返信


■--(無題)
++ 島村英紀 (中学生)…44回          

コラムその31「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」
 │ 「富士山噴火しない」はあり得ない
 │ 現在、噴火中の小笠原の新島も富士山とつながっている!
 │ 前兆なしに噴く多数の火山、富士山も適切な前兆を出すとは限らない
 └────(地震学者)

○富士山の最後の噴火は1707年(宝永4年)のことだった。以後、300年以上も
噴火していない。噴火をくり返してきた富士山でこれほど長い休止を経過した
ことはない。たとえば平安時代は約300年間だったが、その間に10回も噴火し
ている。地球物理学から見れば、富士山がこのまま将来も噴火しないことはあ
り得ない。
 富士山の下には太平洋プレートがフィリピン海プレートと衝突して潜り込ん
だときに出来るマグマが次々に生まれていて、これがやがて噴火して出てくる
ことは明らかだからである。
 この二つのプレートの衝突は富士山の直下だけではない。そこから南へ1000
キロ以上も続いていて、マグマも富士山の下から帯状に南へ続いている。11月
から噴火を続けている小笠原・西之島の新島も、このマグマが上がってきたも
のなのである。
 マグマが地下で南北に伸びる帯状につながっているから、そこから上がって
きて噴火する火山も南北の列になる。富士火山帯だ。1989年に伊豆半島の伊東
の沖で海底噴火した手石海丘も、伊豆大島も八丈島も、この火山帯に属する火
山なのである。三宅島で4月に火山性の群発地震が起きたのも、この火山帯の
活動の一環である。

○ところで、富士山がいずれ噴火することを予想して、もちろん、それなりの
観測網が敷かれている。残念ながら地下のマグマの量や動きを見ることは現在
の科学では出来ない。それゆえ他の活動的な火山と同様、付近で起きる小さな
地震の観測や、山体膨張の観測である。
 このうち、富士山では特有の地震が観測されている。「低周波地震」だ。他の地震とはちがって低い周波数成分が多い地震である。
 この地震はマグマの動きと関連している。他の火山で観測されることもあるが、富士山では地下15 - 20キロ、つまり富士山の高さの5倍もの深さのところ起きる。
 
.. 2013年12月15日 12:39   No.667001

++ 島村英紀 (中学生)…45回       
この低周波地震はいままでも増減をくり返してきた。たとえば2000年ごろに
はずいぶん増えて科学者たちを緊張させたが、なにごともなくおさまってし
まった。
 他方、山体膨張はほぼ一様に進んでいる。富士山が膨らんでいるわけだ。こ
れは地下のマグマが増えているためだと思われている。実はこの山体膨張が
2006年からわずかながら加速しているのは、とても気になる。
 このように富士山は「監視下」にある。

 しかし安心は出来ない。最大の問題は、最後の噴火が300年以上も前だった
から、噴火の前に何が起きたかが分かっていないことなのである。つまり、小
さな地震がどこまで増えたら、あるいは山体膨張がどこまで進んだら噴火する
のか、という限界が分かっていないことなのだ。
 福島県の磐梯山では2000年の夏に地震が増えて一日に400回を超えた。
しかし結局は噴火しなかった。他方、なんの前兆もなしに噴火した火山も多い。
富士山も事前に「適切な予兆」を出してくれるとは限らないのである。
(12月13日『夕刊フジ』より)

.. 2013年12月15日 13:07   No.667002
++ 島村英紀 (中学生)…46回       
.「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その32
 |  南海トラフ巨大地震と噴火のつながり
 |  地震と火山はプレートが海溝で衝突することで起きる現象、
 |  なにかがつながっているのにちがいない
 |  南海トラフ地震が襲ってくる前か後に、火山がまた噴火するのだろうか
 └──── (地震学者)

