返信


■--不意をつく
++ 島村英紀 (部長)…180回          

「津波地震」の恐怖
 |  甚大な被害だった明治三陸地震
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその157
 └──── (地震学者)

地震で大きく揺れて震源が海底ならば、誰でも津波を警戒する。
 しかし、地震の揺れがそれほど大きくなかったのに、大津波が襲ってきたことがある。明治三陸地震だ。被害は甚大だった。
 地震が起きたのは1896年6月15日。今年でちょうど120年になる。震源は三陸沖だったのに、陸上での震度は秋田県で4だったほかは、三陸沿岸を含めて軒並み3以下だった。
 だが小一時間後に、最大高さ38メートルにも及ぶ大津波が三陸沿岸を襲って来たのだ。
 地震が起きたのが午後7時半ごろだったから、あたりは暗くなっていた。このため、東日本大震災(2011年)よりも多い22000人もの死者・行方不明者を生んでしまった。家屋の流出は約1万軒、船舶の流失は約7000隻にも及んだ。
 この明治三陸地震は、特別な地震、「津波地震」だったことが近年の地震学から分かった。「津波地震」は揺れがそれほど大きくないのに大津波が襲って来る地震で、明治三陸地震は典型的なものだった。
 地震が起きたときに震源から出てくる地震波の周波数には高いものも低いものもある。普通は高い周波数も低い周波数も出て、地震の規模(マグニチュード)が大きいと、両方とも大きくなる。
 ところが、明治三陸地震は、高い周波数が意外に少なくて、低い周波数が図抜けて大きかった。
 高い周波数とは1秒に数サイクル以上動くもので、家を倒壊させるなど震害を引き起こし、人々にも恐怖を感じさせる。
 一方、1サイクル動くのに数秒もかかる低い周波数は、震害は起こさないし、人々もほとんど地震だと分からない。だが、大きな津波を引き起こすのである。
 東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震では、この二種類の地震波が、どちらもとても強く出た。このため、陸上でも宮城県で震度7を記録したところも出たし、20000人近い死者行方不明者を出してしまった大津波も生んだ。
 最近の研究では、東北地方太平洋沖地震の二種類の地震波は、数十秒という時間差を置いて起きたことや、地震波を強く出した領域がちがっていることが分かっている。
 しかし、明治三陸地震は、東北地方太平洋沖地震から出た地震波のうちの片方の地震波しか出さなかった特異な大地震だった。
 明治三陸地震も、東北地方太平洋沖地震も、ともに巨大な海溝型地震である。太平洋プレートが押してくることによって起きる。だが、どういう条件のときに「津波地震」が起き、どういうときに東北地方太平洋沖地震のような大地震が起きるのかは、まだ分かっていないのだ。

.. 2016年07月05日 08:12   No.1071001

++ 島村英紀 (部長)…181回       
地球物理学から見た地震と原発
 |  日本列島に住み着いた私たちに熊本地震は問いかける
 └────  武蔵野学院大学特任教授(地震学)

  熊本県を中心に地震が頻発している。いままでに震度7を2回記録したのをはじめ、有感地震(身体に感じる地震)だけでも、すでに1700回を超えて、異例の多さになっている。

◎どこでも起きる可能性

  日本で起きる地震には「海溝型地震」と「内陸直下型地震」の二種類がある。前者はプレートとプレートの境で起きるもので、2011年に起きた東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)がこの種の地震だ。主に日本の太平洋岸の沖で起きる。
 一方、内陸直下型地震はプレートが押してくることによって日本列島がねじれたり、ゆがんだりする。その歪み(ひずみ)がたまって、地下のどこかで岩が我慢できる限界を超えてしまったら起きる地震だ。こちらは日本列島の「どこでも」起きる可能性がある。げんに、内陸直下型地震は、この数十年だけをとっても、日本各地で起きてきている。

