返信


■--五重塔は地震で倒れない!?
++ 島村英紀 (社長)…778回          

 日本独自の建築技術 
 | 「心柱制振」スカイツリーにも応用
 | 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その453
 └──── (地球物理学者)

五重塔や三重塔は背が高く、いかにも地震に弱そうだ。だが、五重塔や
三重塔の木塔は全国に500以上あるが、火災で消失したことはあっても、
地震で倒れたことはない。1995年の阪神大震災でも多くの家屋やビルが倒
れたが、兵庫県内にある15基の三重塔は1つも倒れなかった。県内には五
重塔はなかった。
これは地震に何度も遭った経験から来た建築の知恵と言うべきものだ。
じつは塔の中心にある「心柱」(しんばしら)がまわりから浮いた作りに
なっている。この浮いた心柱が、地震や強風に遭ったときに塔の揺れを抑
える方向に働くのだ。
心柱は檜(ひのき)のことが多いが、五重塔は高さがあるので5本、6
本継ぎのこともある。
心柱の周囲は吹き抜けになっていて、階段さえもなく、各階の庇(ひさ
し)とは直接つながっていない。心柱が他の構造と接しているのはいちば
ん上の屋根の部分だけである。塔の中心に心柱があり、頂部に長い相輪が
取り付けられている。ある階の庇は下の階の庇に間接的に乗っているだけ
で、構造は階ごとに独立している。つまりこれら木塔は「緩く」作られた
構造物なのである。
五重塔の総重量は1000トンを超える。各階の庇は上にいくほど、小さく
軽くなっている。このことは地震対策に大事な役割を果たしている。大き
な地震が来ると、重量が違うために各階がずれて揺れる。各階は地震のと
き、しばしば逆向きに振動し、各階の揺れは塔全体としては打ち消しあう
のである。
この木塔に使われた建築技術は、朝鮮半島にも中国大陸にもない日本独
自のものだ。仏像、仏具、陶磁器など多くのものが仏教とともに朝鮮半島
から渡ってきたが、木塔の建築技術だけは受け継がなかった。仏教は6世
紀後半に伝わったといわれているが、頻繁に地震が起きる国には、建築技
術としては別の建築様式が採用されたのだ。
世界一古い木造建築物は奈良・法隆寺だ。1300年前に建てられた。
.. 2022年07月24日 07:49   No.2529001

++ 島村英紀 (社長)…779回       
 しかし腐食などで木材の劣化が進むと、地震の大きな揺れに耐えること
が困難になる。このため法隆寺でば13世紀、17世紀、20世紀に大規模な解
体修理が行われた。法隆寺に限らず、保守管理が重要なのである。
五重塔の構造には釘が使われていない。すべて継ぎ手や仕口によって接
合されているので、解体修理が簡単にできる。このことは、最初の設計時
から解体修理のことまでを念頭において作られたということでもある。
この五重塔の構造は専門用語で「質量付加機構」といい、この仕組みを
使った地震対策は「心柱制振」と呼ばれる。
近年にも2012年に完成した東京スカイツリーに応用されている。高さ634
メートルあり、塔としては日本一だ。
スカイツリーでは中心を階段室という非常階段が貫いていて上部にある
展望台とつながっている。階段室が五重塔の心柱に対応していて、周囲の
鉄骨造の塔体とはオイルダンパーで「緩く」つながっているだけだ。
つまり、日本では1000年以上前に地震対策としての「心柱制振」を完成
していたのである。
 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より7月15日の記事)

.. 2022年07月24日 07:54   No.2529002
++ 島村英紀 (社長)…780回       
世界各地で洪水被害、日本も例外ではない! 
 | 水害の危機感募る江戸川区など東部5区
| 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その454
 └──── (地球物理学者)

 世界各地で洪水の被害のニュースが報じられている。
 インド北東部やバングラデシュで起きた歴史的な大洪水は、この1ヶ月
で100人以上の命を奪い、1000万人近い生活を脅かしている。
 洪水の危険性がある地域に住む人々の大半は、南・東アジアやアフリカ
といった低中所得の国に集中している。低中所得国では16億1000万人にも
なる。そのうち12億4000万人が南・東アジアで暮らしていて、中国(人口
3億9500万人)とインド(同3億9000万人)がそれぞれ3分の1を占めて
いる。

だが米国のような低中所得ではない国でも2億人近くが洪水の危険に
直面している。ドイツでも大洪水の被害があった。
世界の18億人、つまり世界の人口の4人に1人が100年に1度の大洪水の
危機に遭うという論文もある。

