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■--警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識
++ 島村英紀 (大学生)…70回          

火山がない場所でもマグマが上がってくれば地震がおこる
 |  年に5万回、マグマが起こした群発地震
 |  長野市の南東にある松代(まつしろ)のできごと
 |  
 └──── (地震学者)

○ 長野県には年に5万回もの有感地震に揺すぶられた町がある。ここでは2年間に9回も震度5に襲われた。
 この町は長野市の南東にある山間の町、松代(まつしろ)。いまは長野市の一部になっている。
 群発地震が始まったのは1965年夏。東京よりずっと地震が少ないところだから1日数回の有感地震でも目立った。
 地震は日に日に増え続け、1日数十回から、秋には1日に100回を超えた。
 人々に不安が拡がった。翌年になると地震は減りはじめた。やっと峠を越えたかという安堵が人々の心に芽生えた。
 だが地震は人々を裏切った。3月からは一転、あれよあれよという間に地震の数は増え続け、5月には有感地震は1日約700回にもなった。地震計だけが感じるもっと小さな地震まで数えれば1日に7000回以上。平均5秒に1回というすさまじいものになった。つまり地面はほとんど揺れ続けていたのだ。
 地震の回数が増えるにつれて大きい地震も混じった。5月には震度4の地震が37回、震度5も8回あった。
 震度が5だと家が倒れる心配がある。夜も眠れない。群発地震から大地震に至った例もあるから、人々の恐れは頂点に達した。
 だが幸いそれ以上の大地震は来ないまま、地震の数は再び減りはじめた。6月には有感地震が1日200回、7月には1日150回ほどになった。これでも前年秋に大騒ぎになったときより多かったのだが、ようやく終わりに向かったのではという期待が人々の心にふくらんだ。
 ところが、まだあったのだ。8月から地震がまた増えはじめ、その月のうちにまた1日500回もの有感地震に揺すぶられることになった。群発地震が始まってから1年以上、人々は終わりの見えない地震に翻弄されて疲れきっていた。
 しかしこれが最後だった。地震はその後順調に減りつづけ、1年半ぶりにようやく群発地震がはじまった初期の水準にまで戻った。
 地震のほかに奇妙なことがあった。1966年春から途方もなく大量の水が震源の近くの皆神(みなかみ)山から湧き出してきたのだ。夏には毎分2トン近くにもなった。家庭用の風呂を6秒でいっぱいにしてしまう勢いである。
○ 松代の地下で何が起きたのか分かったのは、その後、研究が進んでからだった。
 それによればこの群発地震は、火山地帯でもない場所に地下からマグマが上がって来て起こしたものだった。そしてマグマは途中で冷えて固まってくれた。大量の水も、マグマが地下深くから運んできたものだった。
○ 北海道函館の沖の津軽海峡でも1978年から1982年にかけて群発地震が起きて観光客も減った。震源は沖なのに函館でも38回の有感地震を感じた。
 これも上がってきたマグマが起こしたもので、マグマは途中で止まったと考えられている。
 火山がないところだと安心してはいけない。どこにマグマが上がってくるかわからないのだ。
               (7月11日『夕刊フジ』より)
.. 2014年07月14日 08:54   No.762001

++ 柳田真 (大学院生)…126回       
地震は東電柏崎刈羽原発7基に大打撃を与えた
 |  7年前の7月16日中越沖地震と原発の強い関係・苦い教訓
 └──── (たんぽぽ舎)

 7年前の7月16日、震度6強の地震が新潟県柏崎市や刈羽村をおそった。東京電力柏崎刈羽原発7基は大きな打撃を受けた。多くの人が(世界中が)火災で黒煙を上げる原発を見た。東電はこの時の苦い教訓から東電福島第一原発(6基)に免震重要棟をつくった。この時、東電がキチっとした深い反省をしていれば、2011年3月11日の福島第一原発事故は防げた可能性があった。今後随時、7年前の「地震と原発の教訓」を掲載します。

.. 2014年07月17日 08:27   No.762002
++ 島村英紀 (大学生)…71回       
避難者3%・・津波過大予報は役所の“保身"
 |  いちばん影響を受けるはずの海岸近くに住む人々が繰り返される
 |  過大な予報に「慣れてしまう」のは、科学的で正確な津波予報が
 |  出来ていないせい
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその60
 └──── (地震学者)

