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■--次々噴火する火山
++ 島村英紀 (大学院生)…124回          

 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
 |  ―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く その4(5回連載)
 |  「沈静化に向かうとは言い切れない箱根山」
 └────  (地震学者)

◎島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
【島村英紀・最近の雑誌やテレビ・ラジオから】より
インターネット雑誌『ダイヤモンドオンライン』 2015年6月17日
[「次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く」にコメントを掲載]より転載

次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く
           ダイヤモンド・オンライン編集部 2015年6月17日

 死者・行方不明者が63人にも上った昨年9月の御嶽山噴火。今年に入ってからも、箱根山や口永良部島、浅間山など、火山活動が活発化したり、噴火に至るケースが相次いでいる。この現状を専門家はどう見ているのだろうか。
        (聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部?津本朋子)

――箱根山は4月下旬に火山性地震が増加し、噴火警戒レベルが2に設定されましたが現在、地震の数が減ってきています。これも「地震の数が減ったから火山活動が沈静化してきた」と一概には言えないのでしょうか?

  御嶽山のケースのように、火山性地震がいったん減ったのに、噴火に至ったケースもありますから、簡単に安全だとは言えません。06年に噴火した雌阿寒岳も、やはり火山性地震が減ったあとに、小規模ですが噴火しました。箱根山は恐らく、沈静化に向かう可能性の方が高いだろうとは思いますが、噴火することもあり得ると考えています。
 そして、確実に言えることは、箱根山は過去に何度も大きな噴火を起こした火山だということです。噴火の際に生じた火砕流が外輪山の内側を埋めて、仙石原や芦ノ湖をつくりました。また、新幹線と同じくらいのスピードで流れる火砕流が、神奈川県の大磯や横浜にまで到達したことも分かっています。
 箱根山だけでなく、日本全国に危ない火山はたくさんあり、大噴火がいつ起きても不思議ではないのです。さらに大噴火の400倍以上も大きい「カルデラ噴火」という巨大噴火が、日本では過去10万年間に12回、起きたことが知られています。たとえば、約7300年前に九州南部で起きた鬼界カルデラ噴火は、西日本で縄文初期の文明が断絶してしまったほどの威力でした。
 カルデラ噴火までいかなくても、通常の大噴火であっても、大量の噴出物がまき散らされて、その火山の近辺で大飢饉を起こすだけでなく、世界中に異常気象を引き起こしたというケースはいくつもあります。
 現代社会であっても、噴火による被害は甚大です。たった1ミリの火山灰が積もっただけで、空港の滑走路は使えなくなりますし、鉄道も道路も大混乱になるはずです。電線が切れたり、水道やガスなどライフラインにも大きな影響が出るでしょう。しかも、雪と違って溶けてなくなりませんから、被害は長期にわたります。

.. 2015年06月29日 09:34   No.931001

++ 島村英紀 (大学院生)…125回       
次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
 |  ―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く  その5(最終回)
 |  現代人は自然災害に無頓着 原発再稼働は危ない
 └────  (地震学者)

◎島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
【島村英紀・最近の雑誌やテレビ・ラジオから】より
インターネット雑誌『ダイヤモンドオンライン』 2015年6月17日
[「次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか―
島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く」にコメントを掲載]より転載

次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く
           ダイヤモンド・オンライン編集部 2015年6月17日

 死者・行方不明者が63人にも上った昨年9月の御嶽山噴火。今年に入って
からも、箱根山や口永良部島、浅間山など、火山活動が活発化したり、噴火
に至るケースが相次いでいる。この現状を専門家はどう見ているのだろうか。
        (聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)

現代人は自然災害に無頓着 原発再稼働は危ない

  われわれ現代人は、大きな噴火について、あまりにも忘れてしまっています。火山が噴火し、巨大地震が繰り返し起きることで、現在の日本列島が形作られてきたことを思い出さねばなりません。
 人間にできることは限られていますが、普段の生活で避難路を確認したり、枕元に懐中電灯や底の厚い避難用の靴を用意するなど、一人ひとりにできる備えはすべきでしょう。
 また、再稼働問題が持ち上がっている原発についても、これほど大規模な噴火や地震が繰り返し起きてきた国なのだということを、よく考えていただきたい。
 フィンランドのオンカロ(核廃棄物貯蔵施設)も、安定した地盤に作られていると言われていますが、スカンジナビア半島ではこれまで、いくつかの地震があったことは分かっています。そもそも、10万年間という長期間、絶対に地震や噴火が起きないと言い切れる場所など、この地球上にはないのです。(終了)