○東京から見る富士山は左右対称の整った姿ではない。左側の山腹が盛り上がっていることが対称を破っているのだ。これは前回話した富士山の最後の噴火(1707年=宝永4年)による噴火のせいだ。
 この噴火は富士山の山頂ではなくて、南東側の山腹で起きた。このため、宝永火口が富士山のなだらかな横っ腹に醜く開いてしまった。
 この噴火はとても大規模な噴火で富士山の三大噴火のひとつだった。あとの二つは平安時代に発生した「延暦の大噴火」と「貞観の大噴火」である。
 前回話したように平安時代400年間に、富士山は10回も噴火している。なお前回、平安時代の期間表記に誤りがあったことをお詫びして訂正する。
正確に言えば、平安時代のはじめの300年の間に10回(一説によれば12回)も噴火したのである。

○ところで、この宝永噴火は、大規模な海溝型地震であった「宝永地震」の直後に噴火したものだ。
 大地震のほとぼりも冷めない49日目に噴火が始まった。世界的にも、地震と噴火が連動した例は多い。
 たとえば、マグニチュード(M)9を超える超巨大地震は近年7回起きたことが分かっているが、いちばん最近の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)を除いて、すべての大地震では地震から4年以内に、近くで火山が噴火している。
 もっとも、東日本大震災からまだ2年9ヶ月しかたっていないから、この「法則」の例外であるかどうかは、まだ分からない。
 ちなみに、宝永地震はもし地震計の記録があればM9クラスではなかったかと最近は考えられている。

○このほか北方四島の国後(くなしり)島にある爺爺岳(ちゃちゃだけ。1822メートル)の例がある。この火山は、19世紀のはじめ以降200年近くも噴火していなかった。
 噴火はしていない火山でもよく見られる噴気(水蒸気の発生)さえも見えないほどだった。
 しかし1973年に突然、長い眠りからさめて噴火した。それ以後は火山活動が活発になり、1978年7月にも噴火した。
 そして、その5ヶ月後の1978年12月には、すぐ南東側の海底、つまり北海道の東にある国後水道でM7.8という大きな地震が起きたのだった。
このときは噴火が先、地震があとになった。

○地震と火山は両方ともプレートが海溝で衝突することで起きる現象だから、なにかがつながっているのにちがいない。
 海溝から潜り込んでいった太平洋プレートが起こす地震と、そのプレートの潜り込みで生まれたマグマが上がってきた火山なのだから、関連があって不思議ではないからだ。
 だが残念ながら現在の科学では、地震と火山がどう関係しているかは解明されていない。
 宝永地震は、いま怖れられている南海トラフ地震の先祖のひとつだと考えられている。
 じつは、さらに先代と思われている慶長地震(1605年)のときにも、約8ヶ月後に八丈島の西山が噴火した。
さて、南海トラフ地震が襲ってくる前か後に、火山がまた噴火するのだろうか。  (12月20日夕刊フジより)

.. 2013年12月20日 08:52   No.667003
++ 島村英紀 (中学生)…47回       
.「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その33
 |  大噴火は今世紀5〜6回起きる?
 |  大航海時代以降からの観測記録しかない「史上初」にごまかされるな
 |  「大噴火」が21世紀には少なくとも5〜6回は起きても不思議ではない
 |  と考えている地球物理学者は多い
 └──── (地震学者)

○今年は火山の当たり年だと思っている人も多いだろう。11月から噴火を続けている西之島の新島も、すでに8月に今年だけの通算で500回目の噴火をした鹿児島の桜島も大きなニュースになったからである。
 だが、これは間違いだ。日本の火山はこのところ「静かすぎる」のである。
19世紀まで「大噴火」がそれぞれの世紀に4回以上起きていた。
ここで大噴火とは東京ドームの250杯分、3億立方メートル以上の火山灰や熔岩が出てきた噴火をいう。
 ところが20世紀に入ってからは大噴火は1914年の桜島の大正噴火と1929年の北海道駒ケ岳の噴火の2回だけだった。
それ以後現在まで100年近くは大噴火はゼロなのである。
海溝型地震というものが同じようなものが「忘れたころに」くり返すのとちがって、火山噴火の繰り返しは時間も噴火の規模や様式もまちまちだ。
その意味では、ある火山が100年以上静かなことは世界的にもそれほど珍しいことではない。

