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■--緊急地震速報
++ 島村英紀 (社長)…866回          

緊急地震速報「6割以上が安全確保せず」…
| 地震予知の“代役”にはなれない
| 「直下型地震には対応できない」根本的な弱点も
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その497
 └──── 島村英紀(地球物理学者)

 衝撃の調査結果が発表された。
緊急地震速報が出たときに、安全と思う場所に移動するなどの行動を
した人の割合は35%にとどまった。
 一方、その場で身構える程度で行動を伴わなかった人が52%を占め、
13%が何も反応していなかった。全国の20〜80代の男女計491人の回答を
分析したもので、年齢が高い人ほど、速報に反応していない傾向も明ら
かになった。関東学院大の大友章司准教授(応用心理学)らの研究につ
いて、神奈川新聞が報じた。

緊急地震速報は一刻を争って出さなければならない。震度5弱以上を
地震計で捉えると、まだ揺れが伝わっていない地域に警戒を呼びかける
仕組みだ。かといって自動車や動物と間違えては困るから、震度5弱以
上を地震計2台以上で捉えると速報を出す。
 警報が発表された地域にいると、携帯電話から警報音が鳴り、安全な
場所に身を寄せるなどの緊急の行動が求められる。

私がある本を書いたときに、事前に読者からの要望を集めた。
目立ったのは「数秒ではなくてもっと長くしてくれないか。数分で
も、数時間でもいい」という要望だった。長くするのは、元来、無理なのだ。
勘違いしている人も多いが、この緊急地震速報は地震予知ではない。
地震予知が出来ないので導入したものだ。

 恐れられている南海トラフ地震が起きたときに、横浜で10秒ほどが、
東京でも10数秒しかない。しかも遠くなれば揺れも小さくなるから、20
秒以上になるところで知らせてくれても警報の意味がなくなってしまう。
 震源から離れるほど速報伝達後の猶予時間は長くなるが、揺れは小さ
くなる。ゆえ速報が地震災害の軽減には役に立たないことになってしまう。

一方、緊急地震速報の仕組みには根本的な弱点がある。
直下型地震には対応できない仕組みになっていることだ。
.. 2023年07月06日 16:20   No.2796001

++ 島村英紀 (社長)…867回       
直下型地震では震源は真下にあり、いちばん近い地震計が地上にある
ために、肝心の震源近くで揺れが強いところでは緊急地震速報が間に
合わない。震源地から半径40キロ以内では緊急地震速報は間に合わない。

気象庁の試験運用のデータでは、予測震度と実際の震度が一致した
ケースが37%、これを含む震度が上下1階級以内のときが83%で、17%
が「はずれ」だった。
 緊急地震速報がうまく働いたとしても、個人ではできないことは十分
想像できる。
 走っている新幹線はその時間では完全に停止することは出来まい。工
場でも大きな機械を短時間で止めることは不可能だ。手術中の病院で
も、これだけの時間では手術を止めることはできないだろう。

緊急地震速報は地震予知の代役にはなれないのである。
調査結果は緊急地震速報が無視されたことを意味する。
 見透かされて「化けの皮」が剥がれかけているのかもしれない。

 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 6月23日の記事)

.. 2023年07月06日 16:25   No.2796002
++ 島村英紀 (社長)…870回       
土星の第2衛星「エンケラドゥス」に生命!?
| 「内部海」から元素を確認、生命存在に必要な条件をすべてクリア
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その499
 └──── 島村英紀(地球物理学者)

 かつて、夜に墓場でリンが燃えると言われた。土葬された人体から出た
リンが青白い光を放つのを見た言い伝えだ。人体でなくても、植物が枯死
するか、その植物を食べた動物が死ぬ、微生物に分解され土壌に戻るとき
に光る現象だ。
 リンは人体をはじめ生物にはなくてはならない元素である。

 話は突然変わる。いままでは地球外生命を見つけるのに太陽系以外が
主力だった。「ハビタブルゾーン」とは水が凍らなくて水として存在する
ゾーンで、長い間には生物が生まれるのではないかと思われている範囲だ。
 特に米国が熱心で、太陽系の外ではハビタブルゾーンが数千も見つかっ
ている。液体の海が存在できる恒星との距離が、ごくごく狭い範囲に限ら
れているのだ。地球はたまたまそのひとつで、原始的な生命から人類まで
数億年かかって進化したと思われている。

