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■--日本列島の最近の地震活動と噴火
++ 島村英紀 (社長)…405回          

日本列島の最近の地震活動と噴火 その2
 |  「大噴火が少なすぎる近年の日本」(11/24講演)
 | プレートや火山の「恩恵」
 └──── 島村英紀氏のたんぽぽ舎・講演レジュメより…「連載5」

●プレートや火山の「恩恵」

 地震や火山の災害にも苦しめられてきた一方で、私たちはプレートの恩恵
にも浴している。日本人が風光を愛で、温泉を楽しみ、四季を味わえるの
も、プレートの衝突で作られた火山の「おかげ」である。日本の農業にも
火山はいい影響を及ぼしている。
 日本海沿岸の冬の降雪、空っ風などの日本の気候も火山地形が作って
きた。北西からの冬の季節風が元々は乾いていたのに、日本海の上空を
通ったときに湿った空気を吸い、それが日本の中央部にあるプレートが
作った山脈にぶつかって大量の雪を降らせ、その結果、乾いた風が太平洋岸
の冬の気候を作っているのである。

 日本列島の地形の多くは火山が作ったものだし、国立・国定公園のうち多
くは火山が作った景観である。また温泉はいうまでもなく火山と同じ「源」
である地下のマグマが地下水を暖めて作ったものだ。スキー場の多くは火山
の山腹を利用している。
 豊富な地熱があってエネルギー源として使えるのも火山の恩恵である。
この地熱は、天候や夜昼に左右されない将来のエネルギー源として期待され
ている。火山の地熱を生かしてハウス栽培の農業が行われているところも
多い。

 狭い国土に急峻な火山があることによって、日本の川は短く、また急で
ある。つまり、日本の川は山地に雨が降ってから海に流れ下るまでの距離も
時間も短い。このため多くの水力発電が日本各地で作られた。急峻な山があ
るゆえである。これも火山の恩恵である。

 日本の川が短いことは日本の水が多く軟水であることの理由になってい
る。軟水とは、カルシウムやマグネシウムの金属イオン含有量が少ない水の
ことだ。これに対してヨーロッパの水は硬水であることが多い。これはラ
イン川などヨーロッパの川がゆるい傾斜のところを何千kmも流れるので、
まわりの岩からカルシウムやマグネシウムの金属イオンがとけ込みやすいこ
とに原因がある。
 
.. 2018年12月12日 10:28   No.1549001

++ 島村英紀 (社長)…406回       
軟水は、石鹸の泡がたちやすいほか、和食やコーヒー、お茶などの水とし
ては適しているといわれている。最近ユネスコの世界遺産として登録された
和食の味も火山のおかげなのである。

 また、噴火して火山の山体が作られた後は、火山は大量の水の「天然の浄
水装置」になる。つまり平地よりも雨が多い山地で集めた雨水が火山体の中
を伏流水として通って、火山の麓(ふもと)から大量の湧水として出てくる
のだ。この湧水は量が多く、どんなに日照りの年でも枯れることはないの
で、麓の農業を支えてくれる。

 この水は火山体で漉されて浄化された水だし、温度も年間を通して一定な
ので、人間が使ったり飲んだりする水としても、とても適している。
 ちなみに地下水の温度はその土地の年間平均気温になる。つまり東京では
約15度C、札幌では約7度Cである。これは年間の気温変動がせいぜい数〜
十数度Cしか達しないということに由来している。

 この大量の湧水は工業にも使われる。たとえば富士山の南側の山麓に製紙
工業や写真フィルムの工業が発達したのも大きな山体を持つ富士山の伏流水
のおかげである。
 樽前山の湧水を使っている北海道・苫小牧の製紙工場や、雌阿寒岳の伏流
水に頼っている北海道・釧路の製紙工場も同じ構図なのである。

.. 2018年12月12日 10:40   No.1549002
++ 島村英紀 (社長)…407回       
火山噴火が頻発した「厄年」
 |  これから未来永劫に大噴火がない、
 |  ということは地球物理学的には考えられない
 |  警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その276
 └──── (地球物理学者)

 「厄年」とでも言わなければならないほどの年がある。
 日本では1854年がそうだ。いま、恐れられている南海トラフ地震の「先
祖」である安政地震は32時間後にまたもや大地震が起きた。大地震が東西
二つに分けて次々に起きたのだ。地獄の日々だった。
 だが、地震の被害はその国か、せいぜい隣接国どまりだ。他方、大規模な
火山噴火は世界中に及ぶことがある。

