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■--2月26日伊方原発運転差止山口裁判
++ 山崎久隆 (社長)…1953回          

2月26日伊方原発運転差止山口裁判
 | またも司法の無責任な逃亡 福島第一原発事故を忘れた司法判断
 | 「行政の判断を形式的に追認することは被害者保護という
 | 司法本来の機能を麻痺させている」
 | 「判決要旨」を批判する
 └──── 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◎ 2月26日、伊方原発で重大事故が起これば、瀬戸内海を挟んで対岸
の山口県でも甚大な被害を受け人格権が侵害されるとして、162人が3号
機の運転差し止めを求めた訴訟(伊方原発運転差止山口裁判)の判決が山
口地裁岩国支部であった。

 小川暁裁判長は事業者と規制当局の判断に不合理な点はなく「原告らの
生命、身体を侵害する具体的危険があるとは認められない」として請求を
棄却した。

 判決は形式的に原子力規制委員会(以下「規制委」)の判断に対する異
常なまでの「尊重」を示す一方で、科学的不確実性や低頻度だが高被害の
事象に対する司法の役割を放棄している。

 判決は規制基準の「合理性」と規制委の「不合理性の不存在」を根拠に
原告の請求を棄却したものであり、極めて不当だ。
 判決は『原子力規制委員会がその策定した新規制基準に発電用原子炉施
設が適合するとの判断を示した場合には、その安全性については、判断基
準及びこれに適合するとした判断に不合理な点があるかという観点から検
討すべきであり、…』としているが、その論理展開と事実認定には複数の
重大な欠陥がある。

 以下、主要な問題点を整理し、具体的な問題点を論ずる。

1.司法審査の枠組み設定の問題点―過度の行政的委任(事実審査の放棄)

 判決は規制委の判断を出発点にし、「不合理性がない限り」安全性を認
める枠組みを採用している。これは司法が独自に危険性の評価を行うべき
場面で、事実認定を事実上規制委に丸投げする構図を生む。

 その問題点としては、規制委の審査自体が専門的・技術的であることは
事実としても、裁判所は「不合理性」の有無を精緻に検証するための独自
の事実調査、すなわち反対意見の検討、データの再評価、専門家の対比な
どをすべきところ、それを怠っている。単に「複数の専門家が支持してい
る」との記述で片付けるのは不当である。
.. 2026年02月28日 08:18   No.3437001

++ 山崎久隆 (社長)…1954回       
 また、立証責任の転換が極めて不公平である。
 判決はまず被告(事業者)に新規制基準や規制委判断に不合理性がない
ことを主張立証させ、被告が尽くした場合に原告に具体的立証を求めると
する。
 しかし原告は被告の保有する調査データや専門解析にアクセスできない
のが通常であり、実質的に立証不可能なハードルを課している。
 裁判所は被告の主張・資料の妥当性を独立に検証する義務が
あるはすだ。

2.地震リスク評価に関する具体的欠陥−
  調査手法(二次元音波探査)を安易に容認

 判決は『二次元音波探査の方法によるもので…明瞭なものであり…三次
元音波探査を実施すべきであったとはいえない』と結論付ける。
 そもそも音波探査では明瞭な地質構造を見極めることは難しい。
 特に伊方沖のように複雑な海底地形では、堆積層や断層の立体的構造、
断層の連続性や分岐、または傾斜成分を評価するにはせめて3D(三次元)
データ程度は使わないと無理である。

 2D(二次元)のみで「明瞭」と断定するのは科学的ではない。
 特に中央構造線のような複雑な断層帯では、局所的な正断層成分や過去
の活動痕跡を見落とすリスクが高い。
 また、裁判所の検証不足も問題である。
 判決は「複数の専門家が支持している」とするが、支持する専門家の立
場や主張の前提または解析手法の差異はもとより、特に反対意見の存在を
検討していない。