 ところが、星の内部にある「海」ならば、ハビタブルゾーンの距離の
条件はそれほど厳しくないことが分かった。
 地球よりも遠くて太陽の熱を受けない火星、木星、土星以下の星にも
岩の下に「内部海」があることが分かって来てからだ。
 土星の第2衛星エンケラドゥスや第1衛星タイタン、木星の衛星エウ
ロパ、カリスト、ガニメデ、天王星の衛星のいくつかと小惑星帯のセレス
なども「内部海」を持つ。じつは液体の「海」はありふれたものだった。

 しかも、エンケラドゥスの南極から噴出する水蒸気プルームが、エンケ
ラドゥス自体の大きさの20倍以上にも広がっていることが分かった。
 エンケラドゥスの南極から噴き出す水蒸気によって形成される水の
ドーナツ「ウォータートーラス」。
 噴き出す水蒸気は土星から受ける重力によって、エンケラドゥスが常に
伸び縮みし、そのために熱が生じるからだと考えられている。
 水の3割はドーナツ内にとどまるが、残り7割は土星系へと散らばって
いく。この3割が特徴的な土星の「帽子のつば」を作っていることが
分かった。

.. 2023年07月16日 06:52   No.2796003
++ 島村英紀 (社長)…871回       
 しかも噴出物にはリンが豊富に含まれていた。地球の海水に含まれる
リンの数千〜数万倍にもなる濃さだった。
 リンは地球上のあらゆる生物にとって必要不可欠な素材だ。リンは地
球上で11番目に豊富な元素だが、人間でも6番目に豊富な元素でもある。
人間だけでなく、あらゆる動植物に必要な素材である。DNAとRNA、
エネルギーを運ぶ分子、細胞膜、骨、歯などはこれがなければ作れない。

 このほか、生命に不可欠なほかの元素(炭素・水素・窒素・酸素・
硫黄)もまた確認されている。つまりエンケラドゥスの「海」は、生命
が存在するために必要な条件をすべてクリアしているということになる。
 エンケラドゥスは、地球外生命を探究する宇宙生物学者にとって最大
の目標となっているのだ。
 次の探査はエンケラドゥスに違いない。

 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 7月7日の記事)
  

.. 2023年07月16日 07:03   No.2796004
++ 島村英紀 (社長)…872回       
地球には「1日19時間」の時期があった
| 自転は2億年ごとに1日に約1時間ほど遅く
| 大地震でも速度や自転軸が変化
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その500
 └──── 島村英紀(地球物理学者)

 地球の歴史は46億年ある。地球が出来たときには地球の自転の速さは
はるかに速かった。1日は5時間もなかったのだ。自転は2億年ごとに
1日に約1時間ほど遅くなっている。
 これは自転にブレーキをかける力が強いからだ。潮の干満による海水
と海底の摩擦や、地球の岩全体が太陽や月の引力でゆがむ地球潮汐
(ちょうせき)で、それぞれ大変な力である。

 大方の人は忘れているが、地球は宇宙に浮いている球だ。
 このほかに大地震がある。2011年3月に東日本大震災〈地震名は東北
地方太平洋沖地震)が起きて、地球の自転速度が百万分の1.6秒だけ
早くなった。巨大で重いプレートが地震のときに突然動き、それゆえ
地球の質量の分布が変化したためだ。同時に、地球の自転軸も約15センチ
メートルずれた。地球の大事件は自転軸の位置にも反映される。

いままでに起きた大地震でも地球の自転速度や自転軸が変化したこと
がある。たとえばスマトラ沖地震(2004年)では東北地方太平洋沖地震
の4倍も自転速度が早くなった。
 だが、2億年ごとに約1時間だけ一様に遅くなっているのではなく、
1日が19時間しかなかった時期が10億年続いたという学説が出た。
 約20億年前から10億年間だ。中国科学院・地質地球物理学研究所など
の研究チームが行った研究だ。

