返信


■--震源の深さに救われた過去の首都直下型
++ 島村英紀 (大学院生)…116回          

   首都圏は「地震が起きる理由」がとても多いところ
 | 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」コラムその106
 └──── (地震学者)

先月の末、首都圏直下型地震があった。埼玉県北部が震源で、最大震度5弱を記録した。
 マグニチュード(M)が5.6、震源の深さが60キロメートルと、小さめの地震でしかも深かったから被害はほとんどなかった。
 震源は首都圏の「地震の巣」のひとつで、茨城県南西部と千葉県北部と埼玉県北東部が近接しているところだ。茨城・鹿島神宮や千葉・香取(かとり)神宮が地震ナマズの頭と尻尾を重ねて、そこに「要石(かなめいし)」を置いているように、昔から地震が多い場所として知られている。
 首都圏は北米プレートに載っているが、その地下に東から太平洋プレートが衝突し、さらに南からフィリピン海プレートがぶつかってきているところだ。しかもすぐ南西にはユーラシアプレートがあり、その上には西南日本が載っている。これほど複雑なところは世界でもまれだ。
 このため、それぞれのプレートが固有の地震を起こすほか、複数のプレートの相互作用でも地震が起きる。つまり首都圏は「地震が起きる理由」がとても多いところなのである。
 19世紀以後だけでも1855年の安政江戸地震(M7.1)は日本の内陸で起きた地震としては最大の1万人近くの死者を生んだ。1894年の明治東京地震(M7.0)は死者31、1895年の茨城県南部地震(M7.2)は死者6。そのほか1921年の茨城・竜ヶ崎地震(M7.0)、1922年の浦賀水道地震(M6.8)も起きた。
 いずれも首都圏を襲った直下型地震だ。しかし安政江戸地震以外は幸いにも震源は深く、明治東京地震は50-80キロメートル、茨城県南部地震は75-85キロメートル、竜ヶ崎地震は53キロメートル、浦賀水道地震は50キロメートルであった。つまりこれらM7クラスの地震は直下で起きたにもかかわらず、幸いにも震源が深かった。それゆえ、地震の規模の割には被害が限られていたのである。
 いままで日本で起きた地震のなかで震源がもっとも深くて被害を出した地震は1952年に奈良県で起きた吉野地震である。震源の深さは70キロメートルだった。9名の死者のほか負傷者139名、住宅全壊20棟など、被害は近隣の和歌山県から遠くは石川県まで10県に及んだ。東京でも震度1−2だった。Mは約6.8とされているが、もっと大きかったという説もある。これ以上深い地震で大きな被害を生んだことはない。
 首都圏でこの200年間に起きてきた直下型地震の多くは、この5月に埼玉県北部で起きた地震と同じく「深さ」に救われてきた。
 だが、これから起きる直下型地震がいつも震源が深いわけではない。
 もしかしたら安政江戸地震のように震源が浅く、たとえ同じMでも震源の真上では大変な被害を生んでしまうかもしれないのである。
『夕刊フジ』 6月12日号より

.. 2015年06月15日 09:06   No.924001

++ 島村英紀 (大学院生)…117回       
火山活動続く「箱根山」 富士山噴火との関連はあるの?
 |  島村英紀が解説した「箱根火山で何が起きているのか」
 |  火山ごとに異なる「前兆」   (その1−3回連載)
 └────  (地震学者)

◎島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
 【最新のトピックス】より転載
 タイトル:島村英紀が解説した「箱根火山で何が起きているのか」
      火山活動続く「箱根山」 富士山噴火との関連はあるの?

 活発な火山活動が続く箱根山(神奈川・静岡県境)。21日には気象庁が震動などを観測する「空振計」を増設するなど、警戒を強めています。各地で活発化する火山が増える中、箱根山は、300年間噴火していない富士山と近いこともあり、関連を心配する声もあります。地震学者の島村英紀・武蔵野学院大学特任教授が、箱根山の今後と富士山との関連性について解説します。