 専門家間の争点を整理した上で、どの点が決定的かを明示出来るくらい
には審査すべきである。
 さらに、「明瞭性」の基準が曖昧だ。
判決は調査結果が「明瞭なものである」とするが、何をもって明瞭とす
るかの基準が示されていない。
 科学的評価では不確実性の定量化(信頼区間、感度解析、代替仮定下で
の結果)が不可欠であり、単なる印象記述で評価を済ませるべきでは
ない。

3.火山リスク評価に関する問題点−慎重さを欠く「非切迫性要件」と
  「具体的根拠欠缺(けんけつ)要件」

.. 2026年02月28日 08:30   No.3437002
++ 山崎久隆 (社長)…1955回       

 判決は「令和元年火山ガイド」に基づく枠組みを支持し、「非切迫性」
かつ「具体的根拠欠缺(けんけつ)」であれば運用期間中の巨大噴火の可能
性は社会通念上容認できるとする。
 しかし巨大噴火は低頻度だが被害は壊滅的であり、予防原則の観点から
は、低確率×高被害の事象に対しても厳格な審査が求められる。
 判決は「低頻度」を理由にリスクを容認(事実上無視)しているが、
これは被害の規模を考慮したリスク評価(期待被害=確率×被害規模)を
も無視している。

 これには地球物理学的データの解釈についても安易に結論を出してい
る。『草千里南部(阿蘇山の火山活動を評価する上での特定の調査地点、
阿蘇五岳の一つである烏帽子岳の北麓に広がる直径約1kmの草原の南
側)の地下約6kmのマグマ溜まりは大規模ではない』『玄武岩質である
ため巨大噴火の引き金とはならない』などと被告の評価を追認する
だけだ。

 これは、マグマ組成や深さだけで巨大噴火の可能性を否定する短絡的な
主張である。
 マグマ供給系の変化や長期的な地殻変動または熱水系の変化など複合的
要因が噴火様式を変える可能性がある。
 しかし判決では「複数の地球物理学的調査」を根拠にしつつも、調査の
解像度や時点や解析手法の差異を検討していない。

 さらに将来変化の不確実性を過小評価している。
 判決は「現在の活動状況」を基準に判断すべきとするが、原子炉の運転
期間及び使用済燃料の残存期間(数十年から100年単位)にわたる地殻・
マグマ系の変化まで十分に考慮することはしていない。
 長期的な確率論的評価やシナリオ分析が欠落している。

4.避難計画に関する裁判所の判断の問題点

 判決では『原告らの居住する地域に係る避難計画を欠くことのみを
もって…差止めを認めることはできない』と述べる。
 しかし避難計画の欠如または避難そのものの不可能性は、原子力災害発
生時の被害拡大を直接的に助長する要因であり、リスク評価の一部として
扱うべきである。
 安全性の評価を「設計・施設の耐性」だけに限定し、避難や被害軽減策
を別枠で切り離すのは不当である。
 避難計画の欠如と不備は、原告らの人格権(生命や身体の保護)に直結
する重要事実であり、これを軽視するのは司法の責務放棄だ。

.. 2026年02月28日 08:41   No.3437003
++ 山崎久隆 (社長)…1956回       
5.証拠評価と専門家証言の扱いに関する欠落

 判決は「複数の専門家が支持している」と繰り返すが、反対意見や懸念
を示す専門家の主張を十分に検討そして反駁もしていない。裁判所は専門
家間の争点や論点の差異、特にデータの解釈、モデルの仮定、感度などを
明示的に比較検討すべきである。
 また、不確実性の定量的な扱いも認められない。感度解析、確率分布、
最悪ケースのシナリオの提示など、リスク評価に必須の定量的手法が判決
文には見られない。
 単なる「不合理性の不存在」では、科学的な不確実性を裁判所が適切に
反映したとは言えない。

