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■--春先は気象津波「あびき」に注意
++ 島村英紀 (社長)…740回          

 津波の原因は地震だけではない
 | 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その436
└──── (地球物理学者)

 東日本大震災から11年になる。津波の被害はいまだ記憶に残るが、原因
は地震だけではない。春先に起きやすい気象津波がある。「あびき」とい
われる。大きいものは津波の高さが3メートルにも達して、地震津波なみ
の被害を及ぼす。

 あびきの語源は速い流れのため魚網が流される「網引き」から来た。
 九州に多い。広くて浅い東シナ海の大陸棚上で多く発生するためだと考
えられている。
 沖合の気圧の急変でできた海面が上下振動を起こす。こうして発生した
海洋長波が湾に入り、湾内に入った海洋長波は共鳴現象を受けてさらに増
幅され、湾奥では高さ数メートルの海面変動になることがあるのだ。
 周期は湾ごとに決まっている固有振動だ。たとえば岩手・大船渡湾では
40分。リアス式海岸では大きい。湾の奥行や広がりで決まる。

 学問的には「セイシュ」という。セイシュは元々はジュネーブ湖に起こ
る長周期の振動を表すスイスの方言だったが、その後国際的な学術用語に
なった。日本語訳では静振(せいしん)。気象庁では「副振動」という。

 過去には1979年3月に長崎湾で起きたものが最大だった。このときの
周期は30〜40分で、長崎検潮所で測った高さは278センチメートル。係留
していた小型の船舶が流失したり、低地での浸水被害が発生した。
 あびきが発生するのは九州の南の海上を低気圧が高速で通った場合が最
も多く、次に九州の南の海上に前線が停滞していた場合である。これらの
気圧配置は春先に多い。しかし、あびきの事前予測は極めて困難である。
 この2月20日から21日にかけて、鹿児島・枕崎市、南大隅町、十島村で
最大80センチの潮位変動を観測した。このため鹿児島地方気象台は今年初
めて「副振動に関する潮位情報」を発表した。
 異変は22日午前には収まり被害は幸い確認されなかった。気象庁は3月
までは注意するよう呼び掛けている。2月から4月で全体の約70%になっ
ているが、3月は飛び抜けて多くあびき全体の約50%を占めている。
.. 2022年03月24日 07:54   No.2436001

++ 島村英紀 (社長)…741回       
 じつは、南太平洋のトンガ近くの火山島でこの1月に大規模な噴火があ
った。トンガや周辺国で津波が観測されただけではなく8000キロメートル
も離れた日本でも津波の被害が出た。港に繋いでいた30隻もの船が転覆し
たり、沿岸の養殖漁業のいかだが流された。
 南米チリでも1.7メートルの津波を観測。ペルーでも製油所のタンカー
から原油が流出。多くの浜辺が汚染されたために環境非常事態宣言が出さ
れるほどになった。米国カリフォルニア州やアラスカ州で1メートルを超
える津波で被害が出た。
 しかし、このトンガからの津波にはナゾが多い。トンガの海底噴火から
の津波は普通の地震津波ではなかった。ひとつは津波の波源にしては小さ
かったこと、そしてもうひとつは地震津波として予想された時刻よりも早
く到達したことだ。

 この「津波」にあびきが関わっているのではないかという疑いが出てい
る。津波の周期が短くてセイシュの周期だったことや、湾内だけで波高が
高くなっていたことなど、符合する特徴はいくつかはある。
 しかしまだ分からない。詳細な解析を待たなければなるまい。
  (島村英紀さんのHP こちら
   「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より3月11日の記事)
 

.. 2022年03月24日 08:05   No.2436002
++ 島村英紀 (社長)…742回       
慶長の大津波は東日本大震災なみの規模だった
| 崩れた500年周期説
| 「南海トラフ」や「首都圏直下型」不意打ちの可能性
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その437
└──── (地球物理学者)

 京都や奈良など西日本では、書かれた地震の歴史は、長ければ3000年
以上。
 しかし東北日本や北海道では、わずか200年あまりしかたどれない。
これはもっぱら、文字を持たなかった先住民族が住んでいたせいだ。

 たとえば、1611年の慶長奥州(三陸)津波は大津波が襲ってきたこと
は伝えられていたが、どのくらい大きな津波を起こしたかは分かって
いなかった。
 書いた歴史ではなくて、物言わぬ地層から過去の津波を探ろうという
研究が行われた。岩手県北部にある野田村の沿岸部が実験地に
選ばれた。過去3000年分の地層が切れ目なく残っている場所だ。
同地は高さ800メートルの小高い内陸にあり、大きな津波しか駆け
上がれない。

