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■--大阪の地震から教訓を学べるか
++ 島村英紀 (社長)…353回          

東京を襲っていたら被害はより甚大…
 |  東京など首都圏では家を倒す周期の地震波が襲って来る可能性が強い
 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その254
 └──── (地球物理学者)

◎ さる6月18日に起きた大阪府北部の地震では都市型被害が目立った。
 ブロック塀が倒れて死者が出たほか、駅間で緊急停車した列車が143本、閉じ込
められた乗客は約14万人、帰宅困難者が400万人に上った。エレベーターに閉じ込
められた件数は339件で東日本大震災(2011年)の1.6倍もあった。
 断水やガスなどライフラインの寸断が続いた。ガスの開栓作業には住民の立ち
会いが必要だが、仕事で日中は不在が多いという都市型の事情もあった。

◎ この地震は深さ13キロと浅い直下型地震で、マグニチュード(M)も6.1だった
ので、被害地域も大阪府の北部と京都府の南部に限られていた。この地域は大阪
と京都の中間にあって戦後に開発された新興住宅地が多く、風光明媚なこともあ
って、富裕層が多く住む。庶民が多く古い町並みが残る大阪南部に比べて「大阪
の南北問題」ともいわれるくらい違う。
 もし、この地震が大阪の南部を襲っていたら、地盤も悪く、古い住宅が密集し
ている地域だけに、被害はずっと大きかった可能性がある。

◎ そして、もし、この地震が東京を襲ったら比べものにならないほどの被害を
出しただろう。地震に弱い木造住宅密集地帯をはじめ、地盤が悪いところが多い
東京は地震にはずっと弱い。しかも東京は日本の政治経済の中心で影響も大きい。
 「東京」の名がついた唯一の地震があった。ちょうど124年前の1894(明治27)
年6月に起きた「明治東京地震」だ。
 地震Mは7.0、震源は東京湾北部だった。この地震で建物の全半壊130棟、死者
31人を生んだ。
 いちばん目立ったのは当時の文明開化の足元を直撃した地震だったことだ。当
時流行していた西欧型のビルや煙突などの建築物を真似ても地震国には適さない
ということが分かった地震だった。
 不幸中の幸いだったこともあった。震源の深さは40〜80キロと直下型地震とし
ては深かったので、Mのわりに被害は限られていたことだ。
 
.. 2018年07月11日 12:15   No.1445001

++ 島村英紀 (社長)…354回       
当時は、まだちゃんとした地震計がなく、深さも震源もあいまいだった。震源
が首都圏の地下に潜り込んでいるフィリピン海プレートか太平洋プレートか、そ
の内部か境界かは分からない。

◎ だが直下型地震には今回の大阪の地震のようにもっと浅いこともありうる。
もし今度来る東京の地震の震源がもっと浅かったら、同じMでもはるかに大きな
被害を生むに違いない。
 しかも、文明が進んだだけ地震に弱くなっている。東京湾のまわりはほとんど
が人工海岸で埋め尽くされ、しかもそこには重要な施設や発電所や工場が立ち並
んでいる。
 18日の大阪の地震の揺れでは、ごく短周期が卓越していた。そのため家を倒さ
ず、ブロック塀や家具を集中的に倒した。これは堆積層が薄いところの特徴だ。
近畿地方で活断層が例外的によく見える理由でもある。

◎ しかし、東京など首都圏ではちがう。家を倒す周期の地震波が襲って来る可
能性が強い。
 首都圏は大阪の地震の教訓から学ぶことが出来るのだろうか。

.. 2018年07月11日 12:24   No.1445002
++ 島村英紀 (社長)…355回       
噴火「予知」の学問的レベルと役所の縄張り
 |  群発地震から三宅島噴火18年
 |  警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その255
 └──── (地球物理学者)

◎ 三宅島近海で群発地震が起きて、それが噴火につながったのは2000年
の初夏。いまからちょうど18年前になる。
 三宅島は、それまでの500年間に13回の噴火が知られていて、17年から69
年ごとに噴火を繰り返してきた。
 明治時代(1868年−)以降だけでも噴火が5回あった。1940年には大き
な噴火があり、火山弾や溶岩流で11名が死亡した。また1983年の噴火では
人的な被害はなかったものの、約400棟もの住宅が埋没したり焼失した。ま
た山林や耕地にも被害が大きかった。だが、それぞれの噴火は1−2年で
収まった。