しまむら・ひでき
1941年、東京都生まれ。武蔵野学院大学特任教授。東京大学理学部卒業、同大学院修了、理学博士。東京大学助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。専門は地球物理学(地震学)。「直下型地震」、「日本人が知りたい巨大地震の疑問50」、「新・地震をさぐる」など著書多数。

 ※島村英紀さんのご承諾を得て転載しております。


.. 2015年07月01日 07:54   No.931002
++ 小山芳樹 (小学校低学年)…8回       
日本は地震と火山の島だ。日本列島は今までが静かすぎた
 |  今後は地震も火山の噴火も増える
 |  6/28学習会「日本列島の地震・火山を考える」に参加して
 └──── (たんぽぽ舎ボランティア)

  6月28日(日)、島村英紀(地震学者)さんの学習会「日本列島の地震・火山を考える」が、「スペースたんぽぽ」で開催されました。
 最近、地震や火山の噴火が多くて気になっていたので、たまっている家事労働(高齢者の一人暮らしなので)を放り出し、参加しました。
  島村英紀さんのお話は、豊富な映像を交え、「地震や火山」について素人にもわかりやすい説明でした。
 個人的には、3時間の長丁場の講演で、自分の集中力が途切れたらどうしよう(眠くならないか心配)と思っていたのですが、取り越し苦労でした。
以下に、当日の島村英紀さんのレジメと映像から、私が注目した部分を記します。

◎そもそも日本列島は、地球の誕生以来の歴史を1日にたとえれば、わずか6分前にはじめて生まれた若い島だ。
◎日本は地震と火山の島だ。日本列島には4つのプレート=太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートが集まって互いに衝突している。
◎日本列島はそのつくりからしてモザイクなのである。それゆえ活断層も多い。
◎活断層は地震を起こすが、しかし、活断層だけを警戒していればいいのではない。
◎M6を超える大地震の22%もが、面積でいえば世界の0.25%しかない日本に集中している。
◎地震学者から見れば首都圏がいままで静かだったのは異例だ。むしろ、もっと地震が多いのが普通なのである。
◎日本列島には活火山と認定されている火山だけでも110もある。陸上にある火山の7分の1は日本にあり、日本の面積は世界の陸地の0.25%しかないから、たいへんな密度で日本に集中している。
◎このところ「異常に」大噴火(東京ドームの250杯分、3億立方メートル以上の火山灰や噴石や熔岩が出てきた噴火をいう)が少なかったが、このまま推移することはない。
◎大噴火が21世紀には少なくとも5から6回は起きても不思議ではないと考えている地球物理学者決して少なくはない。
◎数千年に一度の「カルデラ噴火」(「大噴火」の400倍以上)が日本でこれから永久に起きないことはあり得ない。数千年ごとにこれからも起き続けるに違いない。
◎地球物理学者から見れば、モザイクの成り立ちをもつこの火山列島で、これからも「大噴火」や「カルデラ噴火」、そして大地震が避けられない日本で、原子力発電所を持ち、その廃棄物を数万年の単位で長期間にわたって管理しなければならない核燃料を扱うことはなんとも無謀なことに見えるのである。


.. 2015年07月06日 13:37   No.931003
++ 島村英紀 (大学院生)…126回       
金融市場、大規模トラブルを警戒 7月1日に3年ぶり“うるう秒”
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその108
 └──── (地震学者)