○ 先週の7月12日の早朝4時すぎ、東北地方一帯に津波注意報が出た地震が起きた。
 震源は福島県沖、マグニチュード(M)は6.8だった。これは東日本大震災(東北地方太平洋沖地震=2011年)の余震で、昨年10月26日のM7.1以来の大きめの余震だった。このクラスの大きさの余震は、東日本大震災以後9個目である。
 東北地方太平洋沖地震はM9。いままで世界で起きた大地震の例だと、余震は数十年以上も続くことが多い。また最大の余震はMが本震よりも1ほど小さいものが起きた例が多い。
 その意味では、東日本大震災の余震はこれからも続くし、中には大きなものも起きる可能性はまだ残っている。
 今回の震源は福島県いわき市の沖140キロ。陸からは遠かったので、陸地での最大震度は4だった。もし震源がもっと陸に近ければ震度はずっと大きくて被害も大きかった可能性が強い。
○ 地震の4分後の4時26分に気象庁は福島、岩手、宮城の3県に津波注意報を出した。「福島では4時40分、宮城と岩手では4時50分頃から予想される津波の高さ1メートルの津波の第1波が到着する」というものだった。1メートルとは「養殖いかだが流失し小型船舶が転覆する」津波だ。
 これを受けて岩手、宮城両県では合わせて9市町村が避難指示か避難勧告を出した。勧告の対象は少なくとも計約1万1千世帯、2万6千人に上った。なぜか福島県内では指示、勧告はいずれも出なかった。
 気象庁の発表を受けてラジオやテレビでは津波注意報を流し「第一波がたとえ小さくても後から大きい津波が来ることがある」と繰り返し注意をうながした。
 しかし、実際に避難したのは全体の3%ほど、わずか858人だったことが報道されている。
 そして実際の津波も岩手県大船渡市と宮城県石巻市鮎川で20センチ、あとのところはそれよりもずっと小さかった。
 じつは東日本大震災の大きな余震としてはひとつ前の昨年10月26日のM7.1のときも、岩手、宮城、福島の3県のほか、茨城県や千葉県の九十九里や外房にも「最大1メートル」という津波注意報が出た。だが実際に来たのは岩手と宮城でせいぜい30センチ、茨城と千葉では検知できないほどだった。
○ 前にもこの連載で書いたことがあるが、津波注意報や津波警報が信用できないことが繰り返されてきている。
 お役人にとっては大きめな予報を出し、避難を指示すれば、もし大きな津波が襲ってきたときの「保身」には役立つだろう。
 しかし、いちばん影響を受けるはずの海岸近くに住む人々が、繰り返される過大な予報に「慣れてしまう」のは、科学的で正確な津波予報が出来ていないせいなのである。 (7月18日『夕刊フジ』より)

.. 2014年07月29日 11:57   No.762003
++ 島村英紀 (大学生)…72回       
人工的に起きたオクラホマの誘発地震
 │ 私が地震学者として思い当たるのはシェールガスの採掘である
 │ 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその61
 └────(地震学者)

≫≫地震学の教科書には「米国では西岸のカリフォルニア州と北部のアラスカ
州だけに地震が起きる」と書いてある。
 しかし情勢は変わった。この6月には米国南部にあるオクラホマ州で起きた
地震が全米一になったのだ。オクラホマ州では2008年までの30年間に起きた地
震は、ごく小さなマグニチュード(M)3まで数えても2回しかなかった。つま
り先天的な無地震地帯だった。
 だが2009年には20回、2010年にはさらに増えて43回の地震が起きた。そ
の後ほとんど毎年増え続けて今年は6月19日までに207回に達した。この数
は今年の同じ期間でのカリフォルニア州の140回を抜いた。全米一になった
のだ。地震の数が増えるとともに、最近は大きめの地震も混じるようになって
いる。7月12日にはM4.3の地震が起きた。

 米国で地震観測を担当するのは米国地質調査所だ。その専門家は「過去半年
の地震発生頻度を見ると、さらに大きく破壊的な地震の発生を懸念する理由は
十分にある」と警告した。このほか7月12日から翌日にかけて7回の地震が相次
いだ。棚から物が落ちたり、建物に亀裂が入った。いままで地震がなかっただ
けに、結構な騒ぎになっている。
 震源は州都オクラホマシティーから北に隣接するローガン郡にかけて拡がり、
震源の深さは8キロと浅い。

