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■--警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識
++ 島村英紀 (小学校中学年)…17回          

.シリーズ <4>
| 「人造地震」の恐怖−1 地中への廃液処理で発生
| その時、地下ではなにが起きていたのだろうか!
 └────  (地震学者)

○人間が地震を起こすことがある。 そのことが最初に分かったのは1962年のことだった。米国のコロラド州で放射性廃液の始末に困って、3670メートルもの深い井戸を掘って捨てたときだった。米空軍が持つロッキー山脈兵器工場という軍需工場の井戸である。すると、それまで地震がまったくなかったところに地震が起きはじめたのだった。多くはM4以下の小さな地震だったが、なかにはM5を超える結構な大きさの地震まで起きた。生まれてから地震など感じたこともない住民がびっくりして、地元では大きな騒ぎになった。工場では1963年9月末に廃棄を止めてみた。すると、10月からは地震は急減したのだ。だが廃棄を続けないと工場が困る。1年後の1964年9月に注入を再開したところ、地震が再発した。
 そればかりではなかった。水の注入量を増やせば地震が増え、減らせば地震が減った。1965年の半ばには注入量を増やし、最高では月に3万トンとそれまでの最高に達したが、地震の数も月に約90回と、それまででいちばん多くなった。
 量だけではなく、注入する圧力にも関係があった。圧力をかけずに自然に落下させたり、最高70気圧の水圧をかけて圧入したりしたが、圧力をかければかけるほど、地震の数が増えた。
 このまま注入を続ければ、やがて被害を生むような大きな地震が起きないとも限らない。このため、この廃液処理は1965年9月にストップせざるを得なかった。
○地震はどうなっただろう。11月のはじめには、地震はなくなってしまったのだ。
水を注入したことと、地震の発生の因果関係は明らかであった。地震の総数は約700、うち有感地震は75回起きた。では、地下ではなにが起きていたのだろう。
岩の中でひずみがたまっているとき、水や液体は岩と岩の間の摩擦を小さくして滑りやすくする、つまり地震を起こしやすくする働きをするのだ。いわば、地下のエネルギーを解放する「引き金」を引いてしまったのである。
 地下に入れた廃水は60万トンだった。震源は井戸から半径10キロの範囲に広がり、震源の深さは10キロから20キロに及んだ。これは井戸の深さの数倍も深い。
震源が井戸より深かったのは、人間が入れた液体が岩盤の割れ目を伝わって深いところにまで達して、そこで地震の引き金を引いたのに違いない。あるいは、長い列車の後ろを押すと、いちばん前までの全体が動くように、注入した水の圧力が深くまで伝わったせいかもしれない。じつは人間が起こした地震は、その後、世界各地で起きている。ダムやシェールガスの採掘も地震を起こすことが怖れられている。次回からはそれらを見てみよう。 (続く)
           (出典:夕刊フジ2013年5月31日 5面より)
.. 2013年07月01日 13:21   No.571001

++ 島村英紀 (小学校中学年)…18回       
.「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」シリーズ<5>
 │「人造地震」の恐怖2 ダムが大災害の引き金に?!
 │ エジプト3000年以上の歴史で、史上初のアスワンハイダムが
 │ 地震を引き起こした。(TMM:No1885(6/29配信)のつづき)
 └────(地震学者)

○前回は、深い井戸に水を注入したら地震が起きた話だった。水といえば、ダムが地震を起こした例も世界各地にある。1967年にインド西部でM6.3の地震が起きて一説には2000人もが犠牲になった。コイナダムという巨大なダムを造ったことで引き起こされた地震である。ダムで貯水が始まったのは1962年。
それ以後、M4クラスの小さな地震が起きはじめた。震源はダムの25キロ四方だけに限られ、周囲100キロで地震が起きているのはここだけだった。そして貯水が始まってから5年目の1967年に大被害を生んだ地震が起きてしまったのだ。
アフリカ南部のザンビアとジンバブエの国境でダムが作られて、1958年から貯水を始めた。当時としては世界最大の人造湖、カリバ湖が出来た。ここではダム建設前から近くで小さな地震が起きていた。だが貯水が始まってから満水になった1963年までに地震が急増して2000回以上にもなった。満水になった年にはM5.8の地震が起きて被害も出た。

