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中華民国・満州国の政治家である于沖漢(う・ちゅうかん)は、久しぶりで、本庄軍司令官に会って、久潤をのべたが、本庄も、この人が出馬すれば、満洲の地方自治の土台は完成するだろうと期待しました。そして、ぜひ石原作戦課長に会って、今後の問題について、隔意なき意見の交換をしてほしいといいました。
率直にいうと、本庄も、石原莞爾の鉄石のような決意、一旦こうと決めると、ぐんぐんと自己の主張を押通して憚らぬ態度に対して、はじめは、彼は驚くべき天才児だと思ったのですが、ついにどうも困ったものだと手をやいたようでした。
ついで、この困ったものだという感情が、いやそうでない、大西郷が、金もいらぬ、名もいらぬ、地位もいらぬというのは、手におえぬ困りものだ、しかしこの困りものでないと、共に天下のことを語ることはできぬと言った、その困りものが石原莞爾のような男なのだと気がついたのです。
ことに、内閣崩壊のうごきを逸早く着てとって、善処するというが如きは、凡人のわざでないと感激し、それから後は、何事によらず石原莞爾に相談したのでした。于沖漢ひっぱり出しも、あらかじめ石原莞爾には内談してありました。
「先生の建国大綱のご意見は、拝見しました。あれは私から見ると、隔靴掻痒です。先生は、まだ遠慮して物をいっている。従って、あのご意見は、満洲人の角度から見た、一方的なお考えではないかと思います」最初から、石原莞爾は痛いところをつく。
「満洲国が、真に独立国家となるには、第一に民族は絶対に平等でなくてはなりません。また鉄道・塩税・郵政・関税・石油・鉱業・マッチなど、外国によって侵害されている権益は、全部回収しなくてはなりません。」
「それには、まず日本が治外法権を撤廃し、満鉄経営を合弁とし、附属地を返還し、旅順・大連も、独立の贈物として呈上し、権益返還のお手本を、欧米各国に示すべきだと思っています。ただ、貴国人が、満洲国民になった日本人に、平等な権利を与えるかどうかが問題でしょう…」于沖漢は、石原莞爾の言葉をきいて、眼をまるくした。
.. 2023年06月04日 08:41 No.2769001
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