返信


■--地球に宇宙線が降り注ぐ日
++ 島村英紀 (部長)…188回          

   地磁気の強さはどんどん弱くなっている
   「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその162
 └──── (地震学者)

 ようやく首都圏の梅雨が明けた。そこで、暑い夏の怪談をひとつ。
 地球の中心には、月の倍ほどの大きさの溶けた金属の球がある。その温度は4000度Cを超える。ほとんどが鉄で、ニッケルや珪素も含まれている。
 この溶けた金属の球の中には強い電流が流れている。このため電磁石としても働いている。
 それゆえ地球全体として巨大な磁石になっていて、地球の周りに磁場を作っている。オリエンテーリングや山歩きで磁気コンパスが使えたり、オーロラの美しさを楽しめるのも、溶けた金属の球が作っている電磁石のおかげである。
 だが、それだけではない、この磁場は宇宙空間から飛び込んでくる放射能を持つさまざまな宇宙線をさえぎるバリアを作っている。宇宙線は生物にさまざまな悪影響を与え、DNAを破壊する。
 磁場によるバリアの外側に行った人類は、強い宇宙線に曝(さら)される。
 かつて月に行った米国のアポロ計画に参加した宇宙飛行士が、心臓や血管の病気での死亡率が高いという研究結果が先週、発表された。
 これは、地球の磁気圏が保護してくれる領域を越えて、たとえ短時間でも、その外側に行ったために違いない。アポロ計画では1968-1972年に11回の有人宇宙飛行が行われた。
 調査はとても慎重に行われた。「訓練を受けたが地球を離れなかった宇宙飛行士」や、「国際宇宙ステーション(ISS)の乗組員のように低周回軌道内の、地球の近くにとどまった宇宙飛行士」と厳正に比較して4−5倍も高い死亡率だという。
 一般人との比較はしなかった。それは宇宙飛行士は高い教育水準と健康志向、さらに生涯にわたって利用できる医療ケアがあるからだ。それでもバリアの外側で宇宙線にさらされた乗組員は宇宙飛行士のなかでも、死亡率が高かったのだ。
 ISSは「宇宙」といっても、高度400キロほど。地球の半径のわずか16分の1にしかすぎない。つまり地球をかすめて、バリアの内側でだけ飛んでいるのである。ちなみに月までの距離は地球の半径の60倍ある。
 ところで、その地球の磁場が、近年、どんどん弱くなっていて、いずれゼロになることを私たち地球物理学者は知っている。
 もし、地球の磁場がなくなれば、アポロ計画に従事した宇宙飛行士だけではなく、全人類や、ほかの生物も大量の宇宙線を浴びることになるのだ。
 じつは地球の歴史では、このように磁場がゼロになり、その後地球の磁場が南北逆転したことが何十遍もあることが分かっている。いちばん最近には77万年前に起きた。
 溶けた金属の球の中で閉じられた電流が作っている電磁石が、なぜ、ときどき弱くなって逆転するのかは学問的にはいまだ解けていないナゾだ。
 だが、地磁気の逆転は起きる。測定が精度よくできるようになった19世紀以降、地磁気の強さはどんどん弱くなっている。そればかりではなく、近年は加速までして、ゼロに近づいているように見える。
 もしかしたらあと1000年あまりで、この「事件」が起きる起きるかもしれないのだ。
.. 2016年08月12日 08:45   No.1084001

++ 山崎久隆 (社長)…629回       
伊方原発再稼働に関連して
 |  規制委員会による「基準地震動算定」に大きな欠陥
 |  地震をめぐってどんな議論がされたか
 |  「東洋経済誌」が実にわかりやすく簡潔に報道
 └──── (たんぽぽ舎)

◎ 東洋経済オンラインに掲載された「大飯原発「基準地震動評価」が批
判されるワケ・島崎氏の指摘を規制委は否定したが…」は、いつも原発問
題に的確な記事を書いている岡田広行記者の、8月17日付け最新の記事だ。
   こちら
◎ 「関西電力・大飯原子力発電所の基準地震動(想定される最大の揺
れ)は過小評価されている。(きちんと計算すると、大地震の際には実際
の揺れが)現在の基準地震動を超えてしまうことは確かだ」
 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の批判は、たちまち大きな影響
となって広がった。これには規制委員会も無視し得なくなって「面談」
「試算」といった異例の対応を取らざるを得なくなる。しかし試算結果は
きわめて不十分なまま、いったんお蔵入りに。