 かつてインドネシアのクラカタウ火山が535年に大噴火した。この噴火で
火山灰が成層圏まで吹き上がり、偏西風に乗って世界中にばらまかれてし
まった。このため世界中で日照時間が減って気候が変わり、冷害が起きた。
欧州の平均気温は過去2000年間で最も寒いものになった。
 しかし、影響があまりに大きいのでインドネシアの噴火だけではないので
はないか、メキシコか米国カリフォルニアの噴火ではないかと思われてき
た。ue
 この11月になって、スイスの氷河の氷を調べた科学者は、この大災害のも
うひとつの「元」を探り当てた。それは1年後の536年に起きた北大西洋の
アイスランドで起きた大噴火だった。

 英ノッティンガム大学と米メーン大学気候変動研究所の科学者。スイス
アルプスのニフェッティ峰氷河で過去2000年あまりの大気汚染物質を特定
した。氷河は毎年積み重なるので、中に歴史が詰まっている。
 アイスランドには先住民族はおらず、9世紀になって初めてノルウェー
人が入植した。途中で英国に寄って海岸近くの英国人を「拉致」して移民
に加えたという。それより前は人が住んでおらず、噴火の歴史は知られて
いなかった。

 これらの噴火のせいで、東ローマ帝国の衰退が起き、イスラム教が誕生
し、中央アメリカでマヤ文明が崩壊し、少なくとも四つの新しい地中海国家
が誕生し、ペストが蔓延したことなど、人類にとっての大事件が次々に引き
おこされた。
 欧州では、これらの火山噴火が引き起こした経済の衰退から回復して上向
くまでに30年もかかった。

.. 2018年12月14日 08:29   No.1549003
++ 島村英紀 (社長)…408回       
 この研究では興味深いことも分かった。大気中の鉛粒子の濃度が上昇して
いたのだ。鉛は銀の精錬に使われていた。つまり鉛粒子の増加は、貨幣を
鋳造するために貴金属の需要が再び増大したことを意味していた。経済が
上向くとともに、貨幣の需要が増えたのだ。

 535年のインドネシアの噴火では、世界的な影響を及ぼしただけではなく、
地元にあった高度な文明が滅びてしまった。カラタン文明である。
 だが地球の歴史からいえば、人類が生まれてからの歴史は4、5万年だ
が、大規模な火山噴火の歴史はずっと長い。
 人類が生まれてからも、文明を滅ぼしてしまうほどの大噴火が起きてき
た。??
 現に、縄文時代の遺跡は東北日本や北海道にしか出ない。それは7300年前
に起きた九州南方の大噴火で西日本の縄文文明が滅んでしまったからだ。

 日本やほかの国で、これから未来永劫に大噴火がない、ということは地球
物理学的には考えられない。いつかは大噴火が起きるにちがいない。

.. 2018年12月14日 08:35   No.1549004
++ 島村英紀 (社長)…409回       
日本列島の最近の地震活動と噴火 その2
 |  「大噴火が少なすぎる近年の日本」(11/24講演)
 | 地震国・火山国に住む「覚悟と知恵」
 └──── 島村英紀氏のたんぽぽ舎・講演レジュメより…「連載6」

●地震国・火山国に住む「覚悟と知恵」

 第一回からの講演で述べてきたように、もともと首都圏は、世界でも珍し
いほど地震が起きやすいところだ。つまり「地震を起こす理由」が多い。
また日本にある多くの火山もこのプレートの構図から作られた。

 世界では2つのプレートが衝突しているために地震が多発したり火山が
噴火するところはある。いわゆる地震国だ。しかし3つのプレートが地下で
衝突しているところは少なく、なかでもその上に3000万人を超える人々が
住んでいるところは、世界でもここ、日本の首都圏にしかない。

 自然現象としての地震や噴火は昔から起きてきていることだ。これらが
起きても人が住んでいなければ災害は起きない。自然現象と社会の交点で
災害が起きるのだ。
 しかも文明が進むたびに災害が大きくなる。歴史を振り返ると対策は被害
をいつも追いかけてきた。
 これから来る災害はもっと大きくなる可能性がある。地震や噴火の危険が
以前よりも増えてきていると思って備えることが大事なことなのである。