◎熊本地震は内陸直下型

  今回の地震は典型的な内陸直下型地震だが、もうひとつの特徴がある。それは、この地震は日本最長の断層帯である「中央構造線」が起こした地震だったことだ。中央構造線は、長野県から西へ延びて紀伊半島を横切り、四国の北をかすめ、大分から鹿児島まで九州を横断する長さ1000キロもある大断層だ。地質学的な研究から、この大断層は過去に数百回以上も地震を起こしてきたことが分かっている。
 この大断層に沿って地震の「候補」が並んでいる。熊本で大地震が起きたことによって、その部分の地震エネルギーが解放された。大地震が起きたことは、隣の地震との間の「留め金」が外れたことを意味する。もし隣の地震の「候補」が、いまにも地震を起こすだけのエネルギーを貯めていれば、支えを失って連鎖的に地震が起きる可能性がある。
 熊本の地震の次に阿蘇山の下で地震が起き、さらに大分でも地震が起きた。また、熊本県の西南方にある八代市でも地震が続いたのは、こういった理由だろう。もし東に行けば、次は愛媛沖、もし西南に広がれば鹿児島県に入る。ともに原発があるところだから、地球物理学者としては気が気ではない。

◎想定外だった加速度の大きさ

  内陸直下型地震は、地震としての規模(マグニチュード)は海溝型地震よりも小さいが、人が住んでいる直下で起きるので揺れは大きく、それゆえ被害も大きい。阪神淡路大震災(1995年)は東北地方太平洋沖地震の約1/350のエネルギーしかなかったが、6400人を超える犠牲者を生んでしまった。
 直下型地震の特徴は地面の加速度が大きいことだ。地震のときに、建物や橋などにかかる力は、そのものの重さに「加速度」をかけたものになる。加速度が大きいほど、そのものに大きな力がかかることになる。
 今回の益城町での加速度も1580ガルを記録した。近年、日本各地に起きた内陸直下型地震では、大きいものは4000ガルを超えた。新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発が2007年の中越沖地震で停止してしまったときは、原発の構内にある地震計が記録した加速度は1500ガルにも達していた。
 じつは、各地の原子力発電所は、ここまでの加速度を想定していない。いままでの設計基準やその見直しでもせいぜい500〜650ガルなので、それを超える地震の加速度に襲われたとき、いったい何が起きるのかは心配なことなのである。


.. 2016年07月06日 08:19   No.1071002
++ 島村英紀 (部長)…182回       
◎巨大地震を契機に高まるリスク

  日本には火山も多い。プレートの動きによって、岩が我慢できる限界を超えると起きるのが地震、そしてプレートがある深さのところまで潜り込んだところで溶けてマグマが作られ、それが上がってきて起こすのが火山噴火だ。地震はプレートの動きの直接の反映、火山は間接的な反映になる。
 日本には活火山だけでも110もある。日本にあるすべての原発から160キロ以内に活火山がある。 ところで、19世紀までの日本では、各世紀に4回以上の「大噴火」が起きていた。「大噴火」とは東京ドームの250杯分、3億立方メートル以上の火山灰や噴石や熔岩が出てきた噴火をいう。2014年に起きた御嶽山の噴火よりも500倍以上も大きな噴火だ。この「大噴火」は、最近の100年は火山活動は異常に少なかった。
 しかし、これらが東北地方太平洋沖地震という巨大地震をきっかけに「普通」に戻りつつある。この東北地方太平洋沖地震は地下にある基盤岩全体を動かしてしまったためである。この地震は日本全体を載せたまま地下の基盤岩を東南方向に大きく動かした。
 この変動は広く日本列島全体に及んでいる。このために日本各地に生まれたひずみが、それぞれの場所での地震や噴火のリスクを高めている。この東北地方太平洋沖地震は、これから数年、あるいは数十年かかって、じわじわ影響が出てくるであろう。

