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◆琉球弧の戦雲 鎌田 慧(ルポライター)
三上智恵監督『戦雲(いくさふむ)』を観た。「また戦世(いくさゆー) になれば島は踏み倒されてしまう」と悲しむ石垣島の山里節子さんの表 情が心に残った。タイトルは彼女が冒頭で歌う即興曲(トウバラーマ)か ら採られた。 「戦雲がまた湧き出てきたよ。怖くて恐ろしくて眠ろうにも眠れない。 あぁ憎い、権力者どもよ」
映画を見たかったのは南西諸島での白衛隊基地の現況を知りたかった からだ。 石垣島生まれの山里さん家族は戦時中、日本軍によってマラリアの 猖獗(しょーけつ)地へ追いやられ、母親と祖父とが病死、妹は餓死、兄 は戦死、とかつて取材で伺っていた。 南西諸島も戦争被害がひどかったが、戦後は米軍はおろか自衛隊の フェンスなどのない平和な島だった。 ところが、2016年、最西端、台湾を望む与那国島に自衛隊が上陸して から、宮古島、石垣島ともに一気にミサイル基地と化した。
映画では巨大なカジキマグロと死闘を繰り広げる老漁師や豊漁を祈る 激烈なハーリー競漕(きょうそう)など、島の人々の生活が紹介されて いる。 一方で、弾薬庫の増設、シェルター建設、全島民避難計画が発表 され、日米共同軍事演習の強行。 この欄で石垣島の花谷史郎さんの言葉を紹介していたのを思い出し た。「ミサイルを並べ立てたらこっちから中国にけんかを仕掛けること になる」(「マンゴー とミサイル2」2017年1月10日) (5月14日「東京新聞」朝刊19面「本音のコラム」)
.. 2024年05月16日 08:55 No.3016001
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