○ダムが地震を起こすのは、ダムに溜められた水が地下にしみ込んでいくことと、ダムに溜められた大量の水の重さによる影響とのせいだと思われている。
ダムで起きる地震が地滑りを起こしてダムを溢れさせ、大被害を起こしたこともある。イタリアのバイオントダムは同国北部ベネト州の深い渓谷に作られたダムで1960年に完成した。堤高262メートルは当時の世界最高のものだった。
 このダムでも貯水開始後、地震が頻発するようになって地盤が弱くなった。
このため地滑りが多発した。1963年にダムの南岸の山が大規模な地滑りを起こ
した。大量の土砂がダム湖に流れ込み、ダム地点で最大100メートルを超す「津波」を起こした。濁流はダムの沿岸と下流の村々を襲い、2125人が死亡するという大惨事となってしまった。ダムはその後放棄され、水がたまっていないダムだけが残されている。

○大地震が、ダムが出来てから20年近くもたってから起きた例もある。エジプトのアスワンハイダムで、貯水が始まったのは1964年。1978年に満水位に達したあと、1981年にM5.6の地震が起きた。エジプトの3000年以上の歴史で、このあたりに地震が起きたことはない。史上初の地震を起こしてしまったのだ。水を貯めはじめてから、いつ、どんな地震が起きるのかには、まだ謎が多い。し
かし、中国に2009年に出来た世界最大の多目的ダム、三峡ダムもいずれ地震を起こすかも、と考えている地震学者は多い。

○世界各地で行っている開発や生産活動は、このほかにも、知らないあいだに地震の引き金を引いてしまうことがある。次回にそれを書こう。<続く>
(2013年6月14日 夕刊フジ連載記事より)


.. 2013年07月05日 09:49   No.571002
++ 島村英紀 (小学校中学年)…19回       
.「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」シリーズ <6>
 │  「人造地震」の恐怖3 シェールガス採掘現場で地震が頻発
 │  便利さだけを追求する技術。そこに落とし穴はないのだろうか?
 └──── (地震学者)(TMM:No1889-7/4配信-のつづき)

○前回はダムが起こす地震についての話だった。世界各地で行っている開発や生産活動は、このほかにも、知らないあいだに震の引き金を引いてしまうことがある。新エネルギーの希望の星、シェールガス採掘も、じつは地震を誘発している。昨年には米国オハイオ州で、採掘を一時中止する騒ぎになった。このシェールガス採掘には「水圧破砕法」という手法を使う。化学物質を含む液体を地下深くに高圧注入して岩石を破砕することによって、シェール(頁岩=けつがん)
層に割れ目を作る。同時に砂などの支持材も注入して割れ目を確保して、そこから層内の原油やガスを取り出すという掘削法である。

○このときに使う化学薬品が有毒なもので、地下水を汚染するのではないかという心配がある。しかし、ここでは「液体を深い地下に圧入する」手法について話そう。前回と前々回の、この連載を読んだ方々は、このような「作業」が地震を起こすのではないか、と思い当たるだろう。その通り、この水圧破砕法は、地震がない米国で地震を頻発させているのである。オハイオ州の地震は同州北部の天然ガス井の周辺だけで起きていた。地下には広大なシェール層があり、水圧破砕法による天然ガス掘削が大々的に行われている。 ここでは2011年12月24日にマグニチュード(M)2.7の地震が発生した後、注入井を密かに一時閉鎖していた。
大みそかの31日には、同州でかつて起きたことがないM4.0の地震が発生した。
このためこの地震後には、その注入井から半径8キロ以内の注入井にまで閉鎖範囲を拡大したのだった。

○オハイオ州だけではない。2011年、アーカンソー州でも大規模な群発地震が発生したので、当局は注入井2か所の操業を一時停止させた。M3やM4とはいえ震源のごく近くでは大きな揺れになって、井戸や掘削装置の破壊や環境汚染を起こすかもしれないのだ。
 その前2009年にもテキサス州フォートワースとダラス周辺の注入井とその近辺で発生した地震との関連性が確かめられている。 天然ガス採掘が盛んな米国内陸部のアーカンソー州、コロラド州、オクラホマ州、ニューメキシコ州、テキサ
ス州でM3以上の地震が、2011年には20世紀の平均の6倍にも増えている。
 じつは水圧破砕法はシェールガス採掘だけに使われる手法ではない。これから日本でも盛んになりそうな地熱開発にも使われる手法なのである。