 これはミランコビッチ説を援用したものだ。地球の軌道は一定の周期
で揺らぎがあるほか、約10万年周期の公転軌道の離心率の周期的変化、
約4万年周期の自転軸の傾きの周期変化と約2.6万年周期の自転軸の
歳差運動の要素の影響がある。それがミランコビッチ・サイクルだ。
セルビア人のミランコビッチが手計算で導き出した。

.. 2023年07月23日 08:28   No.2796005
++ 島村英紀 (社長)…873回       
 地球の軌道は、10万年周期で円になったり楕円になったりと、伸び縮み
している。この離心率の変化により、それに合わせて太陽との距離が変わ
ることなどをミランコビッチが提唱した。1910年代から1940年代はじめに
かけてのことだ。
 ミランコビッチの説は彼が亡くなる1958年までに日の目を見ることは
なかったが、1970年代以降その基本的考え方が広く受け入れられた。

 中国科学院の仮説の根拠は、月と太陽が引き起こす潮汐の引力の差だ。
 現在、月の潮汐と太陽の潮汐では、月のほうがずっと強い。だが大昔、
地球が月から受ける影響はずっと小さかった。
 月の軌道が変わり、影響力が大きくなるにつれて、過去のどこかの時点
で、月と太陽のブレーキが釣り合う時期があったはずだ。それが10億年
続いたというのがこの学説の根拠だ。
 さて、もし1日が19時間だったら、人間は慣れただろうか。随分とせ
わしない生活に違いない。私たちは1日が24時間であることに感謝すべ
きなのだろう。

 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 7月14日の記事) 

.. 2023年07月23日 08:33   No.2796006
++ 島村英紀 (社長)…874回       
“最強の地震”でなくても脆い大都会の建物
 | 交通渋滞、私鉄・エレベーターの停止…大阪北部地震から5年
 | 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その501
 └──── 島村英紀(地球物理学者)

 大阪北部地震から5年がたった。登校中の小学校4年生の女児がブ
ロック塀の下敷きになるなど6人が犠牲となった。
 マグニチュード(M)は6.1、モーメント・マグニチュードはMw5.5で、
内陸直下型地震としてはそれほど大きくはなかった。震源の深さは13キ
ロメートル。
 Mから見ても、最大震度から見ても、それほどの大地震ではなかった。
現に大きな地震には名前を付ける気象庁は地震の名前をつけていない。
 このため「大阪府北部を震源とする地震」、「大阪府北部の地震」、
「大阪北部地震」、「大阪地震」など、呼び方もまちまちだ。この呼称
は混乱の元になる。
 最大震度は6弱。震度階では上から2番目だ。

 日本:第二の都会・大阪にとっては、阪神・淡路大震災(1995年)以来
の大地震だった。
 しかし、現地で最大震度7だった阪神・淡路大震災では大阪の北西部
を除く大部分は無傷だったので、久々の大地震だった。
朝8時前に地震があった。激しい交通渋滞があちこちで起きた。
 また関西では四通八達している私鉄では阪急、南海、阪神、京阪が全
線で運転が止まったほかJRも各地で止まり、人々が線路を歩かされた。
 新淀川大橋などでは徒歩で帰宅する人で埋まるなど「通勤難民」も多
かった。夕方だったらもっとひどかったに違いない。

 このほかエレベーターがある。ビル設備管理大手2社が把握している
だけでも計約3万4000台が停止した。
 復旧の順番は、最優先するのはエレベーター内に閉じ込められた人の
救出、次いで病院などの建物、行政機関が入る公共施設、高さ60メート
ル以上の高層住宅の順で復旧を進めることになっている。一般のマン
ションは最後になる。
 しかし、たとえ低層階でもエレベーターの停止が長期化し、生活への
影響が深刻になった例が増えた。