6.法理的・政策的帰結―この判決のどこがなぜ問題か

 この判決は決定的に司法の役割縮小を目指すものだ。
 判決では行政の専門判断に対する司法のチェック機能を弱め、将来の同
種訴訟においても「規制委追認」型の結論を誘発する。いや、特に近年続
いている原告敗訴の判決でも同じ論理展開が続いている。
 被害者保護の後退も顕著だ。火山リスク評価を事業者の評価のままでよ
しとする立場では、低頻度だが壊滅的なリスクに対して被害が現実化する
まで差止め等の救済が得られなくなる。
 さらに透明性と説明責任の欠如が繰り返し示されている。
 裁判所が規制委や事業者の資料を独立に検証し公開の場で争点を整理す
ることを怠ると、公平性も信頼性も損なわれる。
 それが今、次々に進行しているのである。

7.法的・倫理的観点

 判決は形式的に合理性の基準を掲げるが、低頻度高被害リスクに対する
慎重性、証拠の透明な比較検討、被害者保護の観点が欠落している。
 司法は規制委などの専門性を尊重したとしても、最終的な安全性の判断
においては独自の事実認定と不確実性の評価を放棄してはならない。
 この判決の論理構造は、将来における重大事故発生時に「事後的に正当
化される」ようなリスク受容さえも許容する危険を孕むといわねば
ならない。

◎ 最後に、判決の論理構造を再びまとめて問題提起する。

.. 2026年02月28日 08:54   No.3437004
++ 山崎久隆 (社長)…1957回       
 火山噴火リスクについて、現状では切迫していないこと、さらに具体的
根拠が欠缺(けんけつ)している状況、というのは、判決によると、原発
の運用期間中に巨大噴火が発生する可能性を示す科学的に合理性のある具
体的な根拠が示されていない状態であることを意味するとしている。
 この判決の論理に従うと、もし将来噴火や地震で事故が起きたとして
も、国や事業者は「当時の最高水準の科学的知見(ガイド)に基づき、裁
判所も認めた適正な手続きを踏んでいた。起きたことは当時の具体的根拠
を超えた『想定外』である」と事後的に正当化できてしまう。
 司法が「不確実性」に目をつむり、行政の判断を形式的に追認すること
は、被害者保護という司法本来の機能を麻痺させているのである。

.. 2026年02月28日 09:00   No.3437005
++ 浅野健一 (社長)…716回       
東京高裁が地裁に続き統一協会に解散命令
 | 教団と癒着の自民党も解党・解散すべき
 | 最高裁決定待たず清算人が清算を開始
 | 国家の「信教の自由」介入を警戒せよ
 | 「メディア改革」連載第198回
└──── 浅野健一(アカデミックジャーナリスト)

◎ 奈良地裁で昨年10月28日から今年1月21日まで開かれた安倍晋三
元首相暗殺(2022年7月)の山上徹也さんの裁判員裁判を取材していた
英誌「エコノミスト」東京支局の飯田萌花記者に、「浅野さんは、文部科
学省による世界平和統一家庭連合(統一協会)の解散命令請求についてど
う思うか」と聞かれたことがある。
 私は「国家権力は信教の自由に介入すべきではない。宗教法人の解散命
令は過去に、教団トップが刑事責任を問われたオウム真理教と明覚寺の2
例があるが、民法上の不法行為を理由としたことはない。マスコミが
煽り、統一協会と半世紀、ズブズブの関係だった自民党政権が“目くらま
し的”に急いだ命令手続きには反対だ」と答えた。

◎ 東京高裁(三木素子裁判長)は4日、統一協会に解散を命じる決定を
出した。
 莫大な献金被害を認定して解散を命じた東京地裁決定(2025年3月)
を支持し、教団側の即時抗告を棄却した。
 裁判長は「信者らの不法行為の態様は極めて悪質で、結果も重大だ。
 教団は実効性のある対策を自発的にとることは期待しがたく、解散を命
じるのは必要でやむをえない」と認定した。

◎ 安倍氏暗殺事件をきっかけに高額献金被害に注目が集まり、文科省
(盛山正仁文科相=当時)が2023年10月に解散命令を請求していた。
 朝日新聞デジタルが決定要旨の全文を以下のURLで読める。
https://www.asahi.com/articles/ASV3414Q4V34UQIP01DM.html