≫≫私が地震学者として思い当たるのはシェールガスの採掘である。前にこの
連載で書いたように、近年シェールガスの採掘が盛んになった米国各地で、い
ままでに起きなかった地震が頻発している。
 オクラホマ州の北東にあるオハイオ州でも地震が起きだしている。同州北部
のシェールガス井の周辺だけで起きている地震だ。ここでは2011年12月31日に
同州でかつて起きたことがないM4.0の地震が発生した。このためこの地震後
に、その掘削井戸から半径8キロ以内の注入井にまで井戸の閉鎖を拡大した。

 そのほか2011年にはアーカンソー州でも大規模な群発地震が発生して、当局
は注入井2か所の操業を一時停止させた。米国内陸部のアーカンソー州、コロ
ラド州、オクラホマ州、ニューメキシコ州、テキサス州でM3以上の地震が、
2011年段階ですでに20世紀の平均の6倍にも増えている。いずれもシェールガ
ス採掘が最近盛んになった州だ。

 シェールガス採掘には「水圧破砕法」という手法が使われている。化学物質
を含む液体を地下深くに超高圧で注入して岩石を破砕する手法だ。これによっ
てシェール(頁岩=けつがん)層に割れ目を作る。そこから層内の原油やガス
を取り出すという掘削法である。
 シェールガス採掘には限らない。石油や天然ガスの掘削、ダム、廃液の地下
投棄・・。地球内部に影響を及ぼすような人工的な作業が地震を起こす例はこ
のところ世界的に増えている。

 さて、地震がなかった米国内陸部でも被害地震が起きるのだろうか。
                (7月25日『夕刊フジ』より)

.. 2014年08月08日 07:53   No.762004
++ 島村英紀 (大学生)…73回       
気象庁は日本のどこかで震度5弱以上の地震が起きると昼夜を問わず記者会見
 |  北海道南部にある白老(しらおい)町で震度5弱を記録した地震
 |  「火山性地震か構造性地震(注)なのか見極めるのは難しい」
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその62
 └──── (地震学者)

○ 気象庁は日本のどこかで震度5弱以上の地震が起きると、昼夜を問わず記者会見を開いて起きた地震について説明することになっている。このため東京千代田区にある気象庁では課長か課長補佐以上がネクタイやスーツを用意して交代で泊まり込んでいる。
 7月8日には北海道南部にある白老(しらおい)町で震度5弱を記録した地震があって記者会見が開かれた。
 気象庁は火山との関係はないという。東日本大震災の3日後に富士山の直下で大きな地震が起きて地元で震度6強を記録したときも震源は富士山直下とは言わず「静岡県東部」と発表した。
 今回のマグニチュード(M)は5.8、震源の深さは気象庁の発表で「ごく浅い」。つまり深さが決められないくらい浅かったということだ。
○ 不思議なのは震源の位置だった。白老町は太平洋岸にあり、震源から20キロも南に離れている。震源は支笏(しこつ)湖のすぐ南、つまり樽前(たるまえ)山(1041メートル)の直下にあったのだ。白老の震度が最大震度として記録されたのは震度の観測点が近くにはなかったからだ。
 樽前山は活火山で、噴火するのでは、と近年、緊張が高まっている。山頂は立入禁止になっている。頂上に熔岩ドームがシルクハットのような形でそびえていて、噴火でこのドームが崩れると大規模な火砕流が起きて山麓の苫小牧市などを襲う可能性が高い。
 もし樽前山が噴火をしたら函館から札幌へ行くJRのほか近くの新千歳空港も使えなくなる。つまり本州と札幌を結ぶ北海道の大動脈が切られてしまうことになる。過去の大噴火のときには火山灰は日高山脈を越えて道東にまで降った。
○ じつは地震学的には、起きた地震が「火山性地震」なのか、普通の地震(学問的には「構造性地震」という)かを見分けることは難しい。
 この8日の地震も、起きた場所といい、起きた深さといい活火山と関係があるのではないかという嫌疑は強いが、それを見分ける根拠はない。このへんで浅い構造性地震が起きることは珍しいだけに、火山との関連が疑われるのだ。
 もちろん樽前山を監視するために、さまざまの火山現象をとらえるための監視も行われている。それらに変化があれば「火山情報」が出されることになっている。いまのところは「情報」は出ていない。
○ 震源の近くに観光地「苔の洞門」がある。岩が両側に切り立った昼なお暗い通路にびっしり苔が生えている奇観だ。これは1739年に樽前山が大噴火して大量の火砕流が積もってできた溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)が、その後の土石流で侵食されて作られた深い枯れ沢である。
 8日の地震で洞門の観覧台近くで1メートルを超える岩が崩れ落ちたほか、洞門内部でも4−5カ所で崩落が確認された。
 幸い地震が起きたのが午後6時すぎで現場の営業は終わっていた。観光客はおらず、けが人はなかった。もし数時間早かったら悲劇が起きていたかもしれない。
(8月1日『夕刊フジ』より)
※注:事故情報編集部より
 構造性地震(普通の地震)