【図】箱根火山の防災マップ、どんな災害が想定されている?
  ※事故情報編集部:注

火山ごとに異なる「前兆」

 5月6日、気象庁は箱根の噴火警報レベルを1から2に上げました。これによって、火口まで行けたレベル1から、山頂(大涌谷=おおわくだに)付近には行けなくなったレベル2になりました。その後も火山性地震は活発で、付近に展開されている地震計網では4月後半以降、4000回を超えるほどの浅い火山性地震が活発に起き続け、大涌谷の噴気も増え、山体膨張も観測されています。これらの現象は、いずれもマグマが浅いところに上がってきていることを示しているものです。
 しかし、箱根が噴火するかどうかは、学問的には未知数なのです。その最大の理由は、かつての箱根の噴火を日本人が見て、記録していたことがないからです。
 火山はそれぞれに性質が大いに違います。一つの火山で噴火の前に出た前兆は、他の火山では噴火の前兆にはならない例が多いのです。
 2014年9月に噴火して60人以上の死者行方不明者を生んでしまった御嶽山も、2007年に起きたずっと小さい噴火のときには2週間前から火山性微動が出ていました。火山性微動はマグマが活発に動いている指標だと思われています。
 しかしもっと大きな噴火になってしまった2014年のときには、火山性微動は噴火のわずか11分前まで、火山性微動は出ませんでした。つまり、一つの火山でも噴火ごとに「前兆」が違うこともあるのです。
 箱根はかつて大噴火したことがたびたびある火山です。たとえば6〜9万年前の噴火のときは火砕流が出て、50キロも離れた横浜まで達したことが地質学的な調査から分かっています。火砕流は新幹線並みの速さで温度も300度もあります。20世紀初頭にはカリブ海の島で3万人の町が全滅したこともあります。
 また箱根の大噴火で3200年前には、それまで3000メートル級の高さがあったと思われていた箱根火山の上半分が吹き飛ばされていまの1400メートルの高さになったものなのです。それだけではなく、そのときの噴火から出た火砕流がカルデラを埋めて芦ノ湖を作り、仙石原を埋めて平らにし、さらに西側の外輪山である長尾峠を越えて静岡県側まで流れ出しました。
 しかし前に書いたように、これらの大噴火の前にどんな前兆があったのかは、まったく記録されていないのです。
 それゆえ、今後、箱根がどういう「前兆」がどこまであったときに噴火するか、という「閾(しきい)値」が分かっていないのです。
 次回:『「経験と勘」頼みの噴火予知』へ続く


.. 2015年06月18日 10:34   No.924002
++ 島村英紀 (大学院生)…118回       
火山活動続く「箱根山」 富士山噴火との関連はあるの?
 |  島村英紀が解説した「箱根火山で何が起きているのか」
 |  「経験と勘」頼みの噴火予知   (その2−3回連載)
 └────  (地震学者)

◎島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
 【最新のトピックス】より転載
 タイトル:島村英紀が解説した「箱根火山で何が起きているのか」
      火山活動続く「箱根山」 富士山噴火との関連はあるの?

「経験と勘」頼みの噴火予知

  実は気象庁が発表する「噴火警報レベル」も、なにかの機械で数値を測っていて3.9が4.0になったら数値を上げる、といった科学的・学問的なものではなくて、もっぱらそれぞれの火山の「経験と勘」だけに基づいて決めているものです。
 このため、例えば北海道の有珠山(うすざん)や、長野・群馬県境の浅間山や、鹿児島・桜島のように過去の噴火歴が分かっていて、ホームドクターのような大学の火山学の先生が研究を続けているところでは「経験」が蓄積されています。それゆえ噴火警報レベルも箱根よりは確かなものになっています。しかし、箱根は経験がもっともない火山の一つなのです。
 2014年の御嶽では噴火警報レベル1、つまり山頂まで登山客が行ってもいいという規制のときに噴火して大被害を生んでしまったのでした。
 気象庁としては、もし箱根が噴火警報レベル1のままで噴火したら取り返しがつかない失敗を繰り返すことになる、というので、噴火警報レベルを上げたのでしょう。その「根拠」はあいまいなものですし、大涌谷の周辺300メートルという範囲も、学問的な裏付けがあるものではありません。
 また、気象庁が言っているような「水蒸気噴火」で収まるかどうかも学問的には分からないことなのです。もっとステージが上がってマグマが地表に出てくる「マグマ水蒸気噴火」になる可能性は高くはないとはいえ、それが起きないという学問的な保証はないのです。
 気象庁は天気予報もしている役所だから、同じ「予知」ならば同じように可能だと考える人も多いかもしれません。しかし、噴火予知や地震予知は天気予報とは根本的に違うことがあります。
 それは天気予報は「大気の運動方程式」というものがすでに分かっていることです。それゆえ観測データ、たとえば全国に1200地点以上もあるアメダスの観測データやゾンデ(気象観測用の気球)の観測データを入れれば「未来」が計算できるのです。
 しかし、これと違って噴火予知にも地震予知にも、肝心の方程式はまだ分かっていません。
 そのうえ地表が柔らかい堆積層や柔らかい火山灰に覆われているので、地震や噴火に関係する地下深くにある基盤岩や火山の内部といった深部の岩の中で、どのような歪みやマグマが蓄積されていっているかといったデータはいまだ取れません。これでは天気予報なみの地震予知や噴火予知は出来るはずがないのです。
  次回『“兄弟”のような箱根と富士山』へ続く