◎日本で原発を持つのは無謀

  自然現象としての地震や噴火は昔から起きてきている。これらが起きても、人が住んでいなければ災害は起きない。自然現象と社会の交点で災害が起きる。しかも文明が進むたびに災害が大きくなる。歴史を振り返ると、対策は被害をいつも追いかけてきた。
 とても危ないところに、知らないで住み着いてしまったのが私たちたち日本人なのである。一方で、四季がはっきりした気候も、農業も、温泉もみんなプレートの恩恵である。ほとんど掘り尽くしてしまったが、かつての日本を支えた鉱産物もプレートのおかげでできたものだ。
 日本列島に住み着いた私たちは、恩恵を十分受ける一方で、災害も受け入れざるを得ない。災害があり得るということを普段から考えていることが、何より大事なことだ。 こういうことを知っている地球物理学者としては、日本で原発を持つのは無謀であると言わざるをえない。
 たとえば約一万年に一度は「大規模噴火」よりもさらに、3桁以上も規模が大きい「カルデラ噴火」があり、日常的にプレートが動いている日本のようなところで原発を持ち、数万年にわたって放射性廃棄物を管理しなければならないことは無謀な試みといわざるを得ないからである。
 いままでの100年ほどは、日本の火山活動も、首都圏の地震も「異常に」少なかった。しかし、これらは地球物理学者から見ると「普通」に戻りつつある。私たち日本人は、もちろん火山やプレート活動の恩恵を受けている。
 しかし同時に、地震国・火山国に住む覚悟と自覚を持っているべきであろう。(2016・5・31記)

出典:「世界へ未来へ 9条連ニュース」2016年6月20日 No258より
   「9条連」編集部の許可を得て転載。



.. 2016年07月06日 08:25   No.1071003
++ 島村英紀 (部長)…183回       
人の手が新たな地震を生み出しているのか 
 |  二酸化炭素を地下に圧入する実験
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその158
 └──── (地震学者)

 この4月から、北海道苫小牧(とまこまい)市の沖で実証実験「CCS」が始まっている。二酸化炭素を地下に圧入する実験である。
 二酸化炭素ガスは地球温暖化の元凶とされている。このガスを減らすため、工業活動から出る二酸化炭素を深さ1000メートルを超える海底下に封じ込めるための実験だ。
 100-200気圧といった高い圧力で圧入された二酸化炭素は、年月がたつと水に溶け込んだり、周囲の岩石と結び付くなどして安定化するとされている。
 この実験は日本では二度目のものだ。最初のものは2003年から1年半ほど、新潟県長岡市の天然ガス田で実施した。圧入したのは合計約1万トンだった。
 長岡で圧入された深さは1,100メートルだった。液体を通さない層(キャップロック)が傘のような形をしていて、その頂上部の内側に圧入した。傘は学問的には「背斜(はいしゃ)構造」という。地層としては、ずっと深いところまで連続している。
 苫小牧での実験はずっと大規模なものだ。年10万トン以上で、能力的には年20万トンまで可能という。長岡での実験よりも1桁以上多い。
 しかし、人間が地球に何かをすることが、世界各地で地震を引き起こしはじめている。
 地震学の教科書には、「米国では西岸のカリフォルニア州と北部のアラスカ州以外には地震は起きない」と書いてある。
 しかし情勢は変わった。2014年6月にはシェールガスの採掘がさかんな米国南部にあるオクラホマ州で起きた地震が全米一の地震回数になったのだ。このほか、米国の東部やカナダなど、地震がなかったところでも地震が起きだしている。
 これらはいずれも、深い穴を掘ってシェールガスの採掘を始めてから地震が起き出したものだと考えられている。シェールガスの採掘には水圧破砕法が使われる。化学薬品を含む液体に高圧をかけてを地中に圧入する手法だ。
 また、地震が起きなかったオランダでも天然ガスの採取によって地震が起きて騒ぎになっている。
 そのほか、世界各地のダムで、貯水後に、いままで起きていなかった地震が起きだしたことも知られている。1967年、インドでは死者200名弱を出した大地震が起きた。ダムの底から水がしみ込んでいって起こしたものだと思われている。
 じつは、長岡で二酸化炭素の圧入実験をした長岡ガス田は、後に起きた新潟県中越地震(2004年)の震央から約20キロ、新潟県中越沖地震(2007年)のときにも反対側にやはり20キロしか離れていないところだった。新潟県中越地震はマグニチュード(M)6.8で68名の死者を生み、中越沖地震もM6.8で死者15名だった。
 二酸化炭素を地下に圧入する実験は日本に限らず、米国、ノルウェーなど世界の14ヶ所で行われている。最終的には一ヶ所で年に80万〜100万トンを圧入する計画だ。
 日本に限らず世界のどこかで、被害を起こすような地震が起きなければいいのだが。