  地球の自転の速さは、じつは一定ではない。
 近年、複雑な自転の「揺らぎ」があることがわかった。原子時計が導入されてからのことだ。
 1972年から原子時計を暦に採用した。つまり年や日の長さを、それまでの太陽の観測から決めていたやりかたをやめて、原子時計を使って定義することにしたのだ。ちなみに精度が高い原子時計は100億年に1秒の精度を誇る。
 一般には、地球の自転はゆっくりと遅くなっていっているのだが、この「揺らぎ」のせいで、ときには一時的には速くなることもあった。
 原子時計を基準にして地球の動きや暦を固定したために、実際の地球の自転の変化があれば、それに合わせて地球上の時計を調整しなければならなくなった。
 「うるう秒」というのを知っているだろうか。原子時計で動いている地球上の時間と、地球の実際の動きがしだいにずれていく、そのずれを補正するために、ときどき、世界中の時刻を一斉に1秒ずらすことである。
 ずれが1秒を超えないように、たとえばずれが0.8秒になったときに行われるものだ。うるう秒は7月1日や1月1日に行われる。
 このうるう秒は、来週7月1日、日本標準時で午前8時59分59秒と9時00分00秒の間に「59分60秒」が挿入される。
 このうるう秒に世界の金融市場が警戒を強めている。わずか1秒だが、いつもと違う時計の進み方に対応できずに大規模なシステムトラブルが発生すれば、市場が大混乱におちいる恐れがあるからだ。
 米国では東部時間で6月30日午後8時直前に挿入される。このためニューヨーク証券取引所とナスダック市場では、通常は午後8時までの時間外取引を30分切り上げて終えることにした。
 前回のうるう秒は2012年7月1日(日本標準時)だった。だが、このときは日曜日で金融市場は休みだった。今回は米国市場では時間外取引中、アジア市場では取引開始の時間帯だ。電子取引が1秒以下の精度で行われるようになってから初めて、平日にうるう秒が挿入されることになる。
 1972年以来1999年までの27年間のうるう秒は22回あった。
 だがその後、傾向が変わった。1999年以後7年間もうるう秒を入れる必要がなかったのだ。
 その後は2006年、2009年、2012年と今回の2015年と、地球の自転はうるう秒を入れなければならないくらい遅くなった。一時の「不思議な状態」からは回復したように見える。
 ところで「自転の揺らぎ」の理由はわかっていないのだ。
  東日本大震災(2011年)は自転を100万分の1.6秒だけ遅くした。しかしこういった大地震での変化は自転の揺らぎよりずっと小さい。
 観測にもかからず、それゆえ人類が知らない巨大でゆっくり動く地震が地球の深部で起きていて、その影響ではないかという学説がある。
 地球深部には月の倍ほどある大きさの溶けた鉄の球がある。その近くでなにか不思議なことが起きているのに違いない。 (6月26日『夕刊フジ』より)


.. 2015年07月08日 08:03   No.931004
++ 島村英紀 (大学院生)…127回       
地滑り地形だらけの日本列島
 |  地震だけ警戒していればいいわけではない
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその109
 └──── (地震学者)

  7年前に岩手・宮城内陸地震が起きた。4022ガルという史上最大の揺れ(加速度)を記録した地震である。死者行方不明者は23人に達した。
 岩手県一関市の国道の祭畤(まつるべ)大橋が飴のようにぐにゃりと曲がって落ちてしまった。また、90キロメートルほど南の仙台市でも室内に積み上げてあった書籍の下敷きになって男性が死亡した。
 しかし、被害はそれだけではなかった。この直下型地震はとてつもない大きさの地滑りを引き起こした。その爪痕は今でも残っていて、いまでも立入禁止になっている。
 その地滑りは幅900メートル、長さ1300メートルもあった。東京でいえば東京駅から新橋までの全部が滑ったことになる。
 滑った土砂の体積は東京ドーム54杯分にもなった。水平距離で300メートル以上も移動してしまった場所もあった。地形が大規模に変わってしまったのだ。
 この地滑りは急傾斜のところで起きたのではない。わずか1〜2度と非常になだらかな傾斜の「すべり面」が滑ることによって起きた。車なら気が着かず、歩いていればようやく気がつく程度の傾斜だ。
 この「すべり面」は地下に隠れている。かつて火山灰が降り積もった「シルト層」といわれるものだ。この層がすべったことによって、その上に載っていた土砂がすべてすべってしまったのである。
 ちなみにこの地震は、政府の地震調査委員会が発表している地震危険度地図ではまったくノーマークだったところだった。地震予知はかくもあてにならないものなのである。
 東北地方だけで幅150メートルを超える大規模な地滑りが起きる可能性がある地形は6万カ所もあることが分かっている。
 地滑りを起こすのは地震にはかぎらない。大雨でも各地でたびたび地滑りを起こしてきた。
 地球が温暖化すると、気象が「凶暴化」する。台風はいままでよりも強くなり、いままで降らなかった大雨も各地で降るようになる。
 この凶暴化のさきがけではないかと思われている大雨のために、2014年夏には広島市安佐南区を中心に大規模な地滑りが起きた。死者74名、住宅の全半壊約250棟という大きな被害を生んてしまった。
 2メートル四方の土砂はの重さ10トンもある。直撃されれば人も家もひとたまりもない。
 地滑り地形は日本全体だと37万ヶ所もある。犠牲者が出るほどの大雨や地震による斜面災害は日本でこれまでは2〜3年に1回は起きてきた。だがこれが、もっと増えるかもしれないのだ。
 平地が少ない日本ではそもそも崩れやすい地形が多い。地震はもちろん心配だが、地震だけを警戒していればいいというわけではないのだ。
   (7月3日『夕刊フジ』より)