 ※島村英紀さんのご承諾を得て転載しております。

 ☆6/28島村英紀さんの学習会にご参加を!
  「最近、地震・火山の噴火が多い 多すぎるなぜか?
   原発は大丈夫か?! 原発再稼働は…?
  日本列島の地震・火山を考える(最新版)
  今後も地震はたくさん発生する(過去との比較で)

  日 時:6月28日(日)14時より17時
  お 話:島村英紀さん(地震学者)
会 場:「スペースたんぽぽ」(ダイナミックビル4F)
  会場費:800円 資料を用意


.. 2015年06月22日 08:04   No.924003
++ 島村英紀 (大学院生)…119回       
火山活動続く「箱根山」 富士山噴火との関連はあるの?
 |  島村英紀が解説した「箱根火山で何が起きているのか」
 |  “兄弟”のような箱根と富士山   (その3−終了)
 └────  (地震学者)

島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
【最新のトピックス】より転載
タイトル:島村英紀が解説した「箱根火山で何が起きているのか」
     火山活動続く「箱根山」 富士山噴火との関連はあるの?

“兄弟”のような箱根と富士山

  [図解]24時間体制で監視している火山
  ※事故情報編集部:注

  じつは箱根以外にも、いつ噴火しても不思議ではない状態に近づいている火山は日本に多くあります。蔵王山(ざおうさん、宮城・山形県境)、吾妻山(福島・山形県境)、草津白根山(長野・群馬県境)などです。
 また富士山もその一つです。現在までの富士山の最後の噴火は1707年の宝永噴火で、これは過去の富士山の三大噴火の一つになった大きな噴火でした。
 そもそも箱根と富士山は、日本列島の歴史からいえば、火山島である伊豆半島が日本にくっついた以後にほぼ同時に出来た兄弟のような火山です。距離も25キロメートルしか離れていません。このためお互いに影響し合うことがないとは決して言えない関係なのです。
 富士山の宝永噴火では、上空に舞い上がった火山灰は偏西風に乗って関東地方にも15センチ以上もの火山灰が積もりました。関東地方を広く覆っている「関東ローム層」は、半分が富士山からの火山灰、半分が浅間山からの火山灰なのです。両方の火山がたびたび噴火したので、関東ローム層という厚い地層が出来たのです。
 この富士山も、噴火の前に何が起きたかが分かっていない火山です。例えば平安時代は400年間ありましたが、その始めの300年間に富士山は10回も噴火しました。300年以上も噴火していない現在までの期間は、とても異常な時期なのです。
 地球物理学的には富士山がこのままずっと噴火しないことは考えられません。もし噴火したら人々が集まっている富士山の山腹や山麓だけではなくて、日本の東西分断など、とても大きな影響を及ぼすことも確かなことなのです。
 数年前から河口湖の水位が下がったり、林道に大きな地割れが出来たり、氷穴の氷が溶けたり、富士山の伏流水(ふくりゅうすい)が山麓に多量にわき出してきたり、といった「異常」が報告されています。しかし、これらが噴火の前兆であるかどうかは、以前の経験がないので分からないのが実情なのです。
 もちろん、精密な機械観測が富士山でも行われています。しかし、どういう「前兆」がどこまであったときに噴火するか、という「閾値」が分かっていないことも箱根と同じなのです。(地球物理学者・島村英紀)

