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豊洲市場の「不都合な真実」を報道してほしい
石井妙子(ノンフィクション作家)
◎ 深刻な問題があればテレビや新聞が必ず報道してくれるものと、 多くの人は信じている。 豊洲市場で初荷のマグロに史上最高3億円を超える値がついたと毎日 新聞(1月5日夕刊)をはじめ、各社は写真入りで大きく報じた。読者の 大半が景気のいい話だと、豊洲のにぎわいを強く印象づけられたことだ ろう。だが、現実は真逆だ。
◎ 東京都中央卸売市場の発表統計で明らかなように豊洲移転後、取扱高 は大幅に減少している。交通不便なうえに、市場内部の使い勝手があまり にも悪いため、買い出し人が他市場に流出してしまったのだ。 6000億円もかけた最新設備のはずなのに床の陥没、シャッターやエレ ベーターの故障、「黒い粉じん」が舞う現象もみられ、市場関係者の 一部からは喉の痛みを訴える声も上がっている。
市場内ではターレ(小型運搬車)による事故が増え、死者まで出ている。 現在も地下水からは基準値130倍のベンゼンが検出され、水位も高い ままだ。 移転を延期し38億円をかけて追加工事をしたというが一体何を改善し たのか。もとより豊洲は維持費だけでも年間100億円を超える。 本当に持続可能な市場なのか、安心、安全な市場なのか。 今一度、検証が必要であろう。
◎ 一方、前倒しで解体作業が進む築地市場では建物全体を覆わずにアス ベストの除去作業を行っている。 都知事は「市場機能を築地にも残す」と約したはずだが突然、「国際 会議場を中核に再整備する」と言い出した。明らかな公約違反だ。
◎ これだけの問題があるのに、大手メディアは正面から取り上げない。 毎日新聞も豊洲を肯定する楽観的な報道が目立つ(2018年10月6日夕刊、 同11日夕刊、1月15日夕刊など)。 ロンドン五輪でスポンサーになった新聞社は1社もなかったが、東京 五輪・パラリンピックでは毎日、朝日、読売、日経、産經、北海道新聞が スポンサーに名前を連ねる。 都の広報に堕することなく、五輪の経費問題と併せて、「不都合な 真実」こそ伝えてほしい。(東京本社発行紙面を基に論評) (2月28日「メディア時評」より)
.. 2019年03月04日 10:24 No.1603001
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