◎ しかし、この2000年の噴火だけは長引いた。その年に全島避難になっ
てから、避難指示がすべて解除されるまで15年もかかった。ただし避難指
示の解除は居住地域だけで、火口付近では高濃度の二酸化硫黄が観測され
ていて、いまも立入禁止になったままだ。
 居住地域の全域が解除になったものの、島の人口3800人は3分の2にな
ってしまった。しかも、帰島した人の4割は65歳以上の高齢者で、39歳以
下の若い人たちは4−5割、つまり半数以上が島に戻ってこなかったのだ。
過疎を噴火が加速してしまったことになる。

◎ 関東地方から南へ「東日本火山帯」が延びている。富士山や箱根もそ
の一部だが、伊豆大島、三宅島、八丈島をはじめ、西之島新島など、多く
の火山がこの火山帯に属している。
 火山の山頂部分だけが海上に顔を出している島は、どれも噴火があった
ら逃げ場がない。伊豆大島でも、1986年の噴火で全島避難が行われた。
 ところで三宅島の噴火では、噴火前後に火山性の地震活動が起きるのが
普通だ。
 しかし地震が起きたからといって噴火の予知が出来たわけではなく、ま
た地震の起きた場所と噴火する地点とは別のところになることがある。

.. 2018年07月17日 11:37   No.1445003
++ 島村英紀 (社長)…356回       
◎ 2000年の噴火でも、はじめは島内で始まった地震活動がしだいに三宅
島の西方沖に移動して小規模な海底噴火に至った。その後、地震の震源は
さらに西方沖へ移動し、新島から神津島にかけての近海で群発地震活動が
続いた。この群発地震の最大の地震はマグニチュード(M)6.5、震度は6弱
を記録した。
 このように震源が次第に遠ざかったのを見て、火山噴火予知連絡会は
「三宅島では噴火はない」という安全宣言を出した。
 だが、宣言はまったく外れた。激しい噴火が島内の雄山(おやま)の山
頂で起きてしまって、ついに全島避難に至ったのだ。当時もいまも、噴火
予知の学問的なレベルはこの程度なのである。
 いや、噴火予知連ばかりではない。この群発地震を地震防災対策観測強
化地域判定会(判定会)も、また地震予知連絡会も、噴火予知連とは別々
に議論していた。

◎ 判定会は噴火予知連と同じ気象庁にあるが、組織としては別のものだ。
当時、地震予知連絡会は建設省国土地理院にあった。いまは国土交通省国
土地理院になっている。そのどれもが、的確な見通しを出せなかった。
 役所の縄張りは、いささか滑稽なことだが、いまだに続いているのだ。

.. 2018年07月17日 11:44   No.1445004
++ 島村英紀 (社長)…357回       
災害に名前を付ける基準とは
 |  気象庁が名前を付けなかった「大阪北部地震」
|  青森も大被害なのに「十勝沖地震」
|  明らかに「秋田沖地震」なのに「日本海中部地震」
 | 警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その256
 └──── (地球物理学者)

◎ さる6月18日に起きたマグニチュード(M)6.1の大阪府北部の地震は気象庁に
名前を付けてもらえなかった。
 気象庁が名前を付けるには基準がある。
 「陸で起きた地震ではM7.0以上(震源の深さが100キロ以浅)で最大震度5弱以
上」「海で起きた地震ではM7.5以上(100キロ以浅)で、最大震度5弱以上または
津波2メートル以上」とか、「全壊100棟程度以上など顕著な被害があった場合」
や、「群発地震が起きて被害が大きかった場合」という条件があり、このいずれ
にも達しなかった。

 このため、新聞やテレビ局ごとに、この地震の名前は違った。たとえば気象庁
は「大阪府北部の地震」、産経と日経は「大阪北部地震」、朝日と読売は「大阪
府北部を震源とする最大震度6弱の地震」、NHKは「大阪直下地震」だった。
このようにまちまちだと混乱の元になる。
 地元の人々から見れば、大変な被害を受けたのだから、地震に名前をつけても
らえなかったのは不満かもしれない。

◎ 気象庁には、かねてからこの種の要望が多かったに違いない。死者行方不明
者が42人にもなった2017年7月の九州北部の豪雨では、人的被害が大きいことか
ら、後日、「九州北部豪雨」と命名した。後日に命名されたのは例外的なことだ。
この豪雨は「損壊家屋等1000棟程度以上、浸水家屋10000棟程度以上」の命名基準
には達していなかった。

