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石原莞爾は、参謀本部戦争指導課長となるや、強い指導力を発揮して、永田鉄山・武藤章らがすすめてきた華北分離工作を中止させました。それは、次のような理由によってです。石原莞爾のみるところ、現在日本にとっての最優先課題は対ソ防備を充実させることです。
近年、極東ソ連軍が大幅に増強され、満州・朝鮮の日本軍に対して極東ソ連軍の戦力が圧倒的に優位な状況となっています。したがって、対ソ軍備を充実し、極東での日ソ間の軍事バランスを回復させなければならない。そのうえで、できればソ連と不可侵条約を結び、沿海州の長距離爆撃機を撤収させるなどして、北方の安全を確保する必要がある。
それが不可能なら一撃を加えてソ連の極東攻勢を断念させ、北方の不安を取り除く。これが実現すれば、日本・満州・中国で東亜連盟を形成するとともに、アジアからイギリスはじめ欧州勢力を一掃して、日本がアジアの指導権を掌握する。そして来るべき日米世界最終戦争に備える。石原莞爾はそう考えていました。
この対ソ防備の充実のためには、それを支える急速な工業力の発展、国力の充実が必要であり、そのための日満産業五ヶ年計画を何としても完成させなければならない。またこの間は、財政的な観点からしても絶対平和を維持することが要請される。それゆえ、対ソ関係のみならず、対中関係においても慎重自制の態度を固く守らなければならない。
この頃の石原莞爾の関心の中心は、この点にありました。それが、石原莞爾が盧溝橋事件の拡大を防ごうとした一つの要因だったのです。ちなみに、石原莞爾は昭和初期にもし日本が100万の軍隊を動かすような戦争を強いられれば、国家破産となるとの認識でした。
つまり国家総動員を必要とするような国家総力戦には、日本は耐えられないとみていた。だが、この時期には、日満産業五ヶ年計画を完成させ、さらにそれを発展させることができれば、国家総力戦も可能となると判断していたのです。
石原莞爾はのちに、こう回想しています。「この宮崎正義氏の研究[日満産業五ヶ年計画] の要領を聴き、私も数年前に、「百万の軍を動かさざるべからずとせば、日本は破産の外なく・・・・・・』と日本の戦争力を消極的に見ていた見地を心から清算した。・・・・・国家が真に自覚すれば、その[東亜防衛のための実力] 達成は必ず可能なるを確信するに至ったのである。」
.. 2022年11月03日 08:55 No.2611001
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