●基準地震動算定に大きな欠陥

 島崎氏が提案した政府の地震調査研究推進本部・地震調査委員会の資料
に記載されている別の計算式(*竹村式のこと)を使った評価については、
「今まで使ったことがない」(櫻田道夫・原子力規制庁原子力規制部長)
ことを理由に、実施しない考えを示した。
 しかしこの計算式は従来の計算方法が大幅な過小評価になっていること
 を指摘する極めて重要なものだ。
 *武村式とは 武村雅之名古屋大学教授による地震動から断層運動のエ
ネルギー(Mo)を求める経験式。(日本列島における地殻内地震のスケ
ーリング則−地断層の影響および地震被害との関連−、地震2 Vol.51
(1998-1999)No.2P211-228)

 規制委員会と島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理とのやりとりはつ
とに有名になった。特に田中委員長は影響の払拭に躍起になり、まさしく
事業者を代弁する発言を繰り返した。しかし記事は地震動の専門家から重
要な発言を引き出している。
 「現在の原発の安全審査のやり方には課題がある。地震動の審査に際し
ては、自然現象(地震)や人間側の認識が内包する不確かさもきちんと考
慮して安全性を確保する必要がある。熊本地震での新しい知見も取り入れ、
より安全性を高める形で議論を進めるべきだ」(藤原広行・防災科学技術
研究所・社会防災システム研究部門長)
 熊本地震が島崎氏の指摘のきっかけになったのだが、「電力会社の手法
では過小評価になる」との発言は纐纈(こうけつ)一起・東大地震研究所教
授だ。「原発の耐震評価で用いられている地震動の予測手法を熊本地震に
適用すると、地震動は過小評価になることがわかった」と東洋経済誌の取
材に答えたという。
 「大地震が起こる前にいくら詳細な活断層調査を実施していたとしても、
震源断層の長さや幅を正確に推定することは困難なので、より正確に計算
できる別の予測手法を用いるべきだ」と纐纈氏は述べた。


.. 2016年08月22日 08:02   No.1084002
++ 山崎久隆 (社長)…630回       
● 不確かさの読み方

 藤原広行氏は「入倉・三宅式そのものは、これまでに起きた数多くの活
断層型の地震のデータに対して、一本の線を引いた回帰式にほかならない。
その背後には、平均値に対して大きなばらつき(不確かさ)が存在してい
る。その不確かさが原発の審査の際にきちんと考慮されているかどうかが
重要だ」。
 私たちが規制委員会との交渉で問題としたのはまさしくこの点であり、
 地震の研究者の多くは同意見だ。それを明確に示した記事に拍手を送り
たい。
 最後に長沢啓行・大阪府立大名誉教授が登場し、どうして計算式を変え、
新しい知見で原発の耐震性を再検証しないのかを明らかにしている。
 「政府の地震調査研究推進本部が使っているもう一つの予測手法(レシ
ピ)で再計算したほうがより正確である一方、計算された地震動は関電が
設定した現在の基準地震動の1.5〜1.6倍程度になる。
 しかし、そうなると、大飯原発3・4号機では2012年3月のストレステ
スト(耐震余裕度テスト)で算出された炉心溶融につながる『クリフエッ
ジ』(限界点)を超えてしまうので、原発は再稼働できなくなる。ほかの
原発も再稼働が困難になる可能性が高い。だから、(今まで原発の審査で
実績がないなどとの理由で)推進本部が用いている手法による再計算を拒
んだのではないか」

● 記事の最後の文章に一つの光が見える

 「とはいえ、事態は前に動き始めている。原子力規制委によって島崎氏
が持ち掛けた論争はいったん幕引きとなったが、原子力規制庁の事務レベ
ルでは、「熊本地震の知見を踏まえると審査のやり方の再検討は不可避」
との見方が広がり始めている。」
 「いみじくも島崎氏は、「科学的事実をいかに反映させるかは、審査に
たずさわる人たちの判断や見識による」と語っている。地震動評価のあり
方をめぐる議論は、遠くない時期に再開される可能性が高い。」

 このとおりになるのなら、結論は一つ、原発に十分な耐震性はないとの
結論になるはず。その前に伊方3号機や川内原発が地震で崩壊しないこと
を願うしかないのだとしたらあまりに私たちには能が無い。
 せっかく鹿児島県知事が代わり、三反園訓氏が川内原発の停止に向けて
動きだそうとしている。
 伊方原発も川内原発も止めるためにもうひとがんばりしよう。