 この研究では地層の年代を垂直方向にミリ単位の高密度で測定する
新たな手法で、14〜17世紀の津波堆積物の正確な年代特定を試みた。
 過去の大津波がいくつか見つかった。なかでも慶長の津波は2011年の
東日本大震災(マグニチュード=M=9.0)と同じ程度の巨大津波だった
ことがわかった。地震はモーメントマグニチュード8.8と推定された。

 従来言われていた享徳津波(1454年)は、それほど大きな津波では
なかったことも確認された。野田村の高台に津波の痕跡はなかったのだ。
 享徳津波が大津波だったという伝承ゆえに三陸地方では大津波を500年
周期とする学説があった。今後、どのような大津波が襲って来るのか、
その目安として、今後数百年は来ないという説がもっぱらだった。

 やがて明治三陸地震(1896年、Mは8.2〜8.5)が起きた。
 明治三陸地震は大津波を生み、21000人以上が犠牲になった。地震動に
よる被害は地震の大きさの割には少なかった。
津波の被害は太平洋を超えて米大陸にも及んだ。
 この地震は北アメリカプレートと太平洋プレートが幅50キロメー
トル、長さ210キロメートルにわたって12〜13メートルずれ動いて
起こしたと思われている。

.. 2022年03月26日 07:55   No.2436003
++ 島村英紀 (社長)…743回       
 しかし、さらに1933年に昭和三陸地震(M8.1) が起きた。これは明治
三陸地震と「組になっている」地震で、37年後の1933年に起きた
アウターライズ地震と考えられている。この地震も犠牲者1500名以上を
生むなど甚大な津波被害をもたらした。

 さらに2011年の東日本大震災も起きた。つまり、三陸沖で大地震は
約500年に一度だから当分来ないという説は崩れ去ったのだ。
 最近400年間は100〜200年間隔の発生頻度よりもはるかに多い。
 明治三陸地震は三陸沖で北アメリカプレートと太平洋プレートが
大規模にずれ動いたという意味では2011年の東日本大震災と同じである。
 大津波が襲ってくる規模や周期は予測困難で、むしろ不規則と
考えるべきだろう。

 恐れられている南海トラフ地震や首都圏直下型地震も、政府が言って
いる周期説にとらわれず、不規則に起きると考える必要がある。
 地震に備えることは無駄ではない。
 だが日本は地震国。どこでも、いつでも、不意打ちがありうるのだ。

 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より3月18日の記事)

.. 2022年03月26日 08:01   No.2436004
++ 島村英紀 (社長)…744回       
丸い地形はクレーター?
 | 中国で世界最大「依蘭クレーター」発見
 | 痕跡が残りづらい日本、火山起源のカルデラ跡だったことも
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その438
 └──── (地球物理学者)

 中国北東部の山の中で世界一大きなクレーターが発見された。直径は
1.85キロ。発見地の名前を取って「依蘭(いらん)クレーター」と
名付けられた。

 いままで最大のものとされてきたのは、米国・アリゾナ州の「
バリンジャー・クレーター」で、直径1.2キロメートルだった。
 今から約5万年前に落ちてきた隕石によって作られたもので、深さ
200メートル。クレーターを取り囲む周壁の高さは30メートルある。
この直径でも十分大きい、見渡す限りが丸い大きなクレーターだ。

 中国で新たに見つかったクレーターは、4万6000〜5万3000年前に
作られた。後期旧石器時代だ。米国のクレーターは約5万年前に
作られたので、ほぼ同時代である。
 ともに、これだけの凹みを作るだけに、すさまじい衝突だったに
違いない。これからも、地球のどこかに隕石が落ちてクレーターを
作ることがある可能性は大きい。

 ところで日本にもクレーターがないわけではない。長野県飯田市の
南アルプスにある御池山(おいけやま)クレーターは小型で直径900
メートルながら、立派なクレーターだ。
 火山が多くカルデラや火口が多い日本列島では丸いものがクレーター
とは限らない。しかも降水による浸食が盛んな日本ではクレーターが
あっても痕跡が残りづらい。

