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■--『イスラーム国の衝撃』感想
++ 多足          

この1,2年で随分大きなニュースに何度もなっているISIS、いわゆるイスラム国。イマイチどういう組織なのかイメージばっかり先行して判断しかねていたので、その専門書を買ってみました。池内恵著、『イスラーム国の衝撃』の感想です。
シリアやイラクでヒャッハーやってる、欧米人戦闘員が現地で捕えた外国人を処刑する映像をネットに配信する野蛮なゲリラ組織程度のイメージで、色々とよくわからんのです。そんな自分にとって、経歴、特徴、方向性など解説してくれる本書は実際たすかります。ニュース等で見聞きするイメージにより、過大評価してしまっているのか? それとも、実際に深刻なレベルの脅威として日本人にも関係してくるのか? それを判断するのは大事でしょうね。

さて、ISILの成り立ちですが… 今までも沢山のイスラム過激派組織が存在しているけど、ISILのように領域支配をし、国家を宣言するほどの規模の組織はそう無かったわけで、その点がISILの存在感を大きくしてるのではないでしょうか。米主導のイラク・フセイン政権の打倒や、アラブの春による各国の独裁政権の崩壊、シリア・アサド政権の弱体化。これらの結果中東に何が起こったかというと、ツイッター上でアラブの春を無血革命だなどと喜んでいた人達の幻想とは違い、空白地帯を生み出したわけです。空白地帯ってのはつまり、国家による治安維持が及んでいない無法地帯です。その空白地帯はまさに力こそ正義なヒャッハーな世界。過激派組織がそこに流れ込み、実効支配を行う。その範囲こそがISILの勢力圏となって、領域国家っぽくなったわけだ。これって1990年代アフガニスタンのタリバン政権誕生と似た流れがありますね。独裁者が居た頃の方が治安は良かったんでしょう。ただし、それは抑圧によるモノ。その不満はいずれ爆発するわけで、そのきっかけがアラブの春やNATO諸国の内政干渉だっただけの話。独裁者が居た方が良かった、ってのは端から見るとその通りなんでしょうね。蓋みたいなもんだから。蓋が開いて色んなものが周辺各国にまで広がって迷惑。でも、蓋の内側で何が起こっていたかが問題なわけで。ある意味、時間の問題でしか無かったかと。
.. 2015年05月08日 11:17   No.830001

++ 多足       
イラク、フセイン政権下でスンニ派が権益を得ていた。しかし米国に打倒され、シーア派主導の新政権が誕生。シーア派、スンニ派の融和が期待されたけどそうはならず、不満持ったスンニ派がISILに合流。実に分かり易い話ですね。

さて、ISILの特徴として物凄く目立つのが欧米人戦闘員の存在。なんせメディアでの露出が多いんで話題になり易い。イメージ的に、物凄い数の欧米人戦闘員が居るように感じますよね。しかし実際は割合から見ると外国人戦闘員の2〜3割だそうです、欧米人。ほとんどがアラブ系、というかイラク・シリアの周辺国だそうで。そりゃそうか。でもメディアで大きく報じられるから、実態より多く感じるわけで。これはISILの広報戦略の一つですね。欧米人戦闘員の存在を強調することで、世界中に対してISILを身近な脅威としての存在感を与えるわけです。巧くいってますね、この広報戦略は。

ISILに惹かれる欧米の若者、ってのがどういう層なのか?
自分の想像では、大学とかで勉強してきたけど、いざ社会に出ようとした時に巧く行かなかった若者、ってのが自分の存在価値を求めてISILに参加してるんじゃないかな、と。就活で弾かれ続けてると、自分の存在価値に疑問が出てくるもので、新興宗教なんかがそこに着け込むわけです。「新興宗教」だったらまだしも、イスラム教は歴史も信者数も全然違うからねえ。規制するわけにいかない。ただこの辺の話は、イスラム教自体を勉強しないと判らん話ですね。でまあ、実際にはこういう若者の不満のはけ口、という以上のものがあるようです。ジハードに関する話ですね。これ理解するには本当にイスラム教ちゃんと勉強しないといかんかな。ISILの組織ってのはイスラム学的な正当性を強く意識してるそうなので、ちょっと馬鹿にできない。

次に、石油の話。イラクやシリアの油田地帯をISILが占拠し、活動資金としている点。これもイメージ的には石油なんだから物凄く巨額な資金が動いてる、と感じてしまいますね。実際重要な財源なのは間違いないようですが、実態としては今までも普通にあった密輸石油と変わらん話らしく、「莫大な資金の源」とは言い難いようです。占拠した油田をフル稼働できるわけでもないからね。輸送手段も限られるし。

.. 2015年05月08日 11:20   No.830002
++ 多足       
ただ、これって逆を言うと「欧米軍による空爆でISIL占拠下の油田を破壊した。これでISILの息の根を止めることができる」というわけでは無い、ということになります。油田ってのは目に見える資金源として、軍事目標として分かり易いんだけどねえ…
これに限らず正規軍による軍事作戦ってのは、具体性の弱い標的の攻撃は苦手なのです。ISILの戦闘員が1万人集まってたら簡単に殲滅できるけど、500人が都市部に拡散したら掃討は困難ってレベルじゃなくなる、という話。