.. 2016年08月22日 08:09   No.1084003
++ 島村英紀 (部長)…189回       
文明を断絶させた大噴火
| 日本でもこの種のカルデラ噴火は、過去10遍以上も起きている
| 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」コラムその163
 └──── (地震学者)
                     
 6世紀の中世ヨーロッパに「暗黒時代」と呼ばれる時代があった。社会的な衰退と混乱が長く続いた時代だった。現在までの過去2000年間で最も寒い10年間だったのが影響したと思われている。
 これが、地球の反対側にある火山の噴火に起因するものだという発表が行われた。この春、オーストリア・ウィーンで開かれた欧州地球物理学会。会議は欧州各地で持ち回りで開かれるもので私も会員になっている。
 このとき「謎の雲」が欧州の空を覆った。当時ローマにいた歴史家プロコピウスが次のように書き残している。「その年中ずっと、太陽が発する光に明るさはなく、月のようだった。終わらない日食のようだ」。
 欧州の平均気温が2℃下がり、農耕に壊滅的な影響を与え、欧州の大半とその隣接地域に大規模な食糧不足をもたらした。北欧の木には、この数年間だけ木の成長が悪くて年輪の間隔がつまっていることも明らかになった。
 これは「カルデラ噴火」という大規模な火山噴火が起きて、日光をさえぎる硫黄の粒子が成層圏に充満し、突然気温が低下したことによるものだった。この硫黄粒子は世界中に降ってきて、グリーンランドや南極の氷河の下からも発見された。
 発表では、この噴火は2回あったという。だが北半球のどこかと熱帯地方のどこかとしか言及されていない。だが、ほぼ間違いなくインドネシアのクラカタウ火山とメキシコのエルチチョン火山ではないかと考えられている。

 クラカタウ火山の地元であるジャワ島西部にはカラタンと呼ばれた高度の文明が栄えていたが、この噴火で姿を消してしまった。またエルチチョン火山の噴火でマヤ文明も崩壊したと言われている。
 クラカタウ火山は近年にも大噴火している。1883年に起きたカルデラ噴火は海面近くで大噴火したので大津波を発生し、地元での死者は36000人にも達した。2004年に起きたスマトラ沖地震までは世界最大の津波被害だった。
 この噴火のときにも世界の気候が変わってしまった。舞い上がった火山灰は世界の気候を変えた。

 ノルウェーの有名な画家ムンクの「叫び」の絵の背景には異様な色の夕焼けが描かれている。1883年に起きた噴火による世界的な気候変動で引き起こされたノルウェーでの異様な夕焼けを描いたのでは、という学説がある。

 他人事ではない。日本でもこの種のカルデラ噴火は、過去10遍以上も起きている。いちばん近年のものは7300年前の鬼界カルデラの噴火だった。この噴火は鹿児島市の南約100キロの九州南方で起きた。
 このときの噴火で放出されたマグマは東京ドーム10万杯分にもなった。
 この鬼界カルデラの噴火で九州を中心に西日本で先史時代から縄文初期の文明が絶えてしまったと考えられている。縄文初期の遺跡や遺物が東北日本だけに集中しているのはこのカルデラ噴火のせいだと考えられているのである。
 火山の大噴火はたびたび文明の断絶を引き起こしているのだ。

.. 2016年08月22日 08:58   No.1084004
++ 島村英紀 (部長)…190回       
氷の世界で繰り広げられる不思議
 |  時間を決められない場所
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その164
 └────  (地震学者)

 オリンピックも終わり、暑い夏も、もう少しになった。そこで涼しい話題を。
 世界で、その場所の時間を決めているのは太陽が昇ったり沈んだりする時間だ。日本だと、ちょうど東経135度にある兵庫県明石市が時間の基準になっている。

 だが、こうやって時間を決められない場所が地球には二カ所ある。ともに、一年中氷に閉ざされている世界だ。
 わかるだろうか。北極点と南極点である。夏になれば一日陽は沈まないし、冬は一日中真っ暗だ。地球上のほかの地点のように、太陽が東から昇って西に沈むことはないのだ。