.. 2016年07月19日 08:58   No.1071004
++ 島村英紀 (部長)…184回       
巨大地震でダムは凶器と化す
 |  老朽化したダムの耐震性を再点検する必要
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその159
 └──── (地震学者)

  さる4月に起きた熊本地震で、山中にある水力発電所・黒川第1発電所(熊本県南阿蘇村)の貯水施設が壊れ、大量の水がふもとの集落に流出した。
 このため、集落では、少なくとも民家9戸が壊れ、2人が亡くなった。水は4月16日のマグニチュード(M)7.3の地震直後に流出し、推計で約1万トンにもなった。
 この問題で5月24日、発電所を運転する九州電力の熊本支社土木部門の技術部長ら幹部2人が、地元の新所(しんしょ)地区の区長の避難先を訪ねて謝罪した。同社が住民に謝罪するのは初めてだった。
  しかし九電は斜面が崩落して新所地区の2人が死亡したことと水の流出との因果関係は「調査中」としている。
 大量の水を湛えているダムが地震で崩壊したら、この熊本黒川第1発電所に限らず、大きな被害を引き起こすことがある。
 2011年の東日本大震災のときの福島県須賀川(すかがわ)市にある藤沼ダムの例がある。震災と原発事故の報道の陰に隠れてしまったが、地震直後にダムが決壊して大量の水が下流を襲った。
 濁流が家屋をのみ込んで7人が死亡、1歳の男児1人が行方不明になった。また家屋19棟が全壊・流失し、床上・床下浸水した家屋は55棟にのぼった。水だけではなく流木による破壊も激しかった。
  このダムは太平洋から内陸に約75キロ入ったところにある。ダムの高さは18メートル、幅は133メートルだったが、地震とともにダムが全幅にわたって決壊してしまったのだ。
  当時、ダムは田植えの時期をひかえてほとんど満水だった。このため約150万トンもの水が、多くの樹木を巻き込んだ鉄砲水となって下流の集落を襲った。ダムの下流約500メートルのところにある滝地区でも高さ2メートルを超える泥水の痕跡が残った。
  しかも地震後約1時間後に襲ってきた東日本大震災の津波と違って、ダムの決壊による鉄砲水は、地震後すぐに襲ってくるものだから恐ろしい。
 ダムにも「設計基準」というものがある。1957年に制定され、以後、改訂が続いている。
  だが藤沼ダムは最初の制定前、1949年に完成した古いダムだった。灌漑(かんがい)に使う農業用水のためのもので、土を台形状に固めた「アースフィルダム」である。
 日本には農業用に作られた古いダムも多い。たとえば1854年に起きた巨大地震、安政南海地震でいまの香川県にあった満濃池(まんのういけ)が決壊した。これも高さ15メートルを超す大きなダムだった。安政南海地震は、恐れられている南海トラフ地震の先祖のひとつだ。
  水力発電所にも設計基準がある。通商産業省(現経済産業省)は、1965年に水力発電所の耐震性を定めた技術基準を作った。だが1914年から稼働している黒川第一発電所の貯水槽は、それ以前に作られていたために、適用外とされていた。
  老朽化したダムの耐震性を再点検する必要があろう。地震のときのダムは凶器になるのだ。

.. 2016年07月20日 08:20   No.1071005
++ 島村英紀 (部長)…185回       
あいまいな「地震予知」がもたらす悲劇
 |  イタリアで地震予知失敗の裁判
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその160
 └──── (地震学者)

◯ 2009年春、イタリアで地震予知に失敗した学者の裁判は、イタリアの最高裁でひっそりと終わっていた。昨年11月20日のことだ。最高裁は日本と同じく、法律や手続き上の間違いがなければ第二審を認めてしまうのが普通だからである。
 2014年11月の二審では、2012年10月の初級審の7人全員の有罪がひっくり返されて、学者は無罪、政府の防災庁幹部1人だけが執行猶予付きの禁錮刑になっていた。これが最高裁で確定していたのだ。