.. 2014年08月08日 15:54   No.762005
++ 島村英紀 (大学生)…74回       
火山も原発も透視できる「ミュー粒子」
 │ 浅間山や昭和新山などで始まったばかりだが、少しずつわかってきた。
 │  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラム63
 └────((地震学者))

 知らない間に皆さんの身体はもちろん、岩も通過していっている透過力が強
い素粒子がある。ミュー粒子というものだ。宇宙線が地球の大気と衝突して
次々に生まれている。寿命はたった100万分の2秒しかないが、1平方メート
ル当たり毎分1万個も飛んでいる。
 このミュー粒子を使って、いままで見えなかった火山の内部が見えるように
なった。
 だが、それだけではない。メルトダウンを起こした福島第一原発の内部調査
にも使われようとしている。
 原発の中はめちゃめちゃになっているに違いない。破壊された3基の原子炉
の炉心のほか、放射性物質まみれの何百トンものがれき、そして崩れ落ちた原
子炉建屋の建材や金属フレーム・・。
 しかしこの内部、とくに溶け落ちた核燃料が正確にどこにあってどうなって
いるかは、まったくわからない。これを知らなくては廃炉作業が進まない。
 これを調べるために原子炉内に立ち入ることはとうてい不可能だ。カメラを
入れるために穴を開ければ、そこから大量の放射性物質が飛び出すから、これ
も危険だ。
 身体の内部ならばX線で透視できるから、骨や内臓の密度が濃淡で表された
写真が撮れる。だが原子炉も火山も、X線では通りぬけられない。

 一方、ミュー粒子は3メートルもの厚いコンクリートに取り巻かれた原子炉
や、火山岩や火山灰に覆われた火山の内部も通りぬけられる。そしてX線写真
と同じように内部にあるものの密度に応じた写真を撮ることが出来る。
 火山でどのようにマグマが上がってきて噴火に至るのか、噴火の後で残った
マグマはどこへいってしまうのか、といった噴火のメカニズムは、まだ十分に
わかってはいない。
 ミュー粒子を使った透視は、長野・群馬県境の浅間山や北海道の昭和新山な
どで始まったばかりだが、まだぼんやりした画像ながら、少しずつわかってき
ている。
 それによれば、浅間山では火道(かどう)の上部に空洞が見えた。火道とは
噴火のときのマグマの通り道だ。つまり噴火が終わった後で、火道を満たして
いたマグマは冷えて下に落ちてしまっていたことがわかった。
 ところで原子炉や核兵器に使われるウランやプルトニウムは特別に密度が大
きいのでこのミュー粒子を使う透視手法が有効だと思われている。
 すでにウランやプルトニウムの密輸を防ぐために、怪しいと思われる船積み
用のコンテナ輸送容器を開けずに外部からスキャンするための装置は米国で使
われている。
 これはまだ、ぼやけた像しか見えないが、その装置を洗練して、福島の原子
炉の内部を精密に見ようとしているのだ。うまくいけばいいのだが・・。
                     (8月8日『夕刊フジ』より)

.. 2014年08月11日 08:44   No.762006
++ 島村英紀 (大学生)…75回       
中森明菜事件で逃した噴火の決定的瞬間
 |  伊豆東部火山群としては有史以来初めての噴火
 |  火山の噴火は専門家でも予知できないほど突然に起きることがある
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその64
 └──── (地震学者)