 北極点は人が住んでいないからどうでもいいようなものだが、南極点には南極基地がある。ここには夏は200人以上、冬を通して越冬する隊員が100人以上も滞在している。
 ここで時間がないのは不便だ。だから、人工的に時間を決めている。
 それは「ニュージーランド時間」なのである。日本時間より夏は4時間、その他の季節は3時間進んでいる。

 これは南極点基地を持つ米国が、ニュージーランドに補給本部を置いているせいだ。南極大陸のあちこちにある米国の基地に飛行機で補給するには、同じ時計でないと不便だからである。このために巨大なスキーを履いた特殊な輸送機が使われている。

 北極点では、真夏の7月でも約0度Cだが、南極点では、真夏の1月にも約マイナス30度Cと、ずっと寒い。これは冬でも同じで、北極点では1月は約マイナス30度Cだが、南極点では7月にはマイナス70度Cの世界にもなってしまう。これは北極点が海に囲まれているのに対して、南極点は南極大陸の真ん中にあって標高も高いせいだ。

 ところで、あまり知られていないことだが、真っ暗な日が続く長さは、南極点の方が長い。南極点の183日間に対して、北極点は176日と、一週間も違うのである。
 この理由はちょっとむつかしい。地球が太陽のまわりを回っている公転のせいなのである。地球が太陽にもっとも近づくのが1月、もっとも遠くなるのが7月で、公転の速さが、1月のほうが7月よりも速いからなのである。
 南極点には訪問者が記念撮影をするための立派な碑があり、各国の旗がはためいている。日本の政治家も何人か行って記念写真を撮った。

 だが、ほんとうの南極点には、貧弱な柱が、200メートルほど離れたところにポツンと立っているだけなのである。
 この柱は、毎年立て直されている。これは南極点の基地が年々10メートルずつ動いているからだ。南極点が2800メートルの厚さの氷の上にあって、その氷はゆっくり動いている。
 もちろん、南極基地も一緒に流されていっている。だが、日本付近のプレートが動いている速さの100倍以上とはいえ、上で暮らしている人間には感じられない速度なのである。


.. 2016年09月01日 08:59   No.1084005
++ 島村英紀 (部長)…191回       
.「中世以来」イタリア中部地震の警告
 |  直下型は長い時を置いて起きる場合も」
 |  「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その165
 └────  (地震学者)

 先週の半ばに起きたイタリア中部の地震は約300名の人命を奪った。しかし、まだ瓦礫に埋もれている犠牲者は多いと思われている。中世の美しい街がいくつも消えてしまった。
 震源は首都ローマの北東100キロメートルあまりのところで、マグニチュード(M)は6.2。震源はごく浅い直下型地震だった。
 一般には地震が少ないヨーロッパだが、イタリアやギリシャなど南東部だけは別だ。これはアフリカプレートとユーラシアプレートが押し合っているために、地下に地震のエネルギーが溜まるせいだ。
 げんに7年前の2009年には今回の地震から50キロ南東に離れたラクイラで、やはり直下型地震(M6.3)が起きて309人の犠牲者を生んだことがある。
 このラクイラ地震の前には前震があり、騒ぎになっていた。来るべき大地震を否定した学者たちが「地震予知」裁判にかかった地震である。だが、今回は不意打ちだった。

 今回の地震で大きな被害の出たいくつかの町はイタリアの脊梁山脈の山間にあり、中世以来の石造りの建物が残っているので観光客も多く集まるところだった。町には、この建物はいつ建てられたというプレートが誇らしげに掲げてあった。
 地震で崩壊してしまった建物は、骨のない石積みのもので、地震後は石ころの山になってしまって、元の家の形をとどめていない。これでは、鉄筋コンクリートや木造家屋のように、地震で閉じ込められても生存できる空間がまったくない。地震後に救出された人数が少ないことがそれを物語っている。
 大地震で歴史的な建物や遺跡が破壊されたことは、今回のイタリア中部の地震には限らない。
 やはり先週、ミャンマーで起きたM6.8の地震では同国の有名な観光地バガンで300以上の遺跡が崩壊してしまった。ここは11世紀から13世紀に王朝があったところで、数千の寺院や仏塔があるところだ。
 また、有名なものではイランのバムで2003年に起きたM6.6の地震がある。世界遺産だった要塞都市の遺跡「アルゲ・バム」がほとんど完全に破壊されてしまった。この遺跡は16-17世紀に作られた。なお、この地震では4万人以上の犠牲者を生んだ。