※事故情報編集部:注・本メールマガジンには掲載されておりません。
※島村英紀さんのご承諾を得て転載しております。

■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年東京生。東京教育大付属高卒。東大理学部卒。東大大学院終了。理学博士。東大助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。専門は地球物理学。2013年5月から『夕刊フジ』に『警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識』を毎週連載中。著書の『火山入門―日本誕生から破局噴火まで』2015年5月初版。NHK新書。『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識60』2013年7月初版。花伝社。『人はなぜ御用学者になるのか―地震と原発』2013年7月初版。花伝社。など多数。


.. 2015年06月23日 10:01   No.924004
++ 島村英紀 (大学院生)…120回       
爆発的マグマ噴火が運んだダイヤモンド
 |  ダイヤモンドが人類の手に入るまでは数奇な運命をたどったのです
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその107
 └──── (地震学者)

◯ ダイヤモンドは簡単に燃えてしまって灰になるのを知っているだろうか。
 ダイヤは元素から言えば炭素だけのものだ。つまり、そのへんの炭と変わらない。
 しかし炭とは違って結晶構造がとても緻密だ。この結晶構造は地球内部の6万気圧という高圧と2000℃という高温のもとでしかできなかったものだ。
 地球深部でできたダイヤが地表にどうやって運ばれたかはずっとナゾだった。もしゆっくり上がってくるのなら、その途中で燃えてしまって、ただの灰になってしまうはずだからである。
 計算によれば、少なくとも秒速1〜4メートルという速度で上がってきたときだけ、ダイヤは燃えないで地表に達したことになる。つまり、ダイヤを取り込んだマグマが数十キロメートルもある厚い地殻を高速で通りぬけたときにだけ、ダイヤが無事に上がって来ることができた。
 この急速な上昇のメカニズムが正確に分かったのはごく最近のことだ。

◯ これは爆発的なマグマ噴火の一種だ。だが、日本にも過去に何度もあったマグマ噴火はダイヤを持ってきてはくれなかった。持ってきてくれたのは世界でも限られた場所だけである。
 それはダイヤが作られる場所が限られていたことと、この特殊な噴火が起きたのが数億年前の一時期だけと、ごく限られていたことが理由である。具体的には数億年以前にあった造山運動によってダイヤが作られ、数億年前に起きた噴火で地表に運ばれた。このためダイヤの分布は大陸奥地の古い地質条件が保たれている地域に限られる。
 世界にはこのようにダイヤが含まれるマグマが上がってきて冷えて固化したところが何カ所かある。南アフリカ、ロシア、アンゴラ、米国などである。
 この固化したマグマは垂直に近いパイプ状の形になった。ダイヤを探す「鉱業」が行われたところは、直径も深さも数百メートルから1キロを超えるほどの巨大な漏斗状の穴が開いている。人類の欲望の夢の跡である。
 ダイヤはこの固化したマグマにごく少量しか含まれていない。2トンの岩のなかに1カラット、つまり0.2グラムしか入っていないのが普通だ。このため、いかにダイヤとはいえ、取れる量があまりに少ないと経済的に引き合わなくなって鉱業としては放棄されてしまったところもある。

◯ 米国南部アーカンソー州にあるダイヤモンド・クレーター州立公園も鉱業がなり立たなかったひとつだ。
 しかし、まだ見つかることもある。さる4月に同州に住む来園者が3.7カラットのダイヤを発見した。
 この場所は1906年に土地を所有していた農夫が初めてダイヤを発見したところだ。1972年に州立公園となり、15万平方メートルを超える採掘場が来園者に公開されている。これまでに75000個以上のダイヤが採掘されている。園内で見つかったダイヤは、今年に入って122個目になった。
 あなたも探しに行ってみますか?