.. 2026年03月07日 08:54   No.3437006
++ 浅野健一 (社長)…717回       

◎ 高裁決定によって、教団は宗教法人格を失い、税制優遇が受けられ
なくなる。
 東京地裁は、清算手続きを行う清算人として、伊藤尚弁護士(第一東京
弁護士会)を選任した。伊藤氏は今後、1181億円(2022年度末時点)と
される教団財産を管理し、献金被害者への賠償に充てる。
 高裁の決定後、統一協会の福本修也弁護士は「信じられない。こんな
ことがあっていいのか」「法治国家ではない」などと批判した。
 教団側は高裁の審理で、地裁が認定した被害のうち約186億円分を占め
る和解・示談について「不法行為の水増しだ」と地裁決定を批判した。

◎ 統一協会によって生活を破壊された被害者、統一協会と闘ってきた
弁護士たち、20数年間前から統一協会を追及してきた鈴木エイト氏ら
が、高裁決定を歓迎する気持ちはよくわかる。
 しかし、同時に、統一協会より悪質で卑劣な自民党政権による申し立て
によって、決定がなされたことに問題がなかったのかの検討が欠かせない。

◎ 私は近著『自民党は解党・解散せよ 統一協会・裏金・軍拡の政党
は不要』(あけび書房)で、自民党は統一協会の解散の前に、党の解散
を」と主張した。
 自民党は統一協会との癒着について書面調査をしただけで、独立した調
査委員会も設置せず、幕引きを図った。

◎ 昨年末、韓国メディアがスクープした統一協会本部への「TM報告文
書」では、萩生田光一自民党幹事長代行・高市早苗首相らに関する新事実
が出ているが、再調査の動きはまったくない。
 そんな自民党政権に統一協会を監視する資格はない。
 宗教法人にとって「解散命令」は死刑に等しいのに、最高裁の判断を待
たず、清算手続きが開始されたのも違和感がある。
 統一協会信者にも基本的人権があることは認めるべきだ。
 宗教の在り方は、報道(表現)や学問の自由と同様に、法規制ではな
く、社会的統制の道を探るしかない。面倒なことだが、権力を持つ為政者
に頼るのはできるだけ避けるべきだ。

◎ 統一協会広報渉外局は4日、「安倍元首相銃撃事件の犯人・テロリス
トの『家庭連合を恨み、打撃を与える』という願望を国家ぐるみで叶える
ものと言える。今回の司法の判断は、新たな政治テロを誘発すると同時
に、わが国の歴史に残る汚点となる」としたコメントを発表した。

.. 2026年03月07日 09:01   No.3437007
++ 浅野健一 (社長)…718回       
 統一協会が、高裁の解散命令を、山上徹也さんの「教団を恨み、打撃を
与える」という願望を国家ぐるみで叶える決定だと断じたのは、「飛躍が
あり、生い立ちの影響を大きく認めることはできない」と判示した奈良地
裁判決(1月21日)を完全否定するものだ。

◎ 統一協会の広報担当者は1月16日、私の取材に、「昨年11月に高裁
へ提出した最終書面で解散命令の不当性を主張した。岸田元首相が2022
年、宗教法人法の解釈を一夜にして変更し、民法違反でも解散命令ができ
ると法を拡大解釈した。政府が暴走して解散命令に向かった。政府の恣意
的な狙い撃ちだった」と答えた。
https://nikkan-spa.jp/2141291

◎ 私は、あけび書房から3月初旬に『安倍元首相銃撃・山上徹也さん裁
判傍聴記』を出版する予定だったが、2月13日、編集方針をめぐって意
見が合わず、同社での刊行を取り止めた。
 他社での出版が正式に決まり次第、お知らせしたい。

.. 2026年03月07日 09:15   No.3437008
++ 熊本一規 (大学院生)…100回       
.上関原発裁判判決を批判する(上)
 | 公有水面埋立法の枠組みを理解していない
 | 「埋立権が所有権類似の性質を持つ」と解している
 | 「補償は必ずしも必要ない」としている
 | 連載「権利に基づく闘い」その45
 └──── 熊本一規(明治学院大学名誉教授)

