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自分で考え 声上げる 作家・落合恵子さん (下)(了) 母の教え胸に 問い続ける憲法の理念
ただ、「残酷な」偏見は、誰の心にも芽生える。 幼い落合さんにも。 未婚で落合さんを身ごもった母は家族の反対を押し切り、産んで一人 で育てる道を選んだ。 事務職に就いたが、生活は苦しく、雑居ビルで清掃にも従事した。 娘が口にしたのは「もう一つのお仕事(清掃)はやめて」。友達に見 られたくなかった。
母は娘をビルに連れていった。トイレを磨いて床にモップをかけ、終 わると「なぜ恵子はこの仕事はやめてというの?」と間うた。 「大事な、立派な仕事なのに、無念だったと思います。未婚の母とな り、世間の偏見にさらされながら、娘の中にも差別意識を見つけてし まった」 母の間いに答えられなかった落合さんだが、間いの重みは忘れたこと がない。
「母は、いつも『自分で考えなさい』と。自ら考えれば内省もする し、社会への疑間も生まれてくる。それを教えてくれた」 その教えは多くの著作に投影されている。社会の片隅で埋もれがちな 声に耳を傾け、代弁している。
落合さんにはいくつかの人生のテーマがある。 一つが「終戦の年に生まれた偶然を必然に変える」。 その指針にもなりうる存在が、自身とほぼ同じ歳月を生きてきた 憲法だ。 作品に染み込む主題は個人の尊厳や多様性の保障、法の下の平等…。 憲法の条文とも重なり合う。
「理念が浸透しているのか、権利が蔑(ないがし)ろにされていない か」。間い続けている。 主宰するクレヨンハウスには児童書とは別の書籍フロアがある。フェ ミニズム、原発と報道、安保・自衛隊、沖縄…。 今も多くの人々が苦しむテーマが並ぶ。 壁にはこんなメッセージも張られている。 「わたしたちがこの社会を構成しているのです。 おかしいと思ったら、声を上げましょう」 (10月29日「東京新聞」朝刊28面 「昭和20年に生まれて 東京発 Born in 1945」より)
.. 2024年11月09日 05:41 No.3138001
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