.. 2015年06月24日 08:16   No.924005
++ 島村英紀 (大学院生)…121回       
次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
 |  ―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く その1(5回連載)
 └──── (地震学者)

◎島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
【島村英紀・最近の雑誌やテレビ・ラジオから】より
 インターネット雑誌『ダイヤモンドオンライン』 2015年6月17日
 [「次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか―
 島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く」にコメントを掲載]より転載

 死者・行方不明者が63人にも上った昨年9月の御嶽山噴火。今年に入ってからも、箱根山や口永良部島、浅間山など、火山活動が活発化したり、噴火に至るケースが相次いでいる。この現状を専門家はどう見ているのだろうか。
        (聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部?津本朋子)

東日本大震災の影響はどこまであるのか

――東日本大震災以来、地震や火山活動が活発化していると、多くの専門家が指摘しています。巨大地震が火山に及ぼす影響とは、どのようなものなのでしょうか?

  東日本大震災を引き起こした、東北地方太平洋沖地震のモーメントマグニチュード(Mw)は9でした。Mwとは、従来の気象庁マグニチュードとは異なる計測手法で、近代的な地震計が普及して求められるようになった数値です。気象庁マグニチュードはM8.4以上の大地震が起きた場合、正確に数値を出すことができないのですが、Mwは巨大地震の大きさを正確に計測できる手法なのです。
?地震計が進化してMwを求められるようになって以降、世界で起きたMw9以上の巨大地震は7つです。
 このうち、東北地方太平洋沖地震以外の6つの地震では、地震の1日後から5年くらい後までに、半径600〜1000キロ以内の複数の火山が噴火しています。東北地方太平洋沖地震だけが、これまで噴火が起きておらず、例外的だと思われていましたが、昨年9月に御嶽山が噴火しました。
 半径600〜1000キロといえば、本州が覆われるような範囲です。つまり、これからも日本列島のどこで火山の噴火が起きても、まったく不思議ではないということです。
 ただし、これは病気で言えば「世界で7人しか患者がいない奇病」というようなものです。大勢の患者がいる病気であれば、予後について有意なデータも得られるでしょうが、たった7人では、その病気の予後を予測などできないでしょう。それと同じで、巨大地震と火山の関係もデータが少なすぎて「分からないことが多い」というのが、本当のところです。
 また、現在の状況がおよそ1100年前に起きた貞観地震の頃と似ている、と指摘する専門家もいます。貞観地震の後に、関東で直下型の地震が起き、さらに南海トラフ巨大地震も起きました。ただ、この説も、確かに似てはいるものの、本当に同じことが起きるのかどうか、断言できるだけのデータをわれわれは持ち合わせていません。


.. 2015年06月25日 07:54   No.924006
++ 島村英紀 (大学院生)…122回       
次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
 |  ―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く  その2(5回連載)
 └──── (地震学者)

◎島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
【島村英紀・最近の雑誌やテレビ・ラジオから】より
 インターネット雑誌『ダイヤモンドオンライン』 2015年6月17日
 [「次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか―
 島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く」にコメントを掲載]より転載

 死者・行方不明者が63人にも上った昨年9月の御嶽山噴火。今年に入ってからも、箱根山や口永良部島、浅間山など、火山活動が活発化したり、噴火に至るケースが相次いでいる。この現状を専門家はどう見ているのだろうか。
         (聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部?津本朋子)