◯ イタリア中部ラクイラ。ここはふだんから月に数回の地震がある。大地震の前の半年間はさらに活発になった。大地震が来るという独自の地震予想を出す学者も現れた。地元の人々のなかに不安が拡がっていた。
 このため「国家市民保護局」は学者を含む「大災害委員会」を開き「大地震は来ない」という安全宣言を出した。じつは政府が人心を鎮めようという方針を委員会の前に決めていた。政府が学者に期待したのは科学者のお墨付きだけだったのである。

◯ 安全宣言が出されたので外に寝ていた人たちも家に帰った。しかし一週間後の4月6日午前3時半、マグニチュード(M)6.3の大地震が起きて309人が死亡してしまった。
 第二審での判決言い渡しのとき傍聴席にいた犠牲者の遺族らから「恥を知れ」との怒りの声が上がった。また、遺族らは「国家は裁かず、自らの保身に走った」「犠牲者は今回の判決で再び殺された」などと語った。

◯ イタリアの裁判は対岸の火事ではない。日本でも、国が安全を保証したのに大地震が起きたことがある。さる4月16日に熊本で起きた最大の地震の前がそうだった。4月14日の地震の後、気象庁や政府が「家に帰れ」と呼び掛けていたのだ。
 もっと大きな問題もある。いまは南海トラフ地震と一緒に起きると考えられている東海地震は「大震法」(大規模地震対策特別措置法)という法律が出来ていて、気象庁にある判定会(地震防災対策観測強化地域判定会)が「予知宣言」を出し、それによって新幹線も東名道路も、デパートやスーパーの営業も止めることになっている。
 この地震予知が可能かどうかは強く疑われているが、阪神淡路大震災が起きたあとも、また東日本大震災が起きたあとも、政府の公式見解は「東海地震だけは予知できる」というものだ。

◯ しかし、なにか前兆風のものが見つかって、いったん「宣言」が出されてから、すぐに大地震が来なかったらどうするのか、その方針は決まっていない。宣言を取り消せる科学的な根拠や方程式はなにもない。
 新幹線や東名道路が止まり、静岡県などが孤立した状態は経済的にも人心にも打撃が大きい。それを何日も続けるわけにはいくまい。
 こうして判定会の科学者や気象庁の委員が、迷いながらでも、渋々でも、「宣言の解除」を出す。
 しかしそのあとで大地震が襲ってきたら・・。イタリアとまったく同じことが起きるに違いない。


.. 2016年08月01日 09:45   No.1071006
++ 島村英紀 (部長)…186回       
緩やかな地点でも起きる岩屑なだれ
 |  各地の火山、崩れやすい構造
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその161
 └──── (地震学者)