 ところで、イタリアの震源域で「中世以来」の建物が残っていたということは、この数百年は、このような大地震はなかったことを意味する。
 ここでも、1639年に多数の死者を出した地震が起きた。それ以来、大地震がなかったのだ。
 イタリア。ミャンマー。イラン。これらを襲った地震は、数百年ぶりの大きさだったということだ。つまり、直下型地震は海溝型地震とは違って、数百年、あるいはもっと長い時を置いて起きることがある。
 いや、日本でも他人事ではない、2005年に起きて大きな被害を生んだ福岡県西方沖地震(M7.0)は、日本史上、一度も地震がなかったところに起きた。

.. 2016年09月12日 10:49   No.1084006
++ 島村英紀 (部長)…192回       
日食が指し示す残酷な未来
 |  地球物理学者は残酷な未来を知っている
 |  地表温度は摂氏100度、海は沸き立つ…
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その166
 └────  (地球物理学者)

  日本人で知っている人はほとんどいないが、先週、太陽がリング状に
 輝く金環食があった。インド洋西部に浮かぶフランスの海外県レユニオ
 ン島のほか、中央・南アフリカ地域でのことだ。
  ちなみに、アフリカの金環食と日本の水害は、関係がないわけではな
 い。先週日本を襲った台風で高潮が警告されていたのは、月と太陽が地
 球から見て同じところにあるために、その双方の引力で大潮が起きるか
 らだった。
 
  金環食は、日本では2012年5月21日にあったのを憶えている人も多い
 だろう。
  当日の天気予報は悪かったが、首都圏でも辛うじて見えた。このときの
 金環食は日本列島の南側、九州南部、四国南部、近畿南部、中部南部、
 関東で見えた。東京で5分間、京都では1分間のショーだった。東京では
 173年ぶり、江戸時代以来の金環食だった。日本のほかの地域では部分日
 食だった。
 日本では、2012年のその日だけのために「日食グラス」が300万個も売れ
 たという。
 
 日本で次に金環食が見られるのは2030年6月1日で、それも北海道の一部
 だけである。
  日食には二つの種類がある。太陽が全部隠れてしまう「皆既(かいき)日
 食」と太陽がリング状に輝く「金環食」だ。
  日食が皆既日食だったり金環食だったりするのは、月が地球のまわりを公
 転しているのが楕円軌道なので、地球からの距離が微妙に揺れ動いているか
 らだ。月が地球から遠ければ月は太陽よりもわずかに小さくなって金環食、
 近ければ皆既日食になる。
  月の大きさは太陽の約400分の1、そして、地球から月までの距離も、
 太陽までのちょうど400分の1になっている。400という数が一致している
 理由は分かっていない。まったくの偶然の産物だと思われている。
  じつは、月はもともとずっと地球に近かった。
  いまから45億年前、地球が生まれてまもなくには、月はずっと近くて大き
 さはいまの1.5倍もあった。
  月は毎年約3センチずつ地球から遠ざかっている。それゆえ月までの距離が
 太陽までのちょうど400分の1になっているのは、いまだけなのだ。人類はた
 またま、この時期に地球上に生きているわけなのである。
  月がしだいに遠ざかっているために、日食はやがて金環食だけになり、それ
 も、輝くリングの幅がどんどん大きくなっていって、いまよりも、眩しい金環
 食になることは間違いがない。
  いや、ただ眩しいだけではない。太陽の輝きは1億年ごとに1パーセントず
 つ光度が増えていっているのだ。太陽はますます明るく、大きくなっている。
  だから10億年もしないうちに、地表の温度は摂氏100度にもなってしまう。
 これは地球科学の冷徹な計算結果なのだ。海は沸き立ち、私たち地球上に生物
 が住む環境は失われる。
 地球物理学者は残酷な未来を知っているのである。


.. 2016年09月16日 11:03   No.1084007
++ 今井孝司 (小学校低学年)…5回       
.「審査は慎重であっても基準が甘い」
 |  こういう形での安易な再稼働は僕は認めたくない
 |  8/26NHK番組「どこに向かう 日本の原子力政策」
 |  文字起こしサイトの紹介
 └──── (地震がよくわかる会)

 NHK番組「解説スタジアム」において、「どこに向かう 日本の
 原子力政策」というテーマで行われた討論番組(8月26日放送)が
 話題となっています。
 たんぽぽ舎のH・Pでも2回紹介されています。
 ○新着情報 2016.8.31NHKの生番組で解説委員が反乱!?
  7人の委員のうち6人が政府の原発政策を徹底批判する快挙!
 ○新着情報 2016.9.9必見のNHK番組「解説スタジアム2016.8.26」
  NHK解説委員6人が、原子力政策について問題提起!

