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出版元の神保町に通う 家庭に本がなくては人間は成長しない
鎌田 慧(ルポライター)
「なぜ肩書がルポライターなの?」とたまに聞かれる。これはフランス 語のルポルタージュ(現地報告)と英語のライター(書き手)の和製語 だ。30歳でこの世界に飛びこんだときは、新人の書き手の肩書はみんな 一様にルポライターにされていた。 1980年代、事件や社会問題の関係者に聞き取りを重ねで再現する、米 国のニュージャーナリズム作品が翻訳された。 書き手はノンフィクション作家や作家を名乗るようになった。 が、わたしはそのままできた。 ルポライターの精神は現場に入りこみ、生の声に耳を傾け、権力によ らない独自の視点で書く。「事実とは違います」と言われることは恥ずべ きことと心がけてきた。 公害、開発、労働争議、炭坑、工場の実態、福祉・教育、ハンセン病、 冤罪事件…。 経済大国ニッポンの繁栄の陰で切り捨てられた人びとや貧困・少数者に 向き合った。18歳で上京し、零細企業で働いたのが原点だ。大逆(たい ぎゃく)事件を生き抜いた坂本清馬(せいま)らの伝記も手がけ、出版数は 150を超える。 古書店街の神保町周辺は出版元の岩波書店、西田書店、論創社、集英社 があり、よく通った。懐かしい思い出がつまる。 昨年9月から「鎌田慧セレクション−現代の記録−」を刊行する皓星( こうせい)社もある。同社は出版文化の発展に寄与したとして今年の出版 梓会(あずさかい)新聞社学芸文化賞の特別賞を受賞した。 10代の頃、自宅に兄がそろえた菊池寛全集などがあり、乱読してい た。 スマホで活字離れが著しいが、家庭に本がなくては人間は成長しない。 (12月18日「東京新聞」朝刊24面「私の東京物語」「9」より)
.. 2026年01月10日 10:25 No.3401001
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