 とても危ないところに、知らないで住み着いたのが私たちたち日本人なの
である。一方で四季がはっきりした気候も、農業も、温泉もみんなプレート
の恩恵である。噴火は瞬間的、一過性のものだが、その他の長い時代は恩恵
に浴しているわけである。
 日本列島に住み着いた私たちは、恩恵を十分受ける一方で、災害も受け入
れざるを得ない。災害があり得るということを普段から考えていることが、
何より大事なことだと思う。
 地球のスケールは大きいし長い。人間の知っている知識は、まだごく限ら
れているということを忘れてはいけないのだろう。

.. 2018年12月14日 09:51   No.1549005
++ 島村英紀 (社長)…410回       
述べてきたように、いままでの100年ほどは「異常に」日本の火山活動も、
首都圏の地震も少なかった。しかし、これらは地球物理学者から見ると
「普通」に戻りつつある。
 直下型地震も日本のあちこちを襲っている。2016年4月に2回、震度7と
いう最高の震度を記録して大きな被害を生んだ熊本の地震は、この阿蘇が
かつて噴火したときの火山灰地のせいで、震度が大きくなった。
 阿蘇山の外側にも、広く火山の噴出物が吐き出されて溜まっているので
ある。これはもちろん、阿蘇山には限らない。2018年9月の北海道地震
(胆振東部地震)も4−5万年前に噴火して堆積した火山灰地が被害を拡
大した。

 私たち日本人は、もちろん火山やプレート活動の恩恵を受けている。
 しかし同時に、地震国・火山国に住む覚悟と知恵を持っているべきで
あろう。

.. 2018年12月14日 09:57   No.1549006
++ 島村英紀 (社長)…411回       
日本列島の最近の地震活動と噴火
 |  その1「北海道地震、大阪北部地震ほか」
 | ・日本に起きる地震には二種類
 └──── 島村英紀氏のたんぽぽ舎・講演レジュメより…「連載1」

《事故情報編集部》より
 「スペースたんぽぽ」学習会で好評だった11月17日と24日の
2回開催された『日本列島の最近の地震活動と噴火』講師・島村英紀(地球
物理学者)氏の講演レジュメを連載致します。
 [その2「大噴火が少なすぎる近年の日本」]の連載が終了しましたので
 [その1「北海道地震、大阪北部地震ほか」]を掲載致します。

●日本に起きる地震には二種類

 日本に起きる地震には二種類があり、ひとつは海溝型地震、もうひとつは
内陸直下型地震である。
 前者には東日本大震災(2011年)を起こしたマグニチュード(M)9.0 の東北
地方太平洋沖地震とか、恐れられている南海トラフ地震がある。後者には、
この9月6日に起きた北海道胆振(いぶり)東部地震(M6.7)や6月18日に起
きたM6.1の大阪北部地震がある。

 この二種類の地震は起きるメカニズムが違う。
 海溝型地震は、日本列島を載せているプレート(北米プレートやユーラシ
アプレート)に海洋プレート(太平洋プレートやフィリピン海プレート)が
衝突してくることで起きるので、プレートが毎年4〜8センチという速さ
で動いてくる分だけ、しだいに地震を起こすエネルギーが溜まっていって
いる。
 そして岩が我慢できる限界を越えたら大地震が起きる。その意味では、
毎年地震に近づいていることは確かなことである。起きる場所は海溝の近く
に限定される。多くの場合、太平洋岸の沖である。

 ただし、政府が言う30年以内に80%とかいう数字そのものは、あてになら
ない。私もシミュレーションを何度もしたことがあるが、入力があいまいで
あてにならなければ、出力もあてにはならない。将来の地震予測は、入力そ
のものがあいまいなのだ。結果として出てくる数字はまったくあてにしない
方がいい。
 他方、内陸直下型地震は海溝型地震とは違う。これは日本列島を載せて
いるプレートがねじれたり、ゆがんだりして起きるもので、どこに起きる
のか、いつ起きるのかは、いまの学問では分からない。