◎ 2026年3月5日、山口地裁岩国支部(小川暁裁判長、岩谷彩裁判
官、佐野東吾裁判官)は、上関原発をめぐる裁判(令和4年(ワ)第70
号 妨害予防請求事件)の判決(以下、「同判決」という)を下した。
 同判決は、被告(祝島島民の会)に対し、海上ボーリング調査を含む原
告(中国電力)の公有水面に対する使用を妨害する一切の行為をしてはな
らないという内容であった。

 海が一般公衆の共同使用に供される「公共用水面」であることは、それ
が海水浴や釣りやヨット等の使用に供されている事実からわかるように誰
しも否定できないことであるが、本件の最大の争点は、埋立免許により生
じる埋立権に妨害排除請求権があるか否か、分かりやすく言えば、埋立免
許に因って埋立工事を施行する水域(以下「埋立施行区域」)が埋立工事
以外の使用ができない「排他的水面」になるか、それとも「公共用水面」
であり続けるかであった。

◎ 同判決は、「排他的水面」になるとの判示をしたのである。
 実は、埋立免許がなされても公共用水面は公共用水面であり続けるとし
た有力な大審院判決が存在する。昭和15年2月7日判決がそれであり、
次のように判示している。

 公共用水面埋立ノ免許ハ一ノ行政処分ニシテ之ヲ受ケタル者ニ其ノ埋立
ヲ条件トシテ埋立地ノ所有権ヲ取得セシムルコトヲ終局ノ目的トスルモノ
ナレトモ免許自体ニ因リ直ニ該水面ノ公共用ヲ廃止スル効力ヲ生スルモノ
ニ非ス
(口語訳:埋立免許は一つの行政処分で、これを受けた者にその埋立を条
件として埋立地の所有権を取得せしめることを終局の目的とするものであ
るが、免許自体に因って直ちにその水面が公共用水面でなくなる効力を生
ずるものではない)

 にもかかわらず、埋立免許により排他的水面になると判示した同判決
は、当然のことながら、数々の誤りを含んでいる。
 以下、主要な誤りを指摘する。

[1] 公有水面埋立法の枠組みを理解していない

.. 2026年03月15日 08:58   No.3437009
++ 熊本一規 (大学院生)…101回       
 公有水面埋立法は埋立の手続きを、以下のa〜gのとおり定めている。

a 埋立免許出願(埋立事業者が知事に埋立免許を出願)
b 水面権者の埋立同意(漁業権者等の水面権者の埋立同意を取得)
c 埋立免許(知事が埋立事業者に埋立免許を出す)
d 水面権者への補償(埋立事業者が水面権者に補償する)
e 埋立工事に着工
f 竣功認可(埋立が完成したことの認可を知事から取得)
g 埋立地所有権の取得(埋立事業者は竣功認可の告示の日に埋立地の
所有権を取得)

 同判決は、埋立権が妨害排除請求権を持ち、埋立施行区域内の水面は、
埋立以外の使用が存在しない排他的水面になるとするが、もしもそうであ
れば、埋立免許後には、埋立施行区域内には埋立権以外の権利が存在し得
ないことになるから、dの手続きが不要になるはずである。
 dの手続きを定めているのは公有水面埋立法6条及び8条である。
6条では埋立工事により損害を受ける水面権者に補償すべきことを、8
条では水面権者に補償した後でなければ埋立工事に着工できないことをそ
れぞれ規定している。

 公有水面埋立法6条・8条は、埋立権が妨害排除請求権を持たず、埋立
免許後にも水面権が存在し続けることを意味しているのである。
 同判決は、公有水面埋立法の枠組みを理解しておらず、埋立権が妨害排
除請求権を持つという見解が公有水面埋立法6条・8条に違反することに
全く気付いていない。
 公有水面埋立法に関する初歩的誤りというほかはない。