 4月に起きた熊本の地震で、木が茂った斜面が、まるでめくれたようにはげ落ちてしまったところがある。熊本県南阿蘇村河陽(かわよう)の高野台団地を襲った土砂災害。5人が犠牲になった。
 この河陽の土砂災害がじつは「岩屑(がんせつ)なだれ」だったということが火山学者の調査から分かった。
 岩屑なだれとは火山地帯で発生する大規模な地滑りで、雪や氷がなだれるなだれと違って、噴石や火山灰が流れ下るものが岩屑なだれだ。いったん走り出すと時速100キロをこえる高速で駆け下る。とても逃げられない速さだ。
 崩れた斜面は傾斜角度が10度にも満たない緩斜面だが、600メートル近くも流れ下った。この角度では地震で崩れただけでは土砂が流れない。
 南阿蘇村は阿蘇山の西麓、西に約2−5キロのところに広がっている。河陽の岩屑なだれは、かつて阿蘇山から噴出した噴石や火山灰が降り積もっていたものが地震で一挙に崩れてしまった岩屑なだれだった。
 この地区では、約2100年前の弥生時代の遺構が岩屑なだれによって土砂に覆われて埋没していたことが分かっていた。つまり岩屑なだれが繰り返し起きてきたところなのだ。
 関東地方に広く拡がっている関東ローム層をはじめ、日本では火山からの噴出物に覆われている土地は多い。火山地帯は日本の至るところにある。桜島大根も、長野県や群馬県のレタスも、火山からの噴出物ゆえに育つものなのである。
 岩屑なだれが起きる可能性がある斜面は熊本には限らない。新しい噴火が引き起こすこともあれば、熊本のように地震が引き起こすこともある。緩斜面でも起きるのが恐ろしい。
 たとえば静岡県御殿場市は富士山頂から約20キロ東、標高約500メートルのところにある。なだらかな斜面の上に作られた町だが、この斜面は、富士山が岩屑なだれを起こして崩壊して作られた。
 この斜面が作られたのは約3000年前である。だが、そのときに富士山が噴火した証拠はない。つまり富士山の噴火ではなくて、地震によってこの岩屑なだれが起きたのではないかと考えられている。いままで富士山では、不確かなものも含めて12回も岩屑なだれが起きたことが知られている。
 箱根でも大規模な岩屑なだれが起きたことがある。約3500年前、大規模な岩屑なだれや火砕流が出て箱根の外輪山の内側を埋めつくした。いまは平坦で湿原やゴルフ場が広がっている仙石原(せんごくばら)を作り、川をせき止めて芦ノ湖も作った。この岩屑なだれは外輪山の西側にある長尾峠を越えて外輪山の外側にまで流れ出した。
 御殿場や仙石原の岩屑なだれは、富士山や箱根の周辺で起きたなかで最後のものだ。
 富士山西側の大沢崩れでは、いつも崩壊が続いている。このように、富士山をはじめ各地の火山ははとても崩れやすい構造なのだ。
 これからも、どこかが崩壊して、たとえ緩斜面でも岩屑なだれが駆け下る可能性がないとは決して言えないのである。

.. 2016年08月01日 11:31   No.1071007
++ 島村英紀 (部長)…187回       
地球に宇宙線が降り注ぐ日
 |  「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」コラムその162 
 └────  (地震学者)

 ようやく首都圏の梅雨が明けた。そこで、暑い夏の怪談をひとつ。
 地球の中心には、月の倍ほどの大きさの溶けた金属の球がある。その温度は4000度Cを超える。ほとんどが鉄で、ニッケルや珪素も含まれている。
 この溶けた金属の球の中には強い電流が流れている。このため電磁石としても働いている。
 それゆえ地球全体として巨大な磁石になっていて、地球の周りに磁場を作っている。オリエンテーリングや山歩きで磁気コンパスが使えたり、オーロラの美しさを楽しめるのも、溶けた金属の球が作っている電磁石のおかげである。
 だが、それだけではない、この磁場は宇宙空間から飛び込んでくる放射能を持つさまざまな宇宙線をさえぎるバリアを作っている。宇宙線は生物にさまざまな悪影響を与え、DNAを破壊する。
 磁場によるバリアの外側に行った人類は、強い宇宙線に曝(さら)される。
 かつて月に行った米国のアポロ計画に参加した宇宙飛行士が、心臓や血管の病気での死亡率が高いという研究結果が先週、発表された。
 これは、地球の磁気圏が保護してくれる領域を越えて、たとえ短時間でも、その外側に行ったために違いない。アポロ計画では1968-1972年に11回の有人宇宙飛行が行われた。
 調査はとても慎重に行われた。「訓練を受けたが地球を離れなかった宇宙飛行士」や、「国際宇宙ステーション(ISS)の乗組員のように低周回軌道内の、地球の近くにとどまった宇宙飛行士」と厳正に比較して4-5倍も高い死亡率だという。
 一般人との比較はしなかった。それは宇宙飛行士は高い教育水準と健康志向、さらに生涯にわたって利用できる医療ケアがあるからだ。それでもバリアの外側で宇宙線にさらされた乗組員は宇宙飛行士のなかでも、死亡率が高かったのだ。
 ISSは「宇宙」といっても、高度400キロほど。地球の半径のわずか16分の1にしかすぎない。つまり地球をかすめて、バリアの内側でだけ飛んでいるのである。ちなみに月までの距離は地球の半径の60倍ある。
 ところで、その地球の磁場が、近年、どんどん弱くなっていて、いずれゼロになることを私たち地球物理学者は知っている。
 もし、地球の磁場がなくなれば、アポロ計画に従事した宇宙飛行士だけではなく、全人類や、ほかの生物も大量の宇宙線を浴びることになるのだ。
 じつは地球の歴史では、このように磁場がゼロになり、その後地球の磁場が南北逆転したことが何十遍もあることが分かっている。いちばん最近には77万年前に起きた。
 溶けた金属の球の中で閉じられた電流が作っている電磁石が、なぜ、ときどき弱くなって逆転するのかは学問的にはいまだ解けていないナゾだ。
 だが、地磁気の逆転は起きる。測定が精度よくできるようになった19世紀以降、地磁気の強さはどんどん弱くなっている。そればかりではなく、近年は加速までして、ゼロに近づいているように見える。
 もしかしたらあと1000年あまりで、この「事件」が起きる起きるかもしれないのだ。