 中森明菜が"原因"で、テレビ局が火山噴火の決定的な画像を撮りそこなったことがある。
 1989年6月30日、伊豆半島の伊東市の沖で群発地震がはじまった。7月9日にはマグニチュード(M)5.5の地震が起きた。この地震で家具が倒れて下敷きになるなど21人の怪我人が出た。
 伊豆半島の東の沖にはよく群発地震が起きる。数年おき、ときには毎年のように起きてきている。しかしこのときは、それまでの群発地震とは違った。7月11日からは「火山性微動」が観測されはじめたのだ。火山性微動は火山が噴火する直前に出ることが多い。マグマの動きとともに地面が連続的に揺れ続ける現象だと考えられている。
 気象庁は噴火の危険性が高いと発表した。だがどこで噴火するのかはわからなかった。どこで噴火がおきてもおかしくないと報道され、人々に不安が拡がった。
 伊豆半島の東部からその沖の海中にかけての一帯には「伊豆東部火山群」といわれる小さな火山がたくさんある。それらは「単成(たんせい)火山」というもので、富士山のように噴火を繰り返すのではなく、たった一回だけの噴火でできた火山である。伊東市にある大室(おおむろ)山(標高580メートル)も典型的な単成火山だ。約4000年前に作られ「甘食」そっくりの形(平べったい円錐形)をしている。
 群発地震はなかなかテレビ向きの画にはならない。だが火山の誕生となればインパクトが違う。このためテレビ局の多くが伊東に駆けつけた。
 しかしテレビ局にとって別の大ニュースが伝えられた。中森明菜が自殺未遂事件を起こしたのだ。交際をしていた恋人で歌手の近藤真彦の自宅でのことだった。
 このため伊東にいたテレビクルーのほとんどはあわてて帰京した。
 その「留守」の7月13日の18時33分、伊東のすぐ沖で海水を盛大に吹き上げて海底噴火が始まった。まだ明るい時間だったし、陸地から2キロあまりの目と鼻の先なのでよく見えた。
 この噴火をとらえたテレビカメラは残っていた一社だけだった。大部分のテレビ局は、伊豆東部火山群としては有史以来初めての噴火を逃してしまったのである。
 じつはこの噴火では観測船が間一髪のところだった。海上保安庁の観測船「拓洋」がこの一帯で海底地形の変化を測っていた。これは船を東西南北に走らせながら船の下の水深を超音波を使って測るものだ。この調査で拓洋は海底から高さ25メートル、直径450メートルの円錐形をした海丘を発見していた。以前にはなかったものだ。
 そして引き続き周辺の調査をしていたときに、この海丘がいきなり噴火したのだった。
 もし真上にいたら1952年の観測船「第五海洋丸」事故の再来になったかも知れない。西之島新島と本州のあいだにある明神礁(みょうじんしょう)。海底火山の噴火で吹き飛ばされて31名全員が殉職した。
 火山の噴火は専門家でも予知できないほど、突然に起きることがあるのだ。
(8月15日夕刊フジより)


.. 2014年08月22日 08:09   No.762007
++ 島村英紀 (大学生)…76回       
スペインで実例、地下水が誘発する地震
 │ −東京の地下水位上昇が、直下型地震にとって吉と出るか凶と出るか
 │ 地震学者は気になっている
 │  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその65
 └────(地震学者)