◎ これらのために、気象庁は14年ぶりに「基準」を見直して、名称を定める方
針を変えた。7月2日に開かれた交通政策審議会気象分科会に報告した。
 主な変更は、いままで入っていなかった人的被害を基準に加えたことだ。ただ
し人数の目安は設けずに「相当の人的被害」とした。人数については弾力的に運
用するという。
 

.. 2018年07月20日 10:00   No.1445005
++ 島村英紀 (社長)…358回       
このほか、あいまいだった自然災害を「気象」「台風」「地震」「火山」の4
つに区分して新たに基準を設定した。たとえば台風は発生年と発生順だけの組み
合わせだったが、今後は地域名や河川名も含めて名付ける。

◎ だが、じつはその先に問題がある。どこの地域の名前を付けるか、という問
題だ。
 1968年に「十勝沖地震」(M7.9)が起きた。この地震の震源は、北海道・襟裳
(えりも)岬と青森・八戸のほぼ中間点にあったから、青森県も大きな被害を受け
た。ると
 しかし、地震の名前が十勝沖だったばかりに、国民の同情を集めたり、政府の
援助を獲得するうえで青森県はたいへんに損をした、と青森県選出の政治家は深
く心に刻んだに違いない。
 15年後の1983年に秋田県のすぐ沖の日本海でM7.7の大地震が起きたときに、こ
の青森の政治家はいち早く気象庁に強い圧力をかけたと言われている。
 この地震は秋田県の沖に起きたのに、秋田沖地震ではなくて「日本海中部地震」
と名付けられた。

◎ 地震学的に言えば、被害を起こすような地震が起きるところは日本海ではご
く東の端の日本沿岸だけなのである。地震学的には明らかに「秋田沖地震」だっ
た。ると
 災害に名前を付けるのも、なかなか大変なことなのである。

.. 2018年07月20日 10:14   No.1445006
++ 木村雅英 (社長)…324回       
考えなくてはいけないカルデラ噴火、
 |  原発審査に見られる理解の齟齬(そご)
 |  藤井敏嗣さん(前気象庁火山噴火予知連絡会会長)が
 | 語る原発審査批判
 | 原子力規制委員会は原発再稼働推進委員会!その178
 └──── (再稼働阻止全国ネットワーク)

 岩波「科学7月号」の特集「つづく噴火・今後の備え」で原子力規制委員会の
火山に関わる審査の問題点が述べられている。
 本シリーズ「その59」「その167」でも述べたが、原子力規制委員会は再稼働審
査での火山評価に多々問題がある。
 ここでは、藤井敏嗣さんの原発審査批判を紹介する。

< 藤井敏嗣「噴火からどう学ぶか:予測の現状とすすめ方」から
○考えなくてはいけないカルデラ噴火
 日本国民にはカルデラ噴火の危険性があることを周知するべきだ、同時にカル
デラ噴火の研究も早急に開始するべきだ。
 カルデラ噴火の前兆が数年前に捉えられるかどうかは、まったく保証がない。
○いざとなったら諦めてくれは一番イカン
 巨大噴火がほかで規制されていないから原子力規制もやらなくていいというの
でいいのか。地震は13万年でやっているのに1万年ぐらいで確実に起こる噴火で
はどうしてこうなのか。
○自然災害の場合には統計近似できない
 800度Cの火砕流の中に原子炉が閉じ込められたら何が起こるかは誰も知らない。
冷却はしなくなるし、常温のコンクリートで固めるわけではないので、とんでも
ないことが起こる。
 放射性物質は世界中にばら撒かれるし、火山灰被害から生き延びた人たちも黒
い雨にさらされることになりかねない。
○100万炉年に1回程度を超えないも満たせない
 火砕流到達地域に原子炉をつくると、(1万年ぐらいで確実に噴火が起こるので)
100万炉年の間に100回ぐらい火砕流がくるので、完全に安全目標を超過してしま
う。??

