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アメリカ人が乗る自動車の平均重量は約2トンです。2トン分の鉄とプラスチックとガラスが使われているわけです。たしかにインパネ (計器盤)がデジタル表示になり、運転しながらテレビが見られるようになったかもしれません。
しかし、その自動車に2トンの原材料が使われている事実は、いまも昔も変わりません。アメリカ人がSUV (Sport Utility Vehicle) やピックアップトラックを好むことは売り上げの数字からも明らかです。
フォードのFシリーズのピックアップトラックは、もう30年以上のベストセラーです。Fシリーズは前よりも重くなってきていますし、販売台数も増えています。つまり、ピックアップトラックを作るのに必要な原材料は、むしろ増加の一途を辿っているわけです。
携帯電話を考えると10年前に比べれば軽くなりました。でも、世界中で何十億人が携帯電話を使うようになっています。携帯電話の製造に必要な原材料の総量自体は減るどころか、増える一方なのです。
たしかに経済の一部では非物質化が起きていますが、経済の全体が非物質化しているわけではありません。そこのところを取り違える人が多いようです。重要なのは、エネルギー消費の総量と使用原材料の総量です。
近代世界を出現させた「人口」「食糧」「エネルギー」「経済」という4カテゴリーでの時代を画する大転換が、いま「第5の転換」によって危機にさらされていると指摘されています。生物圏を居住可能な空間として保つためには、とりわけ気候変動への対処に力を入れなければならないということです。
対処しなければならないのは気候変動問題だけではありません。気候変動ばかりに注目する考え方は、あまり好きになれないのです。環境問題は多数あり、気候変動は多数ある環境問題の一つでしかないことをもう何十年も言いつづけている方がいます。
いま仮に、気候変動の問題がまったくなかったとします。二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しても、気候に何の影響も出ないと仮定します。それでも、多くの国で進行している大規模な森林伐採の問題は、解決されずに残ります。生物多様性の大喪失という問題も解決されずに残ります。海に数億トンのプラスチックが漂う問題も解決されずに残ります。
.. 2025年01月17日 06:50 No.3169001
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