 1時間弱の放送内容を文字起こしをした方がいらしたので、紹介
 したいと思います。
 タイトル:1.原発再稼働〜避難計画「どこに向かう 日本の原子力政策」
        NHK解説スタジアム
      8/26(文字起こし)「どこに向かう 日本の原子力政策」
   発信者:「ブログみんな楽しくHappyがいい」さん
 URLアドレス:こちら
 その発言の中味を1件だけ抜粋します。
<抜粋開始>
●板垣(財政・金融・エネルギー担当)
 そうですよね、先ほどね、関口さんの方から「規制委員会は慎重に審査
をしている」というんですが、「審査は慎重であっても基準が甘い」とい
うところが私は問題点だと思うんですね。例えばアメリカの基準の中には
「避難計画」はちゃんと入っています。で、日本は「避難計画」は自治体
に丸投げ。「こんな甘い基準はない」と私は考えているわけですね。です
からこういう形での安易な再稼働は、僕は認めたくないと思っています。
 それから、再生可能エネルギーだとか、水素エネルギーを使った代替エ
ネルギーがもう最近はだいぶ出てきています。より安全なエネルギーを目
指すというのは先進国の役割だと思うんですよね。
 ですから、アメリカなんかを見ると、基準はテロ対策は相当厳しいし、
地震の多い西海岸には努めて設置しないようにしている。それから日本を
見れば、地震・津波・火山の原発リスク3原則、三大要点と私はいうんで
すけれども、それが揃っている日本が、やっぱり原発に多くを依存するに
は問題だと思うわけですね。
<抜粋終了>

◎ 他の解説委員も、国の政策、原子力規制委員会の審査のやり方につい
 て、かなり批判的にとりあげています。生放送なので、各解説員の発言
 時間1分という制約があり、端的な結論から言うため、NHKとしては
 画期的な番組が出来たのかもしれません。
◎ あと、以上のたんぽぽ舎H・Pの2件と文字起こしの件、計3件につ
 いて、地震がよくわかる会のHP( こちら )からもアク
 セス(【特集】コーナーの先頭の「NHK生番組で解説員6人が原発政策
 を批判」をクリック)できるようにしましたので、そちらも参考にして
 ください。



.. 2016年09月20日 08:16   No.1084008
++ 島村英紀 (部長)…193回       
あてにならない”余震予知”
 |  熊本地震で余震の見通しの発表方式を変えた気象庁
| 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」コラムその167 
 └────  (地震学者)

 余震とは、怪我をしたあとの疼(うず)きのようなものだ。本震の震源の拡がりの中で、小さめの地震が続くのが余震だ。
しかし、「余」震だと油断してはいけない。本震で弱った建物が余震で崩壊してしまうこともある。
 一般的には、震源が浅いと余震が多い。震源が深いときは余震は少ないか、ほとんどない。
 たとえば日本で起きた被害地震のなかで震源がもっとも深かったのは奈良県で起きた吉野地震(1952年)で、震源の深さは70キロだった。この地震はマグニチュード(M)7クラスだったのに余震は 4回だけだった。
 ところで、この一般論以外には、本震が起きたあとに、どんな大きさの余震がどのくらい続くかは、いまだに学問的には解明できていない。
 ところが気象庁は従来から余震発生確率を地震発生の翌日から数字を公表してきていた。たとえば新潟県中越地震(2004年、M6.8)のときは、気象庁は「3日以内の最大震度5強以上の確率は10%」と発表していた。
 しかしこの予測を上回る震度6強という強い余震が3回もあった。気象庁の余震予測は300%も違ったと言われたものだ。
 この4月からの熊本地震では、中越地震よりもさらに多い余震が続いている。8月になってからも、震度4や3の揺れが繰り返されている。
 この熊本地震や中越地震は余震が特に多い地震だ。中越地震のときには、地震断層がひとつではなくて複雑だったし、熊本地震では日本を横断する大断層、中央構造線の上で起きた地震のためだ。
 他方、阪神淡路大震災(1995年)では、単発の直下型地震だったので、Mは熊本地震の最大地震と同じ7.3だったのに、1、2ヶ月でおさまってしまった。
 この熊本地震を受けて、気象庁は、大地震直後に発表していた余震の見通しの発表方式を大幅に変えた。従来は余震発生確率を大地震から1日ほど後に公表していたが、今後は1週間後をめどにするという。
 いままで気象庁が発表してきた余震の見通しの予想が外れることは多かった。気象庁が発表していたのは、たんに平均的な経験例にもとづいているだけだったのだ。また、あとで言質を取られない用心をしながら、余震に対する一般的な注意を呼びかけているだけだったので、気象庁が発表する余震の見通しはあてにはならないことが多かった。
 そのうえ、「3日以内の最大震度5強以上の確率は10%」といった発表は、安心情報とも受けとられかねない問題もあった。学問的にはあてにならない従来型の発表をやめたのは当然だろう。
 しかし、気象庁の新しい方式、大地震の1週間後になって初めて「ふだんよりも地震活動が50倍活発な状態」などと発表されても、人々はどうしたらいいか分かるまい。気の抜けたビールのようなものなのではないのだろうか。