○かつて人類は、地球になかったフロンという物質を発明して大量に、便利に使っていた。それが最終的に地球のオゾン層を破壊してオゾンホールを作る「悪魔の技術」であることに気が着いたのはずっと後年である。

 便利さだけを追求する技術。そこに落とし穴はないのだろうか。<続く>
 (2013年6月14日夕刊フジ連載記事より)

.. 2013年07月13日 09:49   No.571003
++ 週刊SPA (幼稚園生)…1回       
安倍政権の「原発営業」、インドから「NO」の声、世界の民衆も反発
 |  もし日本製原発で大事故が起きれば、メーカーに莫大な損害賠償請求
 └──── 

○「日本の原発は安全」をセールストークに、原発メーカーの役員を引き連れて世界中に「原発営業」をかけている安倍政権。
 政府レベルでは売り込まれたほうも歓迎しているようだが、当然のことながら国民は猛反発している。
 インドもまた、原発セールスを積極的に行う安倍政権が有望視している国だ。5月29日にはインドのシン首相と会談、原子力協定を早期妥結することで合意した。インドではすでに20基の原発が稼動しているが、今後20年で新たに34基の原子炉を造る計画があるという。
○そんな日本の「原発輸出」のリスクを訴えるため、6月にインドから来日したカルーナ・ライナ氏はこう語る。
「インド政府は、現在の2.7%から'50年には25%へと原発比率を増やそうとしています。ところが福島の原発事故以降、各地で反原発運動が起き始めました。
南部のクダンクラムでは600日以上が経過したいまも激しい抵抗が続き、日本の原発輸出に対する反発も起こっています」クダンクラムの抗議活動はインドの反原発運動の象徴ともいわれる。現地団体と交流があるノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンの佐藤大介氏は「特に昨年9月のデモ、治安当局による弾圧は激しかった」と言う。
「クダンクラム原発1号機に核燃料が装填されそうになったため、9月9日、3万人もの人々が原発を包囲しました。ところが、翌日数千人の警官が襲いかかり、警棒で殴りつけるなど激しい暴行を加えました。警官は女性や子供にも手加減せず、重軽傷者多数。男性1人が射殺されました。
 さらには家々を次々と破壊するなどの弾圧ぶりに、インド全土が大きなショックを受けたのです」(佐藤氏)。
○インドでは、たびたび起きてきた原発トラブルが原発の不信感に繋がっている。「'93年にナローラ原発で火災が発生、翌'94年にはカクラパール原発で浸水。同じ年、建設中のカイガ原発では、格納容器を形成するコンクリート150tが高さ75mから崩落し、作業中の14人が負傷しました。過去40年間で数え切れないほど安全性に問題のある事例があるのです」(ライナ氏)
 一方、ビジネスとして考えてみても、インドへの原発輸出は他国へ輸出するよりもリスクが大きい。その理由は厳しい原子力損害賠償責任法の存在だ。これにより、事故が起きればメーカーが汚染の被害賠償する仕組みになっている。
日本のように、国が助けてはくれないのだ。
 「もし日本製の原子炉で大事故が起きれば、メーカーに対して莫大な損害賠償が請求されることも十分ありえます。住民の反対、安全性への疑問、事故時の賠償責任等、多くのリスクを背負ってまで日本は原発をインドに輸出したいのでし
ょうか。ドイツは、インドの再生可能エネルギー開発に向けて10億ドルを拠出しました。日本もそちらの方面に資金を振り向けたほうがよいのでは」(ライナ氏)
 福島原発の事故収束もままならぬ中、原発を平然と売り歩く安倍政権及び日本の姿はどう見られているのか?<取材・文/週刊SPA!編集部>
(週刊SPA!7/16号-7月9日発売-より抜粋)

 !7/16号(7月9日発売)「安倍政権[原発セールス]に世界が反発」では、インド以外にトルコ、ベトナム、中東各国やブラジルなど各国の「原発反対」事情及び日本の「営業」に対しての視線をリポートしている。

.. 2013年07月13日 14:36   No.571004
++ 島村英紀 (小学校高学年)…20回       
.「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」シリーズ <7>
 |  「人造地震」の恐怖4
 |  新潟県「中越」「中越沖」の震央近くで二つの作業
 |  電力会社がそれぞれのダムに設置している地震計のデータは
 |  なんと非公開だった!
 └──── (地震学者) (7/12配信の続き)