 香川・高松市仏生にある緩やかな凹地は「高松クレーター」と呼ばれ
ていたが、近年、1400万年前のカルデラ跡だと判明した。
 つまりクレーターではなくて、火山起源だったわけだ。
 逆のこともある。当初は、多くの地質学者はバリンジャー・
クレーターが火山の火口であると認定していた。

 クレーターかどうかを決定するのは、岩に溶けて再結晶化した痕跡が
見られることや、粉々になった衝撃石英が含まれていることだ。
 いずれにせよ、近代的な解析が必要になる。

.. 2022年03月31日 08:33   No.2436005
++ 島村英紀 (社長)…745回       
 秋田・青森の県境にある十和田湖は丸い。周長は46キロメートル。
 面積は日本で12番目。かつて、丸いがゆえにクレーターかも、という
説もあったが、このたび秋田県と青森県が火口噴火の対応策を決めた。
 想定される火口は、半径3.4キロメートルの圏内に設定されている。
 圏内には約200人が住む。火口の想定範囲をさらに4キロメートル
外側まで広げると約350人だ。

 だが、直近の噴火は平安時代の西暦915年で、日本史上最大級の噴火
だった。この規模の噴火が起きたら約34万人が避難対象になる。
 十和田湖は1000〜3000年ごとに噴火を繰り返している。将来いつ噴火
してもおかしくはない。

 今回は危険度を示すレベル指標を5段階ではなく3段階にして引き
上げやすくした。
 十和田湖は小規模な噴火をしても住民の生命に危険が及ぶ可能性が
あるためだ。
 レベル2とレベル3は、レベル引き下げに限って発令される。
 特別な体制だ。
 2018年には噴火被害を予想したハザードマップを作って配布した。
 秋田県は最寄りの国道を使って火口から避難する経路も示した。
 十和田湖は怖い火山のひとつなのである。
 
 (島村英紀さんのHP こちら
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より3月25日の記事)

.. 2022年03月31日 08:44   No.2436006
++ 島村英紀 (社長)…746回       
日本で地熱発電を大きく稼働させるには 
 | 地熱の資源量は世界で3位なのに…発電出力は10位に後退
| 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その439
 └──── (地球物理学者)

 私は研究のために大西洋の中央にあるアイスランドを13回、訪れたこと
がある。アイスランドへ行って悔しかったこと、それは地熱発電だった。
 アイスランドで地熱発電所を訪れてみると、動いているのは日本製の発
電装置であった。じつは同国とならぶ地熱発電大国、ニュージーランドで
も日本製の発電装置が広く使われている。
 アイスランドも日本と似て火山が多くて地熱が豊富な国だ。地熱と水力
発電ですべての電力をまかない、火力発電も原発もなくてすむアイスラン
ドはうらやましい。

 地熱発電は季節や天候に左右されることがなく、24時間365日の安定し
た稼働ができる。設備利用率は太陽光発電が約12%であるのに対して地
熱発電は約80%という高さである。
 プレートが衝突して地下でマグマが生まれている日本の地熱埋蔵量は
世界有数だ。各国の地熱の資源量は、西部に世界最大規模の地熱地帯をも
つ米国が第1位、火山の国インドネシアが第2位だが、それらに次いで日
本は世界第3位である。つまり資源としては日本は十分に多い。
 いま日本の地熱発電出力は合計約500MWあまりだ。これは日本の電力需要
の約0.3%でしかない。日本は2015年にケニアに抜かれて世界第10位にまで
後退してしまった。他方、インドネシア、ニュージーランド、アイスラン
ド、トルコは、この15年で2倍以上にも増えたからである。

 日本で、いままで地熱発電があまり行われてこなかったのは、国立・国
定公園の中で掘削や開発事業をしてはいけないという「自然公園法」の制
約と、温泉が枯れるのではないかという温泉業者の反対によるものだ。日
本でいまの地熱発電が可能な場所の8割は国立・国定公園内にある。

 しかし、近年は事情が変わってきている。環境省が2012年に発表した新
たな指針では、「国立・国定公園の中でも景観を維持するうえで重要な区
域を除いては小規模な発電設備の建設を認める」ことになった。

.. 2022年04月10日 06:57   No.2436007
++ 島村英紀 (社長)…747回       
 ところで地熱発電の技術的な難点、地熱採取のための深い穴を掘ること
については、マサチューセッツ工科大学から派生した新興企業がミリ波長
の電磁放射で原子を溶かして深い穴を掘ろうという手法を開発した。核融
合炉のプラズマ加熱に使われるジャイロトロンを応用したものだ。あと4
年で実用化できるという。 強力な磁場の中で電子を高速振動させ電磁放
射のビームを発生する。数ヶ月で深さ20キロまで掘り進むことが可能だ。
この深さだと地下でマグマが生まれていない国でも地熱発電が可能になる。

