど古泉は言っていた。 ――ハルヒが自分の力を自覚してしまったら俺達の住む世界の物理法則や常識はねじ曲がってしまうと。 そいつが誰であろうと普通の奴ならばこの世界をぐちゃぐちゃにしようなんて思わないだろう。 俺のボヤキを聞き終えると古泉は自嘲気味(じちょうぎみ)に言った。 「普通の、この世界の変革を望まない人間ならばそう考えるでしょうね。ですがあなたの理論は逆に言えば――普通でない人間ならばこの世界の変革を望んでいる者もいるかもしれないという事です」 そして古泉は―― 「ひとつ喩(たと)え話をしましょう」 なんて言ってきた。はっきり言う。いやだね。お前の喩えは分りづらいんだ。 しかし古泉は俺の意見なんか聞きもしないで下手な喩えを披露(ひろう)する。 「例えばの話です。悪い魔法使いがいたとしましょう」 それは誰の事だ。 「その悪い魔法使いは世界を滅ぼす魔法を使いたい」 また大きく出やがったな。 「さてここで問題です。その悪い魔法使いが世界を滅ぼす魔法を使う一番手っ取り早い方法はなんでしょうか」 流石に俺でも分かる。ハルヒは望まずしてか思うだけで世界を描きかえる力なんてのを持っちまった。つまり。 「ハルヒに思わせればいいわけだ。その魔法使いは世界を滅ぼす魔法を使えると」 その通りです、と言った古泉から少し離れ、俺は僅(わず)かな時間を物思いに使ってみる。 ハルヒの事だ。今思い出しても死にたくなるような閉鎖空間の後ずっとほったらかしにしてきた問題だ。ひょっとしたら東大入試より難しいかもしれん問題――自分にとってハルヒはどういう存在なのか。考えるだけで頭が知恵熱(ちえねつ)かなにかで沸騰(ふっとう)する。 と、俺を呼ぶ声が聞こえた。 「ちょっとキョン、こっちに来て写真撮りなさい」 俺は今までの思考を中断して、了解の返事をする。どーせ解けるはずのない問題といつまでも向き合っているなら、ハルヒのセッティングした朝比奈さんを見る方が何倍も楽しいというものだ。そして俺は写真を撮ろうとカメラをいじくるのだが、……何故だ。電源がつかない。 「おいハルヒ。カメラの調子がおかしいぞ」 ハルヒは文句を口にしながらも、つかつかと歩んでくる。 その時だ。ハルヒの背後に白い影が現れた。一瞬目を見張り、そして自らの目を疑ったがやはり白い影は確かに存在し、今ハルヒを包み込もうとしている。ハルヒは俺の発する雰囲気が尋常でないと感じたのか、白い影におびえたのか歩みを止めてしまった。 しかし白い影は今もハルヒを包み込もうとしている。それでどうしちゃったんだろうね俺は。長門にでも任せとけば良いものを。 「あぶないっ!」 何が危ないのかさえ分ってないっていうのに、俺はハルヒを助けようと走っちまった。 だが俺はハルヒを助けられなかった。俺もハルヒと一緒に飲み込まれちまったら、元も子もないのに。白い影は容赦なく俺たちを包み込んだ。
(〜咲夜に続く〜)
.. 2009年09月26日 07:37 No.500001
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