○世界各地で行っている開発や生産活動が、知らないあいだに地震の引き金を引いてしまうことがあることを話してきた。
 このため国際的な地震学会では、こういった「誘発地震」が独立したセッションになっているのが普通だ。また研究書も刊行されている。
 世界各地に起きていて、日本だけ起きないという理由はあるまい。しかし国際的にも地震学の高い研究レベルを誇り、地震学者の数も世界最多である日本での研究は進んでいない。
○それには二つの理由がある。ひとつはもともと地震活動が盛んなところなので、起きた地震が自然に起きたものか、誘発地震かを見分けることがむつかしいことである。
 もうひとつは政府や電力会社が、この方面の研究を好まないことだ。このため日本では研究者がほとんどいなくて、研究も行われていない。
 日本の地震学者たちが使っている研究費のほとんどは政府から来る金、つまり国費で、残りのわずかも、電力会社や損保会社から来ていることも関係している。
 じつは電力会社がそれぞれのダムに設置している地震計のデータも非公開なのである。
 ある国立研究所に属する地震学者がダムが起こす地震をテーマにして学会発表しようとしたことがある。
 ところが、事前に発表の内容を役所に見せるように言われた。発表を事前にチェックされるのは異例のことだ。そのうえ学会まで、お役人が発表を見に来たのであった。
○ところで、新潟県中越地震(2004年)のときには、震央から約20キロ、新潟県中越沖地震(2007年)のときにも反対側にやはり20キロしか離れていないところに「南長岡ガス田」(新潟県長岡市)があり、地下4500メートルのところに高圧
の水を注入して岩を破砕していた。
 新潟県中越地震はマグニチュード(M)6.8で68名の死者を生み、中越沖地震もM6.8で死者15名だった。
 このガス田は1984年に生産を開始していたが、21世紀になってから「水圧破砕法」を使いはじめていたのだった。
この水圧破砕法によって、ここではガスの生産を8倍にも増やすことに成功したといわれている。
 それだけではなかった。ここでは、地球温暖化で問題になっている二酸化炭素を液体にして、地下深部に圧入する実験も行われていた。
地下約1100メートルに一日20トンから40トン、合計で10000トン以上という大量の二酸化炭素を地中に圧入する実験だった。
 新潟県中越地震と新潟県中越沖地震、これらの二つの震源に極めて近いところでふたつの「作業」をしていたことになる。
 いまの学問ではこのガス田での作業が地震を引き起こしたという明確な証拠はない。しかし、まったく関係がなかったということも、もちろん証明できないのである。

.. 2013年07月16日 13:04   No.571005
++ 島村英紀 (小学校高学年)…21回       
.「普通ではない・ゆっくり進むM7の地震」
 |  巨大地震が繰り返す間にはさまっていて、巨大地震の繰り返しを
 |  左右しているのではないか!
 |  「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 その8
 └──── (地震学者)
    その7は、7月15日【TMM:No1900】に掲載

○この1月から、ニュージーランドの首都ウェリントンの地下40キロのところでマグニチュード(M)7という大地震が「起き続けて」いる。
 いや、群発地震ではない。たったひとつの地震が、半年もかかって、じつにゆっくりと進行中なのである。
 ニュージーランドは日本とよく似た地震と火山の国だ。日本と同様、太平洋プレートが東から地下に沈みこんでいる。
 2011年には大都市クライストチャーチの近くでM6.1の地震が起きて、日本人28人を含む185人が犠牲になった。

○M7とは、この国に西欧人が入植して以来、最大の地震だ。普通の地震として一挙に起きれば、大変な被害を生じる可能性がある。しかし、いま起きている地震は、地下にある巨大な地震断層が、日々、ミリの単位で動き続けている不思議
な地震なのである。
 このような地震があることが分かったのは世界でもごく最近だ。いままでの地震計では捉えることは出来なかった。精密で時間分解能もいい地殻変動の観測が行われるようになってはじめて、このような現象が起きることが分かったのである。
普通の地震計でさえ感じないのだから、住んでいる人たちはなにも感じない。もちろん、被害もない。
 普通の地震は地震断層が一挙に滑る。「一挙に」というのは、数秒とか十数秒以内という時間である。しかし、いま起きているニュージーランドの地震は、半年もかかっている。