 上野駅の新幹線地下ホームには床に3万3000トンもの鉄板を敷き詰めてある。
地下水によって上野駅が浮き上がってしまわないための重しを後から追加した
ものだ。
 東京駅も同じだ。ここでは総武線ホームが地下5階なのに地下水位は地下3
階付近まで上がってきている。こちらは鉄製おもりを置いただけでは足りなく
て1999年には130本もの「グラウンドアンカー」というものを地中に打ち込ん
で浮上を止める工事が行われた。
 それだけではない。千代田区にある東京駅から品川区の立会川まで地下に導
水管が敷設されて、地下水を放流している。立会川は典型的な都市型中小河川
なのでふだんは水量が少なく、そのため悪臭を発生するのが問題だったから助
かったことになる。
 しかしJRはもっと「助かった」。もし東京駅近辺で下水に放流したら多額
の下水道料金を払い続けなければならなかったからである。上野駅でも湧出地
下水を近くの不忍池(しのばずのいけ)へ導水管を使って放流している。
 もともと東京は江戸時代以前から地下水が豊富だった。それゆえ都市が発達
できたのだ。
 しかし工業用地下水など大量に汲み上げが続いて「ゼロメートル地帯」が増
えるなど地盤沈下の問題が深刻になった。
 このため1961年以降、地下水の揚水や水溶性天然ガス採取が厳しく規制され
るようになった。
 その結果、問題だった地盤沈下は止まった。だがそれとともに、いままで下
がり続けていた地下水位が近年、各地で上がってきているのだ。
 上野駅や東京駅近辺だけではない。墨田区で45メートル、新宿区で39メート
ル、板橋区で60メートルなど、軒並み数十メートルも地下水位が上がってきて
いる。
 このため地下建造物、つまりトンネルやビルの地下構造部に流れ込む湧水も
増えている。ほとんどのところでは汲み上げて下水に流すしかない。これら湧
水は東京ドーム約900杯分。東京都が2012年度に徴収した下水道料金の総額は
約1700億円にものぼった。
 ところで地下水位の変化がスペインで地震を起こしたことがある。襲われた
のは同国南東部ムルシア自治州にある人口約9万人の地方都市ロルカ。この都
市を中心に地下水の汲み上げが続いて地下水位が1960年代から約250メートル
も低下していた。
 これにともなって地盤が沈下することで年々ゆがみがたまり、地下水を汲み
上げていない北側の地盤が乗り上がる逆断層型の地震が起きたのだ。
 地震は2011年5月に発生。建物が倒壊して9人が死亡したほか百人以上の負
傷者が出た。マグニチュード(M)は5.1だったが震源の深さは2−4キロとご
く浅い直下型地震だった。そのため地震の規模のわりに被害が大きく、スペイ
ンでは1956年以来の被害地震になってしまった。
 地下水は地下に大きな力をかける。その地下水の量が変化することで地震が
誘発されることは十分に考えられる。
 東京の地下水位の低下が止まって、近年上がってきたことが、東京の直下型
地震にとって吉と出るか凶と出るか、地震学者は気になっているのだ。
                    (8月22日『夕刊フジ』より)

.. 2014年08月26日 08:10   No.762008
++ 島村英紀 (大学生)…77回       
ジャンボ機のエンジン停止させる噴煙
 |  100キロ以上離れた澄んだ空にも潜む危険な存在
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその66
 └──── (地震学者)

○ 地球物理学者が一般の人が知らない危険を知っていたことがある。大型ジェット旅客機B747ジャンボの4基全部のエンジンが飛行中に停止してしまったことだ。
 起きたのは1983年から1989年。インドシナ半島の上空で2回、米国アラスカ州の上空で1回、合計3回も全エンジンが停止した。これは学会誌に報告されているが、3件とも幸い大惨事にはならず、地表に激突する前にエンジンが再始動したので新聞やテレビでは報道されなかった。
 原因は遠くの火山の噴煙だった。もちろん、パイロットは目の前にある火山の噴煙を突っ切ろうとはしない。また噴煙は機首にある気象レーダーでもよく見える。だがこの事件は、こういった「見える」噴煙から数十キロメートル、ときには100キロメートル以上も離れた澄んだ高々度の青空で起きた。インドシナ半島上空でジェットエンジンを止めたのは、はるか遠くのインドネシアの火山からの薄い噴煙だった。
 噴煙には大量の石英(せきえい)の粉が含まれている。細かいものだから火山からはるか離れた上空まで漂っている。
 尖って硬い石英の粉がエンジンに吸い込まれると、高速で回転しているタービンブレードなどエンジンの主要部分の金属をヤスリをかけたように削ってしまう。自動車とちがって飛行機にはエンジンに飛び込む異物を取り除くエアクリーナーはないのだ。
 そのうえ石英の粉はエンジンの高温で溶け、エンジン内部に焼き付いてしまう。削られたうえに重い異物を付けられたらエンジンはたまらない。
○ 2010年にアイスランドで火山が噴火して、欧州で10万便以上が欠航して何百万人もの乗客が足止めされた。
 地球では上空どこでも偏西風という強い西風が吹いているから、アイスランドからの噴煙は東の欧州全域を薄く覆った。1980年代の苦い経験から、航空会社は噴煙が目には見えない薄いものでも危険なことを知って運航を止めたのである。
 先日からアイスランドにあるバルダルブンガ火山が噴火する兆候がある。火山は幅25キロ、標高約1900メートルで最後に噴火したのは1996年。欧州最大級のバトナ氷河の下にある。
 火山周辺で地震活動が活発化していて小噴火も始まった。8月16日朝から3000回もの火山性地震が続いている。18日にはマグニチュード(M)4.6、26日には前回の噴火以来最大のM5.7の地震が発生した。
○ アイスランドでは19日に火山北側の住民避難を開始したほか、火山周辺では道路が閉鎖された。噴火したら氷河が融けることによって大洪水が発生するから、もっと広い範囲の道路が閉鎖されるだろう。
 アイスランドに火山が多い理由は、ここでユーラシアプレートと北米プレートの二つが生まれているからだ。この二つのプレートは地球をそれぞれ半周して日本で再び出会う。つまり日本の地震の「源流」はここにある。私が研究のために13回も同国を訪れた理由はここにあるのだ。 (8月29日『夕刊フジ』より)