.. 2015年07月08日 08:18   No.931005
++ 島村英紀 (大学院生)…128回       
戦災に追い打ちをかけた巨大地震“福井地震”誘発地震の学説も
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその110
 └──── (地震学者)

  福井地震といっても地元以外では知っている人は少ないかもしれない。
 いまからちょうど67年前、1948年に福井市とその近郊を襲った地震。直下型地震としてはすさまじい地震だった。福井平野の北部では98〜100%もの家が倒れてしまった町や村があった。
 阪神淡路大震災(1995年、M7.3)以前には半世紀も戦後最大の犠牲者約3800人という不名誉な記録を保持していた。
 マグニチュード(M)は7.1だった。M8も珍しくない海溝型地震とくらべては地震のエネルギーは小さかったが、人々が暮らしているすぐ下で起きる内陸直下型地震はこのくらいのMでも大被害を生むのである。
 人口全体に対する死者の数がこれほど多かった地震もめったにない。福井市のすぐ北に接する現在の坂井市では、死者が人口の5%にも達した。これは福井市全体の1%や阪神淡路大震災のときの神戸市の0.3%とくらべてもはるかに多かった。
 これは地盤が軟らかかったので地表での揺れが大きくなってしまったことによる。福井市とその周辺の市町村が載っている堆積盆地が地震の揺れを増幅してしまったのである。この堆積盆地は福井盆地を流れ、坂井市で日本海に注ぐ九頭竜川(くずりゅうがわ)が作ったものだ。
 じつはこの地震の被害が大きくなってしまったもうひとつの要因があった。
  福井市は地震の3年前の1945年、敗戦のわずか1月前に米軍機による大規模な無差別爆撃(空爆)を受けていた。このため2万戸以上が焼失、9万人以上が罹災し、死者数も1500人を超える甚大な被害を出していた。
 これは1945年に日本の中小都市を軒並み襲った爆撃のひとつだった。地方都市への爆撃としては、この福井市への爆撃は全国でも有数の大規模なもので、富山市、沼津市に次ぐものだった。
 戦後すぐ襲ってきた福井地震は福井市民にとってはダブルパンチだったのである。
  空襲の大被害のためにその後に建てられた多くの住宅は急造のバラックなどの弱い住宅だった。これが倒壊率が高かった一つの原因になった。
  福井地震の震度はいまならば十分に震度7にあたるが、当時はまだ震度は6までしかなかったので公式記録には震度6としてしか記録されていない。この福井地震の大被害を見て翌年気象庁は震度階に震度7を追加した。実際に震度7がはじめて記録されたのは阪神淡路大震災だった。
  この福井地震は誘発地震ではなかったかという学説がある。その4年前の1944年に起きた海溝型地震、東南海地震(M7.9)によって引き起こされたという説だ。大地震は震源域の外側で誘発地震を起こすことがある。
  いまの福井市には地方都市には珍しく広い通りが走っている。これは福井地震で壊滅的な被害を受けたあとに行われた都市計画のおかげなのである。