 一方で地熱発電には問題がないわけではない。韓国やスイスで地震を起
こしたり、福島県・柳津西山地熱発電所のように二酸化炭素が大量に出て
来てしまうことがある。
 設備の腐食やパイプの詰まりが多いほか、地熱とともに硫化水素や砒素
などの有害物質が地表に上がってきてしまう問題もある。

 世界の地熱開発はこれから一層進むに違いないが、これらの問題を解決
しながら地熱の利用を進めることがカギになるだろう。
 (島村英紀さんのHP こちら
    「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より4月1日の記事)

.. 2022年04月10日 07:03   No.2436008
++ 島村英紀 (社長)…750回       
難問続出の「津波避難タワー」南海トラフ地震だけが厚遇?
 | 「建設しても使われない」「必要なのに作れない」ケースも
 | 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その441
 └────(地球物理学者)

 2011年の東日本大震災以後、全国で500棟余りの「津波避難タワー」が
整備された。震災前には45棟にとどまっていたから、11倍に増えたこと
になる。
 ほとんどは海岸沿いで、近くに高台がないところだ。その7割が関東
以西の太平洋側で、最多は静岡県の139棟、次いで高知県の115棟だ。

 ところがその津波避難タワーを建設しても使われないケースが
目立つ。
 3月16日深夜に福島県沖で起きた地震では、宮城県石巻市大宮町での
震度は5強だったが、タワーに上る人はいなかった。
 他のタワーも上った人は少なかった。
 大宮町では東日本大震災で42人が犠牲になった。石巻市全体では
死者・行方不明者は,約4000人、浸水域人口当たりの死亡率も高く3.4%
と甚大な被害だった。

 その後、このタワーは住民の要望で作られたもので、2015年に建て
られた。高さ13メートルになる。ここは高台まで徒歩で約30分かかる。
 3月16日の地震は東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)
の余震だ。まだまだ続くし、もっと大きいものが来る可能性がある。

 しかもタワーは60段以上の階段を上らなければならず、年寄りには
きつい。
 東日本大震災直後の調査で55%が65歳以上だったし、高齢者と身体
障がい者の死亡率は、市町村にもよるが、2〜4倍以上にも上った
ほどだから、高齢者の避難は大きな問題になる。
 しかもタワーは吹きさらしで寒い。その上、深夜だ。ほとんど誰も
上がらなかったわけである。

 そのほか、タワーが必要なのに作れないケースが続出している。
 それはタワーの建設には国庫補助に差があるからだ。
 国庫補助の差とは、2014年に南海トラフ巨大地震の被害想定地域で、
補助の割合が3分の2に上がって整備が加速したことだ。

.. 2022年04月22日 05:17   No.2436009
++ 島村英紀 (社長)…751回       
 高知県は2018年度までの6年間、市町村に対して建設費の3分の1を
支援し、国の補助と併せると自治体の実質負担をゼロにする制度を
設けた。
 他方でそれ以外の地域では国の補助が通常の2分の1の地域に
留まっている。
 県の補助もない。補助が少ない地元自治体は自己負担金として億
単位の金が必要だが、それを支出できない自治体が多い。

 国の施策では南海トラフ地震だけが厚遇されている。
 しかし、北海道と東北の巨大地震や南西諸島の巨大地震が同様に
迫っているなかで、南海トラフ地震だけが厚遇されていていいの
だろうかという疑問が残る。

 北海道と東北の巨大地震で最大23メートルの高さの津波が予想される
北海道・浜中町では、南部沿岸に高台や高層の建物がない。
 タワーの必要性は高いが、地元の町は、国の補助があっても自己
負担分の捻出が難しい。

 岩手・久慈市は2016年に復興交付金約2億円を使って高さ約9
メートルのタワーを建てたが、北海道と東北の巨大地震の国の想定で
津波は最大16メートルとされたために昨年3月に使用を中止した。
 土地のかさ上げや建て替えには多額の費用がかかる。その費用の
捻出に苦しんでいる。
 タワーは多くの地方自治体に問題を課しているのだ。

.. 2022年04月22日 05:26   No.2436010


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