○大地震はプレートの動きに応じて溜まっていく歪みの解放によって起きる。
いわば原因と結果が直接に結びついている。
 だが噴火はプレートが動くことによってマグマは地下で次々に生まれているが、上がってくるまでにいくつかの「マグマ溜まり」を作ったり、マグマの成分が変化していったりする複雑な過程をたどる。それゆえ海溝型地震のように単純な繰り返しがあるわけではないのである。
 じつは数千年以上という長い期間で見ると、「カルデラ噴火」というとてつもなく大規模な噴火が日本を何回も襲った。
 たとえば7300年前の鬼界(きかい)カルデラ噴火だ。放出されたマグマはなんと東京ドーム10万杯分にもなった。鬼界カルデラにある硫黄島は薩摩半島の沖合50キロにあるが、火山灰は関西では20センチ、関東地方でさえ10センチも降り積もった。

○ところで恐ろしい統計がある。米国の研究者が最近200年間に起きた世界の爆発的な大噴火15例を調べたら、そのうち11例もがそれぞれの火山で「史上初」の噴火だったことである。
ここで史上初というのには注釈がいる。
 火山のように世界のあちこちで起きる事件では、日本は別にして、ヨーロッパ人が入りこんでからしか正確には記録されていないことが多い。
 つまり大航海時代以来の「史上初」ということなのだ。せいぜい300-400年の静穏期以後の大噴火は「史上初」になってしまうのである。
 いずれにせよ、この統計が意味していることは、休止期間が長かった後で噴火するときには大噴火になりやすいということだ。
 さて、この300年間は噴火していない富士山はどうなのだろう。富士山にはかぎらない。カルデラ噴火は数千年に一度だとしても、「大噴火」が
21世紀には少なくとも5〜6回は起きても不思議ではないと考えている地球物理学者は多いのである。      (12月27日『夕刊フジ』より)

.. 2014年01月07日 08:18   No.667004
++ 島村英紀 (中学生)…48回       
.「緊急地震速報」と「予知」の違い
 |  日本に起きる二種類の地震、海溝型地震と直下型地震のどちらにも
 |  対応しにくい仕組み そこに根本的な弱点が!
 |  「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その34
 └──── (地震学者)

○地震の一般向けの本を書く前にアンケートをとったことがある。
 私が驚いたのは「緊急地震速報が数秒前ではなくてせめて数分前になるように改良して貰えないでしょうか」という要望だった。
 気象庁は2007年から「緊急地震速報」を出している。誤解している向きもあるが、これは地震予知ではない。
だが「東海地震」を予知する専門の部局まで擁する気象庁が出す警報ゆえ「地震予知の一種なのだろうからもっと前に」というのが庶民のはかない望みなのであろう。

○この速報の原理は単純なものだ。
 全国に置いてある地震計のどこかで強い揺れを感じたら震源を計算し、まだ揺れが届いていない場所に警報を送るという仕組みだ。逆立ちしても地震が起きる前に通報できるはずがない。
 遠くで雷が光ってから、しばらくして音が聞こえてくるのと同じ原理である。だが音が空気中を伝わる速さは秒速330メートルあまり。
 しかし地震の揺れは秒速3〜8キロとずっと早いから、雷ほど時間的余裕がない。
それゆえ緊急地震速報の最大の問題は、警報を聞いてから地震が来るまでにほとんど時間がないことだ。
 たとえば恐れられている南海トラフ地震が起きたときに、横浜で10秒ほど、東京でも10数秒しかない。
 しかも遠くなるほど地震の揺れも小さくなるから、20秒以上になるところで知らせてくれても警報の意味がなくなってしまう。
 走っている新幹線はこの時間では安全に停止するが分からない。工場でも大きな機械を短時間で止めることは不可能だ。
手術中の病院でも、これだけの時間では手術を止めることはできないだろう。