 日本も例外ではない。長らく災害がなかった荒川が氾濫したら首都圏が
広く水につかることが十分に考えられる。地下宮殿といわれる巨大な地中
タンクや放水路などが整備されているが、大雨には間に合わない。
 なかでも「江東5区」と言われる江戸川区、墨田区、江東区、足立区、
葛飾区の5つの区は東京の下町の水害が心配な区だ。大雨ではなくても
台風でも地震津波でも水害が起きる。

 たとえば江戸川区の南端にある「なぎさニュータウン団地」。ゼロメー
 トル地帯に立つ。そもそも江戸川区は区域の7割が海抜ゼロメートル
地帯だ。江戸川区は西を荒川、東を江戸川、南を東京湾に囲まれている。
 ニュータウンは13〜14階建ての7棟。東京湾をのぞむ景観に恵まれて
いるが、築40年余。2800人の住民の約4割は高齢者で、独居の人も多い。
 水害で最悪の場合、2階まで浸水すると想定されている。だが、ふだん
付き合いのない3階以上の階で人々を受け入れてくれるかは疑わしい。

.. 2022年08月28日 09:02   No.2529003
++ 島村英紀 (社長)…781回       
 行政は広域避難でしか命が助からないという。事前に地域外へ逃れる
想定をしているのだ。けれど広域避難をするにしても、しかも避難先が確
保できても移動手段に課題が残る。公共交通機関が通常通り運行している
保証はないからだ。
 周辺では、一度浸水すれば、約1週間は水がひかない。
 住民らは水害発生後も団地にとどまる「籠城避難」の備えを進めてい
る。籠城避難は食料は備蓄できても、たとえば救急医療からは切り離さ
れる。簡単なものではない。

 ニュータウン以外でも江戸川区西部もゼロメートル地帯が広がる。約
2300世帯の多くが一軒家で、木造住宅も目立つ。上層階に避難ができる
ような高層の建物に逃げようにもわずかしかない。
 江戸川区の人口は70万人。鳥取県や島根県よりも多い。水害が起きなけ
れば何の問題もないところだが、江戸川区は危機感を募らせている。

 ほかの江東5区でも同じようなものだ。それだけではない、首都圏、
いや日本には、同じ問題を抱えているところが多い。
 しかし地球温暖化で地球全体が様変わりしつつある。世界で18億人が
100年に1度の大洪水の危機に直面しているのだ。
 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 7月22日の記事)

.. 2022年08月28日 09:12   No.2529004
++ 島村英紀 (社長)…782回       
火山のなかった場所で突然噴火するのは珍しくない
 | 能登半島の不気味な群発地震は地下のマグマが原因
 | 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その455
 └──── (地球物理学者)

 石川・能登半島から海にかけて、不気味な地震が続いている。
 昨年以来頻発していて、能登半島の先端にある珠洲市では6月に震度
6弱を記録した。
 この群発地震は、いまのところ規模は小さいが、1965年夏から続いた
長野・松代(まつしろ)で起きた群発地震と似ている。
 松代の地震は日に日に増え続け、秋には有感地震が日に100回を超え
た。1966年に入っても地震の数は増え続け、5月には有感地震は1日
約700回にもなった。

 地震計だけが感じる地震まで数えれば1日に7000回以上。平均5秒に
1回というすさまじいものになった。地面はほとんど揺れ続けて
いたのだ。
 地震の回数が増えるにつれて大きい地震も混じった。5月には震度4
の地震が37回、震度5も8回あった。夜も眠れない。群発地震から
大地震に至った例もあるから、人々の恐れは頂点に達した。
この群発地震が終わったのは1年半もあとだった。
地下で何が起きたのか分かったのは、その後、研究が進んでから
だった。この群発地震は、活火山のない場所に地下からマグマが上がっ
て来て起こしたものだった。そしてマグマは途中で冷えて固まって
くれた。

 地震のほかに奇妙なことがあった。1966年春から途方もなく大量の
水が震源の近くの皆神(みなかみ)山から湧き出してきたのだ。毎分
2トン近くである。家庭用の風呂を6秒でいっぱいにするほどの勢い
だ。大量に出てきた水もマグマが地下深くから運んできたものに
違いない。