.. 2016年08月08日 09:30   No.1071008
++ 山崎久隆 (社長)…625回       
韓国の原発に耐震性問題が急浮上
 |  危険(地震の)が迫っていることを知り廃炉にすべき
 |  蔚山沖でマグニチュード5の地震
 └──── (たんぽぽ舎)

 7月5日に蔚山沖の日本海でマグニチュード5の地震が発生した。
 この地震は韓国で福島第一原発事故を思い起こさせると同時に、韓国の原発が抱える耐震問題への懸念へと広がっていった。
 ハンギョレ新聞が詳細にその背景を報じている。

◎韓国の原発は

  韓国の原発は日本の立地条件と似ている。海水冷却のシステムを持ち、海岸線に位置する。1つの発電所に何基も集中立地しており、1基の原発でひとたび過酷事故が起きれば発電所全体が危険にさらされる。このような立地上の問題は安全に対する考え方の重大な欠陥でもある。
 原発のほとんどは加圧水型軽水炉だが、一部はCANDU炉(カナダ型重水炉)を保有する。月城(ウォルソン)1〜4号機である。
 韓国には運転中の原発が25基ある。そのうちハンビッ原発(旧霊光ヨングァン原発)の6基は黄海に面しているが、後は全部日本海側に建っている。
 ハヌル原発(旧蔚珍ウルチン原発)が最も北側にあり、月城、古里(コリ)と続く。古里原発は大都市の釜山にほど近い。最も古い古里原発1号機は福島第一原発事故後に2017年6月で廃炉にすることが決まっている。
 原発の建設計画は新古里原発4号機が建設中で、6基の計画がある。いずれも既存の原発を増設するか、近郊に新設することになっており、集中立地がますますひどくなる。

◎地震報道に見える地震への恐怖感

  7月5日に発生した地震は、蔚山沖の日本海で午後8時33分頃だった。対馬でも震度2を観測している。
 地震の規模は韓国気象庁はマグニチュード(以下M)5、日本の気象庁はM4.9、米国地質調査所はM4.8としている。地震の規模としては小さい。深さ10kmと比較的浅く韓国全土で揺れを観測しているが、最も大きな揺れは蔚山で観測されたようで、改正メルカリ震度階で4という。おおむね日本の震度で3か4と思われる。(米国地質調査所データより)
 日本では、東京や東北、あるいは九州でも、このくらいの地震は日常的に起きているが、韓国では「観測史上5番目の強さ」(東亜日報7月7日付)とされることでも分かるとおり、地震が日常の日本とは事情がかなり異なることがわかる。
 そのため、地震直後に7900件を超える通報が関係機関に殺到し、停電も発生、釜山の80階建高層マンションからは非常階段を使って避難する住民もいたという。
  (朝鮮日報7月6日付)