○そのほか、じつは根本的な弱点がある。
 日本に起きる二種類の地震、海溝型地震と直下型地震のどちらにも対応しにくい仕組みになっていることだ。
 海溝型地震は海底で起きる地震だから、震源から一番近い地震計である沿岸の地震計に揺れが到達して計算をはじめたときには、すでに広範囲に揺れが襲っている。東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)のときも東北地方の人々がP波の強い揺れに遭ってから、ようやく緊急地震速報が出た。
 また、直下型地震でも震源は地下にあり、いちばん近い地震計が地上にあるために、肝心の震源近くで揺れが強いところでは緊急地震速報が間に合わない。
 昨年の11月から続いている首都圏の直下型地震でも緊急地震速報が出なかったり、間に合わないことが多かったのはこのためだ。
 海溝型地震でも直下型地震でも、いちばん揺れが大きくて危険な地域には緊急地震速報は間にあわない。気象庁は速報の限界をきちんと広報すべきなのである。                     (1月10日『夕刊フジ』より)

.. 2014年01月10日 12:57   No.667005
++ 島村英紀 (中学生)…49回       
.「ノーマークだった阪神淡路大震災の教訓」
 |  マークしていなかったところで大地震が起き続けている。
 | 現在の地震学のレベルでは、次に大地震がどこを襲うかは、まったく予想できない
| 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その35
 └──── (地震学者)

○兵庫県南部地震が関西を襲ってから、今日1月17日でちょうど19年になる。阪神淡路大震災を起こした地震だ。5000人近くがなくなった1959年の伊勢湾台風を最後に、犠牲者が1000人を超える大きな自然災害が約半世紀の間なかった。そのあと突然襲ってきた大災害だった。
 6400人以上の犠牲者を生んでしまった。地震の爪痕はまだ現地に残っていて、震災から立ち直れない人も少なくない。
 しかし2011年に東日本大震災が起きてからは、被災地以外では阪神淡路大震災への関心は遠ざかってしまっているように見える。
 じつは阪神淡路大震災のときにも、津波が大災害を生んだ北海道南西沖地震(1993年)への国民の関心は遠ざかって、現地は忘れられてしまった。
 冷酷だが、これが地震多発国の現実なのである。
○ところで、この阪神淡路大震災を現代の目で見直すことは、将来の日本の震災を考えるうえで大事なことだ。
 ひとつのポイントは、その5年後の2000年に起きた鳥取県西部地震だ。同じマグニチュード(M)7.3、同じ深さで起きた内陸直下型地震。こちらは誰もなくならず、現地の人には申し訳ないが約180人の怪我人と全壊家屋約400棟だけですんだ。同じ大きさの地震が襲ってきても、これだけ違う。これは地震がどこを襲うかの違いだ。都会は地震に弱い。
 もし、この大きさの地震が東京や大阪を襲ったら、その被害は阪神淡路大震災の比ではないかもしれない。
○地震は自然現象だ。日本人が日本列島に住み着く前から起き続けてきている。
 一方「震災」は自然現象である地震と、人間が作った社会の交点で生まれる社会現象だ。社会が大きくなって、それゆえ弱くなれば、震災は大きくなる運命にある。
もうひとつのポイントは、阪神淡路大震災が起きる前、1970年代後半から「東海地震」がクローズアップされていたことだ。
 東海地震を予知する組織が気象庁に作られて、予知警報に対応する法律まで成立していた。このため「大地震の前には予知の警報が出る。
 次に起きる大地震は東海地震に違いない」と国民に刷り込んでしまっていたのであった。
○しかし、次に襲ってきたのは東海地震ではなく阪神淡路大震災だった。
 その後も、新潟県中越地震(2004年)福岡県西方沖地震(2005年)、能登半島地震(2007年)、新潟県中越沖地震(同)、岩手・宮城内陸地震(2008年)、そして2011年の東日本大震災。
 東海地震でもないし、その他政府がマークしていなかったところで大地震が起き続けている。現在の地震学のレベルでは、次に大地震がどこを襲うかは、まったく予想できないのだ。
 南海トラフ地震や首都圏直下型地震がクローズアップされているなかで、予想もされていないところで「次の大地震」が起きて大きな震災になってしまう可能性は、決して低くはないのである。                         (1月17日「夕刊フジより」)

