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中村哲医師「人のまごころは信頼に価する」という信念
藤田正勝(哲学者)
「現地三十年の体験を通して言えることは、私たちが己の分限を知り、 誠実である限り、天の恵みと人のまごころは信頼にたるという ことです」 中村哲
アフガニスタンはいよいよ混迷の度を深めている。これからどこへ 向かうのであろうか。 思い起こされるのは、2年前に当地で長いあいだ支援に携わった 中村哲医師が銃撃され、命を落としたことである。 その報に接して私は不条理ということばを思い浮かべざるをえな かった。なぜそこで凶弾に仆(たお)れなければならなかったのか、 答が見つからない。
中村さんは『天、共にあり アフガニスタン三十年の闘い』のなか で、武力によってこの身が守られたことはなかったと言う。「利害を 超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さ」こそが地域の 人々の信頼を生みだし、それが武力以上に強固な安全を提供してくれて いると語っている。 それにもかかわらず、である。 広大な農地を切り開いた中村さんの努力と、人のまごころは信頼に 価するという信念が、アフガニスタンの将来に生かされることを願って やまない。 (11月30日朝刊11面「今週のことば」より)
.. 2021年12月04日 07:38 No.2354003
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