あとISILの特徴で目立つのが、広報戦略。処刑動画が有名ですが、アレも映像作る上での工夫があるんですね。ただ首を斬る様子を撮影しただけでは無い。首を斬る、決定的瞬間はぼかし、事前と事後を示すことで、視聴者の想像力に訴えるというもの。殺害の瞬間をあんまし強調すると、視聴者が逃げちゃうから意味が無い。ちゃんと最後まで観せるための工夫だそうです。たしかに、どこぞの海岸での大量処刑のヤツは、並べられた処刑対象と、血で赤く染まった波打ち際を映すだけで何が起こったのか明確に想像できた。そういう演出です。かつてアメリカがアブグレイブ刑務所などで使ったオレンジ色の囚人服。これ以外にも、様々な演出を考えて映像を作ってるんですね。侮れない。

さて、ISILの活動範囲ですが、実効支配している範囲の基礎となっているのは、イラク国内でスンニ派が多数を占める県だそうです。フセイン政権崩壊で権益を失った層の支持が大きい、ってことですね。まあ結局やってることがやってることなだけに、統治範囲ってのは限定的な模様。統治方法を覚えたら、より拡大する可能性はありそうですねえ…
で、それとは別にテロの範囲となると世界中に広がります。ここで重要なのが、テロ自体のパターンの問題。例えば日本にISILのテロリストがやってきて、実行する。こういうパターンだとある意味対処可能なわけです。水際でのチェックや追跡でね。まあそれだってとても難しいですが。

.. 2015年05月08日 11:22   No.830003
++ 多足       
海外からやってきたテロリストが主導し、テロを起こす。そういうイメージが日本人にはあると思います。ツイッターでのクソコラグランプリの時の反応にそれが見て取れますね。日本まで来れるもんなら来てみろ、って声がそれです。実際にISILの戦闘員が日本に来るのは難しいでしょう。しかし、ISILのテロのパターンの一つとして、テロ起こした後に事後承認でISILになる、というパターンがあります。
例えば日本で誰かがいきなりテロを起こす。犯行声明でISILの一員を名乗る。その後、本家(?)のISILがそれを承認する、というもの。つまりテロ実施前はISILとの繋がりが無いのです。これは組織的なものから、ローンウルフ型と呼ばれる、一人ないし極めて少人数でやるパターンも。日本でのクソコラに怒りを感じた日本在住の何者かが、クソコラの報復としてテロをする。で、その後ISILに同調してやったと犯行声明を出す。これって、水際対策では阻止不可能ですよね。ISILの思想に共感する人が居れば、そこがISILの活動範囲と成り得るという話。まあ日本の社会風土でそれが起こるかどうかはよく判りませんが。日本人はすぐに大騒ぎするけど、すぐに忘れてしまうんで、なんか向いてないかも。

結局、本書を読んで感じたことはISILって物凄くイメージ先行な存在なんだな、ってことです。だからこそ、メディアが「イスラム国」って呼び方をするのは本当に止めた方がいいんでしょうね。実態以上の存在感を与えてしまうので。その性質的に根絶が困難な組織ですが、過大評価は禁物。正しい知識を身に着ける必要有、というごく当たり前の結論になってしまいます。が、情報が少ないのも事実なんで、本書を読んで詳しく知る人が増えること自体が、有効なISIL対策の一環と言えそうです。

ところで本書を読んで最後まで残った疑問の一つ。バグダーディー氏がイスラム教徒の頂点とも言える「カリフ」を名乗ったことが、「またまたご冗談を」で済まされず「衝撃」となった理由って何なんでしょうね?
戯言とは思わせない、カリスマめいた説得力を持った人物なのかな? それとも、組織構造がそう感じさせているのかな? または単純に暴力によって承認させている?
なんでなんだろうねえ?
以上、『イスラーム国の衝撃』の感想でした。

.. 2015年05月08日 11:23   No.830004
++ つかじ       
最近お久しぶりが多くなりました。
メールではお話ししてるんですけどね。

で、読ませていただきましたが、以前私が英国でこう云った動きがあるよ〜って話した事と合致している点が多いですね。

本来中東・イスラム苦手と云う圏内の人々が安易にイスラム過激派に合流しちゃうのは、やはり「現実」を知らないから、「過激=格好良い」と映ってしまうからではないでしょうか?
先頃、英国から3人の少女が家出してまで合流したとありましたが、結局この3人は戦闘員の女にされたとの報道も一部ありましたし。
(その後どうなったのかは良く分からないし)

先に話した英国なんかは特に移民の問題や失業率が高く、若者の心の支えがなくなりつつある事が原因と分析されていましたが、まさに今回本の紹介と合致してますね。

.. 2015年06月06日 12:47   No.830005
++ つかじ       
>日本国内のテロに関して
野党が大騒ぎして空港等の指紋採取がなくなったり、「悪い外国人を水際で防ぐ手段=差別」と安易に考えられるのも不安を感じる一つでもありますが、昨今の日本の重要な課題として、「外国人観光客の受け入れ」がある以上、時代的に止むを得ないのかも知れません。