.. 2015年07月27日 08:17   No.931006
++ 島村英紀 (大学院生)…129回       
地球と酷似する「金星」にも火山活動 「地球温暖化」の終着点とも
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその111
 └──── (地震学者)

  このところ日本の火山が騒がしい。しかし火山の噴火は地球だけに起きる事件ではない。最近、金星で火山活動が発見された。
 金星はいちばん明るく見える星で、明け方と夕方だけ見える。「明けの明星」と「宵の明星」だ。
  最近、金星の上空を飛ぶ宇宙探査機が金星の地表を溶岩流が流れているのを発見した。この探査機はヴィーナス・エクスプレスという欧州宇宙機関(ESA)のものだ。
 解析では地表よりも数百℃以上熱い高温の物質が、それぞれが1平方キロメートル〜200平方キロメートル以上のものが点在することがわかった。金星の表面で火山活動がいま起きているのにちがいないことが分かったのだ。
 金星は地球よりもはるかに多くの二酸化炭素があるせいで「地球温暖化」の終着点とも言われている。表面温度は500度Cにも達する。このため海の水も蒸発してしまった。いつも厚い雲に覆われていて外から地表の様子は見えない。
 いままで金星着陸を目指した惑星探査機は多いが、この高温のためにほとんどのものが燃え尽きてしまった。かつて旧ソ連の探査機が1982年に着陸して地表の画像を2枚だけ送ってきたのが唯一の成功例だ。その後これも燃えてしまった。
 米国はパイオニア・ヴィーナス2号を打ち上げたが、高温に耐えきれず本体と4機の子機のうち本体は地表到達前に、子機3機は到達と同時に、残り1機も着陸わずか68分後に通信途絶してしまった。
 金星も地球も、そして太陽系全部は約46億年前に同時にできた。
  金星は地球よりも約30%太陽に近いところを回っている。地球の大きさよりも5%小さいだけの「兄弟」である。
 地球が作られてから現在までの1/3ほどのときに「マグマ・オーシャン」といわれる、溶けたマグマで表面がすべて覆われた時代があった。海や大陸ができたのはその後である。
 金星でも途中までは地球と同じ過程をたどった。しかしこの数百万年は火山活動がなくなっていたと思われていた。だが今回の発見で火山活動があることが分かったのだ。
 溶岩流が発見されたのは「ガニキ谷」という不思議な名前の地溝帯だった。新しい地殻があるところだ。地球でもアフリカの東部など地溝帯からは溶岩が出てきている。
  太陽系で地球のほかに火山活動があることが分かっていたのは木星の衛星のひとつである「イオ」だけだった。これで火山活動をしている「仲間」が増えたことになる。
 ちなみにイオの大きさは地球の約1/4、月ほどの大きさだ。数多くの火山が噴火を続けていて、さしわたし25キロメートル以上の大きなカルデラが100個以上も見つかっている。
 金星の自転の速さはきわめて遅い。一方、太陽の周りをまわる公転は地球よりも速い。つまり「1日」のほうが「1年」よりも長いのだ。
 また金星は地球など他の太陽系の惑星とは反対の方向に自転している。太陽は西から昇る。
 地球から見ると奇妙な「兄弟」なのである。


.. 2015年07月27日 08:54   No.931007
++ 島村英紀 (平社員)…130回       
いつの世も火山活動に振り回される観光産業
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその112
 └──── (地震学者)

