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石原莞爾は人にレッテルをはったり、レッテルで人を見ることをいましめた。昭和九年、彼が仙台で連隊長をしていたとき、第二師団の特命検閲がおこなわれた。ところが、石原の連隊は検閲をやらない、彼いわく、「検閲か。検閲で特別に部下にやかますぃくして自分の成績をあげようなどとする奴に限って平常なまけている奴さ。そして戦場にのぞんで部下を殺し、下手な戦争をする奴さ。軍人はつねに戦場にある気持が大切だ。だから検閲などといって特別なことを私はやらない。特命検閲使が来たら平常のままの連隊を見てもらうだけだ。それが本当なんだ。」(しかり、それがほんとうです) ところで、どこの連隊本部でも連隊の将校の素行身上を調査したいわゆる閻魔帳がある。石原連隊長は、これをすっかり白紙にしていた。特命検閲使荒木貞夫大将は閻魔帳の提出を命じた。ペラペラとページをくる。何枚繰っても白紙である。荒木大将は怒った。何だこれは。彼いわく「石原は当連隊に来てまだ一カ年にもなりません。部下全員の素行等もちろんわかるものではありません。それゆえ当然白紙にしておきました。石原はこんなものは無用と信じます。将として部下を信ずることのできない馬鹿者だけがかかることに拘泥するものと信じます。」荒木大将の驚いたこと。地雷をふみつけたより驚いたと伝えているが、これは伝えたものの形容詞だろう。荒木大将が二の句をつげなかったのは本当らしい。石原の連隊だけは検閲はあっさりすんでしまった。荒木大将が石原をどう思ったかはわからない。
.. 2009年05月16日 21:32 No.184001
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