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■--巨大コンテナ船の離礁を助けた満月
++ 島村英紀 (社長)…650回          


  スーパームーンによる潮位上昇
  警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その392
  (地球物理学者)

 スエズ運河で座礁していた「エバーギブン」(愛媛の正栄汽船所有)
は巨大なコンテナ船で、長さ400メートルもある。長さ20フィートと
40フィートのコンテナ1万個あまりを積んでいた。

 スエズ運河を通っているときに強風に見舞われ、運河を斜めにふさぐ
形で座礁した。
 コンテナ船は船の全長や幅の割に喫水(きっすい)が浅い。そのため
受風面積が広く風の影響を受けやすい。
 1週間近く運河をふさいで、400隻以上もの船を止めた。世界の物流に
支障が出た。スエズ運河を経由するのは世界のコンテナのうち3割にも
達する。いくつもの船舶が、はるかに遠回りのアフリカの喜望峰まわり
にルートを変更した。

 じつは、離礁して同船を再浮上させることができたのはスーパー
ムーンだった。もちろん、約3万立方メートル土砂の浚渫(しゅん
せつ)や13隻のタグボートも必要だった。
 月や太陽の引力は、潮の干満、つまり海面潮汐(ちょうせき)を
起こしている。満月と新月では、太陽の引力と月の引力が相乗される
ので潮汐が大きくなる。

 月は最短約35万7000キロメートルから最長40万6000キロメートル
まで、地球からの距離が変化する。厳密にいえば、円ではなく長円だ。
距離が14%ほど変わる。月が地球に近い満月には14%大きくなり、30%
明るくなる。これがスーパームーンだ。満月は年に10回以上もあるが、
そのうちスーパームーンは6〜8回しかない。
 3月の満月は2021年最初のスーパームーンだった。座礁したのは、
たまたま数日前だった。この満月の機会を逃さずに巨大なコンテナ船は
離礁に成功したのだ。
 この数日を逃せば、その後の離礁作業はさらに困難に直面する。
例えばクレーンを用いてコンテナを船から下ろすと、運河の再開に
数カ月を要する可能性もあった。
.. 2021年05月04日 09:09   No.2186001

++ 島村英紀 (社長)…651回       
 このためスーパームーンによる潮位上昇が望みの星だった。スーパー
ムーンを見込んで徹夜で浚渫が進められた。離礁した3月29日は潮位が
最大に近づき始めた日だった。間に合ったのだ。
 スーパームーンは、月と地球の距離がそれより遠い満月の満ち潮より
も、45センチほど高くなる。たった45センチでも大型船の離礁には
決定的な役割を果たす。
 そして、そのほかにも地球の固体部分である岩全体を30センチも
持ち上げる地球潮汐を毎日起こしている。スーパームーンのときには
大きい。

 じつは地震学の初期のころから、月や太陽の引力が地震を起こすの
ではという学説が根強くある。2011年の東日本大震(地震名は東北地方
太平洋沖地震)でも、その説が流れた。
 一方、それを否定する説もある。いまは否定論の方が強い。
 地球潮汐は地下数十キロメートルにも影響して、断層には数十〜数百
ヘクトパスカルの力が加わる。だが地震を引き起こすひずみは、
これよりも千倍も大きいからだ。
 この3月のスーパームーンは今年の月の中でも4番目の明るさに
なった。コンテナ船の離礁で地元をはじめ、世界各地の関係者たちは、
満月に感謝して、特別な思いで月を眺めたに違いない。

.. 2021年05月04日 09:14   No.2186002
++ 島村英紀 (社長)…652回       
噴火の脅威は首都圏も襲う!?
 | 被害範囲が広がった「富士山噴火ハザードマップ」、17年ぶり改訂
 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その393
 └──── (地球物理学者)

 富士山噴火ハザードマップが17年ぶりに改訂された。被害範囲が
拡がったのだ。
 たとえば、溶岩流が到達する可能性がある自治体は、従来は2県
だったのに、いままでは入っていなかった神奈川を含む3県の市町村に
拡大された。また、山梨・富士吉田市の市街地への溶岩流の到達時間は
約2時間と、従来版から約10時間も早まった。

 もともと、富士山のハザードマップは2004年に作ったものだ。2000年
から富士山直下の深さ10〜20キロメートルで起きる低周波地震が増え、
緊張が高まったことを受けて作られた。低周波地震はマグマの動きを
示すと考えられているものだ。
 このときは富士山は噴火せず、ほかに異常現象もないままで収まった。