.. 2018年12月19日 17:32   No.1549007
++ 島村英紀 (社長)…412回       
 つまり、日本のどこにでも起きる可能性があるのが内陸直下型地震なので
ある。
 この内陸直下型地震は、地震の規模(マグニチュード)からいえば、海溝型
地震よりは小さく、M7クラスがせいぜいである。(Mが1違えば、地震の
エネルギーは32倍、2違えば1000倍も違う)。
 しかし、人々が住む直下で起きるために、たとえ小さめのマグニチュード
でも、現地での震度は日本の震度階で最大の7になり、甚大な被害を生むこ
とがある。
 たとえば阪神淡路大震災(1995年。地震の名前としては兵庫県南部地震)は
震度7を記録して、6400人を超える犠牲者を生んでしまった。この地震の
Mは7.3だった。

 間の悪いことに、内陸直下型地震は人間が住んでいるすぐ下で起きる。
このため、地震の規模のわりに被害が大きくなる。震度7になった2018年の
北海道胆振東部地震や震度6弱だった大阪北部地震でも、内陸直下型地震
ゆえに、大きな被害を生んだ。

.. 2018年12月19日 17:42   No.1549008
++ 島村英紀 (社長)…413回       
「地震州」アラスカでM7 カリフォルニアに津波の恐怖
 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その277
 └──── (地球物理学者)

 11月30日の朝(日本時間では12月1日の未明)、米国アラスカ州でマグニ
チュード(M)7.0の強い地震があった。震源がアンカレッジ市内北部だったこ
とで市内では甚大なインフラ被害が発生し、多数の住宅や建物が損傷した。
一部地域では停電も発生した。アンカレッジ市はアラスカ州の最大都市だ。

この近くにはアラスカを南北に縦断する世界最長級の原油パイプライン
「トランスアラスカパイプライン」が通っている。パイプラインは予防措置
として送油を停止したが、損傷がないことが確認され、送油を再開した。

 米国全体では地震が起きるところはごく限られている。数少ない例外、
アラスカでは陸地が載った北米プレートに太平洋プレートが衝突している。
東北日本と同じ構図で、よく地震が起きる。げんに1964年にはアンカレッジ
の東方でM9.2の「アラスカ地震」が起きて、世界最大の液状化を生むな
ど、大きな被害を生んだ。当時は1974年に工事が始まり1977年に完成した
「トランスアラスカパイプライン」が作られる前だった。

 もうひとつ、米国で地震がよく起きるのが西海岸のカリフォルニア州だ。
 ここには世界でも最長クラスの長さ1300キロもあるサンアンドレアス断層
という活断層があり、1906年のサンフランシスコ地震など多くの地震を起こ
してきている。サンフランシスコ地震はM7.8。700人以上が死亡し、地震に
よる火災で中心部の商業地区が崩壊した。米国の主要都市で起きた最も被害
の大きい自然災害だった。
 サンアンドレアス断層で想定されているM8.5以上の巨大地震を「ビッグ
ワン」と称して長年、警戒してきている。

 だが、カリフォルニア州では、2011年の東日本大震災で日本での津波の大
被害が報じられて以後、津波の被害がにわかにクローズアップされるように
なった。
 カリフォルニア州での一番の心配は、アラスカで大地震が起きて、その地
震からの津波が襲って来ることになった。

.. 2018年12月20日 06:25   No.1549009
++ 島村英紀 (社長)…414回       
 2013年に米国地質調査所(USGS)が出した被害予想では、アラスカで
M9の地震が起きると甚大な経済的被害を受け、75万人が避難を余儀なくさ
れるという。

 カリフォルニア州沿岸部の4分の3は幸いなことに断崖の上であるため、
津波の被害を直接受けずに済むだろうと報告書は述べている。
 一方、残る4分の1は津波の危険にさらされる。これらはカリフォルニア
州の資産のうち、最も経済的価値が高い資産ゆえ、被害も甚大だと言う。
また、カリフォルニア州に原子力発電所は二ヶ所あり、どちらも沿岸部に
ある。

 今回のアラスカでの地震がM9よりも小さかったことを聞いて、カリフォ
ルニアでは胸をなで下ろしたに違いない。
 しかし、今年はじめにも「地震州」アラスカでM7.9の地震も起きている。
いつかは、アラスカで大地震が起きて大きな津波がカリフォルニア州を襲う
可能性がけして低くはないのである。

.. 2018年12月20日 06:32   No.1549010


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