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書くことで推進力 社会批判で元気を 近未来小説集「献灯使」 多和田葉子さん
ドイツ在住で、日独の両言語で創作を続ける多和田葉子さん(54)の新作『献灯使』が、講談社から刊行された。表題作など5編からなる「近未来小説集」だ。福島原発事故後の日本に深い思索を巡らせつつ,ユーモアと希望を忘れない作品を通して、『不安があるのなら、真正面から向き合う方がいい」と語りかける。 震災当日、多和田さんはベルリンの自宅にいた。その後、原発事故でメルトダウンとのニュースが流れた。「ドイツでは、原発技術に自信がある人も、物理学者であるメルケル(首相)も、すぐ原発はやめましょう、となった」 一方、日本のネットでは、福島近辺から避難する家族を攻撃する発言が書き込まれるようになり、驚いた。「国際社会の一員のはずの日本に、それとは全然違う政治の構造や考え方があると分かってショックだった」と話す。 原発事故が起きて初めて分かったことや、新たな疑問が生まれたという。「総理大臣も天皇も歯が立たない、影の集団が存在する。人の命や健康より、金と権力を重んじる人々だ」。そんな焦燥感に駆られ、2011年夏に収録作の短編「不死の島」を書き上げた。(中略) 日本社会で自主避難が攻撃されるルーツに思いをはせた。江戸時代の幕藩体制で、人々は移動を禁じられていた。常に移民し続ける欧州社会とは対照的だ。そのことを作品で「再び鎖国された日本」の形で描いた。(中略) 作品には秘密保護法に似た法律も登場する。多和田さんは「関東大震災のように、大災害後に恐ろしい法が通る。だから大げさに書いておこうと思ったら、現実に先を越された」と苦笑いする。「抑圧される側が協力して言論統制が到来する。どこまで書けば規制されるか確かめるため、どんどん書けばいいと思う。」 (後略)(12月2日夕刊より抜粋)
.. 2014年12月05日 11:26 No.840001
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