.. 2014年01月24日 11:57   No.667006
++ 島村英紀 (高校生)…50回       
.「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その36
 | 緊急地震速報のお粗末さ
 │ 誤動作して間違った警報が出たり、予報された揺れが来なかったという
 │ 「空振り」も多い。
 └──── (地震学者)
*『夕刊フジ』公式ホームページでの副題は「小地震を大地震と勘違い 鉄道、経済まで影響」

○昨年8月8日午後5時前のことだ。奈良県と大阪府で「最大震度6弱〜7程度の揺れが襲って来る」という緊急地震速報が発表された。
JRの大阪駅ホームなどでは乗客の携帯電話から緊急地震速報メールの受信音が一斉に響いた。関西ではめったになかった緊急地震速報だけに、パニックになりかけた人たちもいたという。
速報は震度4以上の揺れが到達すると予測された関東甲信から九州の34もの都府県で発表された。
この速報を受けて小田原から新岩国間で新幹線が緊急停止した。関西の鉄道各社も全列車を止めた。近畿だけで40万人超に影響した。帰宅ラッシュと重なったためターミナル駅も大混雑した。
鉄道だけではなかった。この速報が伝わったとたん、円は一時1ドル=96円13銭近辺まで上昇した。
○しかし、この緊急地震速報は誤報だった。
地震は和歌山県北部に起きた震度1にも満たないマグニチュード(M)2.3の小地震だった。これを気象庁はM7.8と推計した。
阪神淡路大震災の地震(M7.3)よりも5倍以上も大きなエネルギーの地震だと思ってしまったのである。
お粗末な間違いだった。和歌山の地震発生とほぼ同時に起きた三重県沖にある海底地震計のノイズを大きな地震の揺れだと思ってしまったのだ。
ノイズとは、それまで信号が停止していた海底地震計が回復して入り始めた信号だった。
海底地震計は陸上にある地震計と違って「加速度計」という地震計が使われている。加速度計のほうが丈夫で小型に出来るからだ。
だがそのために、陸上の地震計のデータと合わせるために機器の出力を2回積分するという数値操作をしなければならない。
このときに回復した加速度計からはゼロ点がずれた信号が出た。この信号を2回積分したために、異常に大きな地震の信号を感じたことになったのである。
気象庁地震火山部の部長は記者会見で陳謝した。
だが同時に「速報が発表された際は何らかの揺れが起きているのは事実。発表があれば身の安全を確保してほしい」と呼び掛けたという。
震度1にも及ばない小地震で身の安全を確保しなければならないのだろうか。
○そもそも、たった2地点だけのデータなのに、和歌山から熊野灘まで広範囲に揺れた大地震だと計算してしまったのもおかしい。鉄道から経済まで影響する地震速報にしては判断があまりにお粗末だった。
これだけではない。緊急地震速報が誤動作して間違った警報が出たことも、予報された揺れが来なかったという「空振り」も多い。
2011年3月の東日本大震災のあと余震が頻発したこともあり、震災から10日間のあいだに速報は36回出されたが、震度5弱以上の揺れが実際にあったのは11回にすぎなかった。
「打率」は約30%にも満たなかったのである。
(1月24日 夕刊フジより)


.. 2014年01月28日 08:42   No.667007
++ 島村英紀 (高校生)…51回       
.「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」コラムその37
 |  地震と漁獲量の不思議な関係
 |  「起きた数と量、グラフが示す“似た形”」
 └──── (地震学者)