○じつは、その二つの種類の中間にも地震があることも分かってきている。「一挙」ほどではないが、数分とか、数十分とかかかって地震断層が滑る地震である。
 1896年に起きて東日本大震災よりも多くの津波による犠牲者を生んでしまった「明治三陸地震」は、この種の地震ではなかったか、と思われている。もちろん、当時は分からなかった。
 この地震が起きたときに、沿岸の人々はせいぜい震度2か3しか感じなかった。そのうえ揺れがとてもゆっくりだったので、地震とは思わない人が多かった。
 しかし、大津波が突然襲ってきて22000人もの犠牲者を生んでしまったのである。つまり、この地震は、「震動」は小さかったが、津波だけが大きくなる地震だったのである。震源断層がゆっくり滑ると、このようなことが起きる。
 ニュージーランドの地震は幸いなことに、もっとゆっくり滑っている。上に住む人々は、気味が悪いが我慢するしかあるまい。
 このような「普通ではない地震」が巨大地震が繰り返す間にはさまっていて、巨大地震の繰り返しを左右しているのではないか、と思われはじめている。
 「次の大地震」を恐れている日本にも、ひとごとではないのだ。(つづく)

(出典:夕刊フジ2013年6月28日5面より)

.. 2013年07月22日 11:22   No.571006
++ 島村英紀 (小学校高学年)…22回       
."地震エネルギー"どこに消えた?
 |  「普通ではない地震・のろまな地震」が起きていて…
 |  「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 その9
 └──── (地震学者)
             その8は、7月19日【TMM:No1905】に掲載

 日本列島を載せているプレートと海洋プレートの間でしだいに地震エネルギーがたまっていって、やがて耐えきれなくなると、海溝型の大地震が起きる。物理学者で随筆家の寺田寅彦がいう「忘れたころ」、つまり100年とか200年ごとに、
こうしてマグニチュード(M)8クラスの巨大地震が繰り返してきている。
 ここまでは、よく知られていることだ。しかし、じつは計算が合わないのである。
 プレートは一定の速さで動き続けている。東北日本の東側にある日本海溝には太平洋プレートという海洋プレートが毎年10センチの速さで押してきているし、西南日本の南側ではフィリピン海プレートという別の海洋プレートが南海トラフという海溝に向かって毎年4.5センチの速さで押してきている。これらの動きは少なくとも千万年以上続いてきている。
 ところでこれらM8クラスの巨大地震が起きたとき震源断層がどのくらいの距離だけ滑ったのかということは、地震計の記録から分かる。それによれば多くの場合、数メートルなのだ。
 たとえば太平洋プレートの場合プレートの歪みが年に10センチずつたまっていく。2年で20センチ、10年で1メートル・・・。ところが、実際に巨大地震が起きてきた間隔よりもずっと短い数十年でプレートの歪みが「限界」に達してしま
うはずなのだ。
 どうも計算が合わない。プレートが作っている歪み、つまり地震エネルギーは大地震として解消されるものがある一方、どこかに消えてしまう歪みがなければおかしい。
 「M8より小さい地震がたくさん起きているのだろう」って?いや、Mが1だけ違えば地震のエネルギーは約30倍も違う。Mが2違えば1000倍も違うのだ。このため、小さい地震を束にしても、M8の地震にはならないのである。
 この「消えてしまった地震のエネルギー」の大きさは、世界各地の海溝でそれぞれ違う。日本海溝ではエネルギーの60%が消え、南海トラフでは30%が消えてしまっている。繰り返し発生している十勝沖地震では1952年十勝沖地震(M8.2)の前に、どうも大地震一回分のエネルギーが抜けているようなのだ。
 他方、アリューシャン列島沿いや、南米チリの南部では、この「消えてしまったエネルギー」はほとんどない。プレートが押してきた分だけ巨大地震が起きているのだ。
 不思議なところもある。伊豆諸島から南、グアム島の先まで伸びているマリアナ海溝では、この種の巨大地震が起きたことがない。巨大地震のエネルギーは、すべて、どこかに消えてしまっているのである。
 巨大地震を起こすはずのエネルギーがどこかに消える。前回のニュージーランドでいま起きている、地震計には感じない大地震の話を思い出すだろうか。
 そうなのだ。「普通ではない地震」が巨大地震が繰り返す間にはさまっていて、巨大地震の繰り返しを左右しているのではないか、と思われはじめているのである。

