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軍を毒すな。軍人という奴は世間知らずで極めて臆病な奴なんだ。世間ずれした羽織ゴロの右翼が、国体論や安価な内容のない革新論を振り廻し、自分には何百人もの同志があるなどとホラを吹く、びっくりして大先生と思い込んでしまうのだ。近頃の革新屋と、軍人ブローカーを見ろ。口に国体論を唱え、国民に向って天皇に忠誠を強要しながら、彼らに一人として天皇に忠誠なものがあろうか。天皇に忠誠なら、何故に天皇の軍を毒すのか。何故に軍人の政治干与を煽動するのか。日本の革新はもちろん必要である。それが悪いというのではない。「政治に拘わらず」の勅諭を戴き、政治の国外にあるべき軍人を、何故に自己の政治行動に引き入れようとするのか。軍人にして政治に参与できるのは、陸軍大臣および次官だけである。その他は固く禁じられている。軍人が徒党を組んで政治行動に出る奴らを軍閥というのだ。軍人に政治ができてたまるものか。軍人が政治に手を出すのなら軍人をやめて丸腰になってやれ。軍を毒した元兇は大川周明である。大川の国体論など一顧だにも値しない。
できることならば生涯連隊長で終りたい。私は兵と共に居る連隊長が最も楽しみだ。兵と離れては軍人としての生き甲斐がない。馬占山なんぞ馬賊あがりの親分だったから、子分の兵隊と離れてしまっては、どんな位階をもらって、どんな地位におかれても、つまらなくてたまらなかったのだ。
検閲か。検閲で特別に部下にやかましくして自分の成績をあげようなどとする奴に限って、平常なまけている奴さ。そして戦場では部下を殺し、下手な戦争をする奴さ。軍人は常に戦場に在る気持が大切だ。だから検閲などといって特別なことを私はやらない。特命検閲使が来たら,平常のままの連隊を見てもらうだけだ。それがほんとうなんだ。
こんなのが明治以来軍隊を高等監にしてしまったんだ。兵隊は風呂の中でも不動の姿勢をとっておれというのか。将校は家庭の風呂でくつろぐことができる。たまには浪曲のひとくさりくらいは出ることもあろう。それが軍の風紀と何の関係があるか。兵隊は将校と違って温泉などへは行かれないんだ。温泉に行った気分にさせてやったらよいではないか。
*以上は歩兵第四連隊長時代(1933〜35年)
.. 2019年04月29日 06:58 No.1651003
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