.. 2016年08月10日 08:09   No.1071009
++ 山崎久隆 (社長)…626回       
◎韓国でもある「地震と原発」の問題

  震源から最も近い月城原発は直線距離で51km、南に位置する蔚山近郊の古里原発にも65kmと比較的近い地点で地震が起きている。
 これらは原発の集中立地地体で、月城には1〜4号機とすぐ近くには新月城1〜2号機の合わせて6基が運転中だ。古里原発にも1〜4号機と新古里1〜2号機の6基が運転中で、さらに3〜4号機が建設中、5〜6号機が計画中とされている。ちょうど日本での若狭湾の原発集中立地点と似ている。これだけ密集しているのは、経済効率を上げようとするためとされる。また、武力攻撃に対して集中しているほうが守りやすいと考えているのかも知れない。ただし自然災害などにはむしろ危険性を増す。
 韓国の耐震基準はあまり明らかではない。ハンギョレ新聞によると「環境運動連合エネルギー気候チームのヤンイ・ウォンヨン処長は「朝鮮半島で地震発生が最も多く活断層が最も多く分布した地域の原発の耐震設計基準がマグニチュード6.5〜6.9となっているが、最大予想地震規模の7.5は地震エネルギーでは20〜30倍になる」と批判されるレベルだ。
 「韓国水力原子力のチョ・ソクジン言論広報チーム長は「原子力発電所の耐震設計値は、原子炉直下10kmで地震が起きた時に耐えられる」としているようだから、直下地震の想定も日本と似てはいる。
 「古里原発はM6.5の地震に耐えられるように設計され、新古里原発はM6.9の地震に備えて設計されている。」としているのは疑問だ。これでは4倍もの違いがある。新知見で新古里原発をM6.9に上げたのならば、古里原発はそれに合わせるか廃炉にすべきだろう。


.. 2016年08月10日 08:22   No.1071010
++ 山崎久隆 (社長)…627回       
◎大地震が迫っているかもしれない

  朝鮮半島の過去の歴史地震記録は、日本語でも読める文献がある。
 「韓半島で発生した最大級の地震」(歴史地震第20号2005)では、朝鮮半島で発生した歴史地震について記載している。その中にはM7.5と推定される江原道の地震があり1681年6月26日に発生している。
 その推定震源からハヌル原発までわずか35kmしかない。韓国の歴史で最も大きな地震の至近距離に原発を集中立地しているのだ。さらに歴史地震で2番目のM7の慶尚道の地震(1643年7月24日)は、古里原発から約20km、月城原発から約30kmの内陸の地震だ。この地震についてはソウル大学ではM7.7と推定している。
 まるで選んだかのように震源域の近くに原発が集中立地している。
 これら歴史地震の大きさに比べ、原発の耐震性が高いとは到底思われない。
 日本の原発が脆弱なのとほとんどかわらないようだ。
 ハンギョレ新聞など韓国の新聞では、最近になって地震が増えてるという記事が見られる。
 韓国の歴史地震でも大きな地震が記録されている16世紀から17世紀にかけて、日本でも「慶長地震」と名の付く大地震が頻発した。まさしく大地動乱の時代だった。

 【慶長伊予地震(1596年9月1日)、慶長豊後地震(1596年9月4日)、慶長伏見地震(1596年9月5日)、慶長地震(1605年2月3日、南海トラフ巨大地震か伊豆小笠原海溝付近の地震)、慶長会津地震(1611年9月27日)、慶長三陸地震(1611年12月2日、三陸沖を震源として発生した地震か千島列島沿いのプレート境界地震)、慶長19年10月25日の地震(1614年11月26日全国的規模の被害だが震源不明)】
 その後も1703年元禄地震、1707年宝永地震と、100年後にも大地震が続いている。

  この巨大なエネルギーはもちろんプレートの移動によりもたらされた。主に日本列島を中心にエネルギーが解放され、巨大地震になっていった。
 しかし地盤はつながっている。巨大な歪は日本海の形も変え、さらに朝鮮半島沿岸部の断層帯にエネルギーを伝えていったと思われる。
 日本列島に甚大な被害をもたらした地殻変動の大きな力は、その後数十年をかけて地盤を伝わり朝鮮半島の断層を動かし、そこでも巨大地震を引き起こしたと考えても、あながち的外れとは言えまい。
 これら巨大地震に耐えられる設計ではないことは、新聞で語られる対策地震の規模を見ても分かる。歴史的にはM6や7に比べて30倍もの地震が襲来する恐れを否定できないのにあまりに脆弱なのだ。
 いまならば、まだ間に合うかも知れない。
 韓国の原発も日本に勝るとも劣らぬ危険が迫っていることを知り、
 廃炉にすべきである。


.. 2016年08月10日 08:48   No.1071011


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