○ さる1月に3回、鳥取県や新潟県の日本海沿岸で巨大なイカが発見された。
ダイオウイカという無脊椎動物としては世界最大級の生物である。
 欧州では長さが18メートルのものが見つかったこともあり、鳥取のイカも、失われていた「触腕」といういちばん長い足を入れれば長さが8メートルだったと推定されている。
 ダイオウイカは深海に住むため生態も分からず、太平洋や大西洋など各地で死んだものがわずかに見つかるだけだった。鳥取で底引き網にかかったものは、発見当時は生きていたというから希有の例だった。
○ 昔から、魚と地震との関係についての言い伝えがある。このイカも話題になった。
大地震が起きる海底で地殻変動など何かの変化があったことを魚が感じているのではないかということだ。
 岩手県の三陸地方には、イワシ(マイワシ)がよく捕れるときには大地震があるという言い伝えがある。
 1896年の明治三陸津波地震と1933年の三陸沖地震の二回の大地震の前は異常なくらいの豊漁だった。
 漁獲量と地震の関係を最初に指摘したのは物理学者の寺田寅彦である。伊豆半島・伊東沖の群発地震の毎日の数のグラフと、近くで捕れたアジやメジ(マグロの仲間)の漁獲量のグラフがよく似た形をしていることを発見した。
 近年、寺田の追試をした研究がある。1974年からの16年間に、相模湾一帯に分布している定置網27箇所の漁獲量のデータ全部を調べ上げたのである。
 この期間には伊豆大島の島民全部が島外に避難した1986年11-12月の噴火があった。
 伊東沖では1989年5月に始まった群発地震がどんどん盛んになって7月には海底噴火して手石海丘を作った。こうした伊東沖の群発地震はこの期間に11回もあった。
 寺田が示したのと同じような例もあった。たとえば小田原と真鶴の間にある定置網では、伊東沖の群発地震とアジの漁獲量のグラフがよく並行していた。
 また、熱海のすぐ南にある定置網でのアジの漁獲量は、1986年の伊豆大島の噴火の前後に起きた地震の数と並行しているように見える。
これらのグラフを見せられれば、誰でも地震と漁獲量が関係があると思うほどである。
○ しかし、見事なグラフばかりではなかった。これらの定置網の近くにはいくつもの別の定置網があったのに、それらの漁獲量は、地震の数とは関係が見られなかった。
 しかもその中には、地震の震源にもっと近い定置網もいくつもあったのだ。
ナゾはまだ解けない。だがなぜ、こんなことが起きるのだろう。魚たちは地震から逃げようとして定置網にかかってしまったのか。それとも、好奇心から地震に近づいてきて網にかかってしまったのだろうか。
 残念ながら、現在の生物学は魚たちの脳の中の記憶を読み出すまでには進んでいないのである。(1月31日『夕刊フジ』より)

.. 2014年02月07日 08:42   No.667008
++ 島村英紀 (高校生)…52回       
.「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその38
 │ 「思い込み」の前兆現象予測
 │ 地震がなければ忘れてしまう。事件があったから、「そういえば」
 │ ということになる 地震の前兆だったかどうかを科学的に立証
 │ するためには、厳密な検証が必要
 └────(地震学者)

 心理学者が地震予知に取り組んだことがある。信州大学の菊池聡先生だ。
地震予知で「宏観(こうかん)異常現象」というものがある。動物の異常な行動とか、空が光る現象とか、地震雲とか、地下水や地下ガスの異常など、観測機械を使わなくてもわかる前兆現象のことだ。

 阪神淡路大震災(1995年)後にも、この現象についてメディアで大きく紹介された。前兆を1500例も集めたという本も出版された。東日本大震災(2011年)のときにもいくつも報告された。

○ところで、この種の前兆は「地震後」に報告されたものばかりだった。じつは報告が事後だったか事前だったかには本質的な違いがある。たんに地震に間に合わなかっただけではないのだ。ふだん何気なく見ていることは、地震がなければ忘れてしまう。事件があったから、「そういえば」ということになる。
心に深く残った事件のあとで、「そういえば」と思いつく報告が多い。報告心理的な偏向を受けてしまって、日常的にいつでも起きている出来事でも意味のある現象を見出してしまうのだ。これを心理学では「錯誤相関(さくごそうかん)」という。地震には限らない。
 ほんとうに地震の前兆だったかどうかを科学的に立証するためには、厳密な検証が必要である。
 「前兆があって地震が起きた」ということを立証するためには、「その前兆がなかったのに地震が起きた」例や「その前兆と同じ現象が起きたのに地震がなかった」例や、「その前兆と同じ現象は起きなかったし地震もなかった」を全部数えて比べなければならない。このような厳密な比較をしなければ「地震」と「何かの前兆」という2つの現象が関係しているかどうかを科学的には立証できないのだ。