当然、私だって外国人の方から日本は良い所だったと思われたいですしね。

ただ、歌舞伎町等を見れば分かる通り、一度入国を果たしてしまえば、そう云った連中が合流してコミュニティが形成されて、結局は大捕り物に発展しちゃう訳ですよ。

嘗ての大学生安保闘争にしたって、大学への共産党員の浸透が大元だった訳ですから、イスラム過激派ないし、テロリスト募集要員が入り込んでいてもおかしくない訳ですよ。

実際日本で渡航だ募集だと騒がれた人達だって、そう云った連中と繋がりが在ったと分かったのですから、日本国内で今尚暗躍している人位居るでしょう。

特にここでも高学歴やそれらに失敗した人達が、活動に対して「大義」を感じてしまう=「大きな事を成し遂げない」と云う願望を突かれてる部分が大きいと感じます。

.. 2015年06月06日 12:58   No.830006
++ つかじ       
では、結局防ぐ手立てはあるのか?に付いてですが、正直「イタチごっこ」状態でしょうね。

何処かの組織を潰しても必ず残党は出るし、それらに共感したり、新しい世代が組織作りしてしまう。また、戦闘やサバイバルのノウハウ持った人達は、大概それを生かす職に付くし。

要はさ、今回のISの連中って悪ガキが格闘齧って、それをケンかに生かしちゃうのと一緒なんですよ。言葉が悪いのとスケールが違うけど。
それらが丁度ミックスされたのが、この中東で自称「イスラム国」を名乗っている連中。

>カリフの名乗り
正直言った者勝ちじゃないかな?ある一定のシンパと財力や指導力があれば、かつてイラクのザルカウィーとか、サドルのマフディー軍等の件もありますし。全員が納得はして無いでしょうけど。

.. 2015年06月06日 13:12   No.830007
++ つかじ       
ちょっと付けたし。もしかしたら纏まりがなくて分かり難いかもしれませんが、感じた事書いてみました。

>テロの理由
これは以前多足さんともお話した貧困地域に関しても関係があることでしょうね。

親の実家が貧困家庭で勉学に励めず、一定額の給料が手に入る職に就けれない。だからその家庭の子供も貧乏の連鎖。
そこへある組織が甘言を用いて勧誘。善悪でなく働き口として兵士へ。
(ここでは誘拐は無しにしときましょ)
要は入った末端兵も、生活の為に戦争してる。

で、何らかの手段で他国がそう云った人達を開放しても、結局手に職持って無いから職に有り付けない。その後、今度は国連や先進国等が職支援。
これは、ポル・ポト派壊滅後のカンボジアを見れば早いかな?

先進国通しの戦争って、WWIIが実質最後じゃないですか?その後の戦争って結局代理戦争か、そこへ多国籍軍が介入って形ですよね?
(朝鮮・ベトナムだって結局は大国とその衛星国だし)

つまり、現在アフリカや中東で戦う連中の理由その物が、(表向きは)原始的な理由(何々族との対立とか土地争い)を装いつつ、結局は経済なんだなぁ〜とか考えちゃったりもするんですよねぇ。これじゃきっと終わらない。

で、やっぱり考えちゃうんですよ。「何時まで先進国や国連は援助し続ければ良いのかな?」と。

ガンダム内の設定で、コロニー移住が「実質は棄民政策」とありましたが、アレ結構時代の先取りなんじゃなかろうか?

いっその事、本当に外宇宙にでも移住した方が(もしくは追いやっちゃった方が)平和なんじゃないのか?とか。つまり、もう先進国以外の人間って足引っ張るだけで邪魔じゃね?と。
ま・単なる誇大妄想ですがね。

経済はどっかで繋がりあるから、本当に居なくなられたら、損失も馬鹿でかいし、流石にこれじゃ短絡的な差別主義で終わってますからねw

.. 2015年06月09日 17:25   No.830008
++ 多足       
現段階の「統治」を見る限りでは、やっぱヒャッハー集団の域を出てないんで、構成員もだいぶアレな連中ばっかりだなと思えるのですが、今後どう転ぶかはちょっと予断を許さない部分はあるかな、とは感じてます。しかしやっぱある程度大きくなったら内紛やって分裂、分裂後はより酷いヒャッハーにしかならないと思う。面倒な連中だなあ。

根本解決。
ま実際、短期的に解決しようと思えば後半でつかじさん提案してるような極端な棄民政策、ってか粛清が手っ取り早く感じてしまうのも事実ですね、実現不可能だけどw
ただ、現地の人間からすれば先進国の人間がこういうこと考えてしまうってのが非常に屈辱的ではあるでしょうねえ。なんだよ産まれた環境が違うだけじゃんかよー、ってことで。
ネタなのは解りますがw

.. 2015年06月11日 07:49   No.830009


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