.. 2016年09月20日 10:24   No.1084009
++ 島村英紀 (部長)…194回       
富山県で続く不気味な群発地震 ダム地震? 火山性地震?
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその168
 └──── (地震学者)

 富山市議会では政務活動費の不正請求問題で10人の市議が辞職して大騒ぎになっている。一方、富山県の地下でも不思議な事件が起きている。
 それは8月の末から頻発している群発地震だ。
 どれも小さな地震で、最大のマグニチュード(M)は約2。近くでないと身体には感じない大きさだ。
 地震活動は9月12日以降にはさらに活発化し、地震の総数はすでに400回を超えた。発生回数は19日までの1週間で200回以上が起きた。そのうえ、地震の規模が徐々に大きくなっているのが不気味である。
 富山県はもともと地震が少ない県だ。過去に県内で震度6以上を観測したのは、400人以上の死者を生んだ1858(安政2)年の「飛越地震」までさかのぼる。それだけに、この群発地震は地元の不安をかき立てている。
 地震が起きた場所は富山県の山中で、関西電力の黒部ダム(黒四ダム)から北に8キロほど離れた狭い地域に集中している。震源の深さはごく浅い。
 黒部ダムは1963年に完成した。堰堤の高さが186 メートルある日本でもっとも高いダムで、ダムで作られた人造湖、黒部湖の総貯水量は約2億トンにもなる。
 この黒部ダムは深い山中にあり、大変な難工事の末に作られた。作業員は延べ1,000万人を超え、工事期間中の殉職者は171人にも達した。総工費は建設当時の費用で513億円。これは当時の関西電力資本金の5倍だった。
 ところで、ダムが地震を起こした例は世界各地にある。高さ100メートルを超えるダムで起きた例が多い。
 なかには被害地震も起きた。1967年にインド西部でM6.3の地震が起きて一説には2,000人もが犠牲になった。コイナダムという巨大なダムが引き起こした地震だと思われている。
 エジプトでは貯水が始まって20年もたってから地震が起きた。3000年以上の歴史で、このあたりに地震が起きたことはなかった。
 ダムが地震を起こすのは、ダムに貯められた水が地下にしみ込んでいって地震の引き金を引くこと、大量の水の重さによる地殻の歪みのせいだと思われている。
 起きた地震の震源がダムの底より深いこともある。これは、水が岩盤の割れ目を伝わって深いところにまで達して、そこで地震の引き金を引いたのではないかと考えられている。あるいは、長い列車の後ろを押すと、いちばん前までの全体が動くように、水の圧力が深くまで伝わったせいかもしれない。
 じつは、今回の富山県の群発地震は活火山、弥陀ケ原(みだがはら)からも遠くない場所でもある。震源は弥陀ヶ原から北東に約10キロしか離れていない。
 弥陀ケ原の別名は立山火山という。ここは気象庁の「噴火予報」の対象になっている活火山だ。だが「噴火警報レベル」はまだ導入していない。
 さて、この群発地震がどう推移するのか、ダム地震なのか、火山性地震なのか、地球物理学者たちは固唾をのんで見守っているのである。

.. 2016年10月03日 09:06   No.1084010


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