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鎌田 慧(ルポライター)
テレビ中継にくぎ付けだった。金正恩(キムジョンウン)委員長が軍事境界線を 跨(また)いで韓国側に入った瞬間、「戦争は終わった」との感慨が胸を突いた。 文在寅(ムンジェイン)大統領の笑顔に警戒の影はなかった。「ここ板門店は分断 の象徴ではなく平和の象徴になった」。文氏の歴史的な名言である。
境界線のむこうは敵国だった。その両側から眺めたことが二度ほどある。両側 で悪口を言い合い、緊張感が凍りついていた。それが一瞬にして氷解した。「対 決の歴史に終止符を打つために来た」金氏の決意表明だ。 東西ベルリンを遮断していた、チェックポイント・チャーリーも、恐怖の境界 線だった。いまは検問所も取り払われ、日常的な街路と化した。異常な状態は人 間の努力によって必ず修復される。歴史の教訓を信じたい。
南北和解のシーンをテレビで眺めてホッとしたのは、日本は悪役にならずにす むからだ。1950年からの朝鮮戦争で、米軍が日本の基地から出撃し、日本は砲弾 輸出などで大儲(もう)けだった。 その砲弾の下で、どれだけの人間が亡くなったことか。もしもこれから米国が 北朝鮮を攻撃すれば、集団的自衛権行使で自衛隊が出動させられよう。安倍首相 は「制裁強化」と拳(こぶし)を振り上げるだけ。 世界は大きく動いている。戦争に対する想像力と平和への強い希求も言葉も ない首相では、この激動期に耐えられまい。 (5月1日朝刊19面「本音のコラム」より)
.. 2018年05月07日 09:22 No.1393001
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