 今回の改訂は富士山の活動が最近活発化したためではない。噴火活動
が活発だった約5600年前まで遡ったためだ。つまり研究が進んで、
いままで知られていなかった昔の歴史まで知ることが可能になって
危険があることが分かったのである。
 溶岩の想定噴出量は従来の約2倍の13億立方メートル、火砕流は
約4倍の1000万立方メートルにした。過去の噴火の噴出量を更新した
わけだ。
 そのほか火口範囲を山頂から半径4キロメートル以内の全域にする
など拡大した。近年の研究で新たな火口が発見されたため、火口の数は
改定前の約5倍の252ヶ所になった。

 また溶岩流や火砕流が駆け下る地形データも前回より詳細にした。
これらのために溶岩流や火砕流が到達する範囲が広まった。
 溶岩流が到達する可能性のある地域は、前のハザードマップでは
山梨、静岡両県の15市町村だったが、神奈川県を加えた3県27市町村に
増加した。
 到達時間は最短で、静岡県は沼津市が18時間、静岡市清水区が19日、
山梨県は大月市が1.5日、上野原市が6日、神奈川県は今までは到達
しないはずだった相模原市緑区が10日、小田原市が17日で溶岩に
襲われる。
 このほか、東海道新幹線に5時間、新東名高速道路には1時間45分で
達して通行止めにしてしまう。

.. 2021年05月08日 08:05   No.2186003
++ 島村英紀 (社長)…653回       
 しかし、一度の噴火で想定される全ての地域へ同時に溶岩が流れる
わけではない。噴火する火口の位置次第で、実際の到達地域は変わる
可能性がある。
 この最新のハザードマップに、まだ問題が残っていないわけではない。
 それは「融雪型火山泥流」だ。雪が残る季節に噴火すると、自動車の
速さで火山泥流が襲って来る。平均時速約60キロメートル。逃げられる
速さではない。
 1926年5月末に北海道・十勝岳で噴火が起き、融雪型火山泥流が
起きて死者行方不明者144名という被害が出た。近年の日本での火山災害
では最大の死者数だった。
 十勝岳の場合には、火山が見えないところでもいきなり火山泥流に
襲われた。富士山も雪が長く残る。ひとごとではない。
 富士山の噴火は1707年の宝永年間の噴火を最後に300年以上ないが、
これからもずっと静かなことはあり得ない。
 世界的に見ても、300年以上ぶりの噴火は大規模になる可能性が
高いのだ。

.. 2021年05月08日 08:14   No.2186004
++ 島村英紀 (社長)…654回       
悲劇を繰り返してきたカリブ海の火山
 | かつて3万人の島民を瞬時に全滅も
 | 日本に似たプレート形状で地震や火山が頻発
 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その394
 └──── (地球物理学者)

 日本では南西諸島のトカラ列島での群発地震が起きている。トカラ
列島は火山列島だ。フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に
潜り込んでいて、プレートの衝突によってマグマが生まれ、地震が頻発
しているのだ。
 世界的には、4月に始まったカリブ海のグレナディーン島でのスフリ
エール山の噴火が大きく報じられている。
 噴煙は高さ8000メートルに上った。人道や経済の危機が長く続き、
周辺諸国にも影響が出る恐れがある。カリブ海には日本と同じように
プレートの潜り込みと、それにともなう地震や火山の活動がある。

 かつて私はフランス・パリ大学に頼まれて、フランス海外県のカリブ
海のグアドループ島とその周辺で地震や火山の研究をしたことがある。
 今回噴火したのはグレナディーン島にある火山で、グアドループ島
ではない。
 しかしグアドループ島にも同名のスフリエールという火山があって、
かつて噴火して大災害になったことがある。「スフリエール」は硫黄の
こと。いくつもの山が同じ名前を付けている。

 カリブ海では、かつてグアドループ島と同じフランスの海外県マルチ
ニーク島で20世紀世界最大の火山の悲劇が起きた。
 1902年に島の北部にある活火山プレー山(標高約1400メートル)が
火砕流を出して、当時の県庁所在地だった人口約3万人のサン・
ピエールをほとんど瞬時に全滅させてしまったのだ。
 火砕流は温度が1000度Cほどもあり、速度は新幹線よりも速い。
助かったのは地下牢に収容されていた囚人など3人だけだった。