.. 2013年07月27日 17:49   No.571007
++ 島村英紀 (小学校高学年)…23回       
巨大地震の間で繰り返す「普通ではない、のろまの地震」は
 |  次に来るべき巨大地震のなにかの先駆けである可能性が
 |  ないとはいえない
 |  そして海底での「地殻変動観測」は実はまだ開発途上だった
 |  「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その10
 └──── (地震学者)
     その9は、7月26日【TMM:No1911】に掲載

○ 前回までは「普通ではない、のろまの地震」が巨大地震が繰り返す間にはさまっていて、巨大地震の繰り返しを左右しているのではないか、という話だった。
 世界の巨大地震地域にはこの種の不思議な地震が起きないところもある。だが日本ではプレートの動きから計算した巨大地震よりは、実際に起きてきた巨大地震のほうが少ない。日本人にとっては、もちろん幸いなことである。
 しかし現在の地震学では、どんなときに「普通ではない地震」が起きるのか、どういうときに巨大地震が起きるのかは、残念ながら分かっていない。
○ ところで、この「普通ではない地震」が意外に多く起きていることも分かりかけている。
 たとえば、1997年には九州と四国の間にある豊後水道の地下で、また、その前年には宮崎県沖の日向灘の地下で起きていた。また2001年から2004年にかけて、静岡県の浜名湖の地下でも起きた。身体にも、普通の地震計にも感じない「のろ
まの地震」だった。もちろん新聞にも出ない。地震の大きさは、今年1月からニュージーランドで半年以上かけて起きている「のろまの地震」のマグニチュード
(M)7よりも小さい。
 これらの不思議な地震は、いずれも1944年に起きたM8クラスの東南海地震や1946年のやはりM8クラスの南海地震の震源断層の縁辺部で起きた。そしてこれらの場所は、将来起きることが恐れられている南海トラフ地震の震源域の中やそ
の境界でもある。
 地震学者としては、私はあまり気持ちがよくない。これらの地震は巨大地震のエネルギーを「散らして」くれるだけではなくて、その次に来るべき巨大地震の、なにかの先駆けである可能性がないとはいえないからである。
○ しかし日本でのこの種の地震の観測は、ニュージーランドに比べて不利なことがある。
 それは、ニュージーランドで使われた精度の高い地殻変動の観測は陸上でしか行えない制約があるからである。
 ニュージーランドでは、この不思議な地震は同国の陸地の地下で起きている。
正確に言えば同国の北島と南島の間にある海峡下なのだが、北島にも南島にも展開している観測点が震源を取り囲んでいるのである。
 これに対して日本の場合は、海溝型地震のほとんどは海底下で起きるために、遠い海底下の現象を陸上から観測しなければならず、精度も感度も悪いという制約がある。
 じつは海底で、精密な地殻変動観測を行おうという研究はいろいろ行われている。だが、どの研究もまだ、開発途上なのである。 

.. 2013年07月30日 12:52   No.571008
++ 島村英紀 (小学校高学年)…24回       
カメよりも遅くカタツムリ並みの速さの地下を走る「妖怪」は
 │ 海溝での海洋プレートと大陸プレートの押しあいから生まれた
 │「鬼っ子」か?
 │ あなたの家の下を、小さな妖怪が音も立てずに通りすぎているかも
 │ しれません。
 │「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その11
 └────(地震学者)

●いきなり梅雨が明けて真夏の猛暑が続いている。そこで怪談をひとつ。
 現代の地殻変動の観測の精度は高い。地面が百万分の一だけ縮むかどうか、地面の傾きが一億分の何度か変わるかどうかの変化が測れる。そんな細かさで見ると不思議なことが見つかった。
 1970年代に、岩手県から秋田県にかけて地殻変動が西北に移動していったのが発見された。地面が数十万分の1縮んだほどの僅かな地殻変動だが、太平洋岸から日本海岸へとゆっくり横切っていったのである。
 動いた速さは、ごく遅く、年に20キロ。時速にすれば2メートルほどになる。
つまりカメよりも遅く、カタツムリなみの速さのものが地下を動いて行ったことになる。移動性地殻変動と名付けられた。
 この移動を時間をさかのぼって逆にたどって行くと、陸から海へ出て、さらに太平洋プレートが日本海溝へ沈み込むところに起きる海溝型の巨大地震の場所に至る。
 そして、この移動したなにかは、巨大地震が起きたときにちょうどその震源に、その時間にいたことが分かったのである。1968年に起きた十勝沖地震(マグニチュード(M)7.9)がその地震だ。つまり地下の妖怪は、大地震の震源から生まれて、日本を駆け抜けたように見えるのである。
 また、関東地方でも、地面の傾きが、東から西へゆっくりと移動して行ったのが発見されていた。そして逆にたどったその先には1953年に起きたM7.5の房総沖地震があった。日本だけではない。ペルーでも同じような現象が見つかった。

