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「リレー参加作品:日常→非日常」作者☆もりぞー
「遅かったじゃないですか」 古泉がいつものニヤケスマイルで迎えてくれた。さっきの満面の笑みはなんだったんだ。それとチェスをしているのは、実は僕は頭がいいんですという誰かに対しての振りなのか? 誰に対してアピールしてるのか知らんが、おまえの場合に限っては、嫌みにしか見えんぞ。 それに俺が遅いんじゃない。おまえが早いだけだ。 「僕はここのみなさんと顔を合わせることが唯一の楽しみですので。もちろん、あなたともです」 歯の浮くようなセリフを平気で言いやがる。こいつの彼女になるようなやつは、きっと少女漫画の読みすぎで気取ったセリフしか受け付けない潔癖性(けっぺきしょう)の女に違いない。 カブトガニがエサを捕食しているのを裏側から見た気分で部室の中央に目を向けると、救世主を見るような目つきで俺のことを見ている朝比奈さんの視線とぶつかった。可愛いです、相変わらず。ハルヒじゃなくてもイタズラしたくなります、正直。 「何よあんた、なんか文句あるの?」 いつも通り傍若無人(ぼうじゃくぶじん)なハルヒは、朝比奈さんの胸元に手を差し入れながら睨んできやがる。うらやましすぎて見境なくなりそうだ。秋葉原あたりのメイド喫茶に入ったとしても、ここまで主人の心をワシづかみにするメイドはいないと思うね。 「前々から思ってたんだけど……」 ハルヒはそう断りを入れてから、朝比奈さんの胸元を見入るように目を伏せた。 「そうやって黙ってる時って、何考えてんの?」 視線を上げ、いかがわしい物を見るような目つきで見つめてくる。大きなお世話だと言いたいところだが、裁判員制度(さいばんいんせいど)が確立したならば、「激しく同意!」と言う声がいたるところから聞こえてきそうだ。 「気をつけないとあんた、どっかの映画みたく、チカンと間違われて後ろに手が回るわよ」 マジでゲロマジ、声をBIGにして言いたい! 大きなお世話だ。 「ほら、みくるちゃんももっと胸元アピールして!」 「す……涼宮さん……ななな何をぉ」 「こんな時のために前ホックにしておいたのよ! ほら、マジックみたいでしょ? これなんだっ!?」 「そ、それはぁ〜」 ハルヒの手にはチェック柄の可愛らしいカップが二つ付いた、チャンピオンベルトの親戚(しんせき)のような物が握られていた。婦人服売り場でよく見かける、そう、アレだ。 「ほら、もっと胸を寄せて! 谷間を作るのよ!」 朝比奈さんは生まれたての子馬のように内股でがくがくと脚を震わせながらも、ハルヒの要求するポーズを健気に実践(じっせん)しようとしている。 「キョン、ボサッとしてないで、これでみくるちゃんを撮るのよ!」 弧(こ)を描きながらデジカメが宙を舞った。落とさないように慌ててキャッチすると、俺はハルヒの命令通りに谷間を強調した朝比奈さんを撮影した。 「いーい? みくるちゃん。あくまでも、下から見上げる形で……そう! もっと、物欲しそうにっ!」 いったい何の撮影会を開こうとしてんだ。どこに乳ほり出して主人に懇願するメイドがいる? エロゲーのやりすぎだ。 顔を赤らめ恥ずかしそうにカメラ目線を送る朝比奈さんは、毎日うんざりするような登山をさせられ、やりたくもないのにハルヒに面倒事ばかり押しつけられる俺のために、神様が北高に送り込んだMy Angel! に違いない。 朝比奈みくる降臨っ! その時、今まで部室の付属品のように窓辺で読書をしていた長門が、本日初であろうセリフを口にした。
(にょろ〜んにつづくv)
.. 2009年09月10日 04:53 No.473001
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