.. 2023年07月28日 05:35   No.2796007
++ 島村英紀 (社長)…875回       
 通勤難民、交通渋滞など大都会が地震に弱いことをまざまざと見せつ
けた地震であった。一方災害のほうは時代とともに増えていく傾向にある。
 東京や大阪などの都会には「木密地帯」といわれる古い木造住宅が密
集した地帯が多い。
 東京でいえば、東京東部に限らず、山手線のすぐ外側に北部、西部、
南部に広がっている。
 しかも、ここに住んでいる人たちは、行政が提供している耐震診断も
耐震補強も、自己負担のハードルが高いために出来ない人たちが多い。
これらの家屋は地震に限らず、各種の災害に弱い。

 大阪の最大震度6弱でも被災した家屋の99%もが「被災者生活再建支
援法」の対象外になってしまった。公的支援が少ない「一部損壊」だった
ためだ。
 大都会の地震は、たとえ最強の震度ではなくても十分に恐ろしい。
 
 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 7月21日の記事)

.. 2023年07月28日 05:40   No.2796008
++ 島村英紀 (社長)…876回       
地震予知の歴史
| 学者と社会との問題、確たる証拠なければ無用な混乱を避けるべき
| 関東大震災から100年まで1カ月
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その502
 └──── 島村英紀(地球物理学者)

 間もなく関東大震災(関東地震))から100年になる。死者10万人以上
という日本史上最大の被害を生んだ大災害である。
 地震が起きたのは1923年9月1日、関東地方の下に南方から潜り込ん
でいるフィリピン海プレートが起こしたマグニチュード7.9の地震だった。
 最大震度は日本での最高震度。
 多くの家が倒れ、死者の多くは数日間にわたって燃えさかった火によ
る焼死だった。地震に乗じて左翼や外国人が数多く殺された。

 この地震で一躍脚光を浴びたのが、東大助教授だった今村明恒(あき
つね)だった。
 今村は当時としては珍しく、地震防災に情熱を燃やした地震学者だった。
 被害を食い止めるべく、被害のありさまを一般雑誌『太陽』に関東地
震の18年前に発表していた。
 雑誌への発表後に新聞のセンセーショナルな後追いが続いた。関東地
震で論考が現実になり、その予測がたまたま関東大震災の結果とほぼ一
致したのだった。

 1891(明治24)年には日本の内陸で起きた最大の地震である濃尾地震
があった。岐阜県と愛知県を中心に死者7273名、全壊建物14万棟という
大被害を生んでいた。
 また首都圏でも1894(明治27)年に直下型の地震である明治東京地震
が起きた。24人の死者が出るなど、東京の下町と横浜市や川崎市を中心
にかなりの被害が出た。この地震では煉瓦建造物の被害が多く、とくに
煙突の損壊が目立ったため「煙突地震」とも言われた。

 しかし、いずれもっと大地震が来るという彼の警告には「世を騒がせ
るだけだ」という批判が巻き起こった。
 なかでも彼の直接の上司であった教授大森房吉は批判の急先鋒で
あった。大森は、確たる証拠がない以上は無用な混乱を避けるべきだと
いう、世間に対する責任感に突き動かされていたのだろう。

.. 2023年08月08日 04:51   No.2796009
++ 島村英紀 (社長)…877回       
 大森の講演や新聞寄稿はいつも今村説の非難から始まっていた。
 雑誌『太陽』への寄稿や講演などで今村説を「東京大地震の浮説」「
例の二十万死傷説」として「すこぶる峻烈を極めた」非難を繰り返した。
 二人はことごとに衝突し、確執は深まった。
 「今村が予言していた関東地震は起きない」と公言していた大森は、実
際に関東地震が起きて死者が10万人を超える大被害を生んだときは、た
またま学会でオーストラリアに行っていた。地震の報を受けて急遽帰国
中に倒れ、ほどなく亡くなった。

 現代の科学知識からいえば、大地震を結果として予知した今村も、地
震が起きないとした大森も、どちらも科学的な根拠やデータを持ってい
たとは言えない。
 予知はいまだに無理だ。二人の論争は現代にも通じる。確たる証拠が
なければ無用な混乱を避けるべきだという責任感は各方面で強い。学者
と社会との関わりの問題を含んでいるのである。

(島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 7月28日の記事)

.. 2023年08月08日 04:57   No.2796010


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