○ところが、この2番目から4番目までは人々の記憶には残っていない。ふだん何気なく見ていることは、地震のような大事件がなければ忘れてしまう。
いままでに成功したといわれている宏観現象の地震予知は、どれもこういった科学的な検証をされたことがないものばかりなのである。
 それゆえ、事例全体の数からいえばごく少ない1番目、つまり「なにかの前兆があって地震が起きた」ことだけが強調されることになってしまう。科学的な検証がなければ、この「前兆」と地震とは、たまたま近接して起きた関係のない現象かもしれないのである。
 錯誤相関は、「地震が大きいほど」「地震に近いほど」、心理的に大きい影響を与えて、前兆が多かったような印象になる。じつにもっともらしい結果になってしまうのだ。
 もともと菊池先生は、これらの宏観現象が地震予知に役立つのではないかと思って研究をはじめた。しかし気鋭の心理学者をがっかりさせているのが現状なのである。(2月7日『夕刊フジ』より)

.. 2014年02月10日 08:09   No.667009
++ 島村英紀 (高校生)…53回       
地震学者をだました活断層
 |  日本は米国ですでにもろさを露見した地震発生仮説を利用している
 |  地震発生の予兆に対し、一喜一憂するにはあまりにも脆弱な前提
 |  「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」コラムその40
 └──── (地震学者)

○地震学者が米国の活断層に騙(だま)されたことがある。
地震学者が、ここならば地震予知は簡単だろうと考えていた場所がある。米国カリフォルニア州のパークフィールドというところだ。ロサンゼルスとサンフランシスコのほぼ中間に位置する。ここはサンアンドレアス断層という長さが1200キロもある大断層の一部である。
この活断層はカリフォルニア州を西北から東南へ横断している。
開拓時代よりも昔のことは分かっていないが、ここでは1857年から過去6回の地震が、じつに規則的に、20〜25年ごとに起きてきていた。最後の地震は1966年だった。
 どの地震もマグニチュード(M)は約6と揃っていた。地震のときの地震断層の動きかたも瓜二つで、たとえば9000キロ離れたオランダの地震観測所で記録された地震記録は、見分けがつかないくらいよく似ていた。
 このため「次」である1990年前後に合わせてこの地域のまわりには網の目のようにいろいろな観測点が敷かれ、次の地震を待つ準備は万端、整えられた。
 過去の地震のうち最後の2回では、本震の17分前にM5の地震が起きていた。前震である。
そして、ある日、M4.7の地震が起きた。誰の眼にも来るべき地震の前震に見えた。
そのうえ、地殻変動や井戸の水位にも変化が現れた。 そして地震学者たちが固唾を呑んで待つこと数時間。1日。数日・・。
そして数週間。やがて数ヶ月。しかし何も起きなかった。
結局、これほど分かりやすいと思われた事例でも、地震学者が期待した地震は起きなかったのだ。
○じつは15年もあとの2004年になってから、近くでM6の地震が起きた。
しかし詳細に調べてみると、この地震は震源の位置も、震源断層の動きかたも違った。明らかに別種の地震だったのである。
 地震が繰り返すメカニズムは、日本庭園にある添水(そうず)のようなものだと信じられている。
 つまり、地震を起こすエネルギーが一定の早さで溜まっていって、やがて限度を超えると、地震が起きる。直感的で分かりやすい仮説だ。
この米国の事例はこの仮説に冷水を浴びせるものだった。
 現代の地震学でも、パークフィールドの地下で、一体何が起きたのかはまだ分かっていない。
 単純な繰り返しをストップさせたのが何だったのか、あるいはそもそも周期などなかったのか、皆目見当がつかないのである。
 だが日本では、政府の地震調査委員会が発表している日本各地の将来の地震確率はこの「添水」の仮説を前提にしている。
 地方自治体や一般の人が一喜一憂するにはあまりに脆弱(ぜいじゃく)な前提というべきであろう。(2月21日夕刊フジより)

.. 2014年02月27日 08:31   No.667010


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