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『オレの記念日』 鎌田 慧(ルポライター)
先週は狭山事件の石川一雄さんについて書いた。事件発生から60年を 迎える来年こそ、これまでにあきらかになった新証拠にもとづいて事実 調べをしてほしい、というのが石川さんの、東京高裁への要請である。 やり直し裁判がはじまらないかぎり、「殺人犯」の汚名はすすげない。
狭山事件の集会によくきて下さるのは、20歳のとき無実の殺人事件で 逮捕、29年も拘束されて仮釈放、11年前ようやく無罪判決をかち得た 「布川事件」の桜井昌司さんである。彼の小柄な身体の全身から発せら れる明るさはなんだろうと会うたびに思っていた。
今回、ドキュメンタリー映画『オレの記念日』(金聖雄監督)をみて すこし判った。彼の話。 「泣いたっで出られないし、叫んだって出られないし、だったらその 中での時間を自分で良かったって過ごすしかないじゃんというのが自分 の覚悟だったんで。とにかく明るく楽しく面白いことをみつけて生きて やろう、と思っていましたよね」
この楽天性は尋常ではない。「不運は不幸ではない」とも語っている。 誤認逮捕も誤判も結婚も、みな記念日。刑務所は修行の場。丸ごとの 人生。 しかし、仮釈放後に結婚した恵子さんは、桜井さんが窓をあけて飛び だそうとして「心と体がバラバラになるっ」と叫んでいたと証言する。 冤罪は人格を破壊する、というのだ。 (11月8日「東京新聞」朝刊21面「本音のコラム」より)
.. 2022年11月09日 05:26 No.2616002
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