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崩壊の淵から這い上がる大企業 1990年代の前半は、アメリカの伝統ある大企業が消滅の危機に瀕していた時代です。製造業の王者と言われ、その10年前には自動車販売市場の約50%を占有していたゼネラルモーターズ(GM)はシェアを38%に落とし、10万人の社員をレイオフしていました。
流通業の星と言われたシアーズ・ローバックは3兆円の赤字を計上し、シカゴにあるシアーズタワーと呼ばれた本社ビルを売却していました。世界最高の金融機関と呼ばれたバンク・オブ・アメリカは中西部の地域銀行に身を落とし、その後、南部のノースカロライナに移転しています。
世界の翼と言われ、ニューヨーク市のマンハッタンのパークアベニューに聳え立つ本社を持っていたパンアメリカン航空は消滅しました。コンピュータ業界ではコントロールデータ、バローズやDECが消滅し、業界の巨人であったIBMも1993年に4兆円という巨額の赤字を計上し、4万人いた社員を2万人に半減させ、倒産の淵に追い詰められました。
そしてIBMの取締役会は歴史上、初めて最高経営責任者(CEO)を外部から採用するという驚くべき決断をします。招聘されたのはルイス・ガースナー氏でした。彼はマッキンゼーのコンサルタントを経てアメリカン・エキスプレスのCEO、RJRナビスコという食品会社のCEOを経験した優秀な経営者でしたが、IBMに入社したときの評判は散々でした。
「彼はポテトチップのことはわかってもコンピュータのチップのことは何も知らない」などの罵詈雑言を浴びていました。彼の前職であったナビスコの主力商品の一つがポテトチップだったからです。
ガースナー氏はその後、IBMを技術と設備を売る会社からグローバルなITソリューションカンパニー に進化させ、見事に再生させるのですが、最初は誰も彼の成功を信じてはいませんでした。苦しんでいたのはIBMだけではありません。
シリコンバレーをつくった会社と言われたHPは往年の輝きを失い、社長が相次いで交代する混乱を経験します。アップルはスティーブ・ジョブズを解雇し、彼がペプシコから招聘したジョン・スカリー氏をCEOにしますが、業績悪化のなかで相次いで社長が入れ替わる惨状でした。招かれた経営者は皆、20世紀型の古い戦略経営をする人たちでした。
.. 2024年09月10日 07:51 No.3098003
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