  気象庁が渋い顔をしているなか、地元が火山の入山規制を解除してしまったことがある。噴火の危険を発表するのは気象庁や火山噴火予知連だが、入山規制は地元の市町村長が決定する。
 2000年夏のことだ。その年の4月から磐梯山(1816メートル。福島県)では火山性地震が増えた。8月に入って地震は急増し、15日には一日に400回を超えた。40年前、ここに地震計が置かれて以来最も多い地震だった。
 このほかマグマが活動的なことを示す低周波地震や、噴火の前に出ることが多い火山性微動もたびたび発生するなど、噴火の恐れが高まった。これらも40年来初めて観測されたものだ。
 悪夢が皆の頭をよぎった。100年ほど前のすさまじい噴火だ。この噴火で東京ドームの800杯分、10億立方メートルもの途方もない量の岩石が噴出した。2014年の御嶽山噴火の2000倍以上にもなる。
 この噴火は477人もの犠牲者を生んだ。いくつもの村や山林や耕地が埋まっただけではなく、川がせき止められて五色沼も作られた。
 8月16日に気象庁は「臨時火山情報」を発表、翌17日には関係する地元の町村の担当者が集まって磐梯山の入山規制を決めた。地元の新聞から号外も出た。
 気象庁が噴火警報レベルの仕組みを導入したのは2007年だから、このときは臨時火山情報が唯一の警報だった。
 いつ噴火しても不思議ではなかった。他の火山では、この程度の前兆で噴火した例はいくらでもあった。
 しかし、8月がすぎ、9月になっても、噴火は起きなかった。一方、火山性地震は次第に減りはじめていた。
 観光で生きる地元は、じりじりしたにちがいない。観光客は目に見えて減っていた。
 気象庁や噴火予知連が渋い顔をしているのを尻目に、地元の3町村は9月23日、独自の判断で入山規制を解除してしまった。
 このときに地元福島県の消防防災課(噴火や災害の担当部署)は全国の地震・火山学者にアンケートのメールを送って、見通しを聞いた。私も聞かれた。
 アンケート後、県からお礼のメールは来たが、肝腎の集計した結果や、そもそも何人に聞いて何人から返事が来たのかについては、ついになにも教えてもらえなかった。アリバイづくりに使われたのであろう。
 結果的には気象庁の判断よりは正しかったからいいようなものの、なにかあったら観光産業を救うために観光客を犠牲にしかねない判断だった。
 だが、「引き続き注意が必要です」といった紋切り型の発表にしびれを切らした地元の独走は痛いほど分かる。
 磐梯山の「噴火騒ぎ」は古くて新しい問題だ。あてにならない噴火予知のレベルと政治的な判断の間で揺れる気象庁と地元との軋轢(あつれき)は、いまの箱根や、これから各地の火山でも繰り返されるにちがいない。
 磐梯山の噴火は127年前の1888年7月15日だった。以後、毎年噴火の日に行われている供養祭が地元の寺で先週も行われた。
(島村英紀さんのHP「 こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より7月24日の記事)


.. 2015年07月28日 08:01   No.931008
++ 島村英紀 (平社員)…131回       
津波被災地が抱える復興後の課題
 |  「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」コラムその113
 └──── (地震学者)

東日本のすぐ西側の日本海にプレート境界があることが常識になっている。この境界には西側にユーラシアプレート、東側に東日本を載せた北米プレートがある。
しかし、この「常識」が作られたのはそれほど昔のことではない。1993年に起きた北海道南西沖地震が、この「常識」を確たるものにしたのだ。
 北海道南西沖地震が起きたのは今から22年前の7月。北海道南部の日本海岸沖に起きた。マグニチュード(M)は7.8。大津波が発生して、その死者行方不明者は230名を数えた。
 気象庁が出した津波警報は、震源に近い奥尻島では間に合わなかった。そのためもあって、おもに奥尻島で大きな被害を生んでしまった。
 この地震の10年前、1983年に秋田県の沖で日本海中部地震(M7.7)が起きて、100名もの津波による犠牲者を生んでいた。この二つの地震とも、プレート境界で起きる海溝型地震だった。いわば兄弟分の地震で、同じように大きな津波を生んだ。
 日本海中部地震が起きたときに、ここにはプレート境界があるはずだ、と言い出した学者がいた。NさんとKさんである。それまでは東日本も日本海もユーラシアプレートに載っていると思われていたのだ。
 しかしこの学説は冷遇された。日本の地震学会は保守的な体質だ。当時の学会の定説から離れたものは認めなかったのである。
 だが、北海道南西沖地震も起きたことで認めざるをえなくなった。10年という期間は二人にとっては長かった。
 北海道南西沖地震で被害が集中した奥尻島は面積143平方キロメートル。島全体が奥尻町になっている。
 阪神淡路大震災(1995年)よりも前だったこともあり、国や北海道、それに全国からの復興支援金が集まり、その総額は地震の被害額700億円をはるかに超えた。
 この復興支援金がいちばん多くつぎ込まれたのが総延長14キロメートルもの防潮堤だった。また町の中心の青苗地区には人工地盤の高台が作られた。住宅も高台に移転し、42カ所の避難路も作られた。被災者には新規住宅建設の費用として1400万円が支給され、漁船も新造された。復興支援金も使い果たされ、さらに町は債券も発行した。
 だが、その後の奥尻島には大きな問題がある。人口の減少と産業の不振だ。観光と漁業が主な産業だが、両方とも落ち込んでいる。人口もピークでは9000人、地震時には4700人だったが、いまは2900人になってしまった。
 2040年には人口がさらに減って1000人になるという見通しもある。それだけではない。せっかく作った防潮堤などのコンクリート構造物の寿命は40〜50年しかない。
 つまり2040年には「限界集落」を超えてしまうだけではなく、老朽化した防潮堤などの維持費も出せなくなるかもしれないのだ。
 地方を襲った大地震。「復興の優等生」も大きな問題をかかえているのである。
(島村英紀さんのHP「 こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より7月31日の記事)