.. 2018年08月06日 08:31   No.1445007
++ 木村雅英 (社長)…325回       
○審査で火砕流は到達しないというシミュレーションになっているが?
 大きなカルデラ噴火に伴うような火砕流のシミュレーションは未だ成功してい
ない。そもそもシミュレーションの検証のしようがない。 >

 6月3日に中米グアテマラのフエゴ火山が噴火し、多数の死者・行方不明者が
でた。日本では、雲仙火山での火砕流による死亡が記憶される。1902年にカリブ
海のプレー火山で発生した火砕流により3万人が亡くなった。
 巨大噴火にともなう火砕流は、到達距離が100kmに及ぶ。7300年前の鬼界カル
デラや7万年前の阿蘇カルデラの噴火にその例が見られる。
原子力規制委はカルデラ噴火問題を真剣に考えるべきだ。

 なお特集では、巽好幸さん(神戸大学海洋底探査センター)が「巨大噴火と原子
力発電所:原子力規制庁の見解を検証する」で原子力規制庁と国民の理解が極め
て貧弱であると指摘し、「その167」で述べたように<原子力発電所の火山影響評
価ガイドにおける「設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価」に関する
基本的な考え方>の内容が不合理なものであることを明解に示している。

.. 2018年08月06日 08:38   No.1445008
++ 島村英紀 (社長)…361回       
西日本豪雨が引き起こした水蒸気爆発
 |  すさまじい威力…御嶽山噴火と同じ
 |  警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識 その258
 └──── (地球物理学者)

◎ 西日本が豪雨災害に襲われた。目を覆う災害だが、この豪雨は地球温暖化に
ともなって「気象が凶暴化」してきたひとつの現れだ。4年前の広島市安佐南区
を中心とした豪雨災害といい、これから気象災害がもっと増える可能性がある。
 気象の凶暴化ではそのほか、強い台風が上陸してきたり、竜巻がより強くなっ
たりする。
 ところで西日本豪雨で、水蒸気爆発が起きた。火山ではよくある水蒸気爆発だ
が、平地の工場で起きたことは珍しい。
 岡山・総社市にある金属加工会社で7月6日に水蒸気爆発が起きた。すさまじ
い爆発で工場はメチャメチャになり、民家など3棟が全焼したほか、広範囲の民
家の窓ガラスが割れたり壁が壊れた。
 従業員が避難したあとだったので工場での人的災害はなかったのが不幸中の幸
いだったが、近隣に住む住民約40人が重軽傷を負った。

◎ この工場ではアルミを溶かしてリサイクルしていた。そこへ近くの高梁(た
かはし)川の支流が氾濫して水が流れ込んできた。溶けた高温のアルミと接触し
て水蒸気爆発を起こしたのだ。
 溶けたアルミだけではなく、水が高温の物体に触れるだけで水蒸気爆発が起き
る。
 「水蒸気」爆発というと、まるでヤカンから出る湯気のように威力のないもの
に聞こえる。だが、そうではない。

◎ 液体の水は1グラムで1立方センチの体積を占めるが、これが100度Cになる
と気体になって約1700立方センチの体積にも膨張する。もっと高温の物があると
4000立方センチ以上と、さらに体積が増える。数千倍の体積になるのだ。
 このため、工場など閉じた空間では大変な圧力になって、まわりにあるものを
吹き飛ばしてしまう。
 アルミの融点は660度Cほどだ。火山ではもっと高く、マグマの温度は1000度C
を超える。この高温のため、膨張した水蒸気が噴石や溶岩を吹き飛ばしてしまう。
 戦後最大で60人以上の犠牲者を生んだ2014年の御嶽山噴火も水蒸気爆発だった。
 

.. 2018年08月06日 16:39   No.1445009
++ 島村英紀 (社長)…362回       
火山の水蒸気爆発は、マグマの中の水蒸気やマグマの近くにある地下水が熱せ
られたことによって圧力が上がり、地表にあった昔の火山灰や噴石などを吹き飛
ばして噴火する。御嶽で被害を生んだのは昔の火山灰などだったのだ。

◎ ちょうど130年前には、御嶽山よりはるかに大きな水蒸気爆発が起きた。
1888年7月15日の福島・会津磐梯山の噴火だ。
 このときは、火山の内部で水蒸気爆発が起きた。このため大規模な山体崩壊を
引き起こして山頂も崩壊した。いま、空から見ると磐梯山の山頂から北側には息
をのむような巨大な山体崩壊の跡が広がっている。噴火後は低くなって標高
1816メートルになった。
 磐梯山の噴火はわずか1日で終息した。しかし被害は甚大だった。この山体崩
壊で約500人もの死者を生んだ。また、川がせき止められ、桧原湖、小野川湖、秋
元湖、五色沼など、大小さまざまな湖沼が作られた。水蒸気爆発は、とても怖い
ものなのである。

.. 2018年08月06日 16:46   No.1445010


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