 火砕流の大きな被害は昔にもある。
 イタリア・ナポリ近郊の都市ポンペイは西暦79年に起きた近くの
ベスビオ火山(現在の標高1281メートル)から出た火砕流で町が壊滅
して2万人のポンペイ市民のうち約2000人もが犠牲になった。
 このときには火砕流の被害だけではなかった。土石流も出て、
ヘルクラネウム(現エルコラーノ)の町を埋めてしまった。

.. 2021年05月09日 08:02   No.2186005
++ 島村英紀 (社長)…655回       
 今回のグレナディーン島でのスフリエール山の噴火も、大きな火砕流
や土石流が出るのが恐れられている。これまでも複数回噴火していて、
20世紀初めには1500人以上が犠牲になった。
 20キロメートルほどの小さな島なので島全体が火山灰に覆われて
しまった。噴火は島の北部からだったが、南部にある国際空港も
火山灰に埋まった。島内に逃げ場はない。船で隣の島に脱出する人が
続出したのも、かつてのマルチニーク島やグレナディーン島などでの
災害を思い出してのことだ。

 じつはカリブ海の島々は昔の噴火歴が怪しいものが多い。たとえば
ヨーロッパ人がマルチニーク島に最初に到来したのは17世紀になって
からだった。
 このため、それ以前の噴火は正確には知られていなかった。
 ヨーロッパ人の入植後にプレー山は二回噴火したが、どちらも小規模
な噴火だった。まさか1902年のような大災害が起きるとは誰も思って
いなかった。
 地球の時間スケールと人間の時間スケールは違う。世界でも日本
でも、昔に起きたが誰も知らない地震や噴火は地球にとっては、ほんの
昨日の繰り返しの出来事なのだ。

.. 2021年05月09日 08:09   No.2186006
++ 島村英紀 (社長)…656回       
頻発する地震は来たるべき南海トラフの先駆けの可能性
 | いつ、どこに起きるか地震学では分からない地震
 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その395
 └──── (地球物理学者)

 日本では南海トラフ地震や首都直下型地震だけを注意していれば
いいものではない。それらはいずれは起きる。しかしその前に日本の
どこかで内陸直下型地震が起きるかもしれないのだ。

 悪しき前例がある。「東海地震」と地震予知ができるという「大震法
(大規模地震対策特別措置法)」がセットになっていて、「大きな地震
の前には政府から何かの警告が出るだろう」という考えが一般に行き
渡っていた時代だった。そこに襲ってきたのが阪神淡路大震災(1995
年)で、思わざる場所で起きてしまった大災害だった。

 日本に起きる地震には二種類がある。海溝型地震と直下型地震だ。
 海溝型地震はプレートが一定の速さで動いているから、年々、ひずみ
が溜まっていく。ぞれゆえ、いずれは起きる地震だ。
 フィリピン海プレートが年に4.5センチ、日本列島に押しよせて来て
いるから、これまでに南海トラフ地震の「先祖」は13回起きた。
 首都圏を襲う海溝型地震も同じで、関東地震(1923年)型は必ず
起きる。前代は元禄関東地震(1703年)だった。

 このほかに、プレートが押してきているために日本列島を載せている
プレートがゆがんだり、ねじれたりして起きる内陸直下型地震が、海溝
型地震とは別に起きる。しかも内陸直下型地震は日本中、どこにでも
起きる可能性がある。地震としての規模(マグニチュード)は海溝型
地震よりも小さいことが多いが、人が住んで社会的な活動をしている
直下で起きるので、地震の規模のわりに被害が大きい。阪神淡路
大震災は都市を襲った大災害で、6400人以上が犠牲になった。

 首都圏は、そもそも海溝型地震が陸の直下で起きる場所はめったに
ないが、首都圏は地理的な分布から、ちょうどそこに位置している。
このため海溝型地震だけではなく、内陸直下型地震が起きるところ
でもある。
 過去にも、内陸直下型地震として日本最大の被害を生んだ安政江戸
地震(1855年)をはじめ、明治東京地震(1894年)、竜ヶ崎地震(19
21年)、などがある。つまり首都圏は二重に地震が起きやすいところ
なのである。