.. 2015年08月05日 09:44   No.931009
++ 島村英紀 (平社員)…132回       
議論が分かれる巨大地震前の「静けさ」 「地震空白域」検証も
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその114
 └──── (地震学者)

  「嵐の前の静けさ」が大地震の前にもあるものかどうか。これはいまだに解けない問題である。
 地震学者は古くから、この現象「地震空白域」の検証に取り組んできた。
 もっとも有名だったのが北海道・根室沖に起きた海溝型の地震だ。
 ここでは1952年に十勝沖地震(マグニチュード(M)8.2)が西隣に、そして1969年に色丹(しこたん)島沖地震(M7.8)が東隣に起きて、その間の根室沖が抜けていた。どれも海溝型地震である。
 たしかにこの場所には小さい地震がまわりより少なく「嵐の前の静けさ」を感じさせた。
 かつて根室沖には、1894年にM7.9と推定される海溝型の大地震が起きた。それから100年近くたち、地震エネルギーはかなり溜まっていても不思議ではなかった。
 このため、ここにまた大地震が起きるのではないか、と1970年代に入ってから言われはじめた。
 小さな地震さえも起きなくなっている領域、空白域の拡がりから、来るべき大地震の震源断層の大きさも推定された。それはM8クラスの巨大地震であった。
 震源断層が大きいほど、大きな地震が起きる。2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)は岩手県沖から茨城県沖までの南北450キロメートル、東西150キロメートルにもおよぶ大きな震源断層だった。
 来るべき大地震がいつ起きるかは分からない。だが固唾を呑んで待っていた1973年、ついに、それらしき地震が起きた。根室半島沖地震だ。
 この地震で津波による浸水被害が300棟近く、負傷者は26人出た。Mは7.4だった。
 だがその後、この地震が予想されていた大地震ではなかったという説が強い。M7.4はM8地震のエネルギーの1/8でしかないからだ。
 空白域が来るべき大地震の場所と大きさを予知できるはずだという研究はその後も少なくない。大地震が近づくと、その空白域の中にぽつぽつ、地震が起き始めるという研究も近年にはある。
 ちょうど6年前の2009年8月、南海トラフ地震で警戒されている震源域の中で強い地震が起きた。震源は駿河湾内。最大震度は6弱に達した。Mは6.3。幸い大きな被害はなかったが、東名高速道路が4日間不通になって、道路だけで経済損失額は21億円になった。
 2011年にも静岡県東部で最大震度6強を記録したM6.4の地震があった。この地震は東北地方太平洋沖地震の4日後で、この地震による誘発地震ではないかと思われている。
 南海トラフ地震で予想される震源域は、この数十年間、地震活動がとくに低い。つまり空白域になっている。
 学問的には空白域がきたるべき大地震の先駆けになるのか、そして大地震が近づくと空白域の中で地震が起き始めるのかは決着が付いていない。そうではなかった例も多いからだ。
 しかし、いままでは地震がほとんどなかった静岡でぽつぽつ起きている地震は気味が悪い。
(島村英紀さんのHP「 こちら
「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より8月7日の記事)


.. 2015年08月12日 10:59   No.931010


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