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沈思実行(136) ハンセン病趙さん—舌読は人間の意欲と希望と未来を表す ◎両手に抱えた大型の本を、顔に密着させるように近づけ、舌で舐めて いる。点字本を舌先で読み取っている男性を、すぐ横から写したクロー ズアップ。このハンセン病者の写真はどこかでみた。 原爆の図丸木美術館から送られた「地底の闇、地上の光—炭鉱、朝鮮人、 ハンセン病—趙根在(チョウ・グンジェ)写真展」のチラシを眺め想いを めぐらした。 ◎ハンセン病によって視力を失い、点字を追う指先の知覚も奪われた。 それでも読書の渇望もだしがたく、点字のかすかな凹凸を柔らかな舌で まさぐる。障子を通して流れてくる光が、舌のシルエットをあざやかに 映しだしている。 舌は言葉をあらわす。饒舌、冗舌、毒舌、舌足らず、舌先三寸、舌の 根も乾かないうちに。舌鼓などは味覚の表現。しかし、舌読は人間の意欲 と希望と未来を表している。 ◎「点訳のわが朝鮮の民族史今日も舌先のほてるまで読む」「ライ知らぬ 後の世の人は舌読のわが写真見ていかに思わん」 写真の主人公、金夏日(キム・ハイル)さんの短歌である。撮影したの は在日朝鮮人カメラマン・趙根在さん。「舌読」の写真は、金さんが生活 していた群馬県草津町の国立療養所「栗生楽泉園」での、「ハンセン病市 民学会」集会のときに目にしたのだろうか。 このとき、反抗的な患者を収容した「重監房」も見学したのだが、たま たま、金さんと文学仲間の詩人、ハンセン病市民学会の谺(コダマ)雄二さん が逝去され、遺骸の前でご焼香した記憶がある。あるいは、東松山市の 国立ハンセン病資料館でみたのかもしれない。 ◎趙根在さんは記録作家・上野英信さんと『写真万葉集筑豊』(全10巻) の共同監修者である。在日少年は家貧しく中学校中退、炭坑で働きはじ めた。死と隣合せの過酷な零細炭坑の坑内労働とのちのハンセン病撮影 とを結ぶ線にこの執念のカメラマンがいる。 わたしは上野さんと趙さんが、精魂こめて集録した写真集を書庫から 取りだし、上野さんに案内された、自宅の炭坑長屋の裏手にある、朽ち 果てた炭坑の暗い穴を思い出した。 (週刊「新社会」2023年2月22日第1296号8面より)
.. 2023年03月05日 07:50 No.2701001
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