 北海道・函館郊外の湯の川温泉沖の津軽海峡でも1978年から群発
地震が起きた。一度終わったかに見えた群発地震がぶり返して、終止
まで4年もかかった。震源は沖なのに函館で38回もの有感地震を感じた。
これも上がってきたマグマが起こしたもので、マグマは途中で
止まったと考えられている。

 火山がないところだから、と安心してはいけない。日本では、どこに
マグマが上がってきて噴火するかわからない。東日本火山帯と西日本
火山帯が日本列島を貫いている日本では、どこにマグマが上がってきて
も不思議ではないのだ。

.. 2022年08月31日 05:08   No.2529005
++ 島村英紀 (社長)…783回       
もちろんマグマが地表まで上がってくれば噴火になる。
 日本でも、いままで火山がなかったところで、いきなり噴火した例が
ある。宮城県の安達火山、秋田県の一ノ目潟(いちのめがた)、山形県
の肘折火山、北海道函館沖の銭亀火山などだ。

 たとえば安達火山は一度だけ噴火した火山で、噴出した軽石は、仙台
市付近に1メートルほど堆積している。この噴火は7〜8万年前に
起きた。
 また一ノ目潟は直径約600メートルの丸い穴だ。噴火の後の爆裂火口に
地下水がたまって作られた火口湖で、国の天然記念物になっている。
8万〜11万年前に一度だけ噴火した。
 世界的にも、火山があると思われていなかった場所で噴火が始まるの
は珍しいことではない。
 さて能登半島に火山が生まれるのか、地下でマグマが固まってくれる
のか、一般の人も研究者も固唾をのんで見守っているのである。

 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 7月29日の記事)

.. 2022年08月31日 05:16   No.2529006
++ 島村英紀 (社長)…784回       
天体観測の害「長時間露光と宇宙ゴミ」
| 国際天文学連合、ますます人工衛星が増える事態を憂慮
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その456
 └──── (地球物理学者)

 国際天文学連合(IAU)が、夜空を守るための新たな会を設立した。
ますます人工衛星が増える事態を憂慮したのだ。
 実際、宇宙を観測する能力が著しく害されるところまで来ている。
 多くの衛星があることの問題は、光学や電波による観測を邪魔している。
 とくに影響を受けているのは可視光での長時間露光だ。発表される論文
では、たそがれ時に撮影された画像に衛星による光跡が映り込むことが
劇的に増えている。

 これは天文学だけでない。地球の防衛にとっての問題でもある。地球に
向かってきている脅威となる天体を検出するのに、夕暮れと夜明けの地
平線の観測は欠かせない。
 また衛星による電波の干渉で、たとえば宇宙マイクロ波の背景放射など
を研究しにくくなる可能性もある。

 一方、ロケットの打ち上げと衛星の建造コストはかつてないほど低く
なった。
 多くの衛星を打ち上げる計画としては、有料顧客にブロードバンドのイ
ンターネットを提供するための民間企業による「衛星コンステレーション」
の活用がある。
 宇宙への競争で先行しているのはスペースXで、イーロン・マスク氏が
推進している。現時点で2000基以上の衛星を打ち上げていて、少なくとも
あと2400基を打ち上げる計画だ。
 英国のワンウェブもジェフ・ベゾス氏も同じことをするつもりだ。つま
りこれらの計画だけでも数千以上の衛星が増えることになる。

 光害や干渉といった宇宙の問題では天文学者と規制当局は立ち遅れてい
る。現時点ではルールはないに等しい。
 しかも衛星を打ち上げたときや役目を終えたときに生じる宇宙ゴミ、
「スペースデブリ」の問題もある。
 いま地球を回っている衛星を打ち上げたときのロケットは約1500ある
が、そのうち7割以上は制御不能に陥っている。

.. 2022年09月04日 09:02   No.2529007
++ 島村英紀 (社長)…785回       
 時あたかも中国が打ち上げた大型ロケット「長征5号B」の残骸が7月
31日未明にフィリピン近海に落下した。
 このロケットは7月24日に打ち上げられた。宇宙ステーションの実験
モジュールの「問天」が搭載されていて、宇宙ステーションの基幹施設
「天和」とのドッキングに成功したものだ。
 「長征5号B」の残骸は21トンある。燃え尽きずに地表に落下するのは
質量の20〜40%ほどと思われていて、長征5号Bでは5〜7トンの金属の
塊が落下してくる可能性がある。
 中国当局は「地球の70%近くは海で、陸でも人が住んでいるところは少
ない」と楽観視している。

