|
(深さ12キロメートル) | 地球物理学の常識をくつがえした「コラ半島」の掘削 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その371 └──── (地球物理学者)
さびた鉄材が散らばった中に、12本のボルトで密封された蓋がある。 いまは廃墟になっているが、この穴の深さは世界一で12キロメートル もある。 この穴はロシアの北西部にあるコラ半島ムルマンスク市の近くで 20年間、掘り続けられた。江戸時代に禅海和尚が30年かかって掘り 抜いた大分の「青の洞門」に匹敵する気の長さだ。
掘削は深くなるほど大変で時間もかかる。だが高い温度は想定外の 大敵だった。深さ15キロメートルをめざしていたが、深さ12キロ メートルでの温度が180度Cにも達し、当初予想していた温度よりも 80度Cも高温だったために、通過することができなかった。 結局、1994年に12キロメートルで打ち止めになった。 しかしこの深さは世界一で、いまだにこの記録は破られていない。
コラ半島の掘削は純粋に地球物理学のための実験で、ロシア(旧ソ連) の国内だけで3000人もの科学者が関与した大がかりなものだった。 掘削の結果は、いままでの地球物理学の常識をいくつも くつがえした。 いちばん違ったのは岩の種類だった。もともとコラ半島が選ばれた のは古い大陸の安定した地殻の見本のようなところで、その地下も 教科書に載っているような典型的な大陸の地殻構造だからだった。 つまり、花崗(かこう)岩質の層が玄武岩質の層に乗っている 構造だ。岩質も弾性波の速度も違う。
世界中の大陸の地下も、弾性波の速度から、ほぼ同じ構造だと 思われている。大陸プレートの典型である。コラ半島では、その二つの 層の境は7キロメートルだと推測されていた。つまりこの掘削で掘り 抜ける深さのはずだった。 その境とはどんなものか、なぜそこにそんな境があるのかは、よく 分かってはいない。解明されるはずの謎解きに世界の期待が 集まっていた。
.. 2020年11月11日 08:41 No.2072001
|