100年間静かだった日本列島
1世紀に4〜6回の大噴火は「通常の範囲内」

――ただ、確かに3.11以降、火山噴火が増えたという印象を持っています。

 昨年の御嶽山噴火は死者を出した大災害となりました。そのほかにも、火山活動が活発化したり、噴火に至った火山が続出している。しかし、長い目で見ると実は、この100年のあいだ、日本列島は異常なほど静かだっただけと言えます。
 火山の噴火はさまざまなタイプと規模があるのですが、火山学者は東京ドーム約250杯分以上の噴出物があったものを「大噴火」と定義しています。この「大噴火」は日本の場合、100年間に4〜6回ほどは必ず起きていました。それが20世紀に入って以降、1914年の桜島と、1929年の駒ヶ岳で「大噴火」があっただけで、ずっと静かな状態が続いている。そう考えれば、3.11以降、むしろ普段に戻っただけとも言えるわけで、今世紀に4〜6回の「大噴火」が起きても、何の不思議もありません。
 日本には110もの活火山があり、うち50の火山が24時間監視されています。さらに噴火を警戒せねばならない30の火山については「噴火警戒レベル」がつけられています。これらの火山のうち、たとえば浅間山は、過去100年で50回ほども噴火しており、少なくとも50年分はデータが蓄積されているため、予測しやすい。桜島や有珠山も比較的頻繁に噴火しているために、クセが読みやすい火山です。
 しかし、これらの読みやすい火山は例外で、ほかの火山は噴火に関するデータが少なすぎて、まったく予測ができないのです。富士山にしても箱根山にしても、地質調査によって、過去に噴火したことは確実に分かっています。しかし、噴火前にどのような前兆があったのかは分からないのです。
 たとえば富士山では、山体膨張(火山の下からマグマや火山性ガスが上がってきて山が膨張すること)が起きたことを示すデータはあります。ほかにも、河口湖で、ある時期、異常な水位低下が起きたり、氷結で氷が溶けるといった異変が報告されていますが、果たして本当にこれらが前兆なのか。また、前兆であったとして、どの程度、噴火が差し迫っているのかは、分かりません。


.. 2015年06月26日 08:00   No.924007
++ 島村英紀 (大学院生)…123回       
次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか
 |  ―島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く その3(5回連載)
 └──── (地震学者)

◎島村英紀 (地震学者) さんのホームページ(こちら
【島村英紀・最近の雑誌やテレビ・ラジオから】より
 インターネット雑誌『ダイヤモンドオンライン』 2015年6月17日
 [「次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか―
 島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く」にコメントを掲載]より転載

 死者・行方不明者が63人にも上った昨年9月の御嶽山噴火。今年に入ってからも、箱根山や口永良部島、浅間山など、火山活動が活発化したり、噴火に至るケースが相次いでいる。この現状を専門家はどう見ているのだろうか。
         (聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部?津本朋子)

火山の噴火予知は難しい
御嶽山に「騙された」科学者たち

――では、噴火警戒レベルはあまりアテにならないのでしょうか?

  昨年の御嶽山噴火では、噴火警戒レベルを上げなかったために登山者が大勢いて、大きな被害を生んでしまいました。これは、御嶽山に不意打ちを食らい、「騙された」とでも言いたいようなケースでした。
 御嶽山はそもそも、過去には死火山に分類されていた火山です。それが79年にいきなり噴火し、気象庁も火山学者も非常に驚いた。それ以降、「死火山・休火山・活火山」という分類をやめてしまったほどです。今は、「活火山(過去1万年以内に噴火したことが分かっているもの)」と、「そうでない火山」という分類になっています。
 その御嶽山は2007年にも小規模な噴火を起こしました。このときは、4ヵ月前から火山性地震や山体膨張、2ヶ月前からは火山性微動も観測されていました。しかし、14年の噴火では、2週間前に火山性地震が一時的に増えたものの、収まっていた。火山性微動が観測されたのは、噴火のわずか11分前でした。それなのに、多くの前兆があった07年よりも、ずっと大きな規模の噴火が起きてしまいました。
 つまり、79年の噴火と14年の噴火で、気象庁と火山学者は2度、御嶽山に騙されたのです。
 御嶽山のように前兆と噴火規模のつじつまが合わなかったり、たくさん前兆があっても噴火に至らないケースも多いので、07年の噴火警戒レベル導入時、火山学者のあいだでは「本当に導入してもいいのか?」と問題視する声が上がりました。
 有珠山や浅間山、桜島、雲仙岳あたりは、その火山の「ホームドクター」といえる火山学者がいて、観測体制が充実している。しかし、それ以外の火山にはホームドクターはいませんし、先に述べたように、噴火のクセも良く分かっていない。それなのに本当に導入していいのか、と。その懸念が現実化してしまったのが、御嶽山のケースとも言えます。
 また、火山活動がいつ終わったのかを見極めるのも、至難の業です。実際には、収まって半年もしてから「終わっていました」と言うのが精一杯なのです。残念ながら、噴火警戒レベルは決めるのが難しく、アテになるものでもないのです。


.. 2015年06月29日 08:02   No.924008


▼返信フォームです▼
Name
Email
ホームページ    
メッセージ
( タグの使用不可 )
Forecolor
アイコン   ICON list   Password 修正・削除に使用