 しかし2020年に中国の大型ロケットの部品である金属片が、西アフリカ・
コートジボワールの村に被害を出したこともある。幸い死傷者はいなかった。
 最近の研究によれば、今後10年で宇宙ゴミによる死傷者が1人以上出る
確率を10%だと見積もっている。
 これは打ち上げるロケットの数と、地上の人口分布を考慮に入れた数字だ。
 宇宙の時代が幕を開けてから50年。
 いままでは宇宙から来る人工物の落下では死者や怪我人がいなかった。
 これからは違うだろう。

 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 8月5日の記事)

.. 2022年09月04日 09:14   No.2529008
++ 島村英紀 (社長)…786回       
噴火予知も警戒レベルも難しい
| 111カ所ある活火山にそれぞれの個性、データの応用できず
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その457
 └──── (地球物理学者)

 2022年7月24日の夜、気象庁は鹿児島・桜島で噴火警戒レベル5(
全員避難)を出した。
 7年ぶりの5の発令で、地元はもとより日本中が騒然となった。
 桜島は1914年に大噴火して死者約60人に出したことがあり、その再来
かと思った人も多かった。夜に警報が出されたので、住民は夜中の避難
を強いられた。
 噴火警戒レベル5は設定してから2度目。九州南方の口永良部島で
2015年に出して全島避難して以来だ。

 桜島をずっと見てきたオームドクター、京大防災研・桜島観測所の
井口正人先生は「このくらいの噴火は特別なものではない。桜島では
よくある」という。
 気象庁がレベル5を出したのは火口から大きな噴石が2.4キロメートル
を飛んだことだった。
 気象庁は高感度カメラの映像だと言うが、噴石はその後も見つかって
いない。大きな被害もなく、3日後にレベルは元の噴火警戒レベル3(
入山規制)に戻された。以後も特別な噴火は起きていない。

 2015年夏にも気象庁が異例の発表で「噴火警戒レベル4の特別警報」
を出した。桜島ではレベル4への引き上げは初めてだった。
地元では住民の避難を開始したが、噴火は起きなかった。

 噴火警戒レベルの話は長野・岐阜県境の御嶽に飛ぶ。死者行方不明者
が63人に上った2014年の御嶽噴火を巡る訴訟の7月の判決では長野地裁
松本支部が噴火警戒レベルを上げなかった気象庁の判断を違法だ
と断じた。

 噴火警戒レベルは各火山で5段階で設定されている。気象庁は御嶽の
噴火時にレベルを1(平常、当時)としていたが、訴訟では2(火口
周辺規制)に引き上げなかった判断が争点になった。
 桜島、御嶽、ともに噴火予知も噴火警戒レベルも難しい。
 いや、この二つの火山だけではない。活火山111はそれぞれ個性が
違って、1つの火山で成功した予知でも他の火山には応用できない。

.. 2022年09月06日 05:44   No.2529009
++ 島村英紀 (社長)…787回       
 しかも、多くの火山は短くても数十年、長ければ数百年から数十万年
ごとにしか噴火しないためにデータが少ないのが現状だ。
 近年、噴火が何十回も繰り返した長野・群馬県境の浅間山や桜島は
むしろ例外である。
 しかも「前兆」があっても噴火しなかったケースも多い。1997年から
2004年にかけての岩手山、2000年の会津磐梯山は火山性地震などが
あったが噴火しなかった。

 2007年12月に気象庁の噴火警戒レベルが導入された。
 しかし同時に、それまで各火山に張り付いていた大学のホーム
ドクターをやめさせて噴火予知を大学から気象庁が強引にもぎ取った
ことになった。
 学者にも地元にも危惧があった。北海道・有珠(うす)火山の岡田弘
先生(北海道大学)、九州・雲仙普賢岳の太田一也先生(九州大学)
など、ホームドクターとして有名な先生が多くいた。

 気象庁に火山の専門家が多数いるのならいい。実際には火山の専門家
はほとんどいないスタートだったのだ。
 気象庁は御嶽山噴火の災害後、火山の研究者を5人採用し、監視職員
らを数十人ほど増員した。
 これで噴火警戒レベルは飛躍的に進歩すればいいのだが。

 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 8月19日の記事)

.. 2022年09月06日 05:51   No.2529010


▼返信フォームです▼
Name
Email
ホームページ    
メッセージ
( タグの使用不可 )
Forecolor
アイコン   ICON list   Password 修正・削除に使用