●じつは、この妖怪にはもっと深い嫌疑がかけられている。
 それは大地震に「立ち会った」ばかりではなくて、大地震を引き起こしたのではないかという嫌疑である。大地震の震源から生まれて日本の地下を走り抜けただけではなくて、走る途中で地震の引金を引いた元凶ではないかという容疑なのである。
 妖怪は、そもそも海溝での海洋プレートと大陸プレートの押しあいから生まれた「鬼っ子」かもしれない。
 前回に1997年に豊後水道で「のろまの地震」が起きた話をした。このときにも、この地震の震源から生まれた微小な地殻変動が、ゆっくりと四国や中国地方を横切っていった。
 この妖怪が動く速さ、時速にして数メートルというのは、とても不思議な速さだ。地球の内部をなにかが岩をかきわけながら動いていくにしては途方もなく速すぎるし、一方、秒速数キロメートルで走る地震断層と比べると、けた違いに遅すぎる。
 地震や台風など地球に起きる事件の常として、大きなものだけが起きることはない。たまたま大きいものだけが見えているだけなのであろう。
 いま、あなたの家の下を、小さな妖怪が、音も立てずに通りすぎているのか
もしれません。(次号につづく)(次回はシリーズ12を掲載します)
                    (夕刊フジ 7月19日号より)

.. 2013年08月02日 12:21   No.571009
++ 島村英紀 (小学校高学年)…25回       
御前崎に夏だけ巨大地震"予兆"?
 |  毎年夏になると、御前崎の下降が止まったのではないか、と
 |  肝を冷やす年が続いていた。真夏の怪談
 |  巨大地震の"予兆"かと思われた夏の怪談のナゾがようやく解けた
 |  コラムその13:「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」
 └──── 島村英紀(地震学者)

 静岡県御前崎(おまえざき)。浜岡原発のすぐ近くで遠州灘と駿河湾を区切っているこの岬は、日本の地震予知でいちばん注目されている岬である。
 フィリピン海プレートが沈み込むことによって、御前崎の載っている西日本のプレートが引きずり込まれ、このため尖端にある御前崎が少しずつ沈んでいっている。その大きさは50年間で25センチほどだ。
 状況は千葉県の房総半島の南端にある野島崎も同じで、大地震と大地震の間には沈み込みが進んでいき、大正関東地震(1923年)のような大地震が起きると、岬は一挙に数メートルも飛び上がる、というのを繰り返してきている。
 御前崎では、いまの沈み込みが止まってその後ゆっくり上昇をはじめると、恐れられている南海トラフや駿河トラフの巨大地震が近い、というのが有力な学説になっている。このため精密な「測地測量(そくちそくりょう)」が定期的に行
われて、御前崎の上がり下がりが測られてきていた。
 この測量はもちろん専門家の手によるもので、細心の注意をはらって行われていた。その精度は何十キロもの測線全体でも誤差が数ミリという高いものだ。
 しかし、測量の結果には不思議なことがあった。御前崎は全体としては少しずつ沈んでいくのは確かなのだが、毎年、春には沈み方が少なく、秋には多いのであった。つまり、毎年夏になると、御前崎の下降が止まったのではないか、と肝
を冷やす年が続いていた。真夏の怪談――。
 御前崎は海に突き出しているから、潮の満ち干の影響を受ける。潮が満ちているときには御前崎のまわりの海底に重いものが載っていることになるから、御前崎はわずかながら沈む。逆に潮が引いているときにわずかに持ち上がるのである。
 精密な測量のこと、そんなことはとうに分かっていたはずなのだが、実際の測量は何日もかけて往復で行われていたので、そのあいだに何度も潮の干満がある。

.. 2013年08月10日 13:50   No.571010


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