.. 2021年05月12日 08:03   No.2186007
++ 島村英紀 (社長)…657回       
 ところで、このところ地震が多い。3月に宮城県沖の地震が起きて
震度5強だったのをはじめ、和歌山の地震で震度5弱、福島県沖の
地震、熊本の地震、茨城県沖など震度4以上の地震が相次いでいる。
 このうちのいくつかは、来るべき南海トラフ地震の先駆けである
可能性がある。
 南海トラフ地震の先祖の前に、西日本で直下型地震が頻発したことが
知られている。
 近年では、北但馬(たじま)地震(1925年、M6.8)、北丹後地震(19
27年、M7.3)、鳥取地震(1943年、M7.2)などが起きたあと、南海
トラフ地震の1つ先代の「先祖」(東南海地震)が起きた。

 最近、震度6弱だった2013年の淡路島や徳島で起きた地震だけでは
なく、もしかしたら阪神淡路大震災さえ、来るべき南海トラフ地震の
先駆けかもしれない。
 いずれは来る地震と、いつ、どこに起きるか地震学では分からない
地震。地震国ニッポンは、いままでも、これからも地震に直面せざるを
得ないのである。

.. 2021年05月12日 08:13   No.2186008
++ 島村英紀 (社長)…658回       
地磁気が異常に少ない「南大西洋異常帯」拡大の謎
 | 原始惑星「テイア」の名残など諸説も
 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その395
 └──── (地球物理学者)

 地球はひとつの大きな磁石だ。それも、ただの磁石ではなくて
電磁石である。
 普通の電磁石は、巻いた電線の中に電気を流して磁石にする。
 だが地球では、溶けた鉄の球の中で強い電気が流れて電磁石に
なっている。
 この溶けた球は地表から2900キロ下にある。地球の半径は約6400キロ
あるから、この球は半径で約3500キロ、月の倍もある大きなものだ。

 しかし、なぜ、液体の球の中で流れる電流が電磁石を作っているのか
というメカニズムは、まだナゾなのだ。
 オリエンテーリングや山歩きで磁気コンパスが使えたり、オーロラの
美しさを楽しめるのも、地球の磁石のおかげだ。
 それだけではない。この磁場で、地球上の人間をはじめ全生物は
地磁気が作ってくれるバリアーの中にいて荷電粒子や放射線から防護
してくれるから安全なのである。
 現に1960年代に月に行った米国のアポロ計画に参加した宇宙飛行士は
心臓や血管の病気での死亡率が高い。これは地球の磁場が作るバリアー
の外に出たので、強い荷電粒子や放射線に曝(さら)されたからだ。

 ちなみに日本人宇宙飛行士が行く国際宇宙ステーションは地球の半径
の16分の1のところ、つまり地球の表面にごく近いところにすぎない
から、バリアーの中だ。
 ところで地磁気が異常に少ない領域がある。
 ここは「南大西洋異常帯」と名付けられている。
 地磁気が弱まると、特に低軌道を周回している人工衛星などにとって
は問題になる。ここでは、人工衛星が上空を通過するときに、不必要な
機器をシャットダウンして万が一の事態に備えるほどだ。地球に降り
注ぐ荷電粒子の濃度が高まるせいで、ここの上空では人工衛星の故障が
増えることが知られているからである。

 地磁気の学問は地球物理学の一部で地球電磁気学というが、最近、
変なことが見つかった。それは南大西洋異常帯が徐々に広がっている
ことだ。
 過去200年で4倍にも広がり、現在も拡大中だ。現在ではさらに拡大
して、アフリカ南西部と南アメリカ東部に分裂しつつある。
 しかし、その原因はナゾのままだ。

.. 2021年05月14日 07:38   No.2186009
++ 島村英紀 (社長)…659回       
 なぜ南大西洋異常帯ができたのかは諸説がある。ひとつは地球に衝突
して潜り込んだ原始惑星「テイア」の名残だ。
 地球は45億年前に生まれたばかりで、地震や噴火を起こすプレートの
ような堅いものが現在のようにはなかった。
 衝突したテイアは地球の奥深くにめり込んだ。南大西洋異常帯はその
影響が残っていると思われている。

 その領域は巨大なもので、まわりにあるマントルよりも1.5〜3.5%も
密度が高くて熱い。これは「大規模S波低速度領域」とも呼ばれている。
 しかし大規模なS波低速度領域は別のところ、たとえば太平洋の下に
もあることがわかってきた。
 だが、テイアが落ちていないところだし、大西洋と同じように地磁気
が弱まっているわけではない。これはテイア説への反論である。
 地球の内部には、まだわかっていないことが多い。
 私たちは、理由は知らないで恩恵に浴しているし、一方、将来の危機
も知らないで過ごしているのだろう。

.. 2021年05月14日 07:46   No.2186010


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