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九州電力は、川内原発2号機(鹿児島県)を1号機に続いて再稼働させた。住民の不安や疑問に耳をふさいで、同じタイプの原発の再稼働を急ぐ−。そんなやり方を定着させるべきではない。 先例に沿うように粛々と、ということなのか。 原子力規制委員会の田中俊一委員長は先月、1号機が営業運転に入るのを前に「ひな型ができたので、審査はスムーズに進む」と話していた。 多くの住民の安全を“ひな型”で判断されてはたまらない。 8月、その1号機が再稼働して、約2年に及ぶ日本の原発ゼロに終止符が打たれたときと、周囲の状況は変わっていない。 規制委は安全の保証はしていない。しかし、紳士協定に基づいて再稼働に同意を与える鹿児島県などは、規制委によって安全性の確保が“確認”されていると言う。 新任の経済産業相は「万が一事故が起きれば、政府の責任は十二分にある」と話した。しかし、どのように責任を取るかは依然、定かでない。 相変わらずの無責任体制は、もう事故など起きないと、高をくくっているようにも見える。 福島の教訓は、いったいどこへ消えたのか。 説明不足も同様だ。九電は、多数の住民を対象とする説明会を拒む姿勢を崩さない。 鹿児島県は川内原発の必要性や安全性に関する説明会を来月末に鹿児島市内で開き、原発から30キロ圏の9市町対象の避難訓練を年末に開催するが、順序は逆だ。 桜島や阿蘇山などの火山活動が活発になり、住民の不安は募る。 新たな不安材料も浮上した。 九電は運転開始時から約30年使っている2号機の蒸気発生器の交換を、3年後に先送りした。 発電用タービンを回す蒸気をつくりだす重要な機器で、老朽化した配管が破れると、無論、重大事故につながる恐れがある。 地元紙が4月に県内で実施した世論調査では、再稼働に反対、計画に沿った避難は困難との回答が、いずれも約6割に上っている。 原発とその周辺環境は、それぞれ違う。周りの声に耳をふさいで、それを“ひな型”でくくるのは、乱暴だし、危険過ぎないか。 住民の疑問の中に、安全を維持するヒントがある。 多くの不安を置き去りにしたままで、原発再稼働をベルトコンベヤーに乗せてはならない。 (10月16日社説より)
.. 2015年10月19日 14:47 No.971001
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