.. 2014年09月08日 08:48   No.762009
++ 島村英紀 (大学生)…78回       
噴火口がつくる「天然の良港」−世界各地海際の噴火口は良港
 |  ニューギニア島ラバウルにあるタブルブル火山噴火
 │   「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その67
 └──── (地震学者)

○先日のアイスランドに続いて、パプアニューギニアでも火山噴火が始まった。両方とも、私が研究のために行ったところだ。
 8月29日にラバウルにあるタブルブル火山(標高約220メートル)が火山灰を上空18キロまで吹き上げた。噴煙や地鳴りが続いているので火山近くの住民を退避させ、周辺地域の住民にも屋内にとどまるよう呼び掛けている。
 ラバウルは日本からオーストラリアへの飛行機からよく見える。このため前回に書いたように火山灰によるエンジンの損傷を怖れて、カンタス航空(オーストラリア)は、シドニー−成田便の航路変更を決めた。
 ラバウルはニューギニア島の北東にあるニューブリテン島の町で人口は10万人。歴史的な文書が残っている最近200年だけでも7回もの大噴火があった。
 いちばん最近の大噴火は1994年で、市街地に3−10メートルもの火山灰が積もった。火山灰は州政府や市役所や警察や消防がある官庁街と商店街を直撃して建物を押しつぶした。噴火直後に熱帯特有のスコールが降ったために泥流と洪水が発生し、降灰の被害はさらに大きくなった。
 私が行ったのはこの噴火後の1996−1997年で、オーストラリアの研究者とともに、ラバウル周辺の地下に拡がっているマグマを探る研究だった。
 噴火でラバウルの町は廃墟になったままだった。幸い、今回の噴火はそれほどの規模にはなるまいと思われている。
○タブルブル火山は私の滞在中にも小噴火した。その数日前には、私の知人であるスペインの地球化学者が噴気ガスを採取するために山頂に登っていた。危ないところだった。また知人のオーストラリア人の火山学者は、研究を続けていて火山灰を吸い込んでじん肺になった。火山を研究する学者は職業としてはもっとも危ない科学者なのである。
 じつは私は1971年にもラバウルへ行ったことがある。観測船で訪れたものだ。ラバウルは1975年の独立前でオーストラリア領だった。植民地としてのいろいろの問題があったはずだが、緑に覆われた熱帯の楽園に見えた。いつまでも続くように見えた平和な楽園の暮らしは噴火で一変してしまったのだ。
 ラバウルは第二次世界大戦中、地理的な位置と天然の良港ゆえ日本軍が南方進出の足がかりにした大基地で、10万人もの日本軍が滞在していた。漫画家の水木しげる氏が従軍していて左腕を失ったのもここだ。
 州都であり日本軍の大基地でもあった理由、「天然の良港」を作っているのは、じつは海沿いにある昔の噴火口だ。ほぼ円形で外海の波を防げるし、中は十分深い。戦時ならば潜水艦が身を潜めるにも最適だった。
○地球科学者から見れば、そもそもラバウルは火山カルデラの中に町を造ってしまったところだ。このためタブルブルほかいくつかの火山に取り囲まれている。
 いや、ラバウルには限らない。伊豆大島の南端にある波浮(はぶ)港も噴火口なのだ。世界各地で海際の噴火口は「天然の良港」なのである。
  (9月5日『夕刊フジ』より)

.. 2014年09月16日 09:57   No.762010


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