[2]「埋立権が所有権類似の性質を持つ」と解している

 同判決は、埋立権が妨害排除請求権を持つ根拠として、次のように述べ
ている(19頁)。
 この公有水面埋立権は、国が公有水面を所有することに由来することか
らすると所有権から派生したものであり、所有権類似の性質を持つと解さ
れる。
 つまり、埋立権は、国が公有水面を所有することに由来するので所有権
から派生した権利であり、所有権類似の性質を持つから妨害排除請求権を
持つとするのである。
 妨害排除請求権を持つのは物権ないし物権的権利であるため、埋立権が
妨害排除請求権を持つ根拠を私法上の「所有権」に求めたのである。

.. 2026年03月15日 09:04   No.3437010
++ 熊本一規 (大学院生)…102回       
 しかし、「公有水面」の「公有」が、私法上の所有権にあたるという見
解は、これまで公有水面埋立法の解説書(山口眞弘・住田正二『公有水
面埋立法』)にも判例にも全く存在しなかった見解である。
 同法1条は「公有水面とは、公共用水面にして国の所有に属するものを
いう」旨規定しているが、同法は「公所有権説」(公共用物には私法の適
用が排除されるため、私法上の所有権は存在しないとする説)に基づいて
立法された法律であるため、1条にいう「国の所有」も「公法上の所有」
と解説されてきたのである(拙著『埋立と漁業の法律問題』第三章を
参照)。

[3]「補償は必ずしも必要ない」としている

 1条にいう「国の所有」が「私法上の所有」であるとする同判決の見解
は、埋立権に妨害排除請求権を認めるために無理やり創り出された独自の
見解に過ぎず、誤りである。
 そのことは、同判決の次の一節(27頁)からも明らかである。
 しかしながら、「公有水面埋立権は、国が公有水面を所有することに由
来し、所有権から派生した所有権類似の性質を持つものであるところ、こ
のような性質に照らせば、妨害予防請求権を行使するに当たり、当然に補
償を要するものとは解されない。」

 このように、同判決は、埋立権が所有権類似の性質を持つことに照らせ
ば、妨害予防請求権を行使するに当たり(他の水面使用を排除するに当
たり)、補償を払わなくてもよい、と述べているのである。
 とすれば、従来の埋立で必ず支払われてきた補償が必ずしも必要で
なかったことになり、到底頷ける見解ではない。
 新憲法下では、財産権の侵害には必ず補償しなければならない
(29条)。
 埋立により、従来、埋立施行区域に存在していた財産権が消滅させられ
るならば、憲法に基づき補償が必要である。
 そのため、従来の埋立ではすべて補償契約を交わし、補償金を払う代わ
りに埋立に同意してもらって初めて埋立が可能になったのである。

.. 2026年03月15日 09:15   No.3437011
++ 熊本一規 (大学院生)…103回       
 ちなみに、同判決は、自由漁業の権利が公有水面埋立法の水面権に含ま
れていないことを根拠として自由漁業に補償が不要である旨述べている
が、自由漁業の利益が成熟すれば、財産権になり、補償が必要であること
は「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」2条に示されており、実務
上も自由漁業に対して必ず補償が支払われている。
 公有水面埋立法が補償対象を水面権に限定したのは、同法が大正10年
に旧憲法下で制定されたからであり、新憲法下では財産権にまで成熟した
自由漁業には必ず補償が必要である。
 また、水面権でなくても埋立に因り実害がある場合には補償が必要なこ
とは、第71回国会の政府答弁でも認められている。

 これらのことは、埋立の研究者にとっても実務担当者にとっても常識に
属することであるにもかかわらず、同判決が知らなかったのは、同判決が
漁業法や公有水面埋立法についての初心者によって書かれたことを物語る
ものである。
 埋立権が妨害排除請求権を持つから補償は必ずしも必要ないとする同判
決の見解は、これまでの埋立実務を全否定するとともに憲法29条に違反
する暴論である。
 そして、同判決がこのような暴論を吐く根本原因は、前掲引用文(同判
決27頁)に示されているように埋立権が所有権類似の性質を持つと解し
ているからである。(「下」に続く)

注:2026年3月5日判決は、筆者のホームページ
  こちら に掲載